こんにちは。これです。最近は暑くて大変ですね。でも、週末は一気に気温が下がるそうで。寒暖差に体調を崩さないよう、共に気をつけましょう。


さて、今回のブログも映画感想です。今回観た映画は『おっさんのケーフェイ』。谷口恒平監督の初長編作品です。おそらくここで初めて名前を知ったという方がほとんどでしょう。だって全国で6館しか上映してないですから。期待以上の良作だったのでもっと話題になって上映館も拡大してほしかったんですけどね...。みんな何してたんですか...。プロレスを全く知らない私でも面白く観れたのに


前置きはここまでにして感想を始めたいと思います。今回も拙い文章ですが、お付き合いいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。





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―目次―

・はじめに
・おっさんと子供のヒューマンドラマ
・嘘が本当になるということ
・虚構が現実に立ち向かうということ






―あらすじ―

大阪府道明市に暮らすヒロト(11)の悩みは、将来の夢や夢中になれるものが何もないこと。学校では、ダンスに打ち込むクラスメイトの輝男(11)からバカにされている。放課後は冴えない友人たちとともに、河川敷で過ごすことが日課になっている。
3人がいる対岸には、酔っぱらいながらプロレスごっこをしている正体不明の中年・坂田(48)がいるが、それも日常の一部。

ある日の放課後。たまたま目についた道頓堀プロレスの試合会場に1人で入っていくヒロト。そこれは、人気レスラー・ダイナマイトウルフの引退試合が行われていた。その試合を見て、ヒロトは今まで感じたことのない興奮を覚える。その帰り道、中学生に絡まれていたヒロトは、たまたま通りかかった坂田にプロレス技で助けられる。坂田が手にマスクを持っていたこともあり、ヒロトはダイナマイトウルフの正体は坂田だと考える。

坂田からプロレスを教わることになったヒロトであったが、友人から「やられるって分かっててなんでロープで跳ね返るん?」と問われ、言い返すことができない。そんな中、ダイナマイトウルフ政界進出のニュースが街を駆け巡る―。プロレスに真実はあるのか?そして、坂田の正体は?

(映画『おっさんのケーフェイ』公式サイトより引用)
 



映画情報は公式サイトをご覧ください。














・はじめに



感想を始めるにあたって、まずは『おっさんのケーフェイ』の予告編をご覧ください。個人的に今年観た中で一番好きな予告編です。






私がこの映画を知ったのは3月のことです。いつものように長野相生座ロキシーの上映案内を見ていると、今後の上映予定にこの映画がありました。軽い思いでクリックしてみたら、飛び込んできたのは「おっさんの嘘が子供たちをガチにする...!?」という文字。ここで観ることを即決しました。嘘が本当になるなんてとても熱い展開じゃないですか。面白いに決まってます。


さらに、上の予告編にバーンと表れる「本物vs偽者」。はい、面白い。偽者が本物に挑む展開大好物なんですよ。勝てないと分かっていて立ち向かうのめっちゃ熱くないですか。他にも「一緒にダイナマイトウルフ取り戻そうや」や「攻撃されるって分かってて何でロープで跳ね返るん?」などキラーフレーズの数々。少しネタバレしすぎだろうとも思いましたが、期待値は上昇していく一方です。


そして、観たところ期待にそぐわぬ熱い映画でした。最後の方は思わず涙がこぼれてしまうほどの感動。去年の『パパはわるものチャンピオン』もそうでしたが、プロレスと映画の相性は最高ですね




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※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。










・おっさんと子供のヒューマンドラマ


『おっさんのケーフェイ』の何が熱いかって、嘘が本当になっていくことです。この映画の主人公ヒロトは何もない小学生。道徳の時間?で特技を発表しあいましょうと紙を配られても何も書けずにいます。ヒロトの二人の友達も心から特技だと誇れるものはない様子でした。彼らを演じた子役の演技が『おっさんのケーフェイ』では良かったですね。


3人ともその辺にいる小学生って感じで、演技と素の部分がちょうどいいバランスで混じっているんですよ。ヒロト役の松田優佑さんは演技要素多めで堂々としていましたし、後の2人は棒読みっぽく感じたところもあったんですけど、それが逆に良かったと思います。実況の子が好みですね。


3人がだべっている河川敷。3人の向こうで練習をしているのが、怪しい中年・坂田です。演じているのは『菊とギロチン』や『anone』などの出演作がある川瀬陽太さん。安心と信頼の川瀬さんはこの映画でも、ぶっきらぼうなようで弱みもある坂田を好演していました。最初は怖いなと思ったんですけど、映画が進むにつれてどんどん応援したくなるんですよ。この映画が成功したのも川瀬さんの安定感のある演技によるもので、『おっさんのケーフェイ』が川瀬さんの代表作になればいいなと感じます。




ある日、ヒロトはひょんなことからプロレスを観に行きます。そこで活躍していたのが覆面レスラー、ダイナマイトウルフ。ここのプロレスシーンは、現プロレスラーの赤城さんが演じていたとだけあって臨場感があります。さらに輪をかけて最高なのが、このシーンで流れるテーマ曲です。チッツの「メタルディスコ」という曲なんですが、これが80年代感あっていい。


これはローカルな話になるんですけど、長野にアメリカンドラッグというドラッグストアがあって、そのCMに信州プロレスが起用されているんですが、そのCM曲と雰囲気が全く一緒なんですよ。なので、長野県民にとってはよりなじみ深く観れる、かもしれないです。


プロレスに魅了されるヒロト。本屋でプロレス雑誌を買いますが、近くの中学生に馬鹿にされてしまいます。それを助けたのが坂田。坂田はダイナマイトウルフのマスクを持っていました。ヒロトは坂田をダイナマイトウルフだと考え、プロレスを教えてもらうよう頼みます


ただ、プロレスは一人ではできません。ヒロトは友達2人を誘って坂田からプロレスを教わります。「メタルディスコ」が流れる練習シーンはギャグもあって、とても愉快なものでした。『おっさんのケーフェイ』はこの3人の小学生と坂田との交流が物語の主軸に置かれている点が特徴的ですね。ヒューマンドラマのような映画でした。




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・嘘が本当になるということ



繰り返しになりますが、『おっさんのケーフェイ』を語る上で大きなキーワードとなっていたのが「」と「本当」です。先程、プロレスと映画の相性は最高だと述べました。それは、プロレスと映画が「虚構」という点で一致しているからです。


ドキュメンタリー映画を除いて、映画は言うに及ばず台本がありますよね。また、プロレスにも台本とは言わないまでも、ベビーフェイスがヒールを倒すというストーリーはあるかと思われます。現実は筋書きのないドラマであり、筋書きのある映画やプロレスは「虚構」ということができるかと。


また、この映画のタイトルにもなっている「ケーフェイ」という言葉。Wikipediaによると、これはプロレスの演出、演技を示す隠語だそうです。演出、演技があるということは、もはや映画などと同じフィクションに近い、もしくはそれに準ずるものです。架空の設定を用いたプロレスはショーに近く、ファンもそのことを知って観に行っているかと、私は考えます。


これらのことから、私はこの映画の「プロレス」を「映画」に置き換えて観ていました。映画の中盤で、ダイナマイト・ウルフが本名の森田信司名義で市議会選挙に出馬します。テレビで森田がマスクを取るところを見て、坂田が本物のダイナマイト・ウルフでないことを悟るヒロト。坂田は嘘つきで、プロレスの、映画の嘘が音を立てて崩れて行くシーンでした。


でも、ヒロトの中では坂田のついた「プロレス」という嘘が本物になっているんですよ。ヒロトは特技として空気人形相手にプロレスを披露し、また、2人の友達と共にプロレスを繰り広げます。嘘が本当になったシーンであり、予告編にもある3人が拳を合わせるシーンは泣きそうになりました。




これはあくまで個人的な話なんですけど、どうして私が映画を観るかっていうと「嘘が本当になる」「嘘がリアルを超える」ところが見たいからなんですよね。映画の嘘が物語によって説得力を増していき、ついには本当以上になっていく。その瞬間に得られる感動はやみつきになるほど魅力的です。代表例を挙げるとすれば『ライフ・イズ・ビューティフル』でしょうか。これも映画の嘘がリアルを超えた瞬間が刻まれている映画です。


でもって、ヒロトがプロレスを披露したり、3人が拳を合わせるシーンは、まさに嘘が本当になった瞬間なんですよ。プロレス、映画と言う虚構が現実になった。これが感動しないわけがないでしょう。


さらに、感動するのが子供たちの「本当」が坂田の「嘘」を「本当」にしていくこと。ヒロトは坂田の正体を知り、家に帰ってきた坂田に「一緒にダイナマイト・ウルフ取り戻そうや」と励ます。ヒロトの中で「嘘」が「本当」になり、今度は意趣返しで坂田の「嘘」を「本当」にする。この映画において坂田は「嘘」の権化。つまりはプロレス、映画という虚構そのものなんです。この映画を観るのはプロレス、もしくは映画が好きな人が大半だと思うので、そういった人たちは好きの対象であるプロレス、映画=坂田に愛着を持って観ることでしょう。『おっさんのケーフェイ』は坂田に感情移入しやすい構造になっていて、坂田の再起がより心に響きます。



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・虚構が現実に立ち向かうということ


そして、映画は最終幕。坂田vs森田のプロレスを迎えます。この映画での森田は、虚構から脱した現実そのもの。「リングの上でいくら頑張っても世の中は変えられん」といって市議会議員になった森田のセリフは、リングの上→スクリーンの中と言い換えられ、フィクションである映画を否定されているようで悲しくなりました。この現実の象徴である森田に、私達が愛する虚構である坂田が立ち向かうんですよ。弱者が強者に立ち向かうという構図もあり、「メタルディスコ」が流れて坂田が登場した瞬間は、この映画の一番の盛り上がりで、気づいたら頬を涙が伝っていました。


まあ結果を言ってしまうとこの勝負は森田の圧勝で終わります。だって、10年間のブランクがある坂田が先日プロレスを辞めたばかりの森田に勝てるわけがないじゃないですか。そしてこれは、虚構は現実には勝てないということを表しているかと思います。所詮、私達は現実でしか生きていくことができない存在。虚構が現実を超えるなんてことはありません。


さらに、あえて言えばプロレスも映画も生きていく上では必須ではないじゃないですか。ヒロトの父親が「嘘をつくな」と言っていたように、プロレスや映画と言った虚構はなくても生きていくことはできます。ヒロトの先生が「プロレスなんかよりもっと他に特技があるはず」と言っていたのも、虚構が軽んじられている証拠です。これらは間違っておらず、むしろ正しいのが厄介なところです。


でも、聞きたいんですが、あなたの趣味は生きていく上で必須のものですか?衣食住に直接的に結びつかない趣味なんて時間の無駄じゃないですか?


きっと多くの方が「違う」と答えるはずです。生きていく上で無駄であるこれらの趣味がなければ、人生は潤いを失い、干からびた生活を送ることでしょう。私達の生活を豊かにしてくれるのは趣味なんですよ。『おっさんのケーフェイ』で描かれたのは、こういった趣味、とくにプロレスや映画と言った虚構の抵抗です。どうしようもなく苦しい現実に立ち向かうために、趣味や虚構が必要なんです。だから、『おっさんのケーフェイ』はプロレス好きはもちろん、映画好きはおろか、趣味を持つ全ての方に観てもらいたい映画です。




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以上で感想は終了となります。映画『おっさんのケーフェイ』。もう長野相生座ロキシーでしか上映しておらず、その上映も5月31日で終了。でも大丈夫。7月3日にDVDが発売されるので、見逃したというそちらをご覧ください。一人でも多くの方に観ていただきたい良作です。オススメですよ。


お読みいただきありがとうございました。




参考:

映画『おっさんのケーフェイ』公式サイト
https://www.ossan-movie.com/

ケーフェイ(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/ケーフェイ


おしまい


おっさんのケーフェイ [DVD]
川瀬陽太
インターフィルム
2019-07-03



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