こんにちは。これです。7月も中盤になってようやく暑さを感じられる天気になってきましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。私は相変わらずモチベーションもあまり上がらない怠惰な日々を過ごしております。
でも、そんな体を叩き起こして観に行ってきました。『トイ・ストーリー4』。やっぱり話題作は見ておかないとですしね。『アベンジャーズ:エンドゲーム』も『アラジン』も観に行かなかった身で何言ってんだって感じですが、まあそこはご容赦を。
それとこれは最初に言っておきたいのですが、『トイ・ストーリー4』の感想を書いている人って、『トイ・ストーリー』と共に育ってきたという人が多いと思うんですが、私は全然そんなことありません。『4』が公開されてから、初めてちゃんとシリーズを見た程度の人間です。それも踏まえてお読みいただけると幸いです。
なお、いきなりラストのネタバレから始まるので、映画を観ていない方はUターンを推奨いたします。そこは本当によろしくお願いします。いや、本当に。本当の本当に。
では、始めます。拙い文章ですがお付き合いいただけると嬉しいです。
―目次―
・ラストは賛否両論あるけど、私は肯定したい
・ウッディに訪れる中年の危機
・ボーやギャビーによって揺らぐアイデンティティ
・子離れの話でもある
・これ、親御さん狙ってるでしょ
・ちょっとだけ不満も
―あらすじ―
“おもちゃにとって大切なことは子供のそばにいること”―― 新たな持ち主ボニーを見守るウッディ、バズら仲間たちの前に現れたのは、彼女の一番のお気に入りで手作りおもちゃのフォーキー。しかし、彼は自分をゴミだと思い込み逃げ出してしまう。ボニーのためにフォーキーを探す冒険に出たウッディは、一度も愛されたことのないおもちゃや、かつての仲間ボーとの運命的な出会いを果たす。そしてたどり着いたのは見たことのない新しい世界だった。最後にウッディが選んだ“驚くべき決断”とは…?
(映画『トイ・ストーリー4』公式サイトより引用)
映画情報は公式サイトをご覧ください。
※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。
・ラストは賛否両論あるけど、私は肯定したい
さて、『トイ・ストーリー4』は、アメリカでの評価は高かったものの、日本での評価は賛否両論。『3』ではあまり見られなかった批判が方々で見受けられます。その理由として最大のものがそのラスト。『4』では最後、ウッディはバズたちと別れ、子供に所有されないおもちゃとして生きていく道を選びます。
このラストに『トイ・ストーリー』を愛するファンからは批判が噴出。予告で「一人も見捨てないぞ!」とか言っておいてバズたちを見捨てているじゃないか。仲間よりも女を選ぶのか。子供のためのおもちゃであるという自らの存在意義に反しているじゃないか。今までの物語全否定かよ。等々思い入れのある人には辛い展開となっています。
ただ、私はこのラストを肯定したいんですよね。それはウッディが自分の人生を選んだから。物言わないおもちゃではなく、意志と感情を持った「人間」としての、「ストーリー」としての選択を私は尊重したいなと感じます。
・ウッディに訪れる中年の危機
ここからその理由を書いていくのですが、前提として押さえておきたいことが二つ。それは『トイ・ストーリー4』は中年になったウッディの物語であるということ。そして、『トイ・ストーリー4』がそんなウッディの「中年の危機」を描いた作品であるということです。
まず、中年の危機とは何か。このページによると中年の危機は、
私たちは誰しも、人生の中で様々な選択をして生きています。
しかし…
「自分の人生、これで良かったのだろうか…?」
「もし、あのとき、違う選択肢を選んでいたとしたら…?」
こんなことを考えたことは、ないでしょうか。
このような思いを抱くのは、人間が成熟していく時に起こる自然なことです。しかし、この時、充分に向き合えずにいると、とても辛い状況になってしまいます。何年も深く悩み、うつ病のような状態になってしまうこともあります。
と説明されています。加齢による身体的変化、家族ライフサイクルの変化、職場での変化などの要因が引き金になり、青年期に獲得したはずの「自分は何者か」というアイデンティティが揺らぐ。それに伴う心理的不安感のことを指すそうです。そして、日本では「第二の思春期」「思秋期」などと呼ばれることもあるそうですね。
また、『トイ・ストーリー4』のテーマ。これは実は『1』と同じであると私は考えます。それは「自分とは何者か」ということ。自己の存在意義に向き合うという点で『1』と『4』はとても類似しています。
『1』では、バズは最初、自分をスペースレンジャーと信じて疑いませんでした。ウッディは何度もバズに自分がおもちゃであることを言い聞かせます。偶然テレビを見てしまって、自分がおもちゃであることを知るバズ。悩むバズを通して、自己の存在意義にウッディもまた向き合う。『1』はそのような話だったと私は記憶しています。
そして、これは『4』におけるフォーキーが置かれた状況と酷似しています。フォーキーも最初は自らをゴミと信じて疑わず、すぐにゴミ箱に入ろうとします(ここコミカルで面白かった)。そのフォーキーに「お前はおもちゃなんだ」と何度も言い聞かせるウッディ。この構図は『1』におけるウッディとバズの構図そのもの。意図的なリプレイです。
劇中でウッディはフォーキーに異常とも見れる執着を見せていましたが、それはボニーの一番お気に入りのフォーキーの近くにいることで、自らもボニーに選ばれたいという理由だけではありません。自己の存在意義が揺らいでいて、フォーキーを説得させること、「お前はおもちゃだ」と繰り返し言うことを通して、自分をも納得させたいという思惑もあったと私は考えます。ボーに「自分のためでしょ」と指摘されていたのも、これが原因でしょう。おそらく。そして、再び自らの存在意義に向かい直す。 これは「第二の思春期」と呼ばれる中年の危機そのものでしょう。
では、なぜウッディは、自己の存在意義が揺らぐ中年の危機に陥ったのか。『トイ・ストーリー』におけるおもちゃには寿命がありません。が、パーツが摩耗したり、錆びたり、解けたりという身体的変化はある。また、家族ライフサイクルの変化。実はフォーキーを子供と捉えるとこれもあります(これについては後述)。そして、一番大きいのが職場での変化でしょう。
個人的に『トイ・ストーリー』は、子供を会社、おもちゃを社員に例えられると思います。子供はいくらでもいるように、会社もいくらでもある。ウッディはおもちゃとしてのキャリアも長いベテラン社員。会社に対する「忠誠心」が強く、会社に所属している自分に誇りを感じている。名刺の上にある〇〇社△△部課長という肩書まで含めて自分であるかのように信じている。「社員である自分」が彼のアイデンティティになっていると考えられます。
しかし、現実はボニーに選んでもらえない日々。仕事が貰えず、やりがいが感じられていません。かつてはボニーにも大切にされていたのに。職場での立ち位置は窓際に追いやられるばかり。職場での致命的な変化から脱したいと考えています。そして、そんなウッディにボニーを追って訪れた移動遊園地で転機がもたらされます。
・ボーやギャビーによって揺らぐアイデンティティ
移動遊園地でウッディはかつての仲間、ボーと再会します。ポーは9年間持ち主がいないフリーランスなおもちゃ。でも、ボーはそんなことを全く気にすることもなく、元気に暮らしてフリーの仲間もできています。さらに、フォーキー奪還作戦の先頭に立つ姿は勇ましいの一言。持ち主がいなくても、臆することなく堂々としたボーの姿を見て、ウッディの「社員である自分」というアイデンティティは揺らぎます。
さらに、アンティークショップで出会ったギャビーとの攻防も、ウッディのアイデンティティをより揺らがせます。ギャビーはボイス機能に欠陥がある生まれついての不良品で、アンティークショップの娘であるハーモニーに手に取ってもらえることはありませんでした。紆余曲折を経てウッディはギャビーに協力することを選び(というか選ばされ)、ギャビーのボイス機能は正常に動くようになります。
これでハーモニーに手に取ってもらえると意気揚々のギャビー。しかし、ハーモニーはギャビーを一度手に取っただけで捨ててしまいます。落ち込むギャビーでしたが、迷子を見かけると、ウッディたちの協力もあり、その子の側へ。その子はギャビーのおかげで両親に会うことができました。誰かが自分を必要としてくれているというメッセージの込められていると思われるハートウォーミングな展開です。
ここで大事なのが、ギャビーの夢が叶っているということ。公式HPには「ギャビー・ギャビーのたったひとつの願いは子供のそばにいて愛されること」と書かれており、これは見事現実のものになっています。ここで「自己の内面的欲求を社会生活において実現すること」という自己実現がされている。自己実現をしたギャビーの姿を見て、ウッディは自己の内面的欲求は何であるかを自分に問います。この自己の内面的欲求は、劇中では「心の声」に言い換えられていましたね。
・子離れの話でもある
そして、ウッディはボニーの元を「退職」して、ポーたちの元に留まり、フリーランスになることを選択します。つまり「会社員」ではなく、「自分自身」としての人生を選択したということ。「他人」の「人生」だから、もちろん反発も出るでしょう。一定の給料が保証されている安定的な生活を捨てるのかとか。でも、ウッディの人生はアンディやボニー、そして私たち観客のものではなく、アンディ自身のものですし、私は「自分の人生」を生きることを決意したアンディの選択を素直に応援したいなと思います。
それに、ウッディが「自分の人生」を選択することができたのは、実はフォーキーのおかげでもあるんです。フォーキーはウッディが拾い上げたゴミから作られた、いわばウッディからしてみれば子供当然なんですよ。ウッディはフォーキーに「自分はおもちゃである」と教育します。でも、ウッディの教育も叶わず、ここではまだフォーキーは自分をゴミであると思い込んでいます。
しかし、フォーキーはウッディの元からギャビーの手によって引き離されます。これは幼稚園や学校等のメタファーであると私は考えていて、フォーキーはアンティークショップでギャビーらと交流していくうちに少しずつ打ち解け、心境にも変化が生まれてきます。
そして、映画の最後の最後。フォーキーは自分のことをおもちゃであると認めるんですよね。これは「自分はおもちゃである」というアイデンティティーを確立したと考えられます。いわば思春期の課題をクリアしたも同然。大人になったフォーキーを見て、もう自分が世話をしなくても大丈夫だとウッディは感じたのだと推測します。それもウッディの選択を後押ししたのではないかと。『4』はウッディの子離れの話でもあると言えそうですね。
・これ、親御さん狙ってるでしょ
とここまで書いて思ったんですけど、これ子供には分からないですよね。『1』から見ているような親御さん狙ってるでしょ。例えば『1』を観たときに5歳だった子供は、24年経った今じゃ29歳なわけですよ。三十路を手前にして大いに悩む時期ですよね。それに、子供と一緒に来ている人もいるでしょうし、そういった親御さんは自分の子供の遠い将来に思いを馳せたりするんだろうなぁ。
また、『1』を観たときにリアル思春期だった18歳の少年は、24年経った今じゃ42歳の立派な中年。男性なら本厄ではないですか。とすると、『4』で描かれた中年の危機は今まさに自分が直面している課題で、他人事とは思えないでしょう。これらを考えると『4』は対象年齢は、今までで一番高いと感じますね。子供向けのアニメ映画でそれがいいのかどうかはともかく。
それで、上記のことからも分かるように、『トイ・ストーリー』の特徴って、物語と観客の人生がリンクしているところにあると思うんですよ。これはもう確信犯ですね。で、最初に述べたように、このラストに怒っているのは『3』を見て、押し入れの奥から古いおもちゃを引っ張り出したような熱烈なファンだと思うんですよね。だって、彼らの人生って『トイ・ストーリー』とともにあったわけですし。
それに、彼らはウッディらおもちゃの「社長」でもあるんですよね。小会社で家族同然に付き合っていて、働きぶりもいいベテラン社員が、ある日突然退職すると言う。これは納得いかないのも当然ですよ。『4』は観客の私有化からの解放の物語なので拒否反応が出るのも正しいことだと思います。でも、ウッディら社員は、社長の所有物ではないですし、彼らには彼らの人生がある。決断を尊重したいとか、セカンドライフを応援したいとかはどうしても思えませんかね…。思えませんか…。はい...。私は応援しますよ。ええ。
・ちょっとだけ不満も
と以上が、私が『4』のラスト及び物語を肯定する理由なんですけど、ぶっちゃけ不満もないことはありません。
その一つが、おもちゃたちのアクション。『4』では、今まで以上にアクションがもりもりで、絵的に派手で子供が喜びそうだなと思うのですが、正直やりすぎではないですか。いや、喋るのは別にいいんですよ。『1』という前例がありますし。でも、車を運転するシーン。あれは死人が出てもおかしくないでしょう。そこはどうにかならなかったのかと感じます。
もう一つが、脚本上の問題。今までの3作は「家に帰ること」が唯一の目的で、ウッディたちの行動原理はそれだけでした。でも、『4』ではここに「ギャビーの自己実現」というもう一本の柱が立っているんですよね。柱が2本あることで少し物語がとっ散らかってしまったかなという印象は受けました。「ギャビーの自己実現」はこの映画になくてはならない要素には違いないんですが、もう少しバランスを考慮してほしかったなぁというのは正直ありました。
でも、不満はそのくらいですね。今まで通り面白く、テーマは分からなくてもお子さんも十分楽しめますし、大人にはよりダイレクトにテーマが入ってくる。万人にお勧めできる映画とはこのことかと思います。ぜひ、映画館でご覧ください。
以上で感想は終了となります。『トイ・ストーリー4』。家族で楽しめる夏休み映画の決定版になっています。否定的感想もありますけど、私はオススメしたいですね。
お読みいただきありがとうございました。
参考:
『トイ・ストーリー4』公式サイト
https://www.disney.co.jp/movie/toy4.html
中年の危機 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/中年の危機
ミッドライフ・クライシス(中年の危機)の葛藤と対処法|カウンセラーライフ
https://co-life.jp/ミッドライフクライシス/
自己実現(じこじつげん)とは - コトバンク
https://kotobank.jp/word/自己実現-73074
おしまい
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