こんにちは。これです。今回のブログも映画の感想になります。


今回観た映画は『サヨナラまでの30分』。 北村匠海さんと新田真剣佑さんの4作目の共演作です。実は私この映画の撮影にエキストラとして参加させていただいたんですよね。楽しかったですよ。俳優さんも間近に見れましたし、色々な格好をすることができましたし。


それはさておき感想を始めたいと思います。拙い文章ですがよろしくお願いします。 



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ー目次ー

・見どころの多い撮影
・俳優さんと音楽が素晴らしい 
・上書きと喪失からの再起




ーあらすじー

メジャーデビューを目前に解散したバンド「ECHOLL」。
1年後のある日、突然大学生の颯太が現れ、 メンバーのヤマケン、重田、森の日常にずかずか踏み込み再結成を迫る。誰をも魅了する歌声を持ち、強引だがどこか憎めない颯太に、少しずつ心を動かされていくメンバーたち。
実は颯太の中身は、1年前に死んだボーカルのアキだった!
偶然拾ったアキのカセットテープを颯太が再生する30分だけ、2人は入れ替わる事ができ、1つの体を共有していく。
人づきあいが苦手で、はじめはアキを毛嫌いしていた颯太。
「俺にこじ開けられない扉はない」が口癖のポジティブなアキ。
30分ごとの入れ替わりを何度も繰り返す、正反対の2人の共同生活がスタート。
ひとりで音楽を作っていた颯太も、次第にアキや仲間と音楽を奏でる楽しさを知る。
アキも颯太の体を使ってバンドを復活させ、音楽のある生活を取り戻したが、
「ECHOLL」を去った恋人・カナだけは戻ってこない。
カナに再び音楽を始めてもらうため、最高の1曲を作り上げようとする2人。
そんな日々の中で颯太もカナに心惹かれていき、カナもどこかアキの面影を感じる颯太に、心を開き始める。
すべてがうまくいくように見えたが、ふとした事から颯太=アキなのではないかとカナは気が付いてしまう。
一方カセットテープに異変がおき、アキと颯太の入れ替われる時間は短くなっていく——。

(映画『サヨナラまでの30分』公式サイトより引用)



映画情報は公式サイトをご覧ください。






 

・見どころの多い撮影


まずこの映画で注目すべきは、その青春映画としての強度ですよね。アキとカナのキスやバンドの楽しそうなセッションなど、青さや若さを感じさせるシーンが多数。しかもそれらが全く嘘っぽくないのが凄いところ。これは色々なところで言われてますけど、撮影の今村圭佑さんの功績が大きいと思います。


今村さんといえば『帝一の國』や『新聞記者』などの撮影で知られる名カメラマン。個人的にも、2018年のベスト4『志乃ちゃんは自分の名前を言えない』や2019年のベスト2『ホットギミック』といった映画は大好きで、密かに気になっている方ではありました。


そして、その撮影技術はこの映画でも健在。まず特筆すべきはオープニング。ここではECHOOLやアキとカナの5年間を音楽に乗せながらダイジェストで流すわけですが、ここの快感がまず半端ない。アキとカナのアップから少し引いてみたりと変幻自在、的確な撮影でセリフがなくても彼ら彼女らの積み重ねた年月が分かるという離れ業を披露していました。荻原監督の演出や編集の力もありますが、映画に引き込むという意味ではこれ以上ない働きをしていたと思います。


さらにその後も俳優さんたちに寄り添うカメラワークが次々披露されます。密着しているというわけではなく丁度いい距離感。新田真剣佑さんや北村匠海さんら俳優さんたちをかっこよく魅力的に撮影することに成功していて、もうこれだけで満足感を覚えるほどです。後ろにいた女性も見終わった後に


さらに、月明かり差し込む部屋で連弾をする颯太とカナ満天の星空のもとで背中合わせに寄り添う颯太とカナなど印象的なシーンも多数。撮影によって映画はここまで左右されるのかと驚きました。もちろん今村さんだけじゃなく指示を出した荻原監督も凄いですけどね。


個人的に印象に残ったのが、俳優さんをぐるりと映すカメラワーク。臨場感があって、それが俳優さんの魅力を最大限にまで引き出すことに繋がっているのかなと感じました。



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・俳優さんと音楽が素晴らしい

 
もちろん俳優さんの演技自体も素晴らしくて。特に主演の北村匠海さんと新田真剣佑さんは両者ともベストアクト級の演技でした。


まず北村匠海さん。素の颯太と颯太と入れ替わったアキの二役を演じていました。『影踏み』に続く一人二役でしたが、この映画では両者の差異がより際立っていた印象です。颯太のボソッとした自信なさげな喋り方と、アキの軽やかな性格の切り替わりが一瞬にして完了していて出色の存在でした。


さらに、物語が進むにつれて颯太自身にも新たな一面が見えてきますし、アキに対して声を荒げるシーンの迫力は凄かった。そしてフェスの出番の前の複雑な演技も見事にこなしていて、一人で三役も四役もやってましたね。その演じ分けが抜群に良くて、この映画のMVP最有力候補だと思います。もう一人の自分を見る目つきが特に好きでした。


その北村匠海さんに肩を並べる活躍を見せたのがアキを演じた新田真剣佑さん。アキはとにかくポジティブなキャラクターで、自信が迸る口ぶりが印象的でした。一生体を貸すと言われた時のはしゃぎっぷりといったら。


でも、アキって颯太がスイッチを押さなければ、この世に存在することができないので受け身なキャラクターでもあるんですよね。主張しているんだけど主張しすぎないというその塩梅が絶妙でした。上書きされていると分かってからの影が出てきたところも、そういう雰囲気がバンバン出ていて良きでした。


また、この映画では他の俳優さんたちも軒並みよかったですよね。例えばこの映画のヒロイン・カナを演じた久保田紗友さん。最初の拒絶っぷりはハマってましたし、そこから徐々に颯太に心を許していくグラデーションが上手い。ソウタとの連弾のシーンのいじらしさといったらなかった。これからも注目していきたい女優さんがまた一人増えました。


さらにギター・ヤマケンを演じた葉山奨之さんはバンドのことを誰よりも想っている感じが、ベース・森を演じた清原翔さんは皆を見守る父性さえ感じさせる雰囲気が、ドラム・重田を演じた上杉柊平さんはやや粗暴な中に覗かせる熱情がそれぞれ良かった。筒井道隆さんや牧瀬里穂さん松重豊さんらも、若いキャストを支える安定した演技を披露していましたし、相乗効果で映画の魅力が何倍にも上がっていましたね。俳優さんたちの演技だけでも満足度はかなり高いです。



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この映画は“青春音楽映画”と銘打たれています。となると音楽が映画の出来を大きく左右しますが、この音楽もまた最高でした。andropの内澤崇仁さんがプロデュースした楽曲群はどれも耳に残るものばかり。これらの良質な劇中歌が映画の盛り上げに大きく寄与していましたね。


ある歌はオープニングで疾走感たっぷりに。またある曲はギターの弾き語りで始まり徐々に盛り上がっていく。ピアノの伴奏でしっとりとさせつつ、最後にはフェス向きのシンガロングもあるバラード。どの曲を取ってもシーンにバッチリ合っていて映画を加速させていっていました。


さらにそれを歌う北村匠海さんと新田真剣佑さんの歌声も素晴らしい。北村匠海さんはそっと側にいるみたいな歌声で、DISH//で積み重ねてきたものを感じます。また、新田真剣佑さんもその格好いい風貌から発せられる優しい歌声はギャップがあってやられそうになりました。いいです。実にいいです。


それらも含めて個人的に1番好きなのはやっぱり最後の「真昼の星座」ですかね。北村匠海さんと新田真剣佑さんの両方のボーカルが聞けて眼福ならぬ耳福。さらに、「この声を この言葉を この歌を ずっと」というのがECHOOLの願いのように響いて、またテーマにも合っていて感動しました。エキストラに参加させていただいた2日間で聴き浸った曲ですが、映画のマジックで全く新鮮に聴こえたのも嬉しい驚きです。


このように、『サヨナラまでの30分』には撮影、演技、音楽など素晴らしい点は多々あり、これはすぐにでも観てほしいのですが、私が一番好きなのはこの映画が描いたテーマなんですよね。それは「上書き」という言葉に集約されると思います。



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※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。


・上書きと喪失からの再起


カセットテープを再生することで颯太と入れ替われることに気づいたアキ。そこからはソウタの体を借りて思いのまま。面接では得意のトークを生かして喋り倒して、バンドメンバーを焚きつけてECHOOLを再結成させるように仕向けます。


最初は戸惑っていた颯太でしたが、アキのバンドに懸ける思いに感化されたのか徐々に心を許していきます。自分でも知らない一面も引き出されて、颯太自身にも前向きな変化が現れます。

ただ、颯太がECHOOLとの関わりを深めていくなかでアキが入れ替われる時間は徐々に短くなっていきました。ここで登場するのが上書きというキーワードです。


カセットテープでアキになっている間、颯太の人格は俯瞰しています。そこでアキとの過去の思い出を垣間見ます。その謎を颯太はカセットテープがアキの記憶そのものであったと理解。カセットテープはアキが何度も上書きしながら使っていたものでECHOOLの歴史がそのまま詰まっていました。


しかし、ところどころで誰とも知らずに押される録音ボタン。カセットテープにはその分颯太とカナ、ECHOOLの思い出が上書きされ、アキの記憶は短くなっていました。だからアキが入れ替われる時間も短くなっていったというわけですね。ここでカセットテープの中の出来事と映画の中の現実とがリンクしていきます。それは喪失からの再起です。


アキは1年前に交通事故で亡くなってしまいました。それを機にECHOOLは一度解散。メンバーはそれぞれの道に進んでいきます。しかし、「1秒でも何かしていないとアキのことを思い出してしまう」というカナをはじめとして、ECHOOLを解散してもどこかアキの幻影に付き纏われています。



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思えば、人生において喪失はつきものです。出会いがあれば別れもあるとは使い古された言葉ですが真理でしょう。親はいつか死にますし、もちろん自分も。そうでなくても彼氏彼女と別れたということも喪失に含まれるでしょう。


喪失に対する周囲の反応は様々です。それこそ苦しんでる悲しんでる遺族を慰めようと声をかけてくる人もいるでしょう。ただ、颯太のようにそれが却って負担になってしまうこともある。まぁ放っておけばいいというわけではないので難しい問題ですけどね。


まさか遺族に対して「死んだ人のことは忘れなさい」という人はゆめゆめいないと思いますし、いたとしたら相当デリカシーがない。でも、彼氏彼女と別れたという相談に対して「忘れてしまえば」と答える人がいるのはなぜでしょうか。まだ若いんだからなんて言って。最後の恋愛になるのかもしれないのに。


でも、忘れられるわけがないんですよ。その人のことを深く想っていれば想っているほど、ふとしたときに思い出して悲しむことになる。振り返ってばかりで前に進めない自分を責める人もいるかもしれません。そうなったら再起からは離れていく一方です。


そこにこの映画は忘れなくてもいいというんですね。カセットテープが上書きされても元々のデータを残しているのと一緒です。記憶は積み木ように積み重なっていて、その上にまた新しい積み木を置いていけばいい。前に進むことは別れた相手に対する裏切りにはならないんですよ。だって思い出は上から見た積み木みたいに、真昼の星座のように目には見えなくてもそこにあるから。


だからこの映画ではアキがいなくなってしまうという終わり方なんですけど、バッドエンドではないんですよ。だってECHOOLの礎には絶対にアキがいて、それはなくならないから。彼ら彼女らの中にはアキがいつづけるんですよね。上書きされても消えない記憶のように。いなくなることをアキ自らが選択したのがまた良いですよね。颯太にこれからを託すというバトンタッチの意味合いもあって最高に好きです。



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さらに良いのがこの映画が余計なエピローグなくスパッと終わったことなんですよね。ECHOOLが、颯太が歌い終わったところ、盛り上がりが最高潮のところで終わってる。でも物足りなさは全く感じない。


それはなぜかというとこれからもECHOOLが続いていくことが、その礎にはアキがいることが容易に想像できるから。もうその先まで物語と歌で語り尽くしてる。だから、これからも頑張ろうなという再確認のようなエピローグはいらないわけです。


先にも述べたように人生に喪失は付きものです。大人はもちろんですが、若い人でさえも、学生時代に仲良かった友達と離れ離れみたいな喪失は経験していると思います。なのでティーン向け青春映画と間口を狭めず、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。積み重ねることの大切さを描いていて来するものがあるのではないかと。


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以上で感想は終了となります。映画『サヨナラまでの30分』。あらゆる要素が素晴らしい今年ここまでで一二を争う傑作映画だと思います。興味のある方は是非ご覧ください。オススメです。


お読みいただきありがとうございました。

 
おしまい


 

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