こんにちは。これです。世間はお盆の真っただ中。期間中休みの企業もあり、私も今日は休みだったので映画を観に行ってました。


今回観た映画は『イソップの思うツボ』。去年の大ヒット映画『カメラを止めるな!』(以下『カメ止め』)の制作陣3人、上田慎一郎監督、浅沼直也監督、中島裕矢監督のトリプル監督体制による新作です。


では、感想を始めたいのですが、『イソップの思うツボ』は『カメ止め』と同様にネタバレ厳禁な映画となっています。そして、この感想ではそのネタバレ部分まで書くので、未見の方はどうぞご注意の上お読みください。


それでは、感想を始めます。拙い文章ですがよろしくお願いいたします。




dgb







―目次―


・主演3人が良い
・ストーリーについて
・『カメ止め』と同じ「第四の壁」を越える構造
・不満点もある





―あらすじ―

3人の少女が出会う時―
とんでもない物語が始まる!?


あの有名童話さながらに、ウサギとカメ、そしてイヌが"奇想天外"な騙し合い!
やがてむき出しになる、3つの家族それぞれの"正体"…あなたは見破れるか!?


"家族"の仲は良いが、友達はカメだけの内気な女子高生、亀田美羽。
大人気"タレント家族"の娘で、恋愛体質の女子高生、兎草早織。
"復讐代行屋父娘"の娘として、その日暮らしの生活を送る、戌井小柚。
三人の少女が出会う時、最高の奇跡が起こる――。

これは、甘く切ない青春映画…ではない!

騙されるな!!!!!


誘拐、裏切り、復讐、はがされる化けの皮!
予測不能の騙し合いバトルロワイヤル!
結末はあなたが思い描くどれとも、、、、違う!!!

(映画『イソップの思うツボ』公式サイトより引用)




映画情報は公式サイトをご覧ください。













・主演3人が良い


『イソップの思うツボ』は3人の若手女優さんが主演を務めています。そして、この映画ではその3人の誰もがおしなべて好印象で、大きな魅力になっていたと感じました。それぞれの持つ雰囲気がぴったり役にはまっていましたね。


まず、亀田美羽役を演じた石川瑠華さん。映画序盤での冴えない演技が良く、地味目な印象でこういう子いるよねという印象を与えます。序盤の食事シーンは是非とも見ていただきたいところ。その一方で映画中盤でタイトルが出てからは、印象が一変。厳しい表情の連続がキマっていて、内に秘めた闇みたいなものが溢れ出ることからくる悲愴な表情がよかったです。観客が求めているものを最大限に提供していました。ファンになったかもしれないです。


続いて、兎草早織役を演じた井桁弘恵さん。タレント一家の娘という役どころでしたが、その名に恥じぬ華がありました。映画前半でずっと明るい表情をしていたのが魅力的で、眼鏡の先生にドギマギする様子は甘酸っぱくもあります。そして、こちらもタイトルが出てからはまた違った印象。主に怯え続けていたのですが、その怯える表情、特に目が追い詰められている感バリバリでよかったです。こちらも、観客が見たいと思われる表情をしていましたね。『4月の君、スピカ。』とは正反対の役柄でしたが、また違った表情を見ることが出来ました。


そして、戌井小柚役を演じた紅甘(ぐあま)さん。前述した二人と違い、紅甘さんはそのカッコよさが魅力。大の男を金的でノックアウトし、ファイティングポーズもキマっていました。しかし、タイトルが出てからはやはり一変。基本蚊帳の外で戸惑うという役どころでしたが、前半の強気な表情とのギャップがよかったですね。観客が求める役割を十全にこなしていたと思います。初めましてかと思いきや『アイスと雨音』(こちらも観客の意識を揺さぶる傑作なので見てほしい)にも出演していたみたいで、引き続き好演が見られたので、これから先も楽しみな女優さんです。


と、このように三人それぞれが違った良さを発揮している『イソップの思うツボ』。現時点で三人の代表作と言える出来になっていると思います。これから羽ばたいていくであろう三人を早めに見ることが出来ただけでも、この映画の価値がありますね。


それに、脇を固める大人たちを演じた俳優さんも誰もがよかったです。その中でも個人的に好きなのは、近藤役を演じた安心と信頼の川瀬陽太さんですかね。関西出身でもないのに関西弁の似合いっぷりも凄いですし、相手を詰める演技にはちゃんと威圧感があって最高でした。やっぱり川瀬さんは外さないですね。これからもどんどんいろんな作品に出てほしいと切に思います。



dga



















※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。




・ストーリーについて


『イソップの思うツボ』は序盤は穏やかに進行していきます。美羽が母親と楽しく話して、チーズタッカルビを連呼したり、兎草一家がロケに出て激辛料理を食べたり、微笑ましい時間が流れます。ある日、美羽と早織が通っていた大学に臨時講師として八木が赴任し、早織は八木に好意を持ちます。八木をデートに誘う早織。典型的なラブストーリーの開幕です。が、そのラブストーリーはすぐに終わりを迎えることになります


真っ黒の画面にガラスが割れる音が響きます。八木は早織の母親である裕子と不倫関係になっていました。母娘で同じ人間に好意を持つというなかなかエグイ展開です。ここから物語は徐々にドロドロしていきます。突然、人が農機で引きずられているシーンになり、戸惑うのもそこそこに、復讐代行屋を営んでいる戌井親子のもとにヤクザ(と思われる)人たちがやってきます。小柚の父・連太郎(血は繋がっていない)は元ヤクザの構成員で、小柚を連れて組から逃走したという過去がありました。若頭(だと思われる)近藤はそこにつけこみ、兎草一家の誘拐を連太郎に命じます


一方、その頃。早織の父・信司は元気に金髪の女の子と不倫をしています。ホテルでデレデレに愛してると言ってしまう信司。W不倫ですね。ここで私は苦虫を嚙み潰したような表情で、いいぞもっとやれと思いながら観ていました。そして、信司は部屋を出た瞬間、裕子から電話がかかってきて、早織と八木が戌井親子によって誘拐されたことを知らされます。通報したら殺す。マネージャーと夫婦だけで1千万持ってこなかったら殺す。通報できない二人はマネージャーに1千万を下ろさせて、指定された山奥に向かいます。そして、ここでタイトルが出て、油絵調でキャラクターが紹介され、映画は後半に入ります。(タイトル出るまで長っ)


取引場所に向かって車を運転するマネージャー・田上。途中、「娘を拾っていく」と言って、美羽を車に乗せます。兎草夫婦を含めた4人が辿り着いたのは山奥の倉庫。そこには、戌井親子もいました。困惑する戌井親子をよそに、八木の縄を解き、代わりに兎草夫婦を束縛する田上と美羽。縛られた兎草一家に銃口を向ける美羽、八木、田上。実は、八木は美羽の兄で、田上は美羽の父。亀田家という家族の犯行だったのです


そして、彼らの犯行動機はズバリ復讐。2年前、玉突き事故が起き、亀田家の母・美紗子と早織が重傷を負ってしまいます。病院で美紗子が治療を受ける番になりましたが、そこに割り込んできたのは兎草一家。信司は「こんな一般人の事よりも、早織を先に治療させろ」と言い、医者に賄賂を渡して、順番を変えてしまいます。結果として早織は助かり、美紗子は亡くなってしまいました。亀田家は兎草家が美紗子を殺したも同然だと、復讐心に燃え上がり、今回の犯行に踏み切ったというわけです。


果たして、亀田家の復讐は完遂するのか―!兎草家の運命やいかに―!




と、ここまで映画のストーリーをネタバレありで語ってきました。ここまで読んで、もう全部言ってしまっているじゃないかとお思いのそこのあなた。甘いですね。『イソップの思うツボ』は、これだけではないある重大な構造を抱えていたのです。それは、人間の醜い部分を曝け出す、とてもアグレッシブな展開でした。




dgf













※ここからの内容はさらに映画の核心に迫るネタバレを含みます。未見の方は十二分にご注意ください。













・『カメ止め』と同じ「第四の壁」を越える構造


いきなり結論から申し上げますと、亀田家の復讐は仕組まれたものでした。近藤が亀田家が復讐心を持っていることを知り、復讐の手伝いを持ちかけます。その復讐はカメラが回っており、生中継されるというもの。映画館さながら室内は暗く、仮面をつけた観客たちが野次馬さながら観ています。その薄気味悪さと性格の悪さにドン引きします(『カメ止め』と同じじゃんと冷めてしまって部分も幾分か)。しかし、彼らは映画を観ている私たちそのものなのです。


彼らは、亀田一家の復讐劇を固唾を飲んで見守っています。しかし、内心はどうだったでしょうか。亀田一家が身分を偽って潜入していたことに唸り、兎草一家が銃を向けられると緊張し、殺される瞬間を心待ちにしていたことでしょう。彼らは「人が死ぬ瞬間」を観に来ており、その悪趣味さに背筋が凍る思いがしますが、これは私たちにも適用できると個人的には思います。そして、これを説明するのに必要となる概念があります。それは「第四の壁」と呼ばれるものです。


では、「第四の壁」とは何か。Wikipediaでは、


想像上の透明な壁であり、フィクションである演劇内の世界と観客のいる現実世界との境界を表す概念である



と説明されていますが、要するにフィクションはフィクションであり、現実は現実。その両者を隔てるものが「第四の壁」であるということです。そして、この「第四の壁」は時に破られることもあります。キャラクターが観客に向かって語り掛けたり、「この世界は映画の世界なんだ」とメタ的なセリフを言うなどの手段によってですね。最近だと『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』がそれに当たるでしょうか。まあこれが世間一般においては失敗したと思われているから、あれだけ叩かれているのであって。私はいいと思うんですけどね。


『カメ止め』でも、映画を撮影しているという構造でこの第四の壁の越境が見られましたが、『イソップの思うツボ』では、それがさらにはっきりしていると感じます。それは、美羽がカメラに向けて銃を撃っていることからも明らかで、これはフィクションである映画と観客を隔てる最たるものであるカメラを破壊することによって、第四の壁の破壊を狙ったものだと思いますが、この企みは上手く行っていません。美羽がカメラを壊しても、予備のカメラが動いていますし、最後にその予備のカメラを壊して終わるんですけど、生中継を見ている観客や映画を観ている私たちに銃弾が飛んでくることはありません。美羽は第四の壁の破壊に失敗しているとも言えます。


しかし、破壊というアプローチは成功せずとも、越境というアプローチは成功しています。生中継を見ている観客を用意することで、映画を観ている私たちと同じ気持ちを彼らが味わう。それに連れて私たちも彼らの気持ちになっていくという奇妙なシンクロ現象が、この映画では発生しているように思えます。ここで第四の壁が心理的に越えられたということはできないでしょうか。『カメ止め』と同じこの試みは、気分が悪くなるという強烈な映画体験を植え付けることに成功していて、とても面白かったですね。



dgd




話はさらに飛びます。例えば、ホラー映画を好んで見る人だとしたらどうでしょう。サメ映画でサメが海中から尾びれを出して人間に近づく瞬間。ここで、いけー!やっちまえー!とは思わないでしょうか。サメ映画は「人が死ぬ」ことを売りにしている節があり、というかむしろ海で遊ぶなどのリア充しぐさを見せておいて、襲われる瞬間の恐怖とカタルシスを高めようとしているように私には思えます。


それに、殺人鬼が人をバッタバッタと殺していくタイプのホラーで、誰も死なないとなったら拍子抜けですよね。このとき私たちは「人が死ぬ瞬間」をエンターテイメントとして消費していて、その点で仮面をつけた彼らと同類なのです。彼らは亀田家が兎草家をなかなか殺さない展開に、ブーブー文句を垂れていました。いささかオーバーな演出だったとは思いますが、私は自分が彼らと同じようなことを思っていることに気づいて気分が悪くなりましたね。


例えば、現実で目の前で人が殺されそうになったら、私たちは笑うことなんてできないはずです。テロや戦争の犠牲者には哀悼の意を捧げるでしょう。しかし、ことフィクションの世界となると、「人が死ぬ瞬間」をエンタメとして享受している。どちらも同じく人が死んでいるというのに。この二律背反、アンチノミーな自己矛盾に、私は途中から苛まれていきました。人の醜い部分が出ていて、もう観ていられないと。


この映画では、近藤が連太郎に撃たれて死にます。お望みの「人が死ぬ瞬間」のはずなのに、少なくとも私はこれぽっちも気持ちいいと感じられませんでした。それは神の視点である観客の思うツボではあったのですが、私は仮面をつけて喜んでいる彼らの姿を嫌悪し、嫌悪している自分をも嫌悪していました。自己矛盾に気づき自己嫌悪していたためです。『イソップの思うツボ』は一言で言うと気分が悪くなる映画で、その意味では3人の監督の思うツボに嵌っていたのかもしれませんね




と、ここまでこの感想を読んだあなたは、私がこの映画を絶賛しているかと思うかもしれません。でも、はっきり言っておくとそれは違います。なぜなら、この映画と同じ構造の作品を私はもう知ってしまっているからです。





dge

















・不満点もある


『イソップの思うツボ』と同じ構図を持った作品。それは『賭博黙示録カイジ』の有名なエピソード・「鉄骨渡り」です


知らない方のために一応、鉄骨渡りを説明しておきますと、


・参加者たちは鉄骨を渡る
・落ちたら即死
・着順により賞金が貰える
・鉄骨は一本を複数人で渡る
・よって後ろの者が賞金を得るには、前の者を突き落とさなければならない



という「人間競馬」とも呼ばれるギャンブルです(詳しくはこちらを参照)。ここでのポイントは安全圏であるビルの中から、参加者たちを眺めて楽しんでいる富豪がいるということ。彼らは金を掛けて、自らが儲けるために、突き落とせ突き落とせと願っています。スーパー悪趣味ですが、『イソップの思うツボ』の構図と似ているとは思えないでしょうか。この映画を観ている私が、いつの間にか突き落とせ突き落とせと願う富豪になっていると気づいたときには、嫌気が差しましたね。


そして、この鉄骨渡りで有名なセリフがあります。


人が恐れおののきながら不安定な橋を渡っていく...

泣きながら渡って行くんだ。

その様を...こうした安定した場所で見ていると、もうそれだけでしみじみ幸せを感じられる...

普段感じることのできぬ『セーフティー』という名の悦楽...

『安全』であることの愉悦!



主催者である帝愛グループの一員である利根川が発したこのあまりにも有名なセリフ(特に最後)。初めて聞いたときはピンときませんでしたが、この映画を観た後なら分かります。映画館ではスクリーンから銃弾は飛んでこない。サメに襲われることもないし、ゾンビに噛まれることもない。「自らは死なない」ということが保証されているから「人が死ぬ瞬間」をエンタメとして捉えることが出来るのだと。恐ろしいですね。



ただ、この鉄骨渡りが世に出たのが20年くらい前の事なんですよ。で、実写映画版でもこのシーンがあって「『安全』であることの愉悦!」はもう知ってしまっているわけなんですよね、私は。で、『イソップの思うツボ』にこれを超える展開があったかといえば、正直なかったので、そこはもう一つ捻って先を見せてほしかったというのはあります


それに『カメ止め』で、どんでん返しや第四の壁の越境を受けてしまって、ある種の抗体ができてしまって、そのあっさりとした終わり方に拍子抜けしてしまった部分もぶっちゃけあります。絶対もう一転するものだと思ってましたし、エンドロールはフェイクだと感じていました。でも、最後はカメが歩いているところを見せて呆気なく終わってしまう。コンパクトな時間にうまくまとめられていたとは思いますが、正直物足りなさは残ります。そこも不満点ですね。


でも、もしかしたら、これも監督陣の狙いかもしれないですね。映画の中で美羽は「壊したい」と言っていました。ただ、この映画では兎草家はもちろん、亀田家も戌井家も壊れることはありません。雨降って地固まるといった印象さえ抱きます。ここで、私が欲していたもう一転とは家族が壊れる展開。でも、その展開にしなかったことで、フィクションの世界であっても壊れることを望む人間の醜さを浮き彫りにしていたのかもしれないと今となっては思います。やはりどう足掻いても、どんな感想を持っても、3人の監督の思うツボのようです。




dgg


















以上で感想は終了となります。『イソップの思うツボ』、面白かったんですけど、物足りない部分もある映画でした。でも、どちらかというと賛なので、興味のある方はぜひとも観てみてください。ここまでネタバレしておいてなんですけど。


お読みいただきありがとうございました。




参考:

映画『イソップの思うツボ』公式サイト
http://aesop-tsubo.asmik-ace.co.jp/

第四の壁 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/第四の壁

賭博黙示録カイジ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/賭博黙示録カイジ





おしまい





☆よろしければフォロー&友だち登録をお願いします☆