Subhuman

ものすごく薄くて、ありえないほど浅いブログ。 Twitter → @Ritalin_203



こんにちは。これです。今回のブログも映画の感想になります。


今回観た映画は『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』。私はこの映画を取ったグレタ・ガーウィグ監督の前作『レディ・バード』が、2018年のベスト10にも選んだくらい好きでして。グレタ監督の最新作で、しかも世界的な名作を原作としているなんて、絶対面白いじゃんと思って意気揚々と観に行ってきました。


で、観たところ想像とは違う映画でしたね。いろいろな意味で。まさかこんなことになるとは思っていませんでした。


それでは感想を始めたいと思います。拙い文章ですが、よろしくお願いします。




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―目次―

・映像は100点満点
・ストーリーには少しイラつくところも……
・最後の展開はどうなんだろう?





―あらすじ―

ジョーはマーチ家の個性豊かな四姉妹の次女。情熱家で、自分を曲げられないため周りとぶつかりながら、小説家を目指して執筆に励む日々。控えめで美しい姉メグを慕い、姉には女優の才能があると信じるが、メグが望むのは幸せな結婚だ。また心優しい妹ベスを我が子のように溺愛するも、彼女が立ち向かうのは、病という大きな壁。そしてジョーとケンカの絶えない妹エイミーは、彼女の信じる形で、家族の幸せを追い求めていた。

共に夢を追い、輝かしい少女時代を過ごした4人。そして大人になるにつれ向き合う現実は、時に厳しく、それぞれの物語を生み出していく。小説家になることが全てだったジョーが、幼馴染のローリーのプロポーズを断ることで、孤独の意味を知ったように─。自分らしく生きることを願う4人の選択と決意が描く、4つの物語。

(映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』より引用)




映画情報は公式サイトをご覧ください。













・映像は100点満点



この映画は『若草物語』の作者、ルイーザ・メイ・オルコットのこんな言葉で幕を開けます。


悩み事が多いから、私は楽しい物語を書くの


この言葉、正直観ている最中はちんぷんかんぷんでした。言葉の意味も分からないまま、物語だけが進んでいきます。ただ、当然っちゃ当然なんですが、この言葉が後々になって効いてくるんですよね。予想だにしていなかった形で。


映画はある出版社のシーンから始まります。この映画の主人公・ジョーマーチがある話を持ち込んでいます。しかし、19世紀半ばは女性が本を書くなんて、まだまだ認められていなかった時代ジョーも友達が書いたと偽って持ち込んでいました。極端な言い方をすれば、女性は男性と結婚するしか幸せになれないと信じられていた時代です。(この辺りは映画『メアリーの総て』も参考にしていただきたい。エル・ファニング主演)




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この物語の主人公は紛れもなくジョーですが、映画はマーチ家の4姉妹を軸に物語が進んでいきます。なので、長女のメグ、三女のベス、四女のエイミーのそれぞれの状況が順番に映し出されます。エイミーは叔母と馬車に乗り、メグは家庭を築き、ベスはベッドで一人佇んでいます。それぞれの境遇を簡単に示したところで、映画は回想シーンに突入。時は七年前へと巻き戻ります。


そこからスクリーンに映し出されるのは、豪華絢爛な舞踏会。マーチ家の19世紀を思わせるエレガントな内装に、マサチューセッツ州の美しい自然。この映画の最大の売りは、なんといってもその映像でしょう。1秒の隙もなく、細部まで作りこまれたバッキバキの映像。今年どころか、今まで見た映画の中でもかなり上位に食い込む出来で、見ているだけで楽しいと同時に圧倒されてしまいます。


その中でも、とりわけこだわって作られていたのが衣装公式サイトのプロダクションノートにその経緯は詳述されていますが、本当にモブの一人に至るまで、妥協を許さないそのこだわりは特筆すべきものでした。服によって四姉妹の細かいキャラ付けをしたりと、映画への没入を最大限助けます。映画の立役者の一人で、アカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞したのも大いに頷けます。去年の受賞作の『女王陛下のお気に入り』にも、全く劣っていませんでしたね。抜群でした。


さらに、出演している俳優も美男美女の競演で、目が大いに潤う。主演のジョーを演じたのは、『レディ・バード』でもグレタ監督とタッグを組んだシアーシャ・ローナン。サバサバした性格ながらも、どこか薄暗さを感じさせる表情が魅力的でした。また、長女のメグを演じたのは『ハリー・ポッター』シリーズでおなじみのエマ・ワトソン。長女としての責任を感じながらも、恋に焦がれる役どころをさすがの存在感で演じ切っていました。


次に、四女のエイミーを演じたのは今秋に『ブラック・ウィドウ』の公開を控えるフローレンス・ピュー。気の強い性格で、目の奥に野望が燃える眼差しが良かったですね。三女のベスを演じたエリザ・スカーレンは、日本ではまだあまり知られていない女優さんですが、儚げな雰囲気が病気がちな少女という役柄にとてもマッチしていました。


そして、映画ではこの美人四姉妹が仲睦まじい姿を見せているのですから、もう最高。じゃれ合って遊んだり、一緒に劇を演じたりと尊さが大爆発。百合が好きな人にとっては、たまらない映画になっているのではないでしょうか。さらに、そこにジョーに言い寄る相手として、『君の名前で僕を呼んで』など飛ぶ鳥を落とす勢いの美形俳優、ティモシー・シャラメが絡んでくるのですから、スクリーンの中のビジュアル偏差値はどえらいことに。後半疲れるほどの、美男美女のラッシュは垂涎ものです。


この映画は美術や撮影といった映像の力と、俳優さんの魅力がまさしく相乗効果を生み出しており、視覚的な評価だけで言えば、間違いなく100点満点であるといえるでしょう。今年、実写映画でこのビジュアルを超える映画は現れるのだろうかと思ってしまうほどです。泣く子も黙る勢い。この映像を見て満足しない人がいたら、ぜひ教えてほしいぐらいです。映像だけでも1900円を払う価値はあります。絶対に。




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・ストーリーには少しイラつくところも……


ここまで褒めちぎってきましたけど、実は肝心のストーリーに関しては、少しイラついた部分もあるんですよね。


まず、疑問に思ったのが、ジョーが幸せすぎるんじゃないかという点です。マーチ家は立派な屋敷に住んでいて、何一つ不自由のない生活を送っています。4姉妹の仲も、たまにエイミーとケンカするくらいで、概ね良好。作家として認められないことや、身内に不幸があったことを差し引いても、秤は幸せな方に傾くと思います。とても「悩み事が多い」ようには見えません。満ち足りているように見えてしまって、もっと不幸なこと起きろと心の底で思ってしまったくらいです。醜い心ですね。


また、話の本筋とは関係のないエピソードが多すぎて、ストーリーが少し緩慢になってしまった印象も否めません。姉妹の仲よさげな描写が続くのは良いんですけど、それは横に広がっていくだけで、縦の積み重ねになる気配はあまりありませんでいた。4姉妹それぞれを並行して描いていて、「わたしの」というよりは「わたしたちの」若草物語といった感じです。


群像劇みたいにしようとして、焦点がぼやけている感もちょっとありました。この映画は2時間15分と少し長めの上映時間でしたし、もうちょっと描写を削って、短くしてほしかったというのは偽らざる思いです。正直、途中で飽きてしまいました。


でも、書いていることはこの上なく真っ当なんですよ。「女性の自立」というのがテーマになっていて、前述したように19世紀中ごろは、結婚が女性の幸せと信じられていましたし、その風潮が今は残っていないとは誰が言い切れるでしょうか。ジョーは、言い寄ってくるローリーを愛せないと言って振っていますし、男性に依存しない(この時代では)新しい女性像を作り上げていました。独身のままリッチな中年女になってやると。


でも、この映画では結婚の幸せというものも否定しないんですよね。メグは好きな人と結婚することを第一に捕らえていますし、その思い通り結婚したメグをジョーは祝福しています。自立するのも結婚するのも、同価値の選択肢として存在している。そのうえで、ジョーは自立を選ぶのですから、力強くて思わず応援したくなります。


だからこそ、終盤の展開には不満たらたらですよ。ジョーはローリーを振った後、「どうしても寂しい」とこぼすんですよね。いや、それは分かりますよ。だって孤独と自由は抱き合わせですから。でも、だからと言って別の男と付き合ってハッピーエンドというのは許せない。これじゃあまるで「女性は自立できない。結婚しか女性の幸せはない」と言ってるみたいじゃないですか。日和ってんじゃねぇよと。自立して生きていくって決めたんだろ? ふざけんなよと、今年映画を見た中で一番イライラする展開でした。


たぶん、このまま映画が幕を閉じたら、私はブチギレて、罵詈雑言をこのブログに書き連ねていたと思います。でも、この映画はただでは終わりません。最後にはアッと驚く展開が待っていました。まぁ、そのおかげで私はブチギレるかわりに、モヤモヤした思いを抱えて映画館を出ることになったのですが……。




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※ここからの内容は映画のネタバレを激しく含みます。
 未見の方は読まないで観ることをお勧めします。
 当方では一切の責任を負いません。














・最後の展開はどうなんだろう?


この映画の終盤、舞台は再び出版社へと移ります。編集者と話しているジョー。編集の手には原稿が握られていました。それはジョーが書いた「若草物語」。ジョーは売れるために、物語の結末を主人公が結婚するというハッピーエンドに変えたといいます。その後、印税交渉をしたり、本が発行される様子が映されたりするのですが、そんなことはどうでもいい。実は、これまで私たちが観ていたのは、ジョーが書いた「若草物語」だったのです。フィクションオチ、メタオチです。


この展開を目の当たりにして、私はもう呆然ですよ。そして、脳裏には去年、阿鼻叫喚の大騒動を巻き起こしたあの映画がよぎりました。




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ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』です。この映画のオチも、私たちが観ていた世界は主人公がプレイしていたゲームの中の世界というもので、まあ思い出したくもないほどの批判が起こりましたよね。「わたしの」若草物語を観ていたら、いつの間にか『ユア・ストーリー』を観ていた。超能力や超スピードとかそんなちゃちなもんじゃ断じてない、もっと恐ろしいものの片りんを味わいました。


まあ冗談はさておき、私は映画館で観たときは『ユア・ストーリー』のラストの展開は、すんなりと受け入れられたんですよね。映画館は静まり返ってましたけど(あと、最近WOWOWでもやってたけど、あの展開が来る瞬間にウッとなってしまって、チャンネルを変えてしまったのは内緒だ)。でも、この映画に関しては、全然受け入れられなかったんですよね。


まず、どこからが「若草物語」だったのか分からないような作りになっているんですよね。この映画って。フレデリック(「若草物語」でジョーとくっつく人)が再登場したところからかもしれないし、もしかしたら最初から「若草物語」だったのかもしれない。ジョーが生きる現実はもっと悲惨なもので、マーチ家は貧乏だったり、姉妹の仲は険悪だったり、メグは結婚していないかもしれない。


もし最初からだとしたら、言葉は悪いのですが、性質が悪いなと思います。なぜなら、ジョーの現実がいかほどなのかほとんど描かれていないから。家に帰っても母親しかいなかったり、家が整理されていたりは本当だと思うんですけど、ジョーの現実は想像するしかない。でも、その材料が全然足りていないんですよ。こんなの、2時間以上使っておいて、ジョーについてはほとんど何も語られてないのと一緒ですよ。もし、最初からだとしたら。


もちろん、物語に願いや希望を込めるのは全く間違ってないんですよ。というか物語のあるべき姿でさえあるんですよ。「悩み事が多いから、私は楽しい物語を書くの」というのは。私は物語は理想で上等だと思っていますし、理想的ないくつもの物語に慰められたり、勇気づけられたりしてきました。


きっと、ジョーも楽しい物語を書くことで、悲惨な境遇にいる自分自身を慰めていたのでしょう。勇気づけていたのでしょう。自分自身を慰める。略して自慰行為です。そうでない可能性ももちろんありますが、もしかしたら他人の自慰行為を二時間以上もずっと見せられていた……?うわ......はい……何というか……気持ちが悪いです。メタオチは本当慎重に使わないとと思い知らされました。


別にメタオチが嫌いなわけじゃないんですけどね。最近『何者』という映画を改めて観る機会がありました。




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この映画もメタオチ(とは似て異なるけど結構近い)を採用していて。私はそれにオールタイムベストかってぐらい感動したんですけど。たぶん、どれだけ理想化していたかなんでしょうね。『何者』は理想的な部分が全然なかったですし、プレイヤーでいろというメッセージも感じられた。でも、『わたしの若草物語』は理想化しすぎていて、メタ構造であると分かった瞬間にぶっちゃけ引いてしまいました。


あと、若草物語って大ベストセラーじゃないですか。150年経っても一度も絶版されていないようですし。きっとそれぞれ読んだ人ごとに「わたしの」若草物語があるんだと思います。他人事が自分事になっているといいますか。でも、この映画では「わたしの」はジョーひとりに限定されてしまっているんですよね。最後の展開によって。原典の若草物語を「これはわたしの話だ!」と思って観ていた人の感想が少し心配になりました。どう思うんだろう。




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以上で感想は終了となります。『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』、映像はビックリするぐらい素晴らしいですが、ストーリーには疑問が残る映画でした。同じクリエイター物語なら、私は『メアリーの総て』の方が好きですね。正直。


でも、本当に映像は掛け値なしに凄いので、興味のある方は映画館で観てみてはいかがでしょうか。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい 





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こんにちは。これです。コロナ禍も第一波はだいぶ収束してきて、新作映画も少しずつ公開されるようになってきました。映画好きとしては嬉しい限りです。


そして、今回観たのも今週封切られたばかりの新作映画『ハリエット』です。実在した奴隷解放運動家、ハリエット・タブマンを描いた伝記映画であるこの作品。アメリカで人種差別に対するデモが激化している今、この映画は観ておかないとなと思って観てきました(急遽仕事が休みになったこともあります)。


それでは感想を始めます。拙い文章ですが、よろしくお願いします。




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―あらすじ―

1849年アメリカ、メリーランド州。ブローダス農場の奴隷ミンティ(シンシア・エリヴォ)は、幼いころから過酷な労働を強いられていた。そんな彼女の願いはただ1つ、いつの日か自由の身となって家族と共に人間らしい生活を送ること。ある日、借金の返済に迫られた農場主がミンティを売りに出す。遠く離れた南部に売り飛ばされたら、もう二度と家族には会えず、お互いの消息すらわからなくなってしまう。脱走を決意したミンティは、奴隷制が廃止されたペンシルベニア州を目指してたった1人で旅立つのだった。

(映画『ハリエット』公式サイトより引用)



映画情報は公式サイトをご覧ください。










あらすじにもありますが、この映画は未だ奴隷制の残る南北戦争以前のアメリカを舞台にしています。主人公ミンティは農場で働く黒人奴隷。彼女を演じたシンシア・エリヴォは個人的には初めましての女優さんでしたが、序盤と最後ではまるで別人かのように幅の広い演技を披露していました。表情から力強さがはっきりと伝わってきましたし、アカデミー賞主演女優賞ノミネートも納得します。


この映画の冒頭は、黒人奴隷がどれだけ迫害されているかを簡単に見せてくれます。「鋤を離すな。とにかく働き続けろ」と言った歌は刷り込みのように聞こえ、農場主は「黒人は所有物だ」と人ではなく、物扱いしています。ミンティの姉も売りに出されてしまったことが、ところどころカットインされる映像で分かります。夫はいますが、息子が生まれたらそいつも奴隷だと農場主に言われていましたし、この辺りはかつての日本とも似たところがありますね。


ある日、農場主が死んでしまい、農場の所有権は息子のギデオンに。農場の経営は苦しくなっており、ミンティが売りに出されることに。これを機にミンティは農場を脱走することを決めます。夜中に出発し、人の助けも借りながらなんとか逃げ続けるミンティ。


しかし、ギデオンら追手に橋の上で行く手を阻まれてしまいます。下には増水した急流の川が。ミンティは「自由か死か」と言い残して、川に飛び込みます。それほど、ミンティが自由を望んでいたことが分かるシーンですが、正直、意味ありげに川を映していましたし、ここで死ぬことはないので、さっさと飛び込めよとか思ってしまいました。


そして、ミンティは命からがら逃げのびて、奴隷制が廃止されているフィラデルフィアに辿り着きます。そこで、反奴隷制度運動をしている自由黒人(奴隷にならなかった黒人)のスティルに保護されます。自由を得た元奴隷の黒人は新しい名前を名乗ることが多いと聞いて、ミンティは両親の名前を取ってハリエット・ダフマンと名乗りはじめました。手に職もつけて、自由な生活のスタートです。




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※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。







1年後。自由な生活を手に入れたハリエットは、農場で未だ奴隷のままでいる黒人たちを助けることを決意します。農場に戻り、赤ちゃんを含めた5人の奴隷+旅の無事を祈るために尋ねた教会に隠れていた4人の黒人を、ハリエットは先導者として導きます。


途中、ギデオンたちに捕らえられそうになりますが、神のお告げ(ハリエットは発作持ちだけれど、その間に神からのお告げを得ることができる)もあり、9人を無事にフィラデルフィアまで送り届けることに成功するハリエット。その功績が認められ、地下鉄道の"車掌"に任命されます。つまり、これからも奴隷の脱走の手助けをしてくれということです。


ここからハリエットの快進撃が始まります。次々に奴隷の脱走を成功させていくハリエット。農場主たちからは"奴隷泥棒のモーゼ"として、懸賞金をかけられますが、奴隷制度反対派の白人にも助けられ、失敗知らず。彼女のしていることは100%正しいですし、理想的ではありますが、個人的にはこの辺り、少し上手くいきすぎかなという感じがありました。


細かいことになるんですけど、ハリエットが車掌として認められた時に、脱走させた人数と犠牲者をスティルが黒板に書きます。ハリエットは犠牲者0。でも、その上を見ると犠牲者の数がしっかりと記されているんですよ。


それに、この映画のポスターには「彼女は一度も失敗せずに、奴隷から英雄になった。」というキャッチコピーが打たれていますが、これも個人的にはあまり良くないと感じていて。だって、失敗しない人間なんていますかって話なんですよ。いくらフィクションが理想を描くものだとはいえ(この映画は実話だけれど)、こういう理想の描き方はちょっと違うかなと思います。


『ハリエット』を見ているとき、私には連想した映画がありました。それが『42~世界を変えた男~』です。




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この映画は史上初の黒人メジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンを描いた映画なのですが、こちらも描かれていることは100%正しいんですし、名作だとは思います。ただ、私はこの映画があまりハマっていなくて。というのも、ロビンソンが野次や対戦相手からの差別など、何をされてもじっと我慢しているからなんですね。耐えて耐えて、ようやく理解を得ることができるというストーリーなんですけど、私は正直、人間味に欠けてしまうなと感じてしまったんですよ。聖人君子すぎて。


それは、『ハリエット』でも同じで。ハリエットのやることなすことは、中盤までは全て上手くいくんですよね。なんというか、虐げられてきた、差別されてきた黒人の方々に配慮しすぎて、上手くいかないこと、人格的に悪い部分をオミットしている気がするんですよ。


そりゃ、黒人差別は今もなくなっていないですし、ハリエットも物語開始前はずっと虐げられてきたのでしょう。それとバランスを取るかのように、何もかも上手くいく、失敗しないという描き方をしているんですけど、それはかえって黒人の方々に失礼なんじゃないかとも、私は思ってしまうんですよね。


だって、黒人だって人間でしょう。失敗はしますし、誰もが聖人君子なわけではありません。私は、障害者手帳を持っているんですが、映画の中で、障害者が妬まない、僻まない。それこそブッダみたいな人物として描かれていたら、少し反感を覚えてしまいますし。言いたくないですけど、障害者も人間だから、悪い部分もあるんですよ。100%良い人間なんて、現実にはめったにいないですし、この映画はハリエットが神からのお告げを得られる、まさに神の代弁者みたいになるシーンもあり(ご都合もちょっと感じた)、人間味に欠けてしまうシーンも見られました。


というか、身も蓋もないことを言ってしまえば、物語って多分、失敗や敗北、逡巡があったほうが面白いんですよ。失敗してピンチに陥った状況からの脱出は、誰もが燃えますし。配慮しすぎて、主人公に失敗がないよう設定してしまうのは、物語としての幅を狭めてしまっているような気がしてなりません。そこが(19世紀の)黒人など弱者を主人公に据えることの難しさみたいに、私は感じました。


でも、これはきっと私が虐げられたことがないからなんでしょうね。日本で生まれて、人種差別とはある種、縁遠い環境の中で過ごしてきたからなんでしょうね。きっと黒人の方々は、また違った感想を抱くでしょうし、自分の無知さを思い知らされます。当事者にしか分からない世界を、私はこの映画の中に見た気がしました。




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そんな途中まではある意味、不満たらたらだった私でも、終盤の展開は良かったと思います。ハリエットは農場で、自分の妹を連れ出そうとしますが、妹は赤ちゃんもいるし「ここ(農場)にいる」ことを選択するんですね。でも、妹は死んでしまい、ハリエットは自責の念に駆られます。


また、ハリエットの世話をしていたマリーというキャラクターも殺されてしまいますし、終盤になってしっかりと犠牲者が出ているんですよ。人が死ぬのを望んでいたわけではないのですが、それまで一人の犠牲者もない展開には現実感薄いなと思っていたので、ここでようやく映画にのめり込むことができました。


また、この頃アメリカでは逃亡奴隷法が成立。奴隷狩りが合法化されます。これに対して、ハリエットは戦うことを選ぶんですね。黙っているのではなく。それは、過去の奴隷だった経験や、犠牲者を目の当たりにしたハリエットなりの正義で。ずっと我慢しているのではなく、戦うことを選んだ彼女に、私はようやく人間味を感じました。


そして、南北戦争では黒人兵士たちを率いて、白人たちと戦い、多くの黒人を解放。さらに、晩年には女性の参政権運動に身を捧げています。彼女が戦ったおかげで、奴隷制が廃止されたり、女性に参政権が認められて、ハリエットはアメリカの新紙幣の肖像画に採用されるほどの人物になりました。めでたしめでたし。


とは、私は言いたくありません。なぜならハリエットが戦っているからです。確かに戦うことは大事ですが、やられたらやり返すでは戦争はなくなりません。ハリエットに率いられた黒人兵士は白人を殺しているでしょうし。かと言って声を上げずに我慢していては、奴隷制廃止はさらに遅れていたでしょうし……。戦っても戦わなくても、どちらを選んでもモヤモヤします。


たぶん一番悪いのは奴隷制そのものなんでしょうね。制度で合法化されなければ、黒人ばかりが奴隷になることはなかったかもしれませんし。黒人を奴隷にしていた白人を擁護する気は全くないですが、黒人奴隷がいないと農場が成り立たないシステムになっていたことを考えると、彼らも一様に悪いとは言えません。全ては制度が悪いのです。でも、その制度を作り出したのも人間なわけで......。難しいですね。平和って遠いなと、この映画を見て考えさせられました。 




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以上で感想は終了となります。映画『ハリエット』。いささか理想的過ぎる部分はありますが、当時の黒人がどんな思いで過ごしていたのかを知ることができる映画だと思います。興味のある方は観てみてはいかがでしょうか。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい 


ハリエット
テレンス・プランチャード
Rambling RECORDS
2020-03-25



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こんにちは。これです。


先日、緊急事態宣言は解除されたものの、今日は50人近くの感染者が出てしまいましたね。クラスターもまた発生しているようですし、コロナ禍がまだまだ過ぎ去っていないことを実感させられます。TOHOシネマズは今週末、全ての劇場を営業再開させますが、本当に大丈夫なのか心配になってきます。感染対策には引き続き気を付けていきたいですね。


映画館ではソーシャルディスタンスが定められ、席を開けての鑑賞が半ば義務化。そんな状況の中で、私は今日も映画を観に行ってきました。今回観た映画は『彼らは生きていた』。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソン監督が製作した、第一次世界大戦下のイギリス軍を描いたドキュメンタリー映画です。単純な私はポスターにある「ロッテントマト驚異の100点!」という宣伝文句にひかれたのです。


そして観たところ、その宣伝文句も頷けるほどの力作でした。今年観た映画の中でもトップクラスに辛かったです。でも、今は観て良かったと感じています。それくらい貴重な映画でした。


では、感想を始めたいと思います。拙い文章ですが、何卒よろしくお願いします。




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―目次―

・観る教科書みたいな序盤
・軍人たちは意外と明るい表情をしていた
・凄惨な突撃は観るに堪えない
・一番悲しいのは今も戦争が続いていること





―あらすじ―


第一次世界大戦
兵士たちが見た真実の戦場とは――


1914年、人類史上初めての世界戦争である第一次世界大戦が開戦。8月、イギリスの各地では宣戦布告の知らせと共に募兵を呼びかけるポスターが多数掲出され、志願資格の規定は19歳から35歳だったが、19歳に満たない大半の若者たちも歳をごまかして自ら入隊。よく分からないまま志願した者も多く、国全体が異様な興奮状態に包まれていった。
練兵場での6週間ほどの訓練を経て、西部戦線への派遣が通達された。
船でフランス入りしたイギリス兵たちは西部戦線に向かって行軍。イギリス兵たちは塹壕で監視と穴掘りに分かれて交代しながら勤務する。遺体を横切りながら歩き、ひどい環境の中、つかの間の休息では笑い合う者たちもいた。
菱形戦車も登場し、ついに突撃の日。彼らはドイツ軍の陣地へ前進する。そこへ、突然に射撃が始まり…。

(映画『彼らは生きていた』公式サイトより引用)



映画情報は公式サイトをご覧ください。







・観る教科書みたいな序盤


映画が始まってまずスクリーンに映し出されたのは、正方形のモノクロの画面。軍人たちが整列して歩を進めています。そこに被さるのは、かつての軍人たちが戦時中を振り返る音声。この映画は100年前の映像を復元して見せていますが、当時は録音技術がなかったため、映像にインタビュー音源を被せるという方法を取っていました。この時点では戦争の悲惨さを語るものは少なく、「楽しかった」という声すらありました。そして、証言が重なるにつれて画面は大きくなり、ついにはスクリーン全体を覆うほどになります。映画の本格的なスタートです。


時は1914年のイギリス。第一次世界大戦の勃発とともに、徴兵を呼び掛けるポスターが掲出されます。「君が入隊すれば勝利は確実」などいった扇動的なメッセージが踊るカラーのポスターに、当時の映像が合わさって流れます。入隊資格は19歳からでしたが、年齢を偽って入隊するものも少なくなかった様子。正直に申告したけれど、嘘をつくように言われたなんて証言もありましたね。入隊受付には千人が並んでいたみたいです。


ここ何が怖いかって、皆が入隊しているから俺も入隊しようみたいな空気が形成されていたことなんですよ。男性は入隊し、女性は快く送り出す。お国のために役立たなければ人間じゃないみたいな一種の洗脳がなされているように感じました。ナショナリズムの極致。授業で習った第二次世界大戦下での日本みたいで、どこの国でも、いつの時代でも変わらないんだなとゾッとさせられます。


そこからは、軍隊の訓練の様子や戦地に赴く様子などが、ザッと流されます。小ネタも挟みつつ展開していきますが、まだこの時点では画面はモノクロなんですよね。公式サイトには、当時の映像を3D技術も用いてカラーリングみたいなことが書かれていたので、観る前は当然全編カラーなんだと思っていました。恥ずかしながら。でも、映画が始まって30分くらいしても、まだモノクロのままなんですよね。時間とか予算とかいろいろな都合があったのかもしれないですけど、ここは観ていて少し退屈に感じてしまいました。カラーだったのは全体の半分ほどでしたね。


さらに、映像と音声が必ずしも合っているわけではないので、情報量が多い多い。特に前半はほとんどひっきりなしに喋っているので、本を読んでいるみたいに間髪入れず文字がなだれ込んでくる感覚がありました。まるで分厚い歴史の参考書を読んでいるみたいです。観る教科書と言ってもいいでしょうか。一方的に押し付けられて、ちょっと嫌な感じもしましたが、それもカラーになってからは印象が一変。引き込まれるように観ていました。




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※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。













・軍人たちは意外と明るい表情をしていた


カラーになって最初のシーンは、軍人たちが西部前線の塹壕の中を進むシーン。交代制で監視や穴掘りに勤しみ、睡魔に襲われ、また空腹に苦しむ彼ら。もちろん相手の銃弾や炸裂弾の破片なんかも飛んできますので、全く安全ではありません。死体は当然のように転がっており、カラーになった分、血の赤色がグロテスクに映ります。虚飾なしのむき出しの死体は思わず目を背けたくなりました。


それに加えて、個人的にきつかったのが人間以外のシーンです。この時代にはまだ馬が現役で、砲弾などは馬車によって運ばれていましたが、当然、馬に乗っている間も砲撃は来るので、馬も死傷します。皮膚がめくれ、血が滲む。人間と同じくらい悲惨に感じてしまうのはなぜでしょうか。


さらに、前線にいる間は体を洗うことも、服を着替えることもできないので、シラミが発生します。このシラミがですね、また克明に映されるんですよ。足の一本まで。髪の毛をうようよしていて気味が悪い。それに、死体にはネズミが群がります。大量発生したネズミが屠殺されていて一か所に固められている様子は、生理的な嫌悪感を催します。


あと、これは人間なんですけど、冬になると塹壕には水が溜まるんですね。で、長い間歩いていると足が凍傷になってしまうと。この凍傷になった足がとにかく見るに堪えなくて。足先が真っ黒に変色してるんですよ。この映画の中で、個人的に一番キッツいシーンでした。カラーリングしていた人はどんな気持ちで作業していたのか聞きたい。


とまあ、嫌だった描写を挙げればキリがないんですが、意外だったのが、軍人たちはそれほど苦に感じていなかったこと。変な高揚感があったのかもしれませんが、暇な時間には笑顔で雑談をしているんですよね。「今撮られてる?イェーイ」みたいな人たちもいましたし、「落ち着いてさえいれば、前線は楽しかった」という証言すらありました。この映画は単に戦争の悲惨さだけでなく、軍人たちの意外な明るさも描くことで、よりリアルに戦争の姿を捉えています。実際のところは分かりませんが。


四日間の前線での勤務を終えた後に、一週間の休憩があるんですけど、軍人たちはこの休憩を精一杯楽しんでいるんですよね。ワイワイ喋ったり、タバコやギャンブルをしたり。今に繋がる問題的な描写もありましたが、緊張から一時的にでも解放された彼らの姿は、微笑ましくもありました。だって、ビールを飲めるとあれば一斉に、酒樽に群がっているのですから。現代人と変わらないなと少し笑ってしまうくらいです。まあここで笑顔をたっぷりと描いておくことで、この後の展開がより辛いものとなるんですけどね。




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・凄惨な突撃は観るに堪えない


休憩も束の間。軍人たちには、ドイツ軍へ突撃せよという指令が下ります。前線にさらに人数が投入され、塹壕はすし詰め状態。そして、銃剣を装備して、白兵戦が始まってしまいます。この白兵戦はまさに銃弾の雨あられ。ドイツ軍の機関銃にイギリス軍は成す術もありません。切り札として投入された戦車も破壊されてしまう始末。当然中にいた人間は即死です。さらに、突撃隊の一は把握されていないので、後ろからは味方の砲弾が飛んできてしまいます。引くことはできず、軍人たちは弾幕の中を進み続けるしかありません。


ここは流石に撮影されていなかったため、絵で代用されますが、この絵もまたキツイ。普通に銃剣で相手の肩をぶっ刺している絵とかありますからね。そして、数多の証言から浮かび上がるのは、人が次々と死んでいく地獄。死体が横たわっているのはごく当たり前のことで、いちいち気にしてなんかいられません。ある軍人が笑っている映像を流しておいて、次の瞬間には銃声とともに死体になっているなんて演出もあり、思わずやめてくれとこぼしたくなりました。


さらに、証言によって積み重ねられるのは容赦のない欠損描写。腕が吹き飛んでいるのなんて、もう気にも留められないぐらい。話していたら、そいつの頭が吹き飛んだみたいな証言もありました。もう何度も、何度も何度もこの欠損の話がなされるんですよ。その度、イメージしてしまって心臓が縮こまり、身震いがしました。何度も何度も何度も。本当に戦争の苛烈さを頭に叩き込んできます。


これに輪をかけて辛いのが、先の前線のシーンで「前線では偶然隣り合った奴が仲間になる」といった証言があったこと。戦場という極限状態のため、軍人たちはより強固な関係性で結ばれていきます。何度も「仲間」という言葉が出されましたが、戦場ではその仲間が当然のように死んでいくんですよ。死体を見過ぎて感覚がマヒしてしまったという証言が、その悲惨さをより一層際立てます


それにですね、イギリス軍に志願した若者には19歳未満の者も少なくなかったと前述しましたが、これはドイツ軍も同じだったんです。両軍ともにまだ20歳もいかない若者たちがバッタバッタと死んでいってる。戦争とは国の未来を切り開くようでいて、次代を担う若者を次々に殺す、未来を奪う行為なんだなと痛感させられます。軍部がまともに機能していれば、そもそも戦争なんて起こらなければ、彼らは死なずに済んだのに。そう考えると、戦争の醜悪さがより身に染みますね。




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・一番悲しいのは今も戦争が続いていること


幾度にも繰り返された悲惨な白兵戦を経て、戦争は終結。ここで、イギリス軍とドイツ軍が初めて交流します。もう泣きたくなったのが「敵対していたドイツ人は多くが好人物だった」という証言があったことです。ドイツ人たちも命令して戦わされていたに過ぎない。鉄線を越えてみれば、同じ人間だった。照れながらもお互いの帽子を交換したり、仲良く写真を撮ったりする姿が胸に沁みます。ドイツ政府側も休戦を望んでいたようですしね。


第一次世界大戦は終結しましたが、その後のイギリスは失業した退役軍人で溢れかえってしまいます。軍しか知らない人間もいるわけで、彼らは路頭に迷ってしまいます。ベッドで寝ていたはずが、起きたら床に寝ていたという戦争の記憶が抜けないエピソードも語られていましたし、締めなんてなじみの客に「しばらくどこ行ってたんだ?」と言われて怒ったという証言で終わりですからね。戦争の傷跡は軍人だけじゃなく、社会にも残るんだなと思わざるを得ません。


この戦争において、イギリス軍とドイツ軍の見解は実は一致していて。それは全く無意味だったというものでした。イギリス軍だけで100万人もの戦死者を出し、多くの未来ある若者の命を奪い、社会に大きな傷跡を残し、国力を疲弊させた戦争が全く無意味なものだったと。技術の発展うんぬんを抜きにしても、やはり戦争はしてはいけないという当たり前のことを、強く思い知らされます。


でも、一番悲しいのが、この第一次世界大戦から二十年しかしないうちに、第二次世界大戦が勃発していることなんですよね。そして、今も各地で戦争や紛争は続いている。アメリカでは抗議デモの鎮圧に軍が駆り出されていますし、シリア等では今も内戦が収まっていません。


白兵戦は減少し、飛行機から一方的に爆弾を落として、何万人もの命を奪えるようになった。スイッチ一つで、はるか遠くにいる相手も殺せる時代です。人殺しをしているという実感は薄く、一方的な攻撃に話し合いの余地はありません。イギリス軍とドイツ軍のように一つのフレームに収まることはできないのです。


その戦争をこの映画は、無意味なものと断じています。私たちは歴史から多くを学ぶことができます過去を知ることは今を知ることに等しい。戦争の悲惨さをこれ以上ないほど克明に記録したこの映画は、まさに今観る価値がある映画だと私は感じました。R15+指定がなされており、グロテスクな描写も多いですが、ぜひ一度は観てみることをお勧めします。きっと感じるものがあるはずですよ。



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以上で感想は終了となります。『彼らは生きていた』、第一次世界大戦を描いているようで、今にも通じる作品です。機会があれば観てみてはいかがでしょうか。お勧めです。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい 






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