こんばんは。これです。


今回のブログは映画「バーバラと心の巨人」の感想になります。日本公開は10月のこの映画。地方である長野は例によって公開が遅れ、年が明けてからの公開になりました。もう上映しているところ四館ぐらいしかないっぽいですけど気にしない。張り切っていきましょう。


なお、原作「I KILL GIANT」は未読ですので、そちらも踏まえていただいてよろしくお願いします。




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―目次―

・第一印象、画面、色彩について
・「死の恐怖」というテーマ
・引っかかった点







―あらすじ―

ちょっと風変わりな眼鏡女子バーバラは、秘められし”孤高の巨人ハンター”だ。毎日森から海岸線にいたるまで結界を張り巡らせ、”巨人”から町を守ることに腐心している。学校では変人扱いされ、家族も耳を貸してくれないが、それでも大切な人を守るため、孤高の戦いに身を投じている。だが彼女のあまりに強いその想いは、バーバラを心配する数少ない理解者をも傷つけてしまう。果たしてバーバラは巨人から大切な人を守れるのか、そして孤独な戦いの行方は―。

(映画「バーバラと心の巨人」公式サイトより引用)




※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。












・第一印象、画面、色彩について



まず、この映画を観て感じたこと。それはバーバラを演じたマディソン・ウルフの鮮烈さです。あの不機嫌そうな目、厚ぼったいまぶた、大きな丸眼鏡がバーバラが他を寄せ付けない孤高の存在であることを強く印象付けていました。退かぬ媚びぬ顧みぬ。強さの中に内面の脆さも持ち合わせているところがキュートでした。


次に「予想以上にファンタジーしてるな」ってことも思いました。もっとヒューマンドラマ的なものを予想していますが、CGやVFXをゴリゴリ使って巨人やその前兆を多く登場させていました。映画の最初から巨人が登場しますからね。バーバラが巨人から逃げるシーンや巨人とのバトルは迫力があって思わず引き寄せられました。全身が岩場のようにごつごつしていて、真っ黒な体に小さい黄色い瞳が光る巨人の造形自体もよかったですしね。さすがは「ハリー・ポッター」の監督、クリス・コロンバスがプロデューサーを務めただけあります。




また、この映画の特徴として「画面が暗い」ということが挙げられると思います。バーバラの家は海辺に位置していますが、アイリッシュな海はモノトーンで色彩を持っていませんでした。また、森も冬だからか木々は枯れていてうら寂しく、不気味さを増しています。バーバラの部屋や秘密基地は手元のランプに照らされただけで全体的に暗い。巨人と戦うシーンは夜ばっか。さらに、空はほとんどの時間ドン曇りで光はあまり差さないと、学校でのシーン以外は終始暗い画面を作るのに腐心していた印象です。これは後で書きますけど、この映画の「」というテーマが持つ重さを表していて、映画の雰囲気をグッとダークなものにしていました。私はどちらかというと明るい画面が好みなんでちょっと合わなかったんですけどね。


ただそんな暗い、色彩が少ない映画の中で異彩を放っていた色が二色ありました。それは黄色です。この二色は映画のポスターにも配色されていますね。ポスターは青っていうより水色に近いですけど。この鮮やかなポスターからは映画の色彩のなさはとてもじゃないけど想像できません。で、注目すべき点は映画の中で主人公であるバーバラは青の、バーバラの友達になるソフィアは黄色の服を多く着ているっていうところなんですよね。


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青には空の青や海の青を思い起こさせ、「開放感」や「気持ちよさ」というポジティブなイメージがありますが、バーバラを見ているとポジティブなイメージは正直浮かんできません。となると浮かんでくるのが青のネガティブなイメージ。ブルーな気分といったら憂鬱な気分のことを差していますし、「ブルース」という音楽があるように、青は悲しみをも纏っています。ここから想起されるイメージとしては「寂しさ」や「孤独」といったところ。物語の終盤で明らかになる母の死が近づいているという悲しみや寂しさ、一人だけの戦いという孤独がバーバラの着る青い服に表出していました。


次に黄色です。黄色は有彩色の中で一番明るい色です。持つイメージも「明るい」だったり「快活」だったりポジティブなイメージが大半。ただ黄色には「緊張」や「不安」といったネガティブなイメージもあるそうで、これはイングランドから転校してきたソフィアが抱く心情とマッチしていますね。さらに、「黄色の服を着ている人は話しかけやすい印象になります。コミュニケーションを広げていきたいとき、黄のイメージは楽しく親しみやすい雰囲気を作ってくれます」ということなので、これも馴染めるかどうか不安で友達を作りたいソフィアの心情に合っていますね。


さらに、この二色は混ぜると緑色になります。緑といえば自然の色で生命力の象徴。バーバラがソフィアとの交流の中で少しずつ緑色になっていったと考えられ、これは私は「死の恐怖」を乗り越えたバーバーラの生命力輝く状態を表していると思うんですよね。色彩面からもバーバラの内面的な成長が見てとれます。


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・「死の恐怖」というテーマ



さらに、色以外にもバーバラの成長を示すアイテムがもう一つ。それはバーバラがつけていたうさ耳です。バーバラは巨人と戦うときはずっとうさ耳をつけていました。このうさ耳には巨人の足音をよりキャッチするという役割があったと考えられ、バーバラは母親に迫る死の足音に敏感になっていたと思われます。しかし、バーバラは巨人を追い払った後、うさ耳を外しました。これは死の足音に敏感になっていたバーバラが自然体でいることを選択した。死の運命を受け入れることを選んだというで内面的な成長を表しています。


この映画のテーマ。バーバラが戦いを挑もうとする巨人の正体。それは「死の恐怖」でした。バーバラの母親は不治の病に侵されていて、バーバラは母親を守るために、死を巨人に置き換えて戦っていました。バーバラは様々な手段を駆使して巨人を倒そうとしますが、生物である以上、死は絶対です。なのでこの巨人も倒せる類のものではないのですが、バーバラはこの巨人を追い払うことに成功します。それはバーバラが母親の死という恐怖を乗り越えたからで、「少女が死の恐怖を乗り越える」というこの映画のテーマは個人的には大好物でした。


誰だって子供の頃は「死ぬ」っていうのは怖いものじゃないですか。目をつぶって眠るときに「死ぬってこんな感じなんだな」と思って怖くなって目が覚める。そういった体験は多くの人がしたことがあるんじゃないかと勝手に思ってます。とても普遍性を持ったテーマで、子供の頃を思い出しました。そうやって述懐する面白さも「バーバラと心の巨人」にはあります。誰が見ても思うところがあるテーマになってますね。


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・引っかかった点


このように、「バーバラと心の巨人」は私の好きなテーマを取り扱っています。にもかかわらず、映画を観終わったあとに出てきた感想は微妙なものでした。「悪くはないんだけど、もう少しよくできたんじゃないか」って。それはバーバラのキャラ造形と脚本という二つの理由があると感じています。




まず、バーバラのキャラ造形。主人公であるバーバラは巨人から街を守るために、周囲からは理解に苦しむ行為を重ねています。学校から見ればいわゆる問題児にカテゴライズされるタイプの児童です。紙を食べておいしいと言う。蛆の湧いたシカの死体をつつく。心配してくれる先生をぶつ。こういった奇行を繰り返す主人公に果たして感情移入できるでしょうか。バーバラの行動原理は「巨人を倒す」こと。しかし、何を目的として巨人を倒すのかは終盤まで明らかにされません。目的が分からない以上バーバラが奇行を繰り返す理由も分からず、観ている人でさえ「何だコイツ」と理解に苦しんでしまいます。仄めかされはするものの、もっと早い段階でバーバラの目的を明かしてほしかったというのは偽らざる思いです。


ここで浮上する可能性が一つ。ひょっとしたらバーバラは感情移入するタイプの主人公ではなく、観ている人から距離をとるタイプかもしれないということ。となるとここで必要になってくるのは観ている人が物語に入り込むのを助ける視点キャラ。しかし、「バーバラと心の巨人」ではソフィア、モル先生、バーバラの姉と視点キャラが固定されていません。さらにバーバラはこれらの内の誰にも心を開いていないのも合わさっておらず、見せる表情は一定です。本来人間が持つ多面性というものがあまり感見えてこず、これも私がバーバラを遠くに感じてしまった原因の一つになっていました。


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次に脚本について。この映画の本筋は「バーバラが死の恐怖を乗り越える」ということ。それを描くためにいじめを描写する必要性はあったのかなと感じてしまいました。だって途中までバーバラが倒すべき巨人の正体は「いじめ」だと思ってましたからね。アホな話ですが。でもって本筋と関係性の薄い話を半分ぐらいした上で、終盤特に何もないところ。ここ消化不良感あります。いじめっ子はバーバラを憎んだまま終わってますからね。ほったらかしで終わるくらいなら、いじめの描写を少なくして、そのぶん母親とのエピソードを増やしてほしかった。もっと早くにバーバラの目的を明かしてほしかった。これがこの映画の脚本に関して、私が「ちょっとこれは...」と感じた気持ちの正体でした。本当惜しいです。


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こちらの海外版ポスターの方が映画の内容を如実に表してますね。かっこよさが段違いです。














以上で感想は終了となります。お読みいただきありがとうございました。



参照:

青色のイメージ|色の性格・心理効果・色彩連想
https://iro-color.com/episode/about-color/blue.html

黄色のイメージ|色の性格・心理効果・色彩連想
https://iro-color.com/episode/about-color/yellow.html



おしまい