※このブログの内容はセットリストのネタバレを含みます。ご注意ください。








11月23日、NAGANO CLUB JUNK BOX。ここでthe pillowsは「REBROADCAST」ツアーの初日を迎える。記念すべき最初の会場に地元のライブハウスを選んでもらえて、なんだか体がこそばゆい。さっそく、入り口左にあった物販で、今年のアメリカツアー「MONO ME YOU SUN TOUR」のDVDと、「Safety Buster」Tシャツを購入して着替える。階段を上がると、そこにはすでに大勢の人が入場の瞬間をドキドキしながら待っていた。自分のメールが読まれるかもしれないラジオリスナーのように。


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Safety Buster Tシャツ


17時30分になり入場開始の時間を迎えた。ドリンクチャージの500円をミネラルウォーターに代えて、夢の空間へと誘われていく。すでに5枚ぐらいの層ができていて、特に考えもなく中央付近で立ち止まった。前に背の高い人がいて少し失敗したなと思った。周囲の人たちの待ちきれないという話し声が、私の心を急かした。そんな私たちの緊張を和らげるかのように、会場内には緩やかにビートルズが流れていた。







確か「Don't let me down」だったと思う。いきなり曲がぶつぎられ、代わるように2週間前にも聴いたSALON MUSICの「kelly's duck」が流れた。ステージ上ではメンバーが登場しているらしかったが、私が低身長なのと、前の人たちの腕がブラインドになって絶妙にステージが見えない。歓声がひときわ大きくなったことで、さわおさんがステージに入ってきたことを知った。


一瞬の静寂の後、一斉に音が鳴る。ニューアルバムの表題曲「REBROADCAST」だ。映画のエンディングのようなイントロが演奏された瞬間、会場の雰囲気が変わった。前へと吸い寄せられるように動き、隣人との距離も一気に縮まった。ツアーが楽しみで仕方がないといったバスターズの感情がいきなり爆発して、思いっきり曲に乗り始めたので、私はもみくちゃにされた。サビがいきなり大合唱されて、下から突き上げてくるような熱気が、会場を素早く覆った。あまり広くない会場だけにその速度も速くて、ライブはロケットスタートを切った。


続く「I think I can」で盛り上がりをキープしたのちに演奏されたのは「Freebee Honey」。映画「フリクリ オルタナ/プログレ」でも印象的な使われ方をしていたこの曲。ハイテンションな曲調につられて、バスターズも高揚していく。シンイチロウさんの威勢のいいドラムがさらに会場を盛り立て、それに呼応するように3人の演奏も勢いを増す。来年には30周年を迎えるバンドとは思えない若々しさがほとばしっている。


俺らがなぜここに来たか分かるか?
途轍もない良いアルバムができたからだ!!


そうして演奏されたのは「Binary Star」。the pillowsには珍しい変拍子の曲で、さすがのバスターズもノるのに苦労する様子が見受けられた。これもライブを重ねるごとに改善していくのだろうか。


さわおさんがスピーカーに足をかけて、ギターを丁寧に弾いた。その怪しげなイントロにフロアは歓声をあげる。映画「フリクリ プログレ」の主題歌「Spiky Seeds」だ。「REBROADCAST」には入っていないこの曲がこれだけの浸透度を誇っているということは、みんな映画を見たか、それともサントラを買ったのだろうか。有江さんのベースで不穏感を煽っておいて、サビで振り切れたかのように突っ走る。意味のない言葉の羅列が耳を通り抜けていく度に快味を感じる。間奏のシンガロングも歌っていて清々しかった。


シンイチロウさんのカウントから始まった次の曲は「Skim Heaven」。アルバム「Smile」の収録曲で、こういっちゃなんだけど影はあまり濃くない。演奏される曲を予想しようとしても、候補からスリ落ちてしまうような曲なのだ。久し振りに披露された曲はフロアに驚きをもって迎えられた。脱力感のある調子に、これまた意味の少ない歌詞。フロアはいい感じにクールダウンした。


落ち着いたフロアに真鍋さんのクールなフレーズが響き渡る。「王様になれ」は前アルバム「NOOK IN THE BRAIN」から唯一今回も演奏された曲だ。フラフラしたオルタナにさわおさんの鋭い歌声が刺さる。そのギャップがたまらない。







「王様になれ」を終えたさわおさんは、上機嫌に「サングラスがない今、(暑いからといって)カーディガンまで脱いだら、俺と判別できなくなるのでは」「ステージにサングラスとカーディガンを置いて、楽屋で歌っても成立するんじゃないかな」などとジョークを飛ばしている。フロアは和やかな空気に包まれた。


街に出れば多くの人間で溢れてるけど、今日ここにいるのは全員俺の味方のニンゲンドモだろ!!


真鍋さんのギターが軽やかなフレーズを奏でる。「REBROADCAST」のリード曲「ニンゲンドモ」が始まった。noodlesのYOKOさんや、Base Ball Bearの関根さんが担当していたハミングは誰がやるのかが気になっていたが、消去法で有江さんが歌っていた。ごつい体に見合わない高くてかよわいハミングに何だか笑ってしまう。ただ、さわおさんのボーカルや真鍋さんのコーラスと合わさって抜群のハーモニーを醸し出していたし、CDとは違う良さがあるすごくライブ映えする曲なんだと感じた。サビでは周りの人はほとんど腕を上げていたし、30周年を迎えるthe pillowsが打ち出したネオオルタナはお客さん受けも上々だ。


ぼくのともだち」「箱庭のアクト」と「REBROADCAST」からの曲を立て続けに演奏し、そろそろまたMCタイムだろうかと思った矢先、真鍋さんが聴いたことのない謎のフレーズを弾き始めた。フロアがキョトンとするなか、さわおさんから告げられた曲名は「プライベート・キングダム」。「Wake Up」ツアーから実に10年ぶりぐらい(たぶん)に引っ張り出してきた曲のコールに、一部のバスターズから嬌声が漏れた。


「プライベート・キングダム」は私も好きな曲で、周囲とあまり話すことのない私はいつも自分の殻に閉じこもっている。星新一のショートショートで「マイ国家」という話があるが、ちょうどそんな感じだ。世界が滅亡した後に一人残された人間のことを歌っているのに、とても共感してしまう。一人残されて彷徨い歩いたり、空を見上げるといった情景が頭の中に浮かんできて、泣きそうになってしまった。私はライブのときに歌を口ずさみながら演奏を聴くことが多いのだが、その歌う声にも力が入る。もしかしたら周りの人は迷惑に感じたかもしれない。でも、湧き出る感情を抑えることは出来なかった。さわおさんの最後のシャウトが、真に迫ったものに感じられた。






「プライベート・キングダム」を終え、水を飲んだり、チューニングしたりして休憩するとともに体勢を立て直すメンバーたち。さわおさん、真鍋さん、有江さんの3人の準備が一通り済んでも、シンイチロウさんはマイペースに準備を続けていた。前の人でよく見えなかったが、さわおさんに「え?自宅?」と突っ込まれているところを見るに相当ゆっくりとしていたのだろう。シンイチロウさんの準備も終わり、再び曲を始めるにあたってそれは起こった。さわおさんのタイトルコール中に、シンイチロウさんがドラムをたたき始め、演奏がスタートしてしまったのだ。少し続けたのちに、いややっぱりダメだと仕切り直すメンバーたち。あまり見ることのできない光景を見ることができて、少し得した気分になった。






気を取り直して演奏された曲は「眩しい闇のメロディー」。映画「純平、考え直せ」の主題歌にもなった曲だ。さわおさんと真鍋さんが情感を込めてギターを鳴らし、それに有江さんのベースとシンイチロウさんのドラムも応え、エモーショナルな空気にフロアは染め上げられていく。するとどうだろう。映画自体はそれほどいいものではなかったのに、苦い記憶が綺麗にコーティングされて、なんだか途方もない名作のように感じてしまった。映画のシーンが次々に思い出されて、また泣きそうになった。映画に主題歌が占める割合というのはかくも大きいのだ。


そして、この次の曲がこの日のライブで一番の驚きだったかもしれない。披露されたのはなんと「MARCH OF THE GOD」。「MY FOOT」収録のインスト曲だ。ここ最近インストをやっていないthe pillowsが実に10年以上の時を経てインストを演奏する。これは予想しようと思っても予想できるものではない。「眩しい闇のメロディー」の重い空気を反転させるかのような、爽やかな曲調。私の心に一筋の清涼な風が吹き抜けた。「Yes, more light!!」の合唱はフロアとステージが一体となった瞬間だった、気がする。これからツアーを見る人にもこの爽快さを味わってほしいなと思う。


Bye Bye Me」でホッと一息つかせてから、鳴ったのはピコピコという「Thank you, my twillight」にも使われたあの電子音。8小節ほどなった後にシンイチロウさんの合図で「Starry Fantango」の演奏がスタートした。「Starry」には星の多い、星のように輝くという意味があるが、まさに脳内にそんな、満天の星空のような情景が浮かぶ輝かしい演奏だった。最後余韻を残して終わる感じもとても心地いい。








15曲目が終わってメンバーのMCタイムに入る。さわおさんはタオルで頭をわしゃわしゃしていて「30曲分の汗をかいてる」と笑った。


有江さんMC→新幹線で切符をなくしそうになった話。
シンイチロウさんMC→新幹線の客が軽井沢でほとんど降りたと長野を軽くディスってさわおさんに咎められる。
真鍋さんMC→家で練習してるのとみんなの前で演奏するのは全然違う。体と心が違う。


さわおさんが前に出てギターをかき鳴らす。だが何も聞こえてこない。どうやらエフェクターの電源を切ったままにしていたようで、照れくさそうに戻っていた。そして、仕切り直されて始まったのは「WALKIN' ON THE SPIRAL」。階段を上がるようなリフが鳴らされ、フロアも横揺れを起こしていて楽しそうだ。


シンイチロウさんがどこかで聞いたことのあるリズムを叩く。頭上で手拍子が鳴る。「I know you」が始まる、と思いきや始まったのは「BOON BOON ROCK」。疾走感のある曲にフロアもこの日屈指の盛り上がりを見せる。中央では狂喜で押し合いへし合いが起こっていて、想像を超えてライブ映えする曲なんだと感じた。さわおさんもこの後で「BOON BOON ROCKは会場が一体となった」と語っていたぐらいには山場だった。


その勢いそのままに投下されたのは「No Surrender」。the pillows、さわおさんなりの「辛いことがあっても生きる」というメッセージが炸裂して、私の感情も爆発した。「Don't cry prisoner」の大合唱も、いろんなものをすり抜けてダイレクトに胸に伝わる。「どんなに悲しくても 生き延びてまた会おう」とさわおさんが語気を強めたところで、高校時代辛かったときにこの曲に支えられた思い出がよみがえってきて、私はとうとう泣いてしまった。


そういえば、さわおさんはインタビューで今回のツアーについて、「(REBROADCASTの)楽曲の持ってる感情がシリアスなものが多いので、そこに並べる以前の曲もそうなるかもしれないですね」と語っていた。これを踏まえると、この日演奏された既存曲も「プライベート・キングダム」、「WALKIN' ON THE SPIRAL」、「No Surrender」とシリアスなものが多かったように感じる。「MARCH OF THE GOD」だって「もっと光を!」と切実に訴えるシリアスな一面がある。困難や苦悩は現実にある。でも、負けずに何とか生きていくという前向きなメッセージが存分に感じられて、ライブが終わった後は救われた気持ちになった。そういう一筋縄ではいかず、ひねくれてはいるけれども、前に向かうエネルギーをくれるのが私がthe pillowsを好きな理由なのだ。


「No Surrender」を歌いきって、さわおさんがギターを置いてマイクを手に取った。どよめくフロア。本編最後の曲として鳴らされたのは「Before going to bed」。「今回はこのアルバムから全曲やります」という公約は守られた。前の「NOOK IN THE BRAIN」ツアーでは「She looks like new-born baby」と「pulse」が演奏されなくて(この2局は今後演奏される機会はあるのだろうか)、個人的には少し寂しい思いをしていたので、「REBROADCAST」から全曲演奏されたのはとても嬉しかった。


さわおさんがスピーカーに足をかけ、解き放たれたかのように歌う。「Life is only once」を人差し指を立てながら歌うさわおさんが印象的だった。最後のシャウトには、これまで関わってくれた人たちへの感謝、万感の思いが感じ取れて迫力あってかっこよかった。興奮状態を保ったまま本編は終了した。






ただ、フロアの熱気は冷める様子を見せない。度重なる拍手に迎えられて、メンバーが再び姿を現した。次にやる曲はなんとなく予想がついていた。


真鍋さんがゲームスタートといったギターを鳴らす。「Star Overhead」。映画「フリクリ プログレ」の主題歌でもあるこの曲をさわおさんが懐かしむように歌う。しみじみとした空気がフロアに流れて、経験したこともないのに、懐かしさにやられてしまう。


そして「POISON ROCK'N'ROLL」でアンコールは締めくくられる。有江さんのベースが、私がthe pillowsの曲の中でも一二を争うくらい好きなリフを弾き、疲れた体を勝手に揺り動かしてくれる。歌が終わった後に延長されたセッションは、照明が頻繁に切り替わったのもあって、とても眩しかった。


真鍋さん、シンイチロウさん、有江さんが下がった後に一人残されたさわおさんは、まずフロアに感謝を告げて、続けた。

「来年30周年じゃないか」
「今は会場の取り合いで大変だけど、916にこだわって(渋谷の)クワトロでやるんじゃなく、ピロウズが好きな人が1人でも多く来れる会場を押さえる」
「そのときはチヤホヤしにこい、コノヤロー」

1人でも多い会場というのはひょっとしたらドームやアリーナだったりするんだろうか。期待が高まる。さわおさんのバスターズに対する熱い思いが感じられてホロリときた。






フロアに「REBROADCAST」が響く。帰る気配はない。メンバーはそこにいないのに大合唱が巻き起こって、私もそのうちの一人だった。まだ何かあるかもしれないという期待が私を底に留まらせていた。


しばらくして、4人がビール缶を手に再々登場した。シンイチロウさんだけが先に開けてしまっていてさわおさんにツッコまれている。4人はライブが成功に終わった祝杯を挙げた。曲に入る前にMCがあって、真鍋さんがそばを食べた話から、さわおさんの愚痴に入っていった。さわおさんはお店で天もりそばを頼んで、冷めたてんぷらを単品で出されたらしい。さわおさんは冷めたご飯が大嫌いだそうで、そのことにイラついて、お会計のときにごちそうさまを言わなかったらしい。ということはいつもはごちそうさまを言うということか。いい人だ。


真鍋さんが鳥取の中華料理店で店番をさせられた話で、会場がほんわかしたムードに包まれて、シンイチロウさんがツアーの初日を長野にした理由を「七味唐辛子がもらえるから」と言って笑いを誘っていた。ヘッドホンをかけたドクロマークが描かれた缶がもらえるらしく、それを全国のご飯にかけるんだと息巻いていた。それはおそらく八幡屋磯五郎さんの七味で長野の名産の一つだから、なんだか誇らしくなった。


終始和やかなMCを終えて、最後に披露されたのは「EMERALD CITY」。全く予想だにしない選曲に私の心は躍った。「EMERALD CITY」をやるのも「HORN AGAIN」ツアー以来8年ぶりくらいのことではないか。荒々しいメロディーにフロアが揺らされて、大盛況のうちにライブは幕を閉じた。












この日は前の人に隠れて、4人の姿は顔ぐらいしか見えなかったけれども、それでもやっぱりthe pillowsはかっこよかった。さわおさんの冴えたボーカルに、真鍋さんの独創的なギター。有江さんの存在感のあるベースに、それらすべてを引き立てるシンイチロウさんの抜群のドラム。30周年を迎えるバンドとは思えないほど、若々しくエネルギーに満ちていて、活力を貰うことができた。


また、JUNK BOXの手ごろな大きさもこの日はプラスに作用した。ステージから発せられた音は隅までまんべんなく届き、フロアの熱気は閉じ込められて渦を巻いていた。初日ということで熱気の温度も密度も高かったし、the pillowsが好きという気持ちで溢れた空間は居てとても居心地がよかったし、ライブハウスならではの質感を持った最高のライブだった。


最後に思えば、この日the pillowsは黄金期の曲を演奏しなかった。私が思うthe pillowsの黄金期というのは「Please, Mr.Lostman」から「HAPPY BIVOUAC」のあたりなのだが、いつもはライブの定番とされる曲たちがこの日はなかった。それは単純に、最近「RETURN TO THIRD MOVEMENT」ツアーで、さんざやったから今回は別の曲をやりたいと思ったのかもしれないけど、それだけが理由ではない気がする。さわおさんはアンコール終わりのMCで、


「いつも俺たちはアルバムが最高だと思って世に出してるんだけど、もし君たちが持っているthe pillows像、山中さわお像があるとしたら、それにばっちりハマるような、黄金期に近い感じでできた」


という趣旨のことを語っていた。ライブでいつも演奏している黄金期の曲がなくても「REBROADCAST」と素晴らしい既存曲があれば十分に盛り上げられるという判断だったのだろう。長いキャリアを経てきた自信と、これからさらに先に向かうエネルギーがビシビシと伝わってきて、やっぱりthe pillowsは最高だと、そんなことを思った一夜だった。











~セットリスト~

01.REBROADCAST
02.I think I can
03.Freebee Honey
04.Binary Star
05.Spiky Seeds
06.Skim heaven
07.王様になれ
08.ニンゲンドモ
09.ぼくのともだち
10.箱庭のアクト
11.プライベート・キングダム
12.眩しい闇のメロディー
13.MARCH OF THE GOD
14.Bye Bye Me
15.Starry Fantango
16.WALKIN' ON THE SPIRAL
17.BOON BOON ROCK
18.No Surrender
19.Before going to bed

20.Star Overhead
21.POISON ROCK'N'ROLL

22.EMERALD CITY






おしまい


REBROADCAST 初回限定盤
the pillows
DELICIOUS LABEL
2018-09-19