こんにちは。これです。今日は風が強くて大変でした。そんな今日のブログも映画の感想になります。


今回観た映画は『ロマンスドール』。高橋一生さんと蒼井優さん共演のラブストーリーです。どちらも好きな俳優さんなので、ぜひ観たいと思っていたところ、運よく長野での上映があったので観ることができました。結論から申し上げますと好きな映画でした。


それでは、感想を始めたいと思います。拙い文章ですがよろしくお願いします。




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―目次―

・意外とある笑える面白さ
・主演二人の演技がさすが
・人間の三大欲求に基づいた映画
・ラブドールを比較対象として浮かび上がる人間の実像





―あらすじ―

一目惚れをして結婚した園子(蒼井優)と幸せな日常を送りながら、
ラブドール職人であることを隠し続けている哲雄(高橋一生)。
仕事にのめり込むうちに家庭を顧みなくなった哲雄は、
恋焦がれて夫婦になったはずの園子と次第にセックスレスになっていく。
いよいよ夫婦の危機が訪れそうになった時、園子は胸の中に抱えていた秘密を打ち明ける……。

(映画『ロマンスドール』公式サイトより引用)





映画情報は公式サイトをご覧ください。










・意外とある笑える面白さ



『ロマンスドール』は一言で言うと、面白い映画でした。ただ、その面白さの種類が少し意外だったんですよね。観る前は切ないラブストーリーとしての面白さを期待していましたし、実際その面白さはあったんですが、それよりも笑える面白さが印象に残りました。言ってしまえばコント的な面白さがあると感じたんです。


北村哲雄は何も知らされず、ラブドール製造会社・久保田商店にやってきます。仕事もお金もない哲雄はそこで働くことを決意。しかし、作ったラブドールは社長に却下されてしまいます。その理由は胸にリアリティがないから。まあまあ社運のかかったラブドールをよりリアルに近づけるため、先輩職人相川とともに実際の女性の胸から型を取ることを思いつきます。


しかし、ラブドールと正直に言ってしまっては女性が来ないことを危惧した相川は、人工乳房を作る医療関係の仕事と偽ることを提案。そして、募集をかけてやってきたのが小沢園子でした。そして、その子の胸の肩を取る一連のシーンとなるわけですが、ここきたろうさんが最高に面白いんですよね。


理想のラブドール作りに熱意を燃やす相川ですが、いざとなると結構他人任せなところがありました。やたらとテンションの高いじゃんけんで勝ったのにもかかわらず、臆病風に吹かれて型を取るのは哲雄に任せてしまいますし。リアリティのためには胸を触らなければいけない、でもやるのは哲雄という。そういう挙動が人間臭くて笑いを誘います。実際、私の後ろで見ていた人は笑いをこらえ切れていませんでしたしね。女性用白衣の件で既に。


詳しくは知りませんけど、きたろうさんはコントグループ・シティボーイズでも有名ですし、そういう出自や情けない雰囲気もあって、相川という役にこれ以上ないほどマッチしていると感じました。その笑いで物語を引っ張ってくれていたところも結構あったので、途中退場してしまったときは悲しくなりました。


それにもうひとつ面白かったのが、緊張と緩和ですね。哲雄と園子が初めて出会ったシーンは本当のことがバレちゃいけないという緊張がありました。だって哲雄と相川がやっていることは通報されてもおかしくないことですから。だからこそ、相川の胸を触ろうっていう緩和が効くんですよね。胸を触らんとする相川と止めようとする哲雄とのやり取りは、まさしくコントを見ているようでおかしかったです。


さらに、この緊張と緩和は他のシーンでも有効に使われていて。例えば、結婚式で哲雄が自分の指に園子の指輪をはめてしまうシーン。また、例えば哲雄と園子がお互いの浮気を告白するシーン。この両者に共通しているのは、正しい展開から少しズラしていること。後者のシーンでは、哲雄が、観ている私たちが知りたいのは園子の本当の秘密なのに、浮気してましたという観ている私たちには周知の秘密が明かされる。溜めておいて緊張させておいて、ズラしという緩和を入れることで、そっちかいという笑いが生まれるんですよね。思わず笑ってしまいました。


だから観ている最中、私の中では沸々と面白さが湧き上がってきていました。ほら、コントの設定でよく銀行強盗とかプロポーズとかがあるじゃないですか。これも緊張を作りやすいからなんだなとこの映画を観て感じました。『ロマンスドール』にはそういう笑える面白さもあるということは、ひとつ伝えておきたいことです。



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・主演二人の演技がさすが


哲雄はモデルに来た園子に一目惚れして、あったその日のうちにいきなり「好きです」と告白してしまいます。そして、園子も首を縦に振るという。そこからの付き合う過程をこの映画では大胆に省略。次の二人のシーンではいきなり結婚式になっています。この映画にはラブドール職人というお仕事物と、哲雄と園子のラブストーリーの二つの側面がありましたが、後者は二人が結婚するところから始まります


哲雄を演じたのは高橋一生さん。お仕事物としては、ラブドール職人の自覚が芽生えてくるところを表情と声の抑揚で表現していました。また、ラブストーリーとしては幸せそうな雰囲気から、園子を問い詰める口ぶりまで幅の広い演技を披露していました。そのどちらもが巧みで、リアリティを感じましたね。あとやっぱり声が良いですよね。少し頼りないんですけど、ちゃんと芯があって。独特のつかみどころのなさといいますか。あの出で立ちからあの声を出されると、魅了されるしかなくなります。


一方、園子を演じたのは蒼井優さん。まず、初登場した時の幸薄そうなオーラにやられました。でも、結婚初期のころは幸せそうなオーラを纏っていて、でも映画が進むにつれて、悲壮なオーラが漂ってくる。そのオーラを口調や表情、挙動に間の取り方などあらゆる要素を使って変えているのが凄いなと感じました。映画ごとに全く別の表情を見せてくれる女優さんですよね。後半、ベッドに臥せっているときの何とも言えない表情が特にグッときました。


そして、この二人が共演することで生まれる化学反応がこの映画の一番の魅力であることは間違いないでしょう。新婚の微笑ましい空気。一緒に手作りの料理を食べる幸福感。そこからの距離の空き方。ギスギスした空気が画面から痛いほど伝わってきます。そして、それぞれ浮気に走る。ここ理由の描写はないんですけど、二人の演技がそれを雄弁に語っていて、リアリティがありましたね。ラブストーリーとしての説得力。


でも、一番特筆すべきはやはりベッドシーンです。この映画はR15ではなく、PG12なのでそこまで攻めたベッドシーンは見られませんが、二人の演技の前ではそんなの些細なこと。特に終盤のベッドシーンの連続は、切迫感に駆られたやるせないものでしたが、二人を見ているとその切実さがより増すんですよね。言語化不能の表情がとても良いです。特に最後のイメージでのベッドシーンですよ。あそこ蒼井優さんの目元と口の開き方がとんでもなく良くて。切なさに涙が出そうになりました。PG12には心理的ハードルを下げるという利点がありますし、これは多くの方に観ていただきたいところです。



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※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。









・人間の三大欲求に基づいた映画


『ロマンスドール』を観て、私が感じたのは人間の三大欲求です。すなわち、食欲・性欲・睡眠欲ですね。この三つの欲求、生理的欲求に基づいた映画だなと感じました。まあこの三大欲求は日本特有のものらしく、人間の欲求には諸説あるそうなんですが、この感想ではこの3つに絞って話を進めていきたいと思います。


まず、一番分かりやすいのは性欲でしょう。それは、主人公である哲雄がラブドールを作っているということに如実に表れていますよね。ラブドールというのは疑似セックスをして性欲を満たすための道具です。いわば、哲雄は男の性欲のために働いています。どんなに着飾ってもこれは揺るぎのない事実です。


それに、この映画では前述したようにベッドシーンも多い。しかも終盤にかけてより多くなる。それはなぜかというと、園子がガンにかかっていてもう助からないというところまで来てしまっているからなんですね。最後ぐらいQOL(クオリティ・オブ・ライフ。生活の質)を高めましょうと。そして、二人が選んだのがセックスをすることでした。


まあ言ってしまえば、園子の秘密というのはガンを抱えていることで、これは映画の宣伝で秘密と煽られていることなんですが、映画を観れば最初のシーンでもうなんとなく分かっちゃうんですよね。事後のシーンで「妻が命を終えた」って言っちゃってますから。そして、その理由が病気というのはベタベタにベタですが、見せ方と俳優さんの演技次第ではいかようにも面白くできると感じました。


もうお気づきのことかと思いますが、ここで園子とラブドールの同一化が図られているんですよね。園子はガンにより子供が産めない体になっていますし、それはラブドールも同じでしょう。哲雄と園子のセックスは実を結ぶことはないのです。ラブドール相手のそれと同じように。切ないですね。でも、二人はセックスをする。それは性欲という基礎的なものだけではきっとなくて、繋がりを実感するための手段が身体的な接触であったのだと思います。朽ちた桜でも花を咲かすように、子供ができるかどうかなんて関係ない。


そして、園子は哲雄に「自分を作って」と言います。その言葉通り、哲雄は園子を模したラブドールを作ります。それも園子が生きた証を残すため。二人のセックスに性欲が薄くなっていくのと反比例して、性欲の権化とも言えるラブドールは完成に近づいていきます。完成したラブドールには目に光が宿っているように私には見えました。誰かを想いながら作ると、作り物でも魂が宿るものですね。


しかし、販売するからには試さなければいけない。自分の妻を模したラブドールを使う哲雄。端的に言わなくても狂っていますが、それを感じさせない高橋一生さんと蒼井優さんの演技力よ。そして、完成したラブドールは「そのこ」と名付けられて100体限定で販売。価格は一体120万円。ただ、高めの価格設定にもかかわらず、そのこはあっという間に完売します。よほどの大富豪でない限り、120万円のラブドールはぞんざいに扱われることはないでしょう。私だったらこれが120万円か…と思って躊躇して使いませんしね。哲雄が魂込めて作ったそのこが大切に扱われるであろうという希望が見えます。


この映画は先に述べた通り、ラブドール職人としてのお仕事物の側面も持っています。社運をかけて新しい素材を提案する社長。しかし、進めていた新素材はスパイに盗まれ、他社に先出しされてしまいました。二番煎じにならないためには、元のシリコンで作るしかありません。そこで、哲雄は繋ぎ目のない一体型のラブドールを作ることを提案します。そう言う哲雄の目は力強く、食べるものも食べずに哲雄は理想のラブドール作りに没頭します。その姿はこれってプロジェクトXか何か?と見間違うほどでした。


そして、完成したそのこは最も人間に近い出来栄え。そのリアルさに私は、哲雄のラブドール職人としての矜持を感じましたね。所詮は性処理の道具でしかないラブドール。彼女と見立てて一緒に暮らすドーラ―には、私でさえうっわ気持ち悪っと思いましたし、日本では認可されていないのに精緻に作りすぎて社長は逮捕されます。でも、そんなラブドールにも作り手の思いがあり、アダルトグッズだからと言って軽蔑してはいけないなと感じました。『ロマンスドール』はそういう熱さもある映画です。




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・ラブドールを比較対象として浮かび上がる人間の実像


さて、話は人間の三大欲求に戻ります。性欲は見てきたので、食欲と睡眠欲ですね。二つのうち、この映画において私が大事だと感じたのは食欲です。なぜなら、食べるという行為が人間とラブドールを隔てる最大のものだと感じたからです。ラブドールを使って疑似セックスはできる。一緒に眠ることも疑似的にはできる。ただ、ラブドールとの疑似的な食事はできません。


思えばこの映画では少なくない回数の食事シーンや食べ物が登場しました。面接の際に供された羊羹。居酒屋でのメニュー。お酒は複数回。園子の手作り弁当。その中から卵焼きを掴む相川。写真の前に置かれるチョコレート。食べられなかった園子の手料理。哲雄が一人で食べるコンビニ弁当とカップ焼きそば。久保田商会の面々が旅館でいただく宴会料理などなど。食べることが一つのキーになっていると感じるには十分なほどです。


最初に私が注目したのが、哲雄と園子が結婚してからの最初の食事です。ここよく見るとご飯が炊き込みご飯になっているんですよね。これだけで、二人は中流家庭にあることと園子が料理が好きなことが一発で分かるので、とても上手い演出だと感じました。エンドロールにもクレジットされていたフードコーディネーター助手の方ナイス。


そこから先は、食べ物や食事シーンが哲雄と園子の状況を表しているんですよね。哲雄がレタスをちぎっただけのサラダを園子が褒めるという幸せな食事風景。手作り弁当という愛情表現。年月が経って二人の間に溝が生まれ、仕事のストレスもあり園子の手料理を食べなくなる哲雄。園子が行方をくらませてからは、哲雄はコンビニ弁当を食べるようになり、夕食はカップ焼きそばで済ます。こういった演出は正直基本的なことではありますが、それを手を抜かずにやっていることはとても好印象を受けます。


ラブドールは物を食べられません。生物たる人間にしか食べることはできません。ラブドールを比較対象として、人間の実像を浮かび上がらせていることが、この映画の特徴だと私は考えます。誰とセックスをするのかと同じくらい、何を誰と食べるかがこの映画においてはとても重要な意味を持っていると感じました。


それと睡眠欲もですね。セックスをした哲雄と園子は一緒に夜を越しているじゃないですか。ということは一緒に眠っているわけですよ。終盤に実際そういう画もありましたけど。でも、二人とも浮気相手とは一緒に眠っていないんですよね。哲雄は浮気相手と一度セックスをしていますが、ホテルから出てきたときにはまだ夜のままでしたし、園子も夜のうちに帰ってきています。この映画で描写された限りでは、二人の寝顔は二人しか知らないんですよね。


この映画の最後は哲雄の「僕は周囲の人間が知らない園子を知っている」というようなナレーションで終わりました。ここに含まれているのはもちろん幾度のセックスもあるでしょう。ただ性欲だけではなく、レタスをちぎっただけのサラダが美味しいという食事や、それぞれしか知らない寝顔といった食欲や睡眠欲も含まれていると私は考えます。


つまり、一緒に食べて、一緒にセックスして、一緒に眠る。そういう生理的欲求を共に満たすことが、この映画が描いた結婚してからのラブストーリーではないかと。それはラブドールにはできないことです。というかそもそも欲求自体がありません。『ロマンスドール』はラブドールという性欲を象徴するアイテムを通して、その実、それだけに収まらない人間の欲求を描いた映画だと私は感じました。




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以上で感想は終了となります。映画『ロマンスドール』。意外と笑える面白さあり、お仕事物の熱さあり、ラブストーリーの切なさありと様々な面白さがある映画でした。興味のある方はぜひ映画館でご覧ください。お勧めです。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい 


ロマンスドール (角川文庫)
タナダ ユキ
KADOKAWA
2019-11-21



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