昨シーズンJ2優勝を果たし4年ぶりのJ1昇格を果たした松本山雅FC。4年前には果たせなかったトップ15に向けて新たな戦いを始めます。その初戦の相手はジュビロ磐田。昨シーズンは16位でJ1参入プレーオフに回りながらかろうじて残留をしたクラブで、この両クラブは高い確率で今シーズン残留争いを繰り広げると思われるので、山雅にとってはいきなり残留争いの大一番を迎えました。









まずは山雅のスタメンから紹介したいと思います。

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山雅はこの試合に#15エドゥアルド選手#44服部選手#42高橋諒選手の3人の新加入選手を起用。また1トップには#10レアンドロ・ペレイラ選手の負傷に伴い、#11永井選手が開幕スタメンの座をつかみ取りました。フォーメーションは去年から継続しての3-4-2-1です。


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一方の磐田。こちらは補強が少なかったのもあり、新加入選手は#11ロドリゲス選手のみです。ただその代わりに#15アダイウトン選手#10中村選手が昨シーズンの怪我から復活して出場していますね。中盤を本職とする#14松本選手が右SBにいるのも特徴的です。フォーメーションは4-4-2。




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前半キックオフ!


立ち上がりから山雅はJ2で磨いてきたハイプレスを見せます。アタッキングサードにボールがあっても相手がボールの処理にもたついているとみれば、前線の#11永井選手#7前田選手#8セルジーニョ選手が連携して、ちゃんとコースを限定しながらプレスをかけに行きます。この日の山雅の前線は最も機動力のある組み合わせだったので、素早いプレスは磐田の脅威となっていました。


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前半8分のシーンでした。山雅はペナルティエリア手前、右45度の位置でFKを獲得します。磐田の壁がニアを消し#21カミンスキー選手はややファー寄りに構えます。ここでキッカーの#47岩上選手は低いボールを選択。磐田の壁がジャンプした下を通し、味方の壁がブラインドになっていた#21カミンスキー選手もギリギリのところで止めることができずにゴール。山雅が先制点を奪いました。







このゴールの要因は#47岩上選手が相手の意表を突いたことと、ゴール近くのいい位置でFKを得られたことなんですけど、大事なのはそのファールをもらう前なんですよね。山雅は右サイドからのスローインを獲得します。ここで#14パウリーニョ選手#15アダイウトン選手#19山田選手の間で完全にフリーでボールを受けることができているんですよ。


というのも、#15アダイウトン選手と逆サイドの#11ロドリゲス選手はあまり下がって守備するような選手じゃないんですよね。二人とも攻撃に特徴のある選手なので。よって磐田のWボランチの脇にはスペースができていることが多かった。このスローインのシーンでは両ボランチも下がりすぎていますし、#14パウリーニョ選手へのプレッシャーが遅れてしまっています。


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得点につながったスローインのシーン




ボールを受けた#14パウリーニョ選手はこれまたワイドでフリーになっている#47岩上選手にボールを戻し、#47岩上選手は中へクロス。受けた#11永井選手がファールをもらい、FK獲得という流れで山雅はチャンスを得ており、正直磐田は少しフワフワして試合に入っているのかなと疑いを持ってしまうようなシーンでした。






一点を奪われて早く追いつきたい磐田。攻撃時には4-2-3-1の3の両翼#15アダイウトン選手#11ロドリゲス選手を大きく開かせます。大きく開くことで山雅の守備陣形を横に広げてスペースを作るという狙いがまず一つ。そして突破力のある2人に1対1の場を用意するという二つの狙いがあったように考えられます。実際#11ロドリゲス選手の突破から磐田は早い時間帯に2つのCKを獲得していましたね。


さらに、ここで注目したいのがSHとSBの関係。この両者をサイドとハーフスペースにそれぞれ一人ずつ位置し、それがなるべく被らないように磐田は設計していました。SHがサイドに開いたらSBがハーフスペースに入る。SHがハーフスペースに入ったらSBがサイドをオーバラップするといった具合です。バランスよく選手を配し、山雅の守備を崩そうとしていましたが、これにはリスクが付きまとってきます。


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磐田の攻撃パターンA


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磐田の攻撃パターンB


磐田のSBがハーフスペースに入ると横のサイドのスペースが空きますし、サイドをオーバラップすると今度はその裏のスペースが開いてしまいます。磐田は攻撃の人数をかけるためにはここが空いても仕方ないと割り切って、ボランチの#30上原選手#19山田選手にそのスペースを埋めさせるようにしていましたが、山雅にとってはずばりそこが狙い目でした。


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白い丸が山雅が狙うべきスペース

山雅はボールを奪ったら、まずそのSBの裏のスペースに素早くボールを入れることを目指します。ただ、そこには磐田の選手が待ち構えていますが、そこは#7前田選手の見せ場。よーいドンでの勝負なら確実に勝てるという爆発的なスピードを武器に裏に出されたボールにも食らいついていきます。実際に、何度かボールを自分のものにしてチャンスを作り出していました。


それでもって山雅の攻撃っていうのは、この#7前田選手のスピードを最大限生かせるように設計されているんですよね。前半16分のシーンでも#8セルジーニョ選手が下がって、中盤で数的優位を作りボールを回す。前線は#7前田選手#11永井選手の2トップ気味にしておいて、#11永井選手をファーに#7前田選手をニアに配置する。そして、相手を動かして前を向いてボールを持てたら、すかさずSBの裏にロングボールを入れて#7前田選手を走らせるという攻撃が前半何度か見られましたね。戦術の目指すところっていうのは勝つために自らの強みを最大化することにあるので、そういった意味では非常に理にかなった攻撃だと思います。


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山雅は3-4-2-1のフォーメーションですが守備時には両WBとシャドーが下がって5-4-1のような陣形を取ります。選手間の距離を短くし、中でスペースを発生させないように守っています。特に中は磐田の2枚に対し、山雅はCBの3枚で守っています。この数的優位を生かして#22大久保選手#10中村選手の二人に高い位置でボールを触らせないようにしていました。磐田のロングボールもちゃんと体を張って跳ね返せていましたしね。


ここで前線でボールをもらえない#22大久保選手#10中村選手は、攻撃を優位に進めるために中盤まで下りてボールを受けるシーンが前半20分あたりから目立ってきました。ただ、こうなれば山雅の思うツボで、前線でボールを触らせると怖い二人でもブロックの外でボールを触らせていれば、ちゃんと5-4のブロックを作っている限り、ゴールから離れているので脅威は半減。さらに前線に人が少なくなるという効果も生み出していて、山雅の狙い通りの展開になっていました。


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#22大久保選手#10中村選手が下がることで手薄になった磐田の前線。ここに入ってきたのが#11ロドリゲス選手でした。#11ロドリゲス選手はサイドに張るのをやめて、中央に入ったり下がってボールを受けたり、ある時には逆サイドにまで進出したりして、自由奔放に動き始めました。


これには山雅のマンマーク守備をかく乱するという狙いがあったように思えますが、しかしそれと同時にSBとの配置の約束事を自ら破ってしまっています。#11ロドリゲス選手が動いてできたスペースに誰が入るのかも磐田はなんとなくでチームとしてきちんと整備されていないように見受けられましたし、ここで磐田の攻撃は少し混乱していたように感じられました。


ただそれでも磐田がボールを持つ展開は続きます。しかし、磐田にディフェンスラインや中盤でボールを持たれても、山雅は適切なスライドで陣形を崩すことはしません。そうして磐田が緩いパスを出した瞬間に一気にカット。素早く守→攻へと切り替え、#7前田選手らのスピードを生かして裏抜けを狙います。ここで、ボールを受けようとするときに#7前田選手#11永井選手は中→外への斜めの動き、いわばダイアゴナルランを見せていて、上手く相手の背後をつけるようにしていました。


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山雅の攻撃は素早くサイドに展開することを目指していますが、同じサイド攻撃を志向する磐田とは異なる点が一つありました。それが多くの場合、ボールサイドのWBはサイドに張ったままにしているということです。#42高橋諒選手が中に入っていってシュートを打った前半14分のようなシーンもありましたが、基本的にサイドに張ったままにしておくことで、ハーフスペースというよりはサイドで数的優位を持って攻撃を進めたいのかなという狙いが見えます。磐田はサイドの質的優位で山雅の守備を崩すことは出来ますが、山雅にはそれが難しいので割り切ってサイドに人数を人数を集めて崩そうという考えだったのかもしれないですね。


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それに前半の山雅は攻→守への切り替えだけでなく、攻→守への切り替えでも磐田を上回る速さを見せます。前線でボールを奪われても前線の3人は下を向くことなく、すぐさまプレッシング。即時奪回を目指し、奪えないまでも相手の判断を遅らせて、その間に5バックを整える時間を稼いでいました。さらに#7前田選手#8セルジーニョ選手はプレスバックも精力的に行い、磐田の選手になかなか自由を与えません。昨シーズンから続くこのタスクは山雅の守備戦術の生命線ともいえる動きで、この二人の献身的な守備が山雅にリズムをもたらしていたといっても過言ではないと思います。


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その後も3分という前半にしては長めのアディショナルタイムもしのぎ、前半は1-0で山雅のリードで終了しました。山雅は昨シーズンからさらに精度を上げたサッカーで磐田相手にも十分対抗できることを示しましたが、後半にかけては#7前田選手を中心にスプリントを繰り返し行ったことによる疲労が心配されますね。それとチャンスを作り出していたのにもかかわらず決めきれなかったので最後の精度も上げていきたい。


一方の磐田は#22大久保選手#10中村選手が下がってボールを受けざるを得ないまずい状況に追い込まれてしまっていて、名波監督がこれをどう修正してくるかですね。山雅のペースが後半は落ちると考えられるので、ボールは引き続き握れると思いますが、ゴールを奪うためには#22大久保選手を前線に張らせておくなどの対策が必要になってきますね。























両チーム選手交代はないまま後半キックオフ!


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後半開始から山雅は前線のプレスを少し緩め、それに伴いディフェンスラインも少し下げてプレーします。シャドーの2人がボランチの斜め前に早い段階で降りていき、ボランチの脇のスペースをケアするようにしてきました。磐田はボランチの脇のスペースをSBやビルドアップに参加していない方のボランチ、前線の選手が下りて使おうとしていたので、それに対する修正を山雅は図ってきました。


磐田は前半と同じように#22大久保選手#10中村選手が中盤に降りていきボールを触ろうとします。しかし、これだと前線に人が少なく攻撃にも鋭さがないので、磐田は後半9分という早い段階で#10中村選手に替えて#20川又選手を投入します。純粋なストライカーである#20川又選手を投入し、追いつこうという姿勢をさらに強く打ち出してきました。#20川又選手はワントップに入り、#22大久保選手がトップ下に入ります。


磐田は#20川又選手がワントップに入っていますが、それに伴い#22大久保選手が前半のように下がり目の位置ではなく#20川又選手の近くでプレーするようになります。前半は山雅の2列目の前でプレーすることも多かったですが、後半は山雅のディフェンスラインと2列目の間で主にプレーするようになります。これによってボールを引き出せるようになり、磐田の攻撃の機会というのは徐々に増えていきました。


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ただ、山雅も攻められてばかりではありません。前線にロングボールを送り、セカンドボールを拾ってからの二次攻撃でチャンスを生み出します。#8セルジーニョ選手はハーフスペースにポジションを取るのが上手い選手で磐田の守備を惑わせます。#8セルジーニョ選手が相手のSBを引き付けているのでその外のWBは比較的フリーの状態でボールを持てるようになり、特に左サイドでその傾向は顕著でした。#42高橋諒選手は縦に積極的に仕掛ける姿勢を見せていてよかったですね。


また、#20川又選手は前線で山雅のDFと駆け引きをするようになります。山雅としては危険な中央で数的優位を確保しておきたいので、#20川又選手に二人がひきつけられています。山雅の3CBが中によりがちになり、WBとの間ハーフスペースが空くようになってきていました。WBがハーフスペースを占めればさらにサイドが空きますし、どちらにせよ山雅には隙が生まれ、磐田に押し込まれ始めていきます。後半25分には山雅のCBとWBの間を突くために#24荒木選手#11ロドリゲス選手に変わって投入されました。


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その直後の後半26分。磐田が左サイドでボールを持ちます。左サイドに人数をかける磐田。このとき#24荒木選手はハーフスペースに位置することで#47岩上選手をハーフスペースに留まらせています。#47岩上選手がサイドをケアできず、クロスを挙げられた場面で左サイドにいるのは#8セルジーニョ選手のみ。対する磐田の選手は3人がおり山雅は極端な数的不利に陥ってしまいました。#47岩上選手のプレッシャーも追いつかず#19山田選手にフリーでクロスを上げられてしまいました。


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そして中で待っていたのは#20川又選手。いったんその場でとどまることで後ろに下がる#15エドゥアルド選手から離れ、フリーになってから似合に走り込みヘディングで合わせてゴールを揺らします。途中出場の#20川又選手の一発で磐田が同点に追いつきました。後半の磐田はここまでシュート0で、山雅はよく抑えていましたが、一回のチャンスで決められるところにJ1の怖さがうかがい知れますね。


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1点を取った磐田はさらに攻勢を強めます。山雅の選手が疲れてディフェンスラインと中盤の間が空いてきたところに#15アダイウトン選手#24荒木選手#22大久保選手の3人が陣取れるようになり、高い位置でボールを回せるようになっていました。これには山雅の2シャドーが疲れて守備に戻れなくなってきていたことが大きくて。山雅の中盤のボランチ2人に対して、ボランチとSBの3人で数的優位を作れるようになっていた。なので、2列目の選手が中盤まで下がる必要がなくなっていたのが磐田の攻撃に厚みが出てきた理由だと思います。


この状況を改善するために山雅は交代に動きます。後半34分、#11永井選手に替えて#9高崎選手がピッチに入りました。この日の#11永井選手は前線で競る役割はもちろん、#7前田選手が走れるようにスペースを空ける動きや守備でもパスコースを限定することで貢献していました。その代わりに入った#9高崎選手は同じくワントップに入り、前線でボールを収めて起点となることが求められますね。


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後半36分。磐田は最後の交代で#30上原選手に替えて#8ムサエフ選手を投入。自らのボランチの脇のポジションを締めて山雅に隙を与えないようにしてきました。


後半に入ってCBとWBの間が開いて、そこを磐田に使われ苦しい展開になっていた山雅。特に右サイドを重点に攻められていたので、山雅はそこをケアするために#47岩上選手に替えて#3田中選手を投入。この日の#47岩上選手は先制ゴールを挙げた他、右サイドで長い距離を走っていて攻守に存在感を示していました。その#47岩上選手に代わって入った#3田中選手はそのまま右WBに入ります。


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試合は終盤。山雅は後半45分には#8セルジーニョ選手に替えて#13中美選手を投入して、最後まで攻める姿勢を見せると同時に前線からのプレスを復活させて磐田の攻撃を防ごうとします。後半のアディショナルタイムは4分ありましたが、どちらも試合を決めるゴールを奪うことはできず。1-1の引き分けで試合終了となりました。


山雅は4年ぶりのJ1での初戦でしたが、5-4のブロックや前線からのプレスなどキャンプで取り組んできた成果を随所に出せていて、勝てはしなかったものの悪くはないスタートだったのではないでしょうか。最後のところの精度と一試合を通しての試合運びには課題は残りますが、そこは徐々に改善してもらえればと思います。


一方の磐田。開幕戦ということでやはりまだチームが出来上がっていない印象を受けました。攻めている時のリスク管理に難を残していましたね。攻撃面では自由に動く#11ロドリゲス選手をどう戦術に組み込むかを規定しておくとより怖い存在になるかと。あと1トップは下がって来る#22大久保選手よりも張っていることのできる#20川又選手の方がよさげに見えました。


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<ハイライト動画>




















監督コメント(Jリーグ公式)

選手コメント(Jリーグ公式)

J1順位表(Jリーグ公式)

明治安田生命J1 第1節 vs松本山雅FC|試合日程・結果(磐田公式)

2019 明治安田生命 J1リーグ 第1節(山雅公式)

フォトギャラリー(山雅公式)

磐田、耐えて追い付く J1リーグ第1節(静岡新聞)

山田躍動、川又弾演出 J1リーグ第1節・磐田
(静岡新聞)

J1山雅 第2章開幕 アウェーで磐田とドロー(信濃毎日新聞)












4年ぶりのJ1の初戦をドローで終えた山雅。次節は3月2日16:00からアウェイ昭和電工ドーム大分で大分トリニータとの対戦です。大分は開幕戦で鹿島を破っており、昨シーズン2敗していることもありJ1の強豪にも劣らない強敵です。厳しい戦いが予想されますが、粘り強く戦って今シーズン初勝利を掴んでほしいですね。


そして、ホームであるサンプロアルウィンでは3月6日にルヴァンカップ第1節の清水エスパルス戦(19:00キックオフ)を挟んで、リーグ戦は3月9日14:00から。昨シーズンの天皇杯王者浦和レッズとの対戦です。既にチケットは完売しており、私は争奪戦に敗れてしまったためいけませんが、初のホームで堂々たる戦いを見せてほしいですね。


頑張れ!松本山雅FC!!


お読みいただきありがとうございました。


おしまい


ツナグ
松坂桃李
2013-11-26



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