こんにちは。これです。もう、今年も半分終わってしまいましたね。早いしかいうことがないです。早い。


そんな中、私は先週末所用で観れていなかった映画を観ようと、映画館にイン。今回観た映画は『ホットギミック ガールミーツボーイ』。『溺れるナイフ』『21世紀の女の子』の山戸結希監督の最新作です。『21世紀の女の子』面白かったですし、私のパーソナリティー的にもこの映画は必見かなーと思い、原作は未読にもかかわらず意を決して観に行きました。


で、観たんですけど想像以上にすさまじかったですね。上半期に観ていたらベスト1を獲得していたかもしれないと思うくらいです。いや、本当山戸監督凄いわ。砕け散りましたよ。木っ端微塵に。私がですけど。


では、感想を始めたいと思います。拙い文章ですがよろしくお願いいたします。




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―あらすじ―

都内のマンションに住む女子高生・成田初は、優しい兄・凌、元気な妹・茜と両親と、ごく普通の家庭で暮らしていた。ある日、茜に頼まれて内緒で購入した妊娠検査薬を、同じマンションに住む橘亮輝に知られてしまう。バラされたくなければ"奴隷"になれ、という条件を突き付けられ、その日を境に初は亮輝の無茶な命令に振り回されるようになる。そんな時、小学校の時に突然転校してしまった幼馴染・小田切梓がマンションに帰ってくる。今や人気雑誌モデルとして第一線で活躍する梓が、昔と変わらず自分を守ろうとしてくれるその姿に初は自然と心惹かれ、2人は遂に付き合うことに。幸福感に溶けてゆく初だったが、ある夜、彼の本当の目的を知ってしまう。動揺し、深く傷ついている初を心配し、常に寄り添い愛情を注いでくれたのは兄の凌だ。昔から兄としての優しさも絶やさず、しかし凌も知られざる秘密を抱えていた。3人の男性との恋に揺れ動きながら、少しずつ自分の中に芽生える本当の気持ち。初は悩みながらも1つの答えに辿り着く。喜び、痛み、迷いの先にある、物語の最後に彼女が見出した、その想いとは―――。

(映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』より引用)




映画情報は公式サイトをご覧ください。







※ここからの内容は映画のネタバレを少々含みます。ご注意ください。










凄かったです。とにかく凄かったです。「この映画面白い?」って聞かれたら、「うん、凄いよ」って答えると思います。それくらい凄い。ディスってんの?褒めてるんだよ。もちろん面白いんですけど、それ以上に凄すぎるなーって、ずっとバカみたいに口開けたまま観てました。


まず、カット割りというんですか、カメラワークというんですか、が異質なわけですよ。カットがバンバン入れ替わるんですよね。顔のパーツをアップにしてみたり、マンションを遠景で撮ってみたり。いくつもの視点から撮ることで、多角的で重層的になっているんですよね。マンションの直線的な無機質さと、顔の曲線的な有機質さのコントラストが映えていたのとても好き。


さらに、人物を撮るときには微妙に揺れてみたり、近づいてみたり安定していなかったのもポイント高いです。思春期特有の危うさや揺らぎ、迷いみたいなものを感じました。この辺りは山戸監督だけじゃなく、撮影の今村圭佑さんの貢献も大きいんでしょうね。米津玄師さんの「Lemon」のMVを撮られていた方だそうです。特にパーティーの時のブレブレなカメラワークが好きでした。ああいう怪しいのに弱いんだ私。


加えて、カットが目まぐるしく入れ替わってスピード感があります。ブレーキを踏まずにずっとアクセルだけ踏んでいる感じ。人物を映して、風景を映して、意味ありげなイメージも映して。カット数が単純に多く、複数の映画を凝縮したような情報量。理解するには頭をフル回転させないと追いつきません。今回、編集を手掛けたのは平井健一さんという方。山戸監督とは『21世紀の女の子』の『離ればなれの花々へ』でもご一緒されていたようですね。カットが尋常じゃないくらい多いこの映画の編集は、大変だっただろうなぁ。日本アカデミー賞の編集賞でも受賞して、ぜひ報われてほしいところです。


そして、山戸監督自身の演出も冴えに冴え渡っているんですよ。オープニングから静止画を多用するのは、いかにも山戸監督って感じでしたし、画面を二分割して青と赤のライトを当てるのは斬新でした。変幻自在のカメラワークにも山戸監督の指示はきっと入っていて、混沌としているようで、スッキリとしているという訳わかんない二律背反が成立していました。手数もめっちゃ多いし、あの手この手で攻め立てて。感情を引き立てたりなんかして。最後もかっこよく決まってましたし、演出力の高さにただただ圧倒されるばかりです。


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その山戸監督の演出の中でも、個人的に一番凄いと思ったのが台詞回しでして。テンポやリズムが抜群にいいんですよね。特にリズム。体言止めを多用して、韻なんて踏んじゃってさ。この映画の特徴って、かなりの時間で音楽が流れていることにあると思うんですけど、その音楽に合わせて台詞が歌っているように聞こえるんですよね。喋っているんじゃなくて歌っているんです。こんなに台詞が歌っている映画、今まで観たことないですよ。


で、より凄いのが音楽が流れていないシーンでも台詞が歌っているように聞こえることなんですよね。頭の中で勝手に音楽が流れて、キャラクターの台詞が歌になって。山戸監督の演技指導のおかげかどうかは知りませんが、もうトランス状態ですよ。ドントストップザミュージックですよ。しかも、それが2時間ずっと続くというね。おかしいですよ。『21世紀の女の子』や、この映画のメッセージもそうですけど、山戸監督の言語センス高すぎる。電子辞書みたいに膨大な語彙を脳に記録していて、瞬時に引き出せる。映画全体が一つの歌になって、巨大なオペラを鑑賞している気分でした。


加えて、音楽自体もいいからもう手が付けられない。基本的には落ち着いた感じで脇役に徹しているんですが、それが却って感情を爆発させる。『きらきら星』だったり、ベートーヴェンの『悲愴』(ボートレースのCMで流れている曲)だったり、聞き覚えのあるメロディで物語の邪魔をしません。特に『エリーゼのために』がよかったですね。梓のシーンでよく流れていたんですが、あるシーンで橘にも使われるんですよ。インパクトあります。


もう本当に、撮影や台詞や音楽等々といった演出力があまりにも高すぎて、実は映画の中盤で一回泣いてしまったんですよ。梓と初のデートシーンで、泣くようなところじゃないのに、嗚咽を噛み殺して泣いてしまって。もしかしたら、あまりの情報量の多さに頭がパンクしたのかもしれないんですけど、そのくらい素晴らしかったんですよね。おかしいですかね?笑ってくれてもいいんですよ。



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もちろん、俳優さんもよくって。特に成田初役で主演した堀未央奈さんは、正直存じ上げておらず、またアイドルだからとどこか軽く見ていた部分もあったんですけど、想像以上の存在感でした。何がいいかって、映画初主演でまだ慣れていなかったところ。いい意味でまだ中身がなくて、これから何でも入れられるという伸びしろの大きさ。でも、演技はちゃんと上手くて、うつろ気な雰囲気で初の迷いに説得力を持たせていたんですよね。何というか、スタートラインが他の人よりも前にあるみたいな感じで、このまま突っ走っていけば、他を置き去りにしてポールポジションを取り続けることができるんじゃないかなーとか、そんなことを思いました。


次に、橘亮輝を演じた清水尋也さん。成績優秀で恋愛は苦手で、初に高圧的な態度を取るという役柄でしたけど、Sっ気を感じさせる突き放すような口調がクールでした。背も高く、目も鋭いですしね。最初はロボットのように口調も平坦だったのですが、物語が進むにつれて感情を露わにしていく。終盤の長回しのシーンなんて、初と感情をぶつけ合っていて、物語の最高潮ともいうべき盛り上がりを見せていました。


また、小田切梓を演じた板垣瑞生さん。梓はモデルをするほどのイケメンで、俗に言う俺様男子。撮影所でキスをするシーンは、赤い照明も合わさって色気が凄かった。ただ、性格はメイン4人の中で一番クズ。目的があったとはいえ、初の裸を要求してそれを動画に残すような男ですからね。捕まればいいのにって思います。でも、板垣さんはそう思わせるほどの軽薄さの一方で、実直さも兼ね備えていて、どこか嫌いになれない。最後の一言もグッときましたし、板垣さんが一番好きっていう人も結構いそうですね。


そして、成田凌(これで「しのぐ」って読むんですって。ややこしい)を演じたのが、間宮祥太朗さん。初の兄という役柄でしたが、二人の俺様系男子と違い、こちらは穏やかな雰囲気。初のことなら全て受け入れるみたいなスタンスでした。包容力の奥に切なさを隠し持っていましたね。でも、それが初には気に入らなかったんだろうなぁ。思えば思うほど離れていくみたいな辛さを、間宮さんは上手く醸し出しています。




で、この映画って胸キュンシーンも並の恋愛映画より多いんですよ。壁ドンしたり、キスしたり。Facetime的な何かで初と梓がビデオ通話をするシーンは、その画素数の低さも相まってめちゃくちゃエロかった。というかこの映画全体的にプラトニックなエロさがある。イケメン3人が1人の少女に恋をするという構造もあり、女子高生あたりにものすごくウケそうな予感がします。というかウケろ。


だって、私が観たときは映画館に私一人しかいなかったんだからな。一人だからうわーうわーってめっちゃリアクション取りながら観ていたんだからな。それはよかったんですけど、やっぱり映画館に一人っていうのは寂しいですよね。心情的にも興収的にも。




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ストーリー的には橘、梓、凌の3人の間で、初が二転三転するというものですが、初の心の揺れ動きがダイレクトに伝わってきて辛かったです。初は自分に自信がないキャラクターですし、突然3人に好意を伝えられたらね。そりゃ動揺しますよ。


3人の間で揺れ動く初ですが、さらにここに自らの出生の問題まで関わってくる。ただでさえ、自分が自分であることを認識しにくい高校時代に、存在の土台から揺るがされるような事態になって。自分は何者なのか、誰のものなのか。今だ私も答えを見つけられていない問いを突き付けられて、胸の奥がずきずきと痛みます。


これはここだけの話なんですが、この映画を観ている途中、実はずっと逃げ出したかったんですよ。それは退屈だからとかつまらないからとかではなく、演出の雨あられが刺激的過ぎて、自分が侵食されていくような感覚に陥って。俳優さんたちの演技もあり、自分が背を向けてきたまま大人になってしまった、青春時代に解決すべきアイデンティティの確立を突き付けられ、心が音を立てて壊れてしまいそうで。今観ているのは映画なのか。目の前のとてつもない才能に押しつぶされてしまわないか、不安で不安で。


それに、演出に翻弄されて、音楽に耳を立てて、俳優さんたちの演技もチェックしつつ、湯水のようなセリフを浴び、さらにストーリーも追わなければならない…。いや、追い切れるか!!常人の脳みそじゃ無理だわ!!観ていて疲れて、観るのをやめたら楽になれんのかなーみたいなことも頭をよぎりました。


だから、尻尾を巻いて逃げ出したかったんですけど、でも、画面の中毒性だったり、結末を知りたいという気持ち、あと自分と向き合う作業もせねばならないという思いで、何とか席に座り続けることができたんですよね。映画館という場の特性もあったのかな。家だったら居ても立っても居られず、あちこち動き回りながら見ていた気がします。



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そして、物語は進み、終盤の初と橘の長回しのシーンに移ります。この辺りでエモさが最高潮になって。「分からない」とか「誰のもの」とか台詞の回収が凄いですし、二人が感情をぶつけることで生まれるエネルギーは、今年観た邦画の中でも一番かもしれないです。初が自分を認識して、受け入れるんですよね。「分からなくてもいいじゃんか」「バカでもいいじゃんか」「それもひっくるめて私だ」みたいな。ちゃんと成長していて、ポイントが高いです。


ここで怖いなーと思ったのが、山戸監督はこれを感覚じゃなくて、ちゃんと理論立ててやっていそうなところなんですよね。感情を理論でコントロールする術を知っているといいますか、全部計算してエモさを出していそう。


そう、所詮は私たち、山戸監督の手の平の上で踊らされているだけなんだ。でも、楽しかったな。また踊りたいな、みたいな感触に観た後はなったので、山戸監督の次回作を早く観たい気持ちで今はいっぱいです。いや、その前に『ホットギミック ガールミーツボーイ』もう一度観に行こうかな。同じ映画を短い間隔で二回観るなんて私もバカだな。まあいいか、なんて。


『ホットギミック ガールミーツボーイ』、ぜひ観てみてください。超超超オススメです。


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以上で感想は終了となります。『ホットギミック ガールミーツボーイ』、これからの日本映画界をけん引していくであろう山戸結希監督の作品を観ない手はありません。観逃してしまうと、きっといつか後悔すると思います。ぜひ、映画館でご覧ください。


おしまい




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