前節大分相手に1-0で、今シーズン初勝利を収めた山雅。ホーム開幕戦である今節は浦和レッズとの対戦です。浦和はここまで1分け1敗の16位と苦しんでいますが、リーグを代表する強豪に違いなく、山雅にとってはJ1初挑戦の2015年には2試合戦って2敗した苦手な相手。ACLで3-0で勝利するなど徐々に調子を上げつつある浦和相手に山雅はどう戦ったのでしょうか。





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では、両チームのスタメンです。

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山雅は3試合連続で同じスタメンで臨みます。フォーメーションは3-4-2-1。


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一方の浦和は前節札幌戦からスタメンを4人入れ替え。#19アンドリュー・ナバウト選手#27橋岡選手#29柴戸選手#46森脇選手が今シーズン初スタメンを果たしました。フォーメーションは3-3-2-2です。




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前半キックオフ!



この日、浦和は前線に#14杉本選手ではなく、#19アンドリュー・ナバウト選手を起用してきました。前節までの浦和は、#14杉本選手が中央にとどまってボールを収めることを攻撃の手段にしていましたが、#19アンドリュー・ナバウト選手は、サイドに流れてボールを受けるタイプのFWです。#19アンドリュー・ナバウト選手がサイドやハーフスペースに流れることで、中央に生まれるスペースを活用して崩していこうというのが、この試合の浦和の主な攻撃手段でした。


#19アンドリュー・ナバウト選手は中央からハーフスペースに流れて、WBやシャドーと近い関係を作って崩すという攻撃が浦和には多く見られます。しかし、山雅はあらかじめ#15エドゥアルド選手#44服部選手といった当該サイドのCBが、しっかりとついていき#19アンドリュー・ナバウト選手にフリーでのボールタッチを許しません。そして、#19アンドリュー・ナバウト選手がいたスペースには#31橋内選手や逆サイドのCB、WBが素早くスライドして蓋をします。


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また、#19アンドリュー・ナバウト選手#30興梠選手は、下がってボールも受ける動きも織り交ぜてきます。山雅のディフェンスは基本的にはマンツーマンですが、浦和のFWの選手が下がったときにCBはついていきすぎず、ボランチにマークを受け渡していました。ボランチが見ている#10柏木選手#7長澤選手といったシャドーはFWが下がったときには前線に出ていきますし、マークを交換するような感じです。


それに、浦和は基本的に前線に2枚残していので、山雅は3バックでパニックに陥ることなく対応しています。#44服部選手#15エドゥアルド選手が前線の2枚につき、#31橋内選手はカバーに専念するという役割分担が試合を通して遂行出来ており、浦和に決定機を許していませんでしたね。









浦和はビルドアップ時に3バックが広がりボールを回します。WBをピッチ目いっぱいに開かせ、シャドーの位置ほどまで上げることで山雅の陣形を横に間延びさせ、スペースを作ろうと目論んできます。このとき山雅の前線は3トップになり、浦和の3バックに同数で当たってきます。#11永井選手#7前田選手の2トップに近かった大分戦とは異なるアプローチを採用してきました。


これはなぜかというと浦和の中盤が#29柴戸選手1枚しかいないからなんですね。大分は2ボランチだったので#8セルジーニョ選手を残して中盤で数的優位を作る必要があったんですが、浦和は1ボランチを採用しているので、#8セルジーニョ選手も思い切って前に出てきています。


で、このとき#29柴戸選手を誰が見ているかというと、実は誰も見ていないんですね。3対3の数的同数のようで、山雅側から見ると3対4の数的不利に陥っているんです。ただ、これも山雅側からすれば織り込み済みで、前線の3選手は#29柴戸選手へのパスコースを切りながらプレスに行くことで、実質的に#29柴戸選手を消すことに成功していました。


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さらに、山雅の3トップはタイトに寄せることで浦和のDFを慌てさせロングボールを蹴らせることで、自らが強みを持つ空中戦に相手を引きずり込んでいました。実際#15エドゥアルド選手#44服部選手は多くの場面で#19アンドリュー・ナバウト選手#30興梠選手との空中戦に勝利していたのではないでしょうか。中盤でテクニックを持つ#10柏木選手#7長澤選手にボールを触らせないという戦術です。


浦和は3バックでうまくビルドアップができないと見るや、#29柴戸選手をディフェンスラインに下げて4バックでビルドアップという手段に出ます。このとき浦和の中盤はスカスカになり、山雅は浦和の前線とディフェンスラインの分断することができていました。これを解決するために浦和は前線の選手が下がってボールを受けようとするんですけど、下がった選手には山雅のボランチがしっかりついていきますし、前線が手薄になって浦和の攻撃の威力を減じるということも実現していました。試合は山雅ペースで進んでいたといえます。


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守備は機能していた山雅。となれば攻撃に出ていきたいところでしたが、浦和の赤い壁が立ちはだかります。浦和は守備時に5-3-2のようなシステムになっており、山雅が使いたい1ボランチの#29柴戸選手の脇のスペースを、#10柏木選手#7長澤選手が素早く下りて消してきます。浦和はボールを奪われたときに主にリトリートを採用し、WBとシャドーが下がって守備陣形を整えることを優先。そのスピードはゼロックスのときよりも、札幌戦のときよりも速くなっていました。


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さらに、浦和は守備時にかなり横圧縮をしていきます。ディフェンスラインを5枚をペナルティエリアの幅に収めるように設計し、サイドにボールがあるときには逆サイドのWBがハーフスペースのカバーを放棄して中央近くまで来ていることもしばしばです。これにより浦和は密集を実現し、ボールホルダーに複数人でいっても穴が出ないような守備を実践していました。これを打破するためにはサイドチェンジを増やしても面白かったと思うのですが、強風吹きすさぶこの日のコンディションでは難しかったのかな。


ディフェンスラインと中盤の距離も近いので、浦和の守備にはなかなかスペースが生まれません。山雅は裏のスペースを狙ったり、中盤でボールを回して相手を食いつかせスペースを作るなどいくつかの方法を試していましたが、どれも決定機にまでは至りません。ここで、攻撃が上手くいかない山雅はトランジション(切り替え)に活路を生み出します。






この試合もそうですが、山雅はネガティブトランジション(攻→守への切り替え)が速い。ボールを奪われたときに、奪われた選手がすぐにプレッシャーをかけにいきます。さらに、前線の選手のプレスバックは日常茶飯事。中盤の選手とボールホルダーを挟んでボールを奪ったシーンも一度や二度ではありませんでした。


そして、ボールを奪った後のポジティブトランジション(守→攻への切り替え)も山雅は素早く行います。ボールを奪ったらまず縦にボールを入れることを強く意識しています。近くの選手にパスすることもありますが、3手以内には前線へとボールを送っているシーンが多くみられました。要するにカウンター攻撃を強く志向しているということです。


このとき山雅が狙っていたのは#29柴戸選手の脇のスペースと、浦和のWBが戻り切れていないサイド深くのスペースです。浦和の帰陣が追い付かないうちに、これらの狙いどころにボールを入れます。ただ、浦和のCBは個人能力が高いので中央のスペースにボールを入れても潰されることが多く、自然とボールはサイドに集まっていきます。


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#11永井選手
#7前田選手がサイドに流れてボールを受け、WBの選手と二人でサイドを突破することを目指していますが、ここで問題なのが中に選手が少ないこと。せっかくボールを入れても、仲が手薄でフィニッシュにまでつながらないシーンがあったので、ここは改善ポイントかと。ただ、多く攻撃に人数をかけても、今度は逆にカウンターを受ける危険性もあるので難しいんですけどね。





山雅は守備時に5-4-1で守ります。中央はもちろん両シャドーがハーフスペースを消すように立ち、浦和の攻撃をサイドに追いやります。浦和はサイドをワンツーやダイアゴナルランなどを使い崩そうとしますが、山雅のWBは適切な距離を取って守備をしクロスを上げさせません。先ほど#19アンドリュー・ナバウト選手がサイドに流れることが多いと書いたんですが、敵陣深くにボールがあるときにはサイドに流れずに中でボールを待つんですよね。


他の選手にもハーフスペースを使って崩そうという意識が浦和にはあまり見られず(山雅のCBがハーフスペースを締めていたのもある)、山雅にとってはクロス対応に気を付けていればよいといった感じで、集中してクロスを跳ね返し浦和の攻撃をシャットアウトしていました。


さらに光っていたのが山雅のラインコントロール。#30興梠選手#19アンドリュー・ナバウト選手は何度か裏への抜けだしを見せて、山雅のディフェンスラインを押し下げようとしていましたが、#31橋内選手をリーダーとするディフェンスラインは統率がとれており、むやみに下がることなくオフサイドを多くとっていました。このおかげで山雅の陣形がコンパクトに保たれ、浦和の攻撃を防いでいたという側面もあります。








そしてアディショナルタイムの1分が過ぎ、前半は0-0で終了。両チームともに守備が機能していて、シュートの本数は少なかった前半でした。山雅としては浦和が引いた時にどう崩すか、浦和としては山雅の前線からのプレスをどう躱すかがキーポイントとなります。また、この日は風が強く吹いており、前半は浦和が風上で山雅が風下でしたが、後半はこれが入れ替わるので、山雅としては風上というアドバンテージを生かして攻撃を展開したいところです。





両チーム選手交代はないまま後半キックオフ!


後半開始から浦和は前線からのプレスをかけてきます。FWが中央へのパスコースを限定しながらプレッシャーをかけ、シャドーが山雅のCBとWBの間に入ってボールを奪おうとしてきます。山雅のCBはプレッシャーをかけられたことで、焦りが生まれロングボールを蹴る回数が前半よりも増えていました。ターゲットである#11永井選手には主に#31岩波選手がついていて、自由にプレーすることを許しません。また、#29柴戸選手とCBの距離感もより近くに改善されて、浦和がセカンドボールを拾えるようになっていきます。


さらに、浦和は山雅の縦志向にも対策を敷いてきました。#11永井選手#31岩波選手をマンツーマンでつかせ、#5槙野選手#46森脇選手の片方をカバーに、もう片方を斜め前に出します。この前に出たCBがボールホルダーと#11永井選手の間に立ち、#11永井選手への縦パスをカットする仕組みを後半から作ってきました。これにより#11永井選手が孤立してしまい、山雅は攻撃の起点を下げざるを得ず、ゴールから遠ざかってしまいました。


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浦和の5-3のブロックに阻まれなかなかシュートが打てない山雅。J2時代から強みにしているセットプレーに活路を見出そうとしますが、この日は山雅のセットプレーはあまり機能しませんでした。その理由の一つがこの日吹いていた風。前半は向かい風で後半は追い風。この状況にキッカーである#47岩上選手はあまりアジャストできていなかった印象です。特に後半は弱めに蹴ることが多く、ストーンの選手を越えられずに跳ね返されてしまうというシーンが散見されました。


また、山雅はセットプレー時に#44服部選手をターゲットにしてきます。#44服部選手にニアですらさせ中で勝負するというパターンが多いのですが、浦和は後半ここにも対策を打ってきました。#5槙野選手#30興梠選手#44服部選手を挟み、着実に一人は体を当てられるようにし、制空権を奪ってきました。これにより#44服部選手が競り勝てない場面も増え、浦和にクリアされるシーンが続きます。


ただ、これはターゲットが#44服部選手の1枚しかいないことに起因しているので、#9高崎選手やそれこそ#10レアンドロ・ペレイラ選手が出場してくるとターゲットが増え、また変わって来るのではないかと思います。今はセットプレーと前線からの守備を天秤にかけて、前線からの守備を重視し、#11永井選手を起用していますし、実際に機能しているのでしょうがない部分も少しありますね。改善の余地はありますが。




後半になって山雅の選手たちにも徐々に疲れが見え始めます。前半、風を受けて走っていたのでその分体力の消耗も大きく、前線からの守備も回数が減り、連携もなかなかできなくなってきていました。浦和のWBにボールが入る回数も増え、山雅の守備組織は徐々に間延びさせられていきます。


後半31分。センターサークル付近で#6藤田選手#30興梠選手のプレスバックを受けてボールを失ってしまいます。ここから浦和はショートカウンターを開始。最終的にハーフスペースに入った#10柏木選手を誰も見ていなかったのが致命傷となり、#10柏木選手のクロスが#31橋内選手の手にあたり、浦和がPKを獲得。#31橋内選手のハンドは体勢上仕方がなかったものでしたが、山雅がハーフスペースを空けた瞬間を上手く使われてしまったシーンでした。#6藤田選手のボールロストが悔やまれますね。


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キッカーは#30興梠選手#30興梠選手#1守田選手が右に飛んだのを見てから落ち着いて左に流し込み、浦和が先制しました。浦和は今シーズンリーグ戦初ゴールです。










先制点を奪われた直後、反町監督が動きます。後半35分、#11永井選手#7前田選手に替えて#9高崎選手#25町田選手を投入。水曜日のルヴァンカップでゴールを決めた両選手に同点、逆転への望みを託します。


1点を追う山雅。攻勢に出たいところでしたが、やはり疲労からか選手間の距離が間延びしてしまっています。浦和は山雅が風下であることも計算に入れて、近くのパスコースを着実に消し、山雅にロングボールを蹴るよう誘導。#9高崎選手も前線で起点になることはなかなかできません。さらに、常時5バックにし、ラインも下げることで裏のスペースを消して山雅の選手が足元でボールを受けるように仕向け、そこを狙って奪うという守備で山雅のボールを刈り取っていきます。山雅はシュートはおろか、ペナルティエリア内にすらあまり入れないという苦しい時間帯が続きます。


後半40分ごろから浦和は立て続けに交代のカードを切ってきました。#7長澤選手に替えて#22阿部選手を、#46森脇選手に替えて#4鈴木選手を、#10柏木選手に替えて#11マルティノス選手を投入し、守備固めを図ります。一方の山雅も最後の交代で#6藤田選手に替えて#32安東選手を投入。#14パウリーニョ選手を気持ち前目に置き、最後までゴールを目指します。


ただ、スコアは動かず後半アディショナルタイムに突入。山雅は#44服部選手を前線に挙げてのパワープレーを敢行しますが、これも奏功せず。0-1で試合終了。浦和は今シーズンリーグ戦初の勝利を手にし、山雅は今シーズンリーグ戦初の敗北を喫しました。浦和はまだまだ本調子ではないものの勝利というきっかけを得たことでここから浮上してくるのではないでしょうか。山雅にとっては相手がまだチームができていない今のうちに勝ち点を奪いたかったところです。


それでも、前線からのプレスなど築いてきたものがJ1で通じるという手ごたえを選手たちは得たことでしょう。負けたとはいえ浦和相手に決定機をあまり作らせないなど、内容は決して悪くなかっただけにこの戦い方を継続してくるのではないでしょうか。


とはいえ、最後の精度や崩しのアイディア不足という課題をこの試合でも露呈してしまったのも事実。次の試合までに攻守のバランスの落としどころや効果的な攻撃パターンを見つけてほしいですね。一朝一夕にできるものではないので少しずつ練習から積み重ねていってもらえればと思います。









<ハイライト動画>











監督コメント(Jリーグ公式)

選手コメント(Jリーグ公式)

J1順位表(Jリーグ公式)

2019 明治安田生命 J1リーグ 第3節(松本公式)

第3節 vs松本「興梠がPKを決めて1-0で勝利」(浦和公式)

オズワルド オリヴェイラ監督 松本戦試合後会見(浦和公式)

J1松本山雅、ホーム開幕戦は浦和に0―1(信濃毎日新聞)

浦和、今季リーグ初白星 松本に1-0、PKの1点を守り抜く 興梠、守備でも「チームを勇気づける」(埼玉新聞)

【J1第3節 松本×浦和】エース興梠の今シーズン初ゴールが決勝点!勝負強さ光った浦和が今シーズン初勝利(ドメサカブログ)

【J1採点&寸評】松本0-1浦和|決勝点の興梠はセットプレーの守備でも貢献!松本の攻撃は最後の精度を欠いた(サッカーダイジェストWeb)

【松本×浦和】オリヴェイラ監督が語った反町監督との友情(サカノワ)












この結果を受けて順位を9日時点で8位に落としてしまった山雅。しかし、まだ戦いは始まったばかりです。次節は3月17日(日)15:00~。今節半年ぶりの勝利を掴んだサンフレッチェ広島とアウェイ・エディオンスタジアムでの対戦です。そして、その次節はホーム・サンプロアルウィンで昨シーズンのJリーグ覇者川崎フロンターレとの対戦です。3月31日(日)14:00キックオフのこの試合。私も観戦する予定です。今シーズン初アルウィンが今から楽しみです。相手は強敵ですが、山雅らしい戦いを貫いて勝利を掴んでほしいですね。


頑張れ!松本山雅FC!!


お読みいただきありがとうございました。


おしまい



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