こんにちは。これです。今回のブログも映画の感想になります。


ファーストデーでの映画鑑賞2本目は『#ハンド全力』。この映画を監督したのは松居大悟監督。松居監督といえば、個人的にはDVDで観た『アイスと雨音』がとんでもなく面白かったので、新作の『#ハンド全力』も機会があればぜひ観たいなと思ってたんですよね。まあ観るには電車に揺られて松本まで行かなきゃなりませんでしたけど。


それでは感想を始めます。拙い文章ですが、何卒よろしくお願いします。




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ーあらすじー

熊本県の仮設住宅で暮らす清田マサオ(加藤清史郎)は、夢中になれるものもなく、高校卒業後の進路も決められずにいた。しかし何気なくSNSに投稿した写真でその生活は一変! それは三年前の震災直後、ハンドボール部員だった頃に親友タイチ(甲斐翔真)と撮った、ジャンプシュート中の“映える”一枚だった。投稿を直近の写真だと誤解した全国のユーザーから続々と応援コメントが寄せられ、「イイね!」の数は増える一方。舞い上がったマサオと幼馴染の岡本(醍醐虎汰朗)は、ハッシュタグ「#ハンド全力」をつけた投稿を続けることにする。
ハンドボールを頑張るフリをした写真や動画を“ねつ造”しては、「イイね!」が増えるよう、マサオたちは工夫と試行錯誤を重ねる。ついには噂を聞きつけた男子ハンドボール部長の島田(佐藤緋美)にスカウトされ、フォロワー戦略として入部することに!
最後のインターハイ出場に挑む島田のもとに、休部中の片山先輩(磯邊蓮登)やクラスメイトの林田(岩本晟夢)、マサオが密かに思いを寄せる女子ハンドボール部のエース・七尾(芋生 悠)を姉に持つ次郎(鈴木 福)、東京から来たダンサー志望の蔵久(坂東龍汰)が集まり、チーム7人が揃った。
果たしてマサオたちはSNSで廃部寸前の男子ハンドボール部を復活させることができるのか――!?

(映画『#ハンド全力』公式サイトより引用)




映画情報は公式サイトをご覧ください。




※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。



00年代に登場し、今ではすっかり人々の生活に浸透したSNS。顔も名前も知らない人と簡単に繋がれるようになった一方、日々バズったバズらなかったの競争に匿名性を盾にしたクソリプ、カスDM、罵詈雑言の数々に疲れている人も多いのではないでしょうか。しかし、10代の人たちから見ればSNSは物心ついた時から存在していたものであり、そう易々と切り離せるものではありません。

そんなSNS×スポーツの映画が『#ハンド全力』。ひょんなことからバズってしまったハンドボール部員たちのドタバタを描いています。しかし、この映画観てみたら意外や意外、青春映画にとどまるだけでなく、SNS論や震災からの復興映画という側面も持っていたのです。想像以上に真面目に作られているという印象を受けました。


この映画で主人公である清田マサオを演じたのは加藤清史郎さん。かつて「こども店長」として名を馳せ(られ)た彼ですが、時が経つのは早いものでもう18歳です。SNSに振り回されるマサオの空虚さと震災を経験したことによる諦めを長年の経験を生かして過不足なく表現。迷いに迷う姿は痛々しささえ感じるほどで、いい感じにこの映画に影を持ち込んでいましたね。今後どういう役を演じるのか楽しみになりました。


マサオの幼なじみであり、一緒にSNSを運用していく岡本を演じたのは醍醐虎汰朗さん。『天気の子』でのボイスアクトが記憶に新しいですが、恥ずかしながら個人的には実写で観たのは初めて。物差しがないため何がハマり役かは分かりませんが、それでも眼鏡をかけてマサオとともに調子に乗っていく岡本を飾りすぎることなく演じていました。ブレーキ役になるかと思いきや全然ならないんですよね。そこが少し意外で面白かったです。


個人的にはこの2人を主演に据えたのけっこう恣意的だなって感じていて。ほらこの2人って、こども店長や森嶋帆高という強いイメージがあるじゃないですか。「こうあるべき」という姿が固まっているというか。でも、後述しますけどこの映画って「あるべき」論からの脱却がテーマの一つになっていると思うんです。思えば、この2人はそのテーマを表すにはうってつけの存在だったと映画を観終わってから感じました。


他にも坂東龍汰さんや蒔田彩珠さん、芋生悠さんなど注目の若手俳優さんがこの映画には出演。佐藤緋美さんや甲斐翔真さんなどニューフェイスも適材適所の活躍。さらに成長した鈴木福さんの中坊っぷりもいい。これから大きく羽ばたきそうな俳優さんたちの「今」しかできない演技が見られるのはなかなか貴重なことだと思いました。


さらに脇を固める大人のキャストが、仲野太賀さん、篠原篤さん、志田未来さん、安達祐実さん。さらにふせえりさんに田口トモロヲさんと意外と豪華なのも見どころ。特に志田さんはイメージにないようなあっからかんとした役を演じており、びっくりしました。若手俳優陣をこういったベテラン俳優さんたちがしっかりと支えているため、安心して観ることができます。




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さて、ここからは映画のストーリーについて書いていきましょう。高校生であり日々にやや倦みがちだったマサオは、軽い気持ちでインスタにかつてハンドボールをしていた仲間の写真を投稿。なぜかこれにいいねが多くつき図に乗ったマサオは幼なじみの岡本を巻き込んで、「#ハンド全力」のハッシュタグをつけて、次々と「映える」写真を投稿していきます


(どうでもいいけど「インスタグラム」とか「ティックトック」とか実際のSNSをそのまま登場させているのには結構驚いた。名前を変えて登場させている映画が少なくないから)


震災からの復興×ハンドボールというスポーツのレアさが受けてインスタのいいねもフォロワー数もグングン増加。しかし、勢いに少しずつ翳りが見え始め、新たな展開が必要に。そこで2人は男子ハンドボール部の島田(佐藤緋美)を使うことを思いつきます。そのままなし崩し的にハンドボール部に入部することになる2人。部員はそこから1人増え、また1人増えとついにはハンドボールの試合ができる7人にまで達しました。


7人揃った男子ハンドボール部。試合に向けた練習をするのかと思いきや、ひたすら「映える」写真を撮ることに終始して、全くハンドボールをしません。真面目にハンドボールをする女子部とのコントラストには思わず笑いがこみ上げてきてしまいます。すごく滑稽でしたよね。まあそのノリが前半少しキツイなと感じてしまったんですけど。彼ら、パンツに喜ぶ低俗な高校生ですし。


でも、どうして彼らが「映える」写真を撮っていたかというと、それをフォロワーやユーザーが所望していたからなんですよね。SNSではあるユーザーを好奇の対象とみなすと、多面的な人間をある一面にだけ当てはめてもてはやす傾向があると個人的には感じます。高校生は高校生らしくしていろと言いますか。一定の役割を与えられて、そこから外れた行為が炎上と叩かれるのだと思います。


だから彼らはその役割を必死に演じるんですよね。内面なんてどうでもいい。ひたすらに「映える」写真を投稿して、いいねを稼ぐ彼ら。その姿はとても空虚で滑稽で。目的なんてなかったはずなのに、いつの間にか「復興」という大義名分がついて自分の首を絞めてしまっている。役割から逃れられなくなっている。









そして、これは被災地も同じであると私は感じました。被災者はうんと悲しんで、うんと泣いて、また新たな一歩を踏み出す。そういう分かりやすいストーリーがオンラインオフライン問わず語られがちです。仮設住宅はさっさと出ていくところで、被災者は助け合うもの。それを見て安全圏にいる私たちは気持ちよさを感じる。


でも、現実は違うわけですよ。火事場泥棒だってありますし、仮設住宅で暮らすことを選んでいる人もいる。いつまでも悲しい顔しているわけじゃないけど、そうそう歩き出せるような気持ちになれない人だっている。SNSの一面性とは違い多面的なわけですよ。


それを象徴していたのが、ピースのおじいちゃんが亡くなった後のシーンですよね。葬式を終えた住民たちは、プレハブにカラオケを入れて楽しんでいるんです。人が死んだら悲しんで静かに偲ぶべきという「あるべき」論に真っ向から対立しているんですよね。


でも、湿っぽくなることなく故人の思い出を明るい替え歌にして歌っているシーンは素直に感動しましたし、私が死んだらこう弔ってほしいなとすら思いました。SNSに対する最大限の皮肉ですね。




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また、SNSだけじゃなくてリアルでも役割ってあると思うんですよ。個人的には。それを象徴していたのが女子ハンドボール部のエースである七尾(芋生悠)ですね。


彼女、靭帯を断裂してしまってインターハイに出られなくなってしまうんですけど、マサオとの2人のシーンで「期待されるのが、がんばれって言われるのが苦しかった」というようなことを言ってるんですよね。「こうあるべき」という姿にはめられて、その姿を痛みを我慢してまで演じ続けて。SNSとリアルの共通性を見出すこの展開はなかなか洞察が深いなぁと勝手に関心してしまいました。


でも、その役割を演じることで助かる人もいるということを描いているのがこの映画のいいところ。女子ハンドボール部がインターハイに出場できたのは七尾が柱となって奮闘した結果でしょうし、マサオの親友であるタイチは「#ハンド全力」の投稿に勇気づけられたと語っていますし、SNSも悪いことばかりではありません。SNSを一方的に悪者として描いていないところは好感度高いです。









この感想も長くなってきたので、そろそろまとめに入りたいと思います。この映画で私が一番印象に残ったのが「本当に全力なヤツは全力って言わない」というセリフでした。確かに本当に一生懸命な人は、自分頑張ってるアピールをあまりしない気がします。頑張ってるアピールをするのは、自分が全力だと認めてほしいからだと。


でも、私たちは全力で生きてるとは言いませんよね。いや私は逃げてだらけてぐだ巻いて生きてるんですが、この映画の登場人物は私の目からは全員が全力で生きてるように感じられました。別に被災した云々は関係なくて、人間として普遍的な営みなのでしょう。


その人々の「全力」に当てられたマサオが演技じゃなくて本当に全力でハンドボールに取り組むというストーリー展開は、王道であるがゆえに胸がすくような思いがします。誰もが全力で生きてるとするならば、それは特別に主張することでもない。


最後に七尾がハッシュタグを消して投稿したシーンでは、マサオも全力でハンドボールに取り組む、いや生きることができるようになったのだとエモーショナルな思いがしました。終わり方も最高でしたし、観終わったあとは実に快い気分でスクリーンを後にすることができました。ノリに振り落とされそうにもなりましたが、最後まで観ることができてよかったです。



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以上で感想は終了となります。映画『#ハンド全力』少しノリがキツいかなという部分もありますが、それさえ乗り越えられれば十分に楽しめる一作になっていると思います。興味のある方は観てみてはいかがでしょうか。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい



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