こんばんは。これです。みなさんはGWいかがお過ごしでしょうか。私は、サッカーに映画にブログに忙しない日々を送っております。やりたいことがいっぱいで、GWすることなくて暇という人がよく分からない今日この頃です。


それはさておき、今日も映画を観てきました。令和最初の映画は『ブラック・クランズマン』。アカデミー賞にもノミネートされたスパイク・リー監督のリアル・クライム・エンターテインメントです。黒人差別問題を描いていることで、難しそうだなーと思ったのですが、ちゃんとエンタメしていて、でもメッセージ性の強い映画でした。


では、感想を始めます。よろしくお願いいたします。





cbb







―目次―

・エンターテインメントとして面白い
・KKKとブラックパンサー党について
・「今」を非常に意識している
・日本も他人事ではない






―あらすじ―


二人の刑事が挑むには、史上最も不可能な潜入捜査。

1970年代半ば、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署でロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は初の黒人刑事として採用される。書内の白人系時から冷遇されるも捜査に燃えるロンは、情報部に配属されると、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKK〈クー・クラックス・クラン〉のメンバー募集に電話をかけた。自ら黒人でありながら電話で徹底的に黒人差別発言を繰り返し、入会の面接まで進んでしまう。騒然とする所内の一同が思うことはひとつ。

KKKに黒人がどうやって会うんだ?

そこで同僚の白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)に白羽の矢が立つ。電話はロン、KKKとの直接対面はフリップが担当し、二人で一人の人物を演じることに。任務は過激派団体KKKの内部調査と行動を見張ること。果たして、型破りな刑事コンビは大胆不敵な潜入捜査を成し遂げることができるのか―!?




映画情報は公式サイトをご覧ください。












※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。







・エンターテインメントとして面白い


まず、『ブラック・クランズマン』は人種差別という非常に重い問題を扱っているんですが、映画として、エンターテインメントとして真っ当に面白い映画でした。


何がいいかって全体としての空気がそこまで重くないんですよ。主人公のロンがいちいち落ち込むことがないのが大きいですね。ロンはちゃんと黒人としての自分を持っていて、ブラックパンサー党の扇動的な演説にも揺らいでいない。白人にも理解があり、黒人の肩も持ち過ぎない中立に近いキャラクターでした。これがもっと白人に対する憎悪を持っていたら、この映画の持つ雰囲気もまた違ったものになっていたはず。ジョン・デヴィッド・ワシントンの放つ陽気なオーラも、この映画をエンタメに留めていました。


さらに、KKKの支部長ウォルターや、理事のデュークと電話で話すシーンがこの映画では多かったんですが、これが軽快なんですよ。もちろん白人至上主義団体KKK相手だから、話している内容は酷いものですよ。白人以外はクソだみたいなことが何度も繰り返されて、これを黒人のロンが言っていると思うと心が痛みます。でも、それ以上にウィットに富んでいて、テンポがいいんですよ。一文一文もそこまで長くなく、小気味よく交わされる会話はとても気持ちのいいものでした。


ただ、潜入捜査なのでいつバレるか分からないという緊迫感はもちろんあります。電話越しの会話は探り合いのようでもあってハラハラします。さらに、KKKにはロンが電話して相方のフリップが対面するという様式を取っていたので、途中連携不足で噛み合わない場面も出てくるわけですよ。そこを誤魔化す度に少しずつ疑いは深まっていく。そして、KKKの入団式でとうとうロンとフリップが別人であることがバレます。徐々に二人が追い詰められていくこの場面は、黒人団体の急先鋒パトリスが止まるホテルに爆弾が仕掛けられるという状況もあり、緊迫感は頂点に達していきます。KKKと黒人団体を交互に映すという編集もありとてもドキドキするシーンでした。


そして、物語はKKKの企みは阻止されて、パトリスは助かるという展開になります。これは、KKKの暴走を止めるというロンたちの目的が達成されたということ。物語は一度はハッピーエンドを迎えるわけです。これは、黒人団体に肩入れしていて、KKKを敵対視している人から見たら、カタルシスを得られる展開で、エンタメ的な要素をきちんと確保していました。


他にもバーで踊るシーンをはじめとした音楽(こちらを参照)も、映画を盛り上げていましたし、『ブラック・クランズマン』は表面的にはれっきとした娯楽映画になっていました。それでも、この映画の持つ人種差別というテーマは非常に重要なものなので、次の項ではそれについて触れたいと思います。




cbi















・KKKとブラックパンサー党について


『ブラック・クランズマン』の何が優れているかというと、アメリカの黒人差別について教えてくれるということなんですよ。日本に住んでいると、黒人差別ってあまり見えてきづらいじゃないですか。多少の予備知識は必要ですけど、『ブラック・クランズマン』は知識のない私に映画という手段で、黒人差別について分かりやすく説明してくれました。なので、ここからは手元の電子辞書を引きながら、アメリカの黒人差別について簡単に見ていきたいと思います。


この映画は、南北戦争のシーンから幕を開けます。『風と共に去りぬ』で見たことのある、南部の犠牲者がたくさん横たわっている風景がファーストカットです。なんで、このシーンから始まったかというと現代の黒人差別が、南北戦争に端を発しているからなんですね。


南北戦争
1861~65年のアメリカ合衆国の内乱。奴隷制大農場を基盤とする南部諸州と商工業が盛んで奴隷制に反対する北部諸州の利害の対立から戦争に発展。北軍の勝利で奴隷解放は実現したが、黒人差別問題は残された。


とあります。このときの南部の奴隷の多くは黒人です。建前上は奴隷は解放されましたけど、黒人は支配する者という通念がまだ残っていたということですね。そして、奴隷が解放され、黒人が自らを脅かすのではないかと危惧した白人によってクー・クラックス・クラン、通称KKKが結成されます。


クー・クラックス・クラン
アメリカの白人至上主義の秘密組織。南北戦争後に結成。黒人や黒人を支持する白人に暴力を加え、白衣・白覆面をつけて十字架を燃やす儀式を行う。KKK。


実はKKKの活動は1870年代に収まっています。しかし、1915年になると第二期のKKKが結成されます。それを後押ししたのがと劇中でも観られていた『国民の創生』という映画です。


国民の創生
アメリカ映画。エポック・プロ 1915年作品。(中略)内容的には人種偏見に満ち、南部の復権を目指していたが、興行的には大成功を収め、また映画技術上も編集その他に画期的な工夫が見られた。


『国民の創生』はかつての奴隷制をも思わせる内容だったようで、劇中でも酷い差別シーンが映されていました。これをKKKは大盛り上がりで見てるんですよね。特に過激派のフェリックスの妻の笑い声と言ったら酷かった。他にも、「人に銃を向けるな」(=人でない黒人には向けていい)というセリフや、野原で銃を撃つシーンに差別思想は見てとれます。特に野原のシーンは的が黒人を模していて、それに当たったと喜んでいて、とても胸糞が悪かったです。




cbf




また、KKKはキリスト教で言うプロテスタントの組織で、ユダヤ人をはじめとした外国人の他にも、カトリック教徒さえも敵対対象にしています。レイシスト、差別主義者っぷりが酷い。実はフリップはユダヤ人で潜入先のKKKからは排除されるべき存在でした。過激派のフェリックスはユダヤ人を過度に敵対視していて、フェリックスに迫るんですが、ここでフリップの耐える姿は見ていてきつかったですね。観客にレイシストはクソだという印象を強烈に与えてきます。


で、KKKがどうしてこんなに差別を強調しているかというと、優生思想に基づいてのものなんですよ。


優生思想
身体的・精神的に秀でた能力を有する者の遺伝子を保護し、逆にこれらの能力に劣っている者の遺伝子を排除して、優秀な人類を後世に遺そうという思想。優生学の成果に立脚する。人種差別や障害者差別を理論的に正当化することになったといわれる。
(Wikipediaより引用)


劇中でも「私たちは遺伝的に優性であることが証明されている」みたいなセリフもありましたし、KKKが自分を優れた者と信じていたことは疑いようがありません。現代の科学から見れば鼻で笑ってしまうような話ですが。


この優生思想が滲み出る会話の他にも、入団式や十字架を燃やす様子など、KKKの内実は『ブラック・クランズマン』の至るところで描かれていました。繰り返されるクソな描写。間違った優性思想。KKKは正しくない組織として語られています。




cbd




続いて、黒人の側を見ていきましょう。ロンの最初の潜入捜査先である黒人学生組織。ここにやってきたのがブラックパンサー党員のクワメです。


ブラックパンサー
アメリカの急進的な黒人解放組織。1960年代後半から70年代前半に活発に運動を展開した。


映画の舞台は1972年だそうなので、ブラックパンサーの最盛期と重なりますね。「黒人であることから逃げるな」と名演説を展開するクワメ。黒人解放運動のスローガンとして用いられたのが、ブラックパワーという言葉でした。


ブラックパワー
黒人が白人と平等の立場に立つためには、まず黒人が経済的、社会的権力を獲得しなければならず、そのためには白人リベラルの協力をも拒否し、自衛や自己解放のためには暴力も辞さないというもの。


このブラックパワーには、黒人に黒人としての尊厳を自覚させるという正の役割も果たしたようですが、暴力も辞さないとあるあたり、非暴力のキング牧師とは真逆の立場に立っています。暴力は一般的に正しくないものとされていますよね。クワメもロンに武装を勧めていました。こういった過激な思想にロンは引いていたのが印象的です。


この映画の差別の描き方の重要なポイントなんですが、間違っているKKKに差別されている黒人団体が正しいかって言うとそうでもないんですよ。どちらも異分子を排除しようという点では同じですし、暴力という手段に訴えようとしている。実際にKKKは排斥の一歩手前までいっているわけですしね。


それが特徴的だったのが、前述のKKKの入団式。ここでKKKのパーティの様子と並行して映されるのは、ブラックパンサー党大会の様子です。白人に惨たらしい死を与えられた女性の話が老党員の口から語られ、胸を痛める党員たち。そして、ホワイトパワー!とブラックパワー!と交互に叫ぶシーンが交互に映されます。これはKKKとブラックパンサー党を同列に扱うことで、両者とも根っこの部分は同じだということを言いたかったのではないでしょうか。


正しいはずのブラックパンサー党をはじめとした黒人団体が、必ずしも正しくないことがこの映画では示される。正しさとはが頭の中でごちゃごちゃにされる気分です。きっと、どちらも自らの正義という観点では正しく、平等という観点では間違っているのでしょう。


だって、本当の平等なんてないじゃないですか。たとえば制度的に白人も黒人も全くの平等になったとしますよ。雇用も教育も社会保障も何もかも。でも、そうなると今まで優位に立っていた白人が反発しますよね。依然としてアメリカは白人の方が多いですし、選挙で白人に有利な大統領を選べばそれで済むことです。となると、白人優位の社会になる。それを防ぐには白人の権利を制限、極端に言えば参政権を剥奪しなければならず、今度は黒人優位の社会になりますよね。『ブラック・クランズマン』はこうした難しい問題を私たちに突きつけてくる映画でした。どうすればいいんでしょうかね。分かりません。




cbe

















・「今」を非常に意識している


『ブラック・クランズマン』は1972年が舞台の映画です。しかし、観たところ「今」を非常に意識した映画だと感じました。


この映画の中で印象的だったのが、KKKに詳しい署員とロンの会話です。KKKの理事であるデュークが政界に進出しようとしているという話だったのですが、当然、ロンはレイシストのデュークが政界に進出することをよしとしません。しかし、署員は「憎悪をいろんな問題にくるむ」「当選してホワイトハウスから憎悪をまき散らす」と言います。これってトランプのことですよね。


ご存知の通り、トランプはメキシコ国境に壁を築こうとしたり、イスラム教徒の入国を制限したりと強硬な移民政策を行っています。貿易でもTPPから離脱したりと「アメリカ・ファースト」を強く打ち出していますよね。この「アメリカ・ファースト」は劇中でもKKKの集会で発せられており、あまりに直接的なため少し笑ってしまったのですが、強いアメリカを取り戻そうとするトランプの姿勢が、KKKのレイシストぶりに通じるものがあるという批判を感じずにはいられません。


そして、トランプが大統領に就任してからの人種差別に関するデモの様子が、映画の終盤で映されます。白人の家を襲う黒人。黒人を車で撥ねる白人。とても痛々しくて見てられません。それでも見ていくとある少女が犠牲になり、「憎しみに居場所なし」というメッセージが発せられ、最後にはアメリカの星条旗が逆さになって、この映画は終わります。こんなの、現在のトランプ政権におけるスパイク・リー監督の痛烈な批判じゃないですか。国の象徴である国旗を逆さにするというのは、時代が時代なら反逆罪を取られてもおかしくない行為。それでも、最後にこの画を持ってきたというのはスパイク・リー監督の並々ならぬ覚悟を感じました。確かに最後の演出は蛇足感はありますけど、より強烈なインパクトをもたらすことに成功していますし、私は好意的に感じています。




cbg


















・日本も他人事ではない



『ブラック・クランズマン』はアメリカでの話ですが、では、日本ではどうでしょうか。日本には差別がないと言い切れるでしょうか。いや、日本にも差別はあります。部落やえた・ひにんといった旧来から続くものに加え、性差別や職業差別、在日外国人差別といった現代問題まで、多くの差別が日本には渦巻いています。


さらに、偏見。手元の電子辞書を引くと


差別―
偏見や先入観などをもとに、特定の人々に対して不利益・不平等な扱いをすること。また、その扱い。


とあります。偏見なんて誰もが持っているものじゃないですか。偏見のない人間がいたとしたら、それは赤ん坊ですよ。そして、その偏見は差別に繋がります。その差別が極大化したものがKKKであり、ブラックパンサー党をはじめとした黒人団体というわけです。


なので、日ごろ偏見を持っている私たちも差別に加担する可能性があるということを、私は『ブラック・クランズマン』を観て感じました。これは地球上どこでも見られる重大な問題なんだと。今回はアメリカの黒人差別が取り上げられただけで、日本の差別が取り上げられてもおかしくないんだなと。そう差別や偏見について考え直す機会を『ブラック・クランズマン』はくれました。正直、聞いていたよりは明るくなく、現時点での2019年ベスト10にも入っていませんが、それでも「今」観たこと大きな価値を感じる映画です。皆さんも機会があればどうぞ。




cbc





















以上で感想は終了となります。『ブラック・クランズマン』、アメリカの黒人差別問題が分かりやすく描かれていて、エンタメとしても面白い。さらに、観た後は身につまされる部分もあって、ぜひともオススメしたい映画です。よろしければご覧ください。


お読みいただきありがとうございました。




参考:

映画『ブラック・クランズマン』公式サイト


映画『ブラック・クランズマン』感想&評価! アメリカの現代の差別問題を痛烈に描き出した、黒人監督のスパイク・リーの覚悟のこもった作品!
(物語る亀)

映画『ブラッククランズマン』ネタバレ解説&考察! 本作が描いた現代アメリカ社会への強烈な継承と映画の罪とは? (物語る亀)

アカデミー賞受賞の問題作『ブラック・クランズマン』の最高な音楽や批評性をアーティストが解説!
(M-ON! MUSIC)

話題作『ブラック・クランズマン』をアーティストがガチ観賞。偏見や差別ってなんなのさ……(M-ON! MUSIC)

優生思想(ウィクショナリー日本語版)

トランプ政権の政策や特徴を分かりやすくまとめました!
(by KEI ISHIKAWA)





おしまい


ブラック・クランズマン
ロン ストールワース
パルコ
2019-02-28



☆よろしければフォロー&友だち登録をお願いします☆