こんばんは。最近毎日ブログを書いていて少し疲れ気味のこれです。


ただ、そんななかでも映画を観に行くことはやめられません。今回観た映画はダコタ・ファニング主演、ベン・リューイン監督の『500ページの夢の束』になります。誰でも安心して観れるいい映画でした。流石は文部科学省選定といったところです。


では、いつものように感想を始めたいと思います。拙い文章ですがよろしくお願いいたします。



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~あらすじ~

『スター・トレック』が大好きで、その知識では誰にも負けないウェンディの趣味は、自分なりの『スター・トレック』の脚本を書くこと。自閉症を抱える彼女は、ワケあって唯一の肉親である姉・オードリーと離れて暮らし、ソーシャルワーカーのスコッティの協力を得てアルバイトも始めた。ある日、『スター・トレック』脚本コンテストが開催されることを知った彼女は、渾身の作を書き上げるが、もう郵送では締切に間に合わないと気付き、愛犬ピートと一緒にハリウッドまで数百キロの旅に出ることを決意する。500ページの脚本と、胸に秘めた“ある願い”を携えて―




※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。












・映画のストーリーについて


この映画を観たきっかけの一つがダコタ・ファニングが主演しているということですね。私、「アイ・アム・サム」のダコタ・ファニングがすごく好きでして。無邪気に見えて子供ながらに色々感じていて、苦悩している様子がたまらなく愛おしかったんですよね。シンプルに可愛くもありましたし。それで今回「500ページの夢の束」に出演していると知って観に行った次第です。


でもって、観た感想としてはやっぱり可愛かったです。子役時代とは違って犬を連れて散歩するダコタ・ファニング。赤いセーターを着てだだっ広い道路を歩くダコタ・ファニング。外のベンチで寝るダコタ・ファニング。93分という短めの時間の中に様々なダコタ・ファニングを見ることができます。不安げな表情の奥にのぞかせる強い意志にすごく惹かれました。


ダコタ・ファニング演じるウェンディは自閉症で、子供の頃から癇癪を起こしていました。母親が亡くなった後は姉に育てられましたが、姉が結婚して子供ルビーを出産すると、面倒を見きれなくなり、施設に預けられます。そんなウェンディのお気に入りは映画「スター・トレック」シリーズ。マニアックな難問にも即答するほどのファンで、「スター・トレック」の脚本を書くことを趣味としています。


私は「スター・トレック」は最初の映画しか見ていませんが、そんな私でも分かるほどに「スター・トレック」要素が「500ページの夢の束」には満載。宇宙の絵から映画は始まりますし、「論理的」や「長寿と繁栄を」など作中のセリフが多く引用され、スポックやカークと言った登場人物の名前もしょっちゅう出てきます。ウェンディが背負っているリュックやピートの服にも「スター・トレック」のマークが描かれていますし、極めつけは警官とクリンゴン語で話すシーン。ファンにはたまらないシーンでしょう。私もこの映画の中で一番好きなシーンです。




ある日、ウェンディは「スター・トレック」の脚本コンテストがあることを知り、そのために脚本を書き上げます。しかし、郵送の締め切り日に姉が施設を訪問してきた際に、癇癪を起こしてしまい、落ち着くために寝て過ごしているうちに締め切りを逃してしまいます。ここでウェンディが起こした行動はパラマウント・ピクチャーズに直接原稿を持ち込むこと。愛犬ピートと一緒にロサンゼルス行きのバスに乗り込み、一人と一匹の旅が始まります。


このピートがまた可愛かった。小さな足を一生懸命動かして、ウェンディが振り向いたら止まる。バックに入れられたときに、落ち着かずにきょろきょろしている様子もいじらしかったですし、病院で座っているときの足の動きは悩殺的な可愛さです。エンドロールの入り口で一匹映されたのにはとどめを刺されました。犬より猫派の私が惚れたんだから、犬派の人はなおさらなはず。犬派は観て損のない映画です。




一人と一匹は旅を続けます。バスを降ろされ、iPodとお金を盗まれ、ぼられようとしたところを助けられ、助けてくれたおばさんと一緒に乗った車が事故に遭って病院に運び込まれたり、なかなか一筋縄ではいきません。


一方、ウェンディがいなくなり、ソーシャルワーカーのスコットと姉のオードリーは大騒ぎです。スコットを演じていたのは、「リトル・ミス・サンシャイン」などの出演作で知られるト二・コレット。理知的でウェンディのことを我が子のように心配していましたが、個人的に途中から「アイ,トーニャ」で鬼母を演じたときのアリソン・ジャネイに見えてしまって、気が気でありませんでした。また、姉のオードリーを演じたアリス・イヴは「スター・トレック イントゥ・ダークネス」にも出演しており、こちらもスター・トレックファンにとっては嬉しい演出です。


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事故に遭い入院することになったウェンディ。看護師の隙を見て脱走を試みますが、途中でせっかく書き上げた427ページ(500ページと言っておきながら実際は427ページだった。キリをよくするために盛ってる)の脚本を落としてしまいます。線路の横を歩きながら途方に暮れるウェンディでしたが、ここでスポックの

その結果、私の理論は、現状においては必死になって行動するのが一番好ましいと結論を出したんです。

というセリフを思い出し、前進することを決意。コピー用紙の裏面に脚本の紛失してしまった部分を書き連ねます。なんとしてもパラマウントに脚本を届けようという決意が見えます。ちなみにこの脚本はスコットの息子であるサム(!)に拾われました。




ウェンディは再びロサンゼルスを目指そうとバスに乗ろうとしますが、お金が足りません。トランクルーム(これ酔っただろうなぁ)に乗り込み、無銭乗車でロサンゼルスに辿り着きます。しかし、そこで警官に見つかり、クリンゴン語を話せる警官に保護されます。そこで、スコットやオードリーとも対面。ただ、この二人はここまで来たウェンディの熱意に負けて、パラマウントまでウェンディを送り届けます。サムに渡された脚本の残りを持ってパラマウントに乗り込むウェンディ。郵送のみ有効だから受け取れないという社員を押し切り、脚本コンテストに応募を完了。惜しくも入賞することはありませんでしたが、初めての一人旅を終えたウェンディは、オードリーからルビーに会う許可を貰い、ルビーを抱きかかえて、ハッピーエンドを迎えます。




この映画は全てが予定調和で進んでいき、想定外の展開なんてものは一つもありません。でも奇抜さを求めるタイプの映画ではないので別にいいのです。ウェンディの頑張る姿と周囲の人たちの協力に心温まり、仕事や日常のストレスが洗い流され、いい意味で何も残りません。観終わったあとには清々しい気分になることでしょう。あまり人を選ばずに、どんな人でも楽しく見ることができる映画だと思います。



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・自閉症についての解説


さて、私が一番最初にこの映画に関心を持ったところというのは、主人公ウェンディが自閉症だというところなんですよね。なぜかというと、私も自閉症の当事者だからです。高校3年のときに診断され、去年障害者手帳を取得し、今は障害者雇用で働いています。今でも人とのコミュニ―ションは苦手ですし、一定の生活パターンを好んで過ごしています。なので、自閉症当事者を主人公に据えたこの映画はぜひとも観てみたいと思っていました。




自閉症、今では自閉症スペクトラム(以下ASD)と言われることが多いこの障害。最近ではドラマ「グッド・ドクター」で山崎賢人さんがASDの小児科医を演じたことで記憶に新しい方もいることと思われます。ASDとは発達障害の一種で、主に「社会的コミュニケーションの障害」と「限定的な行動・興味・反復行動」の2つの領域からなっています。ちなみに「スペクトラム」というのは「連続体」という意味。軽度から重度まで境目なく連なっているというイメージです。


このASD、DSM-Vという最新の診断基準では、

・相互の対人的・情緒関係の欠如
・対人的相互反応で非言語的コミュニケーションを用いることの欠如
・人間関係を発展させ、維持し、理解することの欠如
(Wikipediaより引用。より詳しい診断基準はこちら

という項目で診断されます。これらがすべて当てはまることがASDの第一条件ですね。


ウェンディはまず、冒頭でスコットとなかなか目を合わせられていないことから「非言語的コミュニケーションを用いることの欠如」を満たしています。さらにバスの運転手や受付の人とのやや一方的な会話の様子から「通常の会話のやり取り」に難があることが見受けられ、「相互の対人的関係の欠如」も満たしていると考えられます。そして、映画でバイト先の同僚とそっけなく接し、施設の同居人にも大して興味を持っていないことから「人間関係を理解することの欠如」にも当てはまっているように考えられますね。


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次に「限定的な行動・興味・反復行動」です。こちらは4つの基準のうち、2つを満たしていればASDと診断されます。その4つの基準のうち、ますウェンディに当てはまっていると考えられるのが、「強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味」です。ウェンディにとっての限定的な興味の対象は言うまでもなく「スター・トレック」です。今はどうか知りませんが、かつてASDを診断するためのテストでは「周囲から◯◯博士と呼ばれている(例:カレンダー博士)」という項目があり、ウェンディは間違いなく「スター・トレック」博士と言えるでしょう。その執着はオリジナルの脚本を執筆するという形で現れています。


映画冒頭ではウェンディの生活が描かれます。毎日のスケジュールがきちんと定められており、曜日ごとに着る服も決まっている。いわばパターン化しているわけですが、これにはASDの診断基準のうちの、「同一性への固執、習慣へのかたくななこだわり」が反映されています。ASDの人は「移行することの困難さ」にストレスを感じる人が多いので、ならば儀式のように一日の生活パターンをはっきりと規定しておいた方が、生きづらさを感じずに生活できることが多いのです。常に同じ、常同的とも言えますね。




さらに、ASDの人が持ち合わせることが多いのが感覚過敏。視覚、嗅覚、触覚などさまざまですが、ウェンディは常にイヤホンを持ち歩いていること、iPodを盗まれた後に周囲の音に耳を塞いでいたことから聴覚過敏を持っていることが見受けられます。聴覚過敏ではなんてことのない周囲の音が大きく聞こえ、目の前にいる人の話し声が聞き取れない。騒音に耐えきれないということがあるそうです。このこともウェンディがASDだということの裏付けになりますね。




そして、ウェンディが姉と離れて暮らす原因になった癇癪について。発達障害の子どもに見られる傾向が癇癪に絡んでいる場合があるらしく、その原因は主に、気持ちのコントロールが難しいことにあるようです。


発達障害のある子どもたちは、ストレスや興奮を減らす自己調整を行うことが難しい傾向にあり、不快な状況をそのまま経験することになり、ストレスが蓄積されていき、最後には自分の気持ちをコントロールすることができずに不満や怒りが爆発して癇癪を起こすことがあるそうです。ちなみにこの「不満や怒りが爆発する」といった状態は「メルトダウン」という言葉でも表され、女性のASD当事者がメルトダウンを起こすと、落ち着いて考えられなくなり、急に泣き出したり、茫然自失の状態になったりするようです。姉との対面のときに泣き出してしまったウェンディの行動そのものですね。


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ここで考えたいのが、この映画でフィーチャーされた「スター・トレック」の登場人物がスポックであったということ。スポックは地球人とバルカン人のハーフで、バルカン人というのはもともと非常に感情的で好戦的な種族だったそうです。癇癪を起こすのも感情的になってのことなので、ウェンディとスポックには類似点が見られます。スポックは周りの子どものように怒りを爆発させメルトダウンすることがなかったため、「感情の抑制」に悩むようになっていました。この「感情の抑制に悩む」というのもあまりにASD的で、ウェンディも同じことで悩んでいたことから、やはりこの二人には強い関連性が見られますね。
(参考:https://festy.jp/web/posts/1003515


しかし、ヴァルカン人はその性質のあまり何度も滅亡の危機を経験したようで、その経験から「感情的な反応を強力な自制心で押さえ込むことを、強い思想的信条としている」ようです。スポックも例に漏れず、当初は感情を指摘されることを嫌悪していたようですが、カークらとの交流により、自分の人間性を肯定的に扱えるようになったようです。押さえ込んでいたスポッツと押さえきれなかったウェンディという違いはありますが、これはまるで序盤は癇癪を起こす自分を嫌悪していたウェンディが、旅を通じて自らを少し肯定的に見られるようになったことそのものではありませんか。
(参考:スポック-Wikipedia


そして、ウェンディが描いた「スター・トレック」の脚本のタイトルは「The Many and The Few」。日本語にすると「多数と少数」。この場合の少数とは言うまでもなくASDをはじめとした発達障害の人たちです。ある有名な調査では小学校生徒のうちの6%に発達障害の傾向がみられるとあります。1クラス30人だとすると2人いるという計算になります。そして、多数は発達障害でないいわゆる定型発達と呼ばれる人たち。この映画は、ASDであるウェンディを主人公に据え、ヴァルカン人であるスポックと関連付けて描いています。エピローグでスポックは自らの居場所を見つけました。そして、ウェンディも施設から出て自分の居場所である実家に帰ることができた。常同パターンから外れたボーダーのセーターがそれを如実に表していて、「500ページの夢の束」は少数が多数の中で居場所を見つける物語だったと言えるでしょう。ASDや発達障害の人に限らずすべての少数の人に希望を与えるお話のように私には感じられます。


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最後にここまで書いて来てなんですけど、私がこのブログで描きたいことは、自閉症を描く『500ページの夢の束』、観る前に知ってほしい「3つ」のことという記事にほとんど書かれていますので、どうぞこちらも参考にしながら、この映画と自閉症への理解を深めていただけたら幸いです。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい


【映画パンフレット】500ページの夢の束
松竹 キノフィルムズ