J1J2から遅れること2週間。3月9日にようやくJ3リーグが開幕しました。AC長野パルセイロにとっては昨シーズンの10位から巻き返しを狙うシーズンです。そんなパルセイロの初戦の相手はロアッソ熊本。去年までJ2に所属していた強敵です。開幕戦といえどJ2昇格のためには勝たなければならないこの試合。パルセイロはどのように戦ったのでしょうか。







長野グランドシネマズでのライブビューイングの模様はこちら↓
サッカーと映画館の幸せな出会い。長野グランドシネマズでAC長野パルセイロの試合を見た日










では、両チームのスタメン紹介です。


IMG_E0009


パルセイロは#5池田選手#11木村選手#29山田選手#30浦上選手と新加入選手4人がスタメン。昨シーズン出場機会のなかった#18内田選手もスタメンに名を連ねており、かなりフレッシュな面々です。フォーメーションは昨シーズンの4-4-2から3-4-2-1に変更となりました。




IMG_E0010


一方の熊本。こちらは#9原選手#14中原選手#22山本選手の3人の新加入選手がスタメンです。フォーメーションはパルセイロとは逆に、昨シーズンの3-4-2-1から4-4-2となりました。




070




082




前半キックオフ!





この日のコンディションは強い雨。ピッチはスリッピーで、グラウンダーのボールだと伸びてしまいパスが合いにくいという状況だったため、両チームとも立ち上がりはロングボールを主体とした攻撃を展開します。


熊本が狙うのはパルセイロのWBとCBの間のスペース。ここで特徴的だったのが、FWの選手があまり流れず、SHの選手がボールを受けようとするということです。熊本のFW、特に#9原選手は中央でフィニッシャーの役割に専念しており、SHが斜めの動きでボールを受けようとしますが精度を欠き、パルセイロのディフェンスに跳ね返されてしまいます。この日の3CB、#26遠藤選手#30浦上選手#5池田選手は、前半は安定した空中戦の強さを見せていたので、パルセイロは前線から激しく寄せて熊本にロングボールを蹴らせるという戦術を取れていました。


熊本の攻撃でもう一つ特徴的だったのが、横幅を圧縮すること。ピッチの半分ほどに全員が入り、細かくボールを繋ぐことを目指していましたが、雨でボールが滑るこの日のコンディションではその戦術が裏目に出ているように感じられました。パルセイロの選手たちも密集していて、よくボールが引っかかっていましたしね。


083




パルセイロは去年の4-4-2のシステムから今年はシステムを3-4-2-1に変更してきました。新生パルセイロの特徴として、まず変化が見られたのはWBです。3バックのWBというと攻撃時に大きく開いて、相手チームを横に間延びさせることを狙うチームもありますが、パルセイロのWBにはその幅を取る動きが要求されていません。攻撃時にパルセイロのWBに求められているのはフィニッシュに絡む働きです。


逆サイドのWBはサイドに開くのではなく、中央より少し外側にポジションを取ります。よりゴールに近い位置から逆サイドのクロスに合わせて、ペナルティエリア内に入っていく。昨シーズンのチームよりも横に圧縮されていて、密集を高めてボールを動かそうという狙いが見られます。


これにより、パルセイロの去年の課題だったペナルティエリア内の人数不足は改善の兆しを見せています。前線に加え逆サイドのWB、さらには一方のボランチが入っていくシーンも見られ、得点の匂いを感じさせます。リスク管理もボランチの片方は確実に後ろに残るようにしており、カウンターの芽を摘もうと睨みを利かせています。#6岩沼選手はもちろん、新加入の#29山田選手も危機察知能力に優れ、パルセイロにとって使われたくないWBが上がった後のスペースを確実に消していましたね。


073




また、昨シーズンと比べて増えたのが前線からの守備。熊本のCBにボールが入ったところからパルセイロは守備のスイッチを入れます。#11木村選手が隣のCBのボランチへのパスコースを切るようにきつくアプローチ。ボールをSBに誘導します。SBにボールが入ったら、#14東選手もしくは#19三上選手のシャドーがボランチへのコースを切り、#11木村選手がCBに戻させないように立ち、SHにボールを入れるように誘導します。熊本のSHをこの日のパルセイロはボールの取りどころに設定していて、WBがインターセプトするというシーンがこの日は多く見られました。


074


075




また、パルセイロは守備時にWBとシャドーを下げて、5-4-1の陣形に変更します。熊本の前線4枚に対し、パルセイロは最終ラインを5枚にして数的優位を作って対応。そして、中盤ではボランチはそのまま熊本のボランチ、シャドーはそれぞれ熊本のSBと見る相手を明確に決めて、プレッシャーを敢行。迷いを失くすことで、素早くタイトな寄せを実現。ボールホルダーとの距離は明らかに昨シーズンよりも縮まっています。これにより熊本の選手に自由を与えず、攻撃を食い止めることができていました。前線では#9原選手がボールを貰おうと動き出していますが、効力を有しません。


これを解決するために、熊本は#10伊東選手を下がり目の位置でプレーさせることで、中盤で数的優位を作ってボールを回そうとしています。しかし、これにもパルセイロはシャドーの選手を中に絞らせることで対応。ボランチの選手が釣りだされた時も、シャドーの選手がカバーに入れるようにすることで、穴を作っていませんでした。さらに、前線には#9原選手一人。パルセイロは#10伊東選手が下がったことで#9原選手に二人を当てられるようになり、前半は#9原選手にボールを触らせない守備を実践することができていました。


085




パルセイロも攻撃はロングボールが主体です。サイド深くでボールを奪うやいなや、前線の選手が裏に走り出し、ボールを引き出そうとします。狙うは熊本のSBが戻り切れていない裏のスペース。#11木村選手が下がって、CBが食いついて空けたスペースをシャドーの選手がつくなどの工夫を施しますが、当然そこにはCBの選手が並走してきます。しかし、#19三上選手#14東選手#11木村選手は想定外にキープ力があり、マイボールにすることも少なくありませんでした。


ボールをキープできたら、パルセイロはサイドに密集を作り、突破しようとします。ここで効果的だったのが#14東選手の斜めの動き。熊本の4バックに対して、パルセイロは1トップ+2シャドーの3枚。このときシャドーの選手がCBとSBの間にポジションを取れれば、相手を迷わすことができ、#14東選手はこのポジショニングが非常に巧みでした。相手が捕まえ切れていない瞬間を使って、ハーフスペースからサイドに出ていくことでフリーになってクロスを上げるというシーンが前半は何度か見られます。


076




また、パルセイロは前線から守備にいっています。コースを限定しながらプレスをかけに行った結果、熊本の選手が焦って、パルセイロの選手がふさいでいるパスコースにボールを出して、奪えてしまうという成功例も前半はいくつかありました。37分の#11木村選手のシーンがその代表例ですね。前線からの守備が機能して、パルセイロは前半多くの時間帯で主導権を握ることができました。




しかし、両チームともに得点は生まれず前半は0-0で終了。パルセイロが積極的に前から守備に行くことでペースを握りましたが、1試合を通してこれを続けるのは少し難しい。なので後半は早い時間帯に得点を奪って、多少なりともペースを落とせるような展開に持っていくのがパルセイロにとっては理想的です。対する熊本はパルセイロのプレスが緩む時間帯が必ず訪れるので、いかにその時間帯を逃さず仕留められるかがカギとなりますね。



084





両チームとも選手交代のないまま後半キックオフ!


後半、熊本はプレスをかけ始める位置を敵陣ミドルサードに設定しなおして、前線から守備をするようになります。#9原選手#10伊東選手が縦のコースを切りながらプレッシャーをかけてきますが、パルセイロは#29山田選手も下げての4バック気味でビルドアップをします。4対2の数的優位にすることでプレスをかわして、前線に縦パスを多く供給します。


また、熊本はゴールを奪うために、後半からSHをかなり中に絞って、中央を厚くしてきました。#14中原選手#15坂本選手がクロスに飛び込む場面が増えますが、3バックが集中力を保って跳ね返していて、決定的な働きはさせません。


086





後半6分。パルセイロが先制に成功します。#25有永選手から前線に縦パスが入りますが、これは合わずにカットされてしまいます。しかし、ここでのパルセイロの攻→守への切り替えが素晴らしかった。すぐにボールホルダーに#14東選手が後ろから寄せて遅らせる。そこに#19三上選手が挟みに行き、#11木村選手にボールを奪わせる。前線からの守備が結実したシーンでした。


そして、#11木村選手#18内田選手にパス。熊本は守備時にも横幅を狭めて中央を固めてくるだけに、外で待っていた#18内田選手はフリーになっていましたね。#18内田選手はそのまま相手が寄せてくる前にクロスを上げます。中では#5植田選手から離れる動きでフリーになっていた#14東選手が右足で合わせ、今シーズン初ゴールを奪取。後半やや熊本がペースを握っていた中で、パルセイロが先制点を挙げました。







後半10分、熊本が動きます。#15坂本選手に替えて、#11三島選手を投入。前線に高さのある#11三島選手を置くことで、ロングボールを収めて攻撃しようという狙いでしょうか。#11三島選手#9原選手と2トップを組み、#10伊東選手が左SHに入りました。


前線にターゲットができたことで、熊本は#11三島選手めがけてボールを蹴るようになります。#11三島選手は前線で張っているというよりも、ディフェンスラインと中盤の間でボールを受けようとしていて、パルセイロは空中戦に強いCBが前に出て対応します。競り勝たれてしまいますが、他のCBが斜め後ろでカバーの位置を取っているので、かろうじて大事には至っていません。


また、#10伊東選手は左SHに入りましたが、かなり中に入っていき、まるでトップ下のように振舞っています。中盤とサイドの間、前線と中盤の間を自由に動く#10伊東選手でしたが、パルセイロは選手間同士の距離を縮め、スペースを小さくすることで#10伊東選手をフリーにしません。そして、#10伊東選手がいたスペースには#7片山選手が上がっていることが多く、パルセイロはボールを奪ったらまず右サイドを狙ってロングボールを入れ、カウンターを仕掛けていました。カウンター時に味方の上りを待つのではなく、前線の3枚だけで崩そうとする意志がみられたのは好印象でした。


077




後半26分。熊本が二人目の交代を行います。#7片山選手に替えて、より攻撃的な#24高瀬選手を投入。クロスが得意な#24高瀬選手を入れることで、#11三島選手の高さをより生かそうという狙いでしょうか。#10伊東選手を中に入れて左SBを挙げる攻撃は継続し、リスクを取ってでも同点に追いつこうという狙いが見えます。


後半29分。パルセイロが最初の選手交代を行います。#19三上選手に替えて、#3大島選手を投入。FWに替えてDFの選手を入れたということで、パルセイロはフォーメーションを変更。#26遠藤選手を右SB、#5池田選手を左SBに置いた4-4-2の陣形にしてきます。守備に重点を置いて守り切ろうという選択でしたが、結果的にこの采配が裏目に出てしまいました。


078




まず、ディフェンスラインが単純に低い位置を取ってしまっています。中盤やFWとの距離が開き生まれたスペースを熊本に使われ、パルセイロは押し込まれていきます。前半は機能していた前線からの守備も、疲労もありますが4対2ではコースの限定をしきれず、中盤との距離が開いているため連携も不十分。熊本のディフェンスラインに余裕を持たせてビルドアップをさせてしまっていました。これを防ぐためには前線の選手同士を交代させて、プレスの強度を保った方がよかったのではないかと。


また両SH、特に#18内田選手は3バックのときと同じようなイメージでプレーしていて、ディフェンスラインに入ってしまうのが早すぎたように見受けられました。ここでボランチの脇のスペースをカバーする選手がいなくなり、そこを熊本に利用されてしまいます。#25有永選手もディフェンスラインに入って6バックになる時間帯もあり、熊本の中盤へのプレスが緩くなり、簡単に縦パスを出されていたので、この意味でもあまりよろしくなかったですね。


079
#7片山選手#24高瀬選手に交代しています。




熊本が#8上村選手に替えて#25田辺選手を投入した直後の後半34分。パルセイロのゴールキックを#5植田選手が跳ね返し、#11三島選手が縦につなぎます。ここで#11三島選手は前線と中盤の間でフリーになっていたので、その対応のために#30浦上選手が引っ張り出されてしまいました。#3大島選手#26遠藤選手が挟みこんで奪おうとしますが、#9原選手#3大島選手の背中に回り、視界の外から飛び出します。これを#3大島選手がファウルで止めてしまい、熊本にPKが与えられてしまいました。そして、#3大島選手はボールに行っていなかったので、決定的な得点機会の阻止を取られてレッドカードで退場です。


080
#7片山選手#24高瀬選手に交代しています。




ただ、このシーンはもっとはっきりとしたプレーを見せることで防ぐことができた可能性があったかなとも思います。#26遠藤選手#3大島選手の間で少し迷いが生まれてしまったところを、#9原選手に突かれたところもあるので、急造4バックの連携不足という弱点が出てしまいましたね。そして、このPKを#9原選手#16阿部選手の逆を突いて決め、熊本が同点に追いつきました。







その直後にパルセイロは選手交代。#14東選手に替えて#10宇野沢選手を投入します。そして、フォーメーションも再び変更。#26遠藤選手#30浦上選手#5池田選手の3バックに戻し、3-4-1-1のような陣形にします。守備時には両WBと#11木村選手が1列ずつ下がって5-3-1になるような陣形です。


081




後半40分。パルセイロが敵陣中央でFKを獲得します。#6岩沼選手が蹴り、#5池田選手が折り返したボールを熊本DFがクリア。しかし、このクリアボールを#29山田選手がペナルティエリア前から直接ボレーシュート。これがゴールに突き刺さりパルセイロが勝ち越します。数的不利の中、決めるならここしかないという場面で奪ったゴールに選手たちも感情を爆発させます。







しかし、その直後の後半43分。自陣左から#25田辺選手がクロスを上げます。これを#11三島選手に折り返され、パルセイロのディフェンスがクリアできずにファーに流れていったボールを#9原選手に押し込まれ、熊本が再び同点に追いつきます。


この失点は#25田辺選手へのプレスが緩かったことや、#9原選手のポジションが巧みだったこともありますが、一番の要因は#11三島選手に折り返しを許したことです。このシーンの前からパルセイロのディフェンスは11人のときでも、前線と中盤の間にポジションを取る#11三島選手を捕まえきれておらず、度々プレッシャーのない状態でのヘディングを許してしまっていました。#11三島選手のポジショニングが巧みだったのもありますが、この試合を見た他チームはパルセイロ攻略にと同じような攻撃をしてくる可能性があるため、ここは早急に改善しておきたいポイントですね。







後半アディショナルタイムは4分。熊本はロングボール攻勢を続け、逆転ゴールを奪おうとしますが、パルセイロも#11木村選手に替えて#27竹下選手を投入するなど手を打ちます。#10伊東選手に決定的なシュートを打たれる場面もありましたが、すんでのところでパルセイロが守り切り、2-2で試合終了。両チームとも開幕戦はドロー発進となりました。


パルセイロは結果こそ追いつかれてのドローに終わりましたが、前線からのプレスで熊本の攻撃を抑えるなど変化が見られた場面もあったので、概ねこの方向性を続けていけばよいかと思われます。あとは前線と中盤の間を空けないためにも、押されても引かないという心構えが必要ですね。


087
















<ハイライト動画>







選手コメント(Jリーグ公式)

J3順位表(Jリーグ公式)

2019明治安田生命J3リーグ第1節 vsロアッソ熊本(長野公式)

フォトギャラリー(長野公式)

2019明治安田生命J3リーグ 1(熊本公式)

AC長野、開幕戦ドロー 「格上」熊本相手に(信濃毎日新聞)

ロアッソ、長野と引き分け J3開幕戦(熊本日日新聞)























初戦をドローで終えたパルセイロ。次節の相手は今年JFLから参入してきたヴァンラーレ八戸です。八戸はパルセイロと同じくガンバ大阪U-23との開幕戦を2-2で終えています。J3ではJFLからの参入組が軒並み好成績を残しており、しかも監督はパルセイロが苦手としている大石篤人監督。情報も少ないですし、難しい試合になりそう。


ただ、八戸戦はホーム開幕戦。3月17日(日)の13:00~長野Uスタジアムでの開催となります。ここはスタジアムを一人でも多くのパルセイロファン・サポーターで埋めホームの雰囲気を作り出し、八戸を怯ませたいところ。ぜひとも家族友人をお誘いあわせのうえ、長野Uスタジアムにお越しください。みんなで選手の背中を押しましょう!


頑張れ!AC長野パルセイロ!!


お読みいただきありがとうございました。


おしまい





☆よろしければフォロー&友だち登録をお願いします☆