こんにちは。これです。コロナ禍も第一波はだいぶ収束してきて、新作映画も少しずつ公開されるようになってきました。映画好きとしては嬉しい限りです。


そして、今回観たのも今週封切られたばかりの新作映画『ハリエット』です。実在した奴隷解放運動家、ハリエット・タブマンを描いた伝記映画であるこの作品。アメリカで人種差別に対するデモが激化している今、この映画は観ておかないとなと思って観てきました(急遽仕事が休みになったこともあります)。


それでは感想を始めます。拙い文章ですが、よろしくお願いします。




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―あらすじ―

1849年アメリカ、メリーランド州。ブローダス農場の奴隷ミンティ(シンシア・エリヴォ)は、幼いころから過酷な労働を強いられていた。そんな彼女の願いはただ1つ、いつの日か自由の身となって家族と共に人間らしい生活を送ること。ある日、借金の返済に迫られた農場主がミンティを売りに出す。遠く離れた南部に売り飛ばされたら、もう二度と家族には会えず、お互いの消息すらわからなくなってしまう。脱走を決意したミンティは、奴隷制が廃止されたペンシルベニア州を目指してたった1人で旅立つのだった。

(映画『ハリエット』公式サイトより引用)



映画情報は公式サイトをご覧ください。










あらすじにもありますが、この映画は未だ奴隷制の残る南北戦争以前のアメリカを舞台にしています。主人公ミンティは農場で働く黒人奴隷。彼女を演じたシンシア・エリヴォは個人的には初めましての女優さんでしたが、序盤と最後ではまるで別人かのように幅の広い演技を披露していました。表情から力強さがはっきりと伝わってきましたし、アカデミー賞主演女優賞ノミネートも納得します。


この映画の冒頭は、黒人奴隷がどれだけ迫害されているかを簡単に見せてくれます。「鋤を離すな。とにかく働き続けろ」と言った歌は刷り込みのように聞こえ、農場主は「黒人は所有物だ」と人ではなく、物扱いしています。ミンティの姉も売りに出されてしまったことが、ところどころカットインされる映像で分かります。夫はいますが、息子が生まれたらそいつも奴隷だと農場主に言われていましたし、この辺りはかつての日本とも似たところがありますね。


ある日、農場主が死んでしまい、農場の所有権は息子のギデオンに。農場の経営は苦しくなっており、ミンティが売りに出されることに。これを機にミンティは農場を脱走することを決めます。夜中に出発し、人の助けも借りながらなんとか逃げ続けるミンティ。


しかし、ギデオンら追手に橋の上で行く手を阻まれてしまいます。下には増水した急流の川が。ミンティは「自由か死か」と言い残して、川に飛び込みます。それほど、ミンティが自由を望んでいたことが分かるシーンですが、正直、意味ありげに川を映していましたし、ここで死ぬことはないので、さっさと飛び込めよとか思ってしまいました。


そして、ミンティは命からがら逃げのびて、奴隷制が廃止されているフィラデルフィアに辿り着きます。そこで、反奴隷制度運動をしている自由黒人(奴隷にならなかった黒人)のスティルに保護されます。自由を得た元奴隷の黒人は新しい名前を名乗ることが多いと聞いて、ミンティは両親の名前を取ってハリエット・ダフマンと名乗りはじめました。手に職もつけて、自由な生活のスタートです。




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※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。







1年後。自由な生活を手に入れたハリエットは、農場で未だ奴隷のままでいる黒人たちを助けることを決意します。農場に戻り、赤ちゃんを含めた5人の奴隷+旅の無事を祈るために尋ねた教会に隠れていた4人の黒人を、ハリエットは先導者として導きます。


途中、ギデオンたちに捕らえられそうになりますが、神のお告げ(ハリエットは発作持ちだけれど、その間に神からのお告げを得ることができる)もあり、9人を無事にフィラデルフィアまで送り届けることに成功するハリエット。その功績が認められ、地下鉄道の"車掌"に任命されます。つまり、これからも奴隷の脱走の手助けをしてくれということです。


ここからハリエットの快進撃が始まります。次々に奴隷の脱走を成功させていくハリエット。農場主たちからは"奴隷泥棒のモーゼ"として、懸賞金をかけられますが、奴隷制度反対派の白人にも助けられ、失敗知らず。彼女のしていることは100%正しいですし、理想的ではありますが、個人的にはこの辺り、少し上手くいきすぎかなという感じがありました。


細かいことになるんですけど、ハリエットが車掌として認められた時に、脱走させた人数と犠牲者をスティルが黒板に書きます。ハリエットは犠牲者0。でも、その上を見ると犠牲者の数がしっかりと記されているんですよ。


それに、この映画のポスターには「彼女は一度も失敗せずに、奴隷から英雄になった。」というキャッチコピーが打たれていますが、これも個人的にはあまり良くないと感じていて。だって、失敗しない人間なんていますかって話なんですよ。いくらフィクションが理想を描くものだとはいえ(この映画は実話だけれど)、こういう理想の描き方はちょっと違うかなと思います。


『ハリエット』を見ているとき、私には連想した映画がありました。それが『42~世界を変えた男~』です。




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この映画は史上初の黒人メジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンを描いた映画なのですが、こちらも描かれていることは100%正しいんですし、名作だとは思います。ただ、私はこの映画があまりハマっていなくて。というのも、ロビンソンが野次や対戦相手からの差別など、何をされてもじっと我慢しているからなんですね。耐えて耐えて、ようやく理解を得ることができるというストーリーなんですけど、私は正直、人間味に欠けてしまうなと感じてしまったんですよ。聖人君子すぎて。


それは、『ハリエット』でも同じで。ハリエットのやることなすことは、中盤までは全て上手くいくんですよね。なんというか、虐げられてきた、差別されてきた黒人の方々に配慮しすぎて、上手くいかないこと、人格的に悪い部分をオミットしている気がするんですよ。


そりゃ、黒人差別は今もなくなっていないですし、ハリエットも物語開始前はずっと虐げられてきたのでしょう。それとバランスを取るかのように、何もかも上手くいく、失敗しないという描き方をしているんですけど、それはかえって黒人の方々に失礼なんじゃないかとも、私は思ってしまうんですよね。


だって、黒人だって人間でしょう。失敗はしますし、誰もが聖人君子なわけではありません。私は、障害者手帳を持っているんですが、映画の中で、障害者が妬まない、僻まない。それこそブッダみたいな人物として描かれていたら、少し反感を覚えてしまいますし。言いたくないですけど、障害者も人間だから、悪い部分もあるんですよ。100%良い人間なんて、現実にはめったにいないですし、この映画はハリエットが神からのお告げを得られる、まさに神の代弁者みたいになるシーンもあり(ご都合もちょっと感じた)、人間味に欠けてしまうシーンも見られました。


というか、身も蓋もないことを言ってしまえば、物語って多分、失敗や敗北、逡巡があったほうが面白いんですよ。失敗してピンチに陥った状況からの脱出は、誰もが燃えますし。配慮しすぎて、主人公に失敗がないよう設定してしまうのは、物語としての幅を狭めてしまっているような気がしてなりません。そこが(19世紀の)黒人など弱者を主人公に据えることの難しさみたいに、私は感じました。


でも、これはきっと私が虐げられたことがないからなんでしょうね。日本で生まれて、人種差別とはある種、縁遠い環境の中で過ごしてきたからなんでしょうね。きっと黒人の方々は、また違った感想を抱くでしょうし、自分の無知さを思い知らされます。当事者にしか分からない世界を、私はこの映画の中に見た気がしました。




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そんな途中まではある意味、不満たらたらだった私でも、終盤の展開は良かったと思います。ハリエットは農場で、自分の妹を連れ出そうとしますが、妹は赤ちゃんもいるし「ここ(農場)にいる」ことを選択するんですね。でも、妹は死んでしまい、ハリエットは自責の念に駆られます。


また、ハリエットの世話をしていたマリーというキャラクターも殺されてしまいますし、終盤になってしっかりと犠牲者が出ているんですよ。人が死ぬのを望んでいたわけではないのですが、それまで一人の犠牲者もない展開には現実感薄いなと思っていたので、ここでようやく映画にのめり込むことができました。


また、この頃アメリカでは逃亡奴隷法が成立。奴隷狩りが合法化されます。これに対して、ハリエットは戦うことを選ぶんですね。黙っているのではなく。それは、過去の奴隷だった経験や、犠牲者を目の当たりにしたハリエットなりの正義で。ずっと我慢しているのではなく、戦うことを選んだ彼女に、私はようやく人間味を感じました。


そして、南北戦争では黒人兵士たちを率いて、白人たちと戦い、多くの黒人を解放。さらに、晩年には女性の参政権運動に身を捧げています。彼女が戦ったおかげで、奴隷制が廃止されたり、女性に参政権が認められて、ハリエットはアメリカの新紙幣の肖像画に採用されるほどの人物になりました。めでたしめでたし。


とは、私は言いたくありません。なぜならハリエットが戦っているからです。確かに戦うことは大事ですが、やられたらやり返すでは戦争はなくなりません。ハリエットに率いられた黒人兵士は白人を殺しているでしょうし。かと言って声を上げずに我慢していては、奴隷制廃止はさらに遅れていたでしょうし……。戦っても戦わなくても、どちらを選んでもモヤモヤします。


たぶん一番悪いのは奴隷制そのものなんでしょうね。制度で合法化されなければ、黒人ばかりが奴隷になることはなかったかもしれませんし。黒人を奴隷にしていた白人を擁護する気は全くないですが、黒人奴隷がいないと農場が成り立たないシステムになっていたことを考えると、彼らも一様に悪いとは言えません。全ては制度が悪いのです。でも、その制度を作り出したのも人間なわけで......。難しいですね。平和って遠いなと、この映画を見て考えさせられました。 




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以上で感想は終了となります。映画『ハリエット』。いささか理想的過ぎる部分はありますが、当時の黒人がどんな思いで過ごしていたのかを知ることができる映画だと思います。興味のある方は観てみてはいかがでしょうか。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい 


ハリエット
テレンス・プランチャード
Rambling RECORDS
2020-03-25



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