こんにちは。これです。こんな時は日常が大事。Jリーグがない今私にとっての日常は、たまに映画館に行くこと。


というわけで、今回のブログも映画の感想です。今回観た映画は『mellow』。今一番勢いがあると言っても過言ではない今泉力哉監督のオリジナル作品です。去年観た『愛がなんだ』と『アイネクライネナハトムジーク』が好きだったので、この映画もチェックしなければと思っていたんですよね。で、観たところまた好きな映画でした。日常的な空気が流れていていいですね。


それでは感想を始めたいと思います。拙い文章ですがよろしくお願いします。




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―目次―


・優しすぎないところが好き
・ジャンルで言えば恋愛群像劇
・想いの伝え方は一つじゃない





ーあらすじ―

オシャレな花屋「mellow」を営む夏目誠一。独身、彼女無し。好きな花の仕事をして、穏やかに暮らしている。姪っ子のさほは、転校後、小学校に行けない日がたまにある。そんな時、姉は夏目のところにさほを預けにやってくる。
さほを連れていくこともある近所のラーメン屋。代替わりして若い女主・木帆が営んでいる。亡くなった木帆の父の仏壇に花を届けるのも夏目の仕事だ。
常連客には近くの美容室の娘、中学生の宏美もいる。彼女はひそかに夏目にあこがれている。
店には様々な客がいて、丁寧に花の仕事を続ける夏目だが、ある日、常連客の人妻、麻里子に恋心を打ち明けられる。しかも、その場には彼女の夫も同席していた…。
様々な人の恋模様に巻き込まれていく夏目だが、彼自身の想いは……。

(映画『mellow』公式サイトより引用)





映画情報は公式サイトをご覧ください









・優しすぎないところが好き



この映画のタイトル『mellow』。これは日本語に訳すと「熟した」などの意味があるそうです。なのでこの映画では円熟した大人の物語が見られるのかなと思ったら、全然そうではなく。この映画の登場人物って全然熟していないんですよね。好きという想いを胸の奥に抱えて、悶々としているんです。


それは主人公の夏目誠一からしてそうです。物腰柔らかで誠実な人柄は、「言いたいことは言わなくていい」というオープニングのやり取りから伝わってきます。夫婦の別れ話にもらい泣きしたり、最後の一杯を他人に譲るなどいわゆる"良い人"ではあるんですが、聖人とまではいかない。後述する青木とのシーンでは、結構強い口調でツッコんでいますし、不満を煙草を吸うことで煙に巻こうとしています。後で話のネタにもしていますしね。夏目を演じた田中圭さんのすれていない穏やかな雰囲気もあり、良い人すぎないところが好感が持てました。


オープニングからこの映画は落ち着いた雰囲気で進んでいきます。映されるのはあくまで登場人物たちの日常の延長線。社会的に大きな事件などは一切起こりません。いや、片想いでいる気持ちを伝えるという当人にとっては一大事ではあるんですけど、変に脚色されずに、ありのままでいるんですよね。告白のシーンは音楽も止まっていたように思えますし。特別なんだけど、特別すぎないところが好きでした。ちゃんと街の中にいる人という感じがして。窓の外では普通に通行人が歩いていましたし。


来店した女子高生・陽子に花束を作って渡す夏目。それとなく渡す相手のことを聞き出す口ぶりや、お金を必要以上に多く取らないところから、夏目の誠実な人柄が垣間見えます。この序盤で好きだったのは、不登校の姪っ子・さほを誰も責めていないところですね。学校に行けとプレッシャーをかけずに、普通に受け入れる。その優しい空気感がたまりませんでした。


この映画って誰の想いも否定されることはないんですよね。受け入れられないことはありますけど、無碍にされることはない。柔らかな空気がずっと漂っていて、浸っていたくなりました。


ただ、これが優しい世界であるかといえば全然違って。この映画ってけっこう登場人物にとって都合の悪いことが起こるんですよね。優しい世界だったら、不登校は発生していないでしょうし、告白は100%受け入れられるでしょうし、ラーメン屋は千客万来でしょう。登場人物に都合の悪いことも当たり前に起こすことで、リアリティをより感じました。優しいだけじゃなくて、厳しい視線もちゃんと持ち合わせていて、この映画信頼できるってなりました。



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※ここからの内容は映画のネタバレを多少含みます。ご注意ください。







・ジャンルで言えば恋愛群像劇



この映画はジャンルで言えば、恋愛群像劇に分類されるでしょう。この映画っていくつもの片想いが同時進行で動いているんですよね。


まず、夏目と近所のラーメン屋の店主・古川木帆の関係性。夏目はよく木帆のラーメン屋を訪れていて、ラーメンを食べながら世間話をしています(この映画のラーメンとても美味しそうだったなぁ。空腹の状態で観たら危なかった)。どちらとも気があるようなないような、そんな微笑ましいけど微妙な空気感。密着せずに少し距離が開いているところがもどかしく感じます。木帆を演じた岡崎紗絵さんの自然的な明るい雰囲気も良かったですしね。飾らない感じで、観ていて心が解きほぐされるようでした。


次に、美容室で働く青木麻里子。二週間に一度、自宅に花を届けにやってくる夏目に片想いをしています。そのことを夫にも打ち明け、三人で夏目と話し合いの場を設けることになります。この三人の話し合いがですね、良い意味でコント的で面白かったんですよね。夫の前で片想いの相手に告白するというおかしなシチュエーション。微妙に噛み合わない会話。ツッコミ一人にボケ二人の構図。どんどんとエスカレートしていく大ボケ。


この辺りはなんというか東京03のコントを見ているようでした。あの3人がそれぞれの役にバシッとハマっていたんですよね。途中から麻里子が女装した豊本さんに見えてしょうがなかったですもん。夏目の間の取り方も絶妙でしたし、カメラを固定することでライブでコントを見ているような錯覚に陥りました(見たことないけど)。去年のM-1の時に今泉監督は解説めいたツイートをしていましたし、なんかお笑いが好きなのかなって感じます。


さらに、陽子とその先輩・宏美の関係性。オープニングで陽子が花を買ったのって、宏美に思いを打ち明けるためだったんですよね。実際、宏美は活発ですけど、どこかミステリアスな雰囲気がありましたし、同性からの人気が高いのも頷けます。宏美を演じた志田彩良さんのクールな瞳もたまりませんでしたしね。


ただ、宏美は別に好きな相手がいると陽子をフッてしまいます。しかし、昼食は一緒に食べるなど仲の良さは維持している様子。ここの「普通三月じゃない?」などといったやり取りは、今思い出しても正直ときめきますし、羨ましそうに覗き見る後輩と合わせて完璧な構図でした。あえて言わせてください。エモかった。


それと、ここで最高だったのが何といってもバスケットボールですよね。屋上の隅にちょんと置かれた。陽子と宏美をあえて中心から外して、バスケットボールとともに映す構図には計り知れないエモさを感じました。内心すごくテンション上がってましたね。バスケットボールにあそこまでときめいたのは初めてです。


今思えば、この映画って小道具が良い味を出しているんですよ。バスケットボール、コーヒー豆、ラーメン、ハサミetc...。そして、極めつけはこの映画の大きなモチーフである花と。多くのショットにこれらの小道具が入るように設計がなされていたように思えましたし、それはこの映画の大きなカラーとなっているように感じられました。




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・想いの伝え方は一つじゃない


この映画のメインテーマは「想いを形にして伝えることの大切さ」だと私は思いました。それは言葉であったり、行動であったり、物に託したりと様々です。ですが、この映画の登場人物たちは、思いを形にして、その相手に伝えているんですよね。


その最たるものは言葉でしょう。想いはただ想っているだけでは、相手には伝わりません。みんな読心術が使えるわけじゃあるまいし。この映画の主要な登場人物たちは、ほとんど全員が片想いをしていたわけですよね。劇中で「多くの好きは表に出てこない」という意味のセリフがありましたけど、意中の相手に「好き」と言えずに悶々とした日々を送っている、もしくは送っていた人は少なくないと思います。この映画の登場人物たちのように。


では、その想いを伝えないまま、相手が振り向いてくれたことはあったでしょうか。答えは多くがノーだと思います。私にもそういう経験がないわけではありませんしね。やっぱり伝えないと届きませんよね。何事も。


この映画の登場人物たちは、片想いを「好き」という言葉にして相手に伝えます。それもほとんど全員が。まあその多くは実ることはないのですが、それでも一度は「ありがとう」と言ってもらえるんですよね。肯定してもらえるんですよね。その後にくる言葉が「ごめんなさい」だとしても。決して無碍にはされないので、失恋したとしてもどこか空気は穏やかで愛しいままです。伝えるという行為そのものは否定されておらず、私はここに今泉監督の優しい視線みたいなものを感じました。伝えた方がいいよって、映画を通してそっと語り掛けてくるように思えました。




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でも、現実はそう上手くいかなくて、言葉にして伝えられないこともあると思います。ぶっちゃけ全員が「好きです」って言えるのは少しファンタジーな香りもしますしね。では、どうするかと言ったら行動にして伝えることなんですよね。


劇中で木帆はラーメン屋を畳むことを決意します。しかし、閉店の張り紙は出しません。その理由は「閉店が決まってくるお客さんってその程度の気持ちだから」「愛情じゃなくて、情。下手したら同情だから」というもの。これ分かってしまうなぁ。いわゆる"葬式鉄"というやつですよね。終わりという特別な時にしか来ない。まぁ私も閉場が決まったボーリング場にノコノコ行ったことがありますから、あまり人のことは言えませんけど。


でも、ただ家でじっとしているだけでは、同情でさえも伝えられないんですよね。行動に移さないと。行ってみないと。言葉にできないのならば、行動で示すというのだって、気持ちを伝える立派な手立ての一つだと思います。特に終わる時。「スッと消えて悲しくなる人はいる」というセリフが劇中で語られていましたけど、行動で示さなきゃその悲しさですら伝えられないんですよね。これは人が死ぬ時にも言えるなと思って。よく「孝行のしたい時分に親は無し」なんて言うじゃないですか。いなくなる前に伝えておいた方がいいよ、ということもこの映画は語っているような気がしました。




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しかし、言葉にも行動にもできない人が想いを伝えるにはどうしたらいいでしょうか。その答えが花などの物に託すということなんですよね。この映画では、何度も印象的には花が登場し、また贈られました。登場人物はただ花という物体を移動させていたかといったら、それは違いますよね。花に想いを込めて贈っていたわけですよね。赤いバラで感謝の意を示すように。


考えてみれば、花というものはただ咲いて散るだけです。子孫を残す以外に意味なんてありません。勝手に意味を加えるのは人間の方です。都合で花言葉をつけて、アピールする。こんなものは人間のエゴですよ。勝手ですよ。


でも、人間は面と向かって想いを伝えられないときに、その想いを物に託して伝えるわけですよね。この映画では小道具が印象的に使われていましたけど、それらの一個一個、花の一本一本が登場人物の想いを物語っているように私には感じられました。ただ、バスケットボールでパス交換をしたり、コーヒー豆をいじくったり、ラーメンを食べていたわけじゃないと思うんです。そこには登場人物の言葉にできない想いが込められていて、映画の中の相手や私たちに伝えてきていると思うんです。


何を当たり前のことをと思うかもしれませんが、この映画のこういった小道具の演出がテーマ自体に即している気がして、私はすごく好きなんですよね。手段は何でもいいんです。ただ、想いを伝えることができれば。想いを伝えることを肯定的に、尊いものとして描いたのがこの映画ではないかと、私は感じました。


正直、私は花があまり好きじゃなく、貰っても嬉しくないんですが、これからは花は誰かの思いが込められたものだと心得て、ゴミ箱に捨てるようなことは辞めようと思います。まあ今暮らしている部屋に花を飾るスペースはないので、もしこれから花を貰うようなことがあれば、実家に送って大切にしてもらおうかと思います。この映画を観て、そういう方向に考えが変わりましたね。観て良かったです。




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以上で感想は終了となります。映画『mellow』、観ている途中も、そして観た後も、じわじわと暖かい感情に心が満たされていくような、そんな良い映画だと思います。やっている映画館は少ないですが、機会があればぜひご覧ください。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい 






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