こんにちは。これです。立て続けの投稿である今回のブログも映画の感想になります。


今回観た映画は『アルプススタンドのはしの方』。教室の隅で霞を食うような学生時代を過ごした私は、この映画の存在を知ってから観たいなと惹きつけられていたんですよね。松本でやってくれるということで遠路はるばる観に行きましたが、観終わってその甲斐があったなと感じました。かなり好きな映画でした。


それでは感想を始めます。拙い文章ですが、よろしくお願いします。



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ーあらすじー

高校野球・夏の甲子園一回戦。夢の舞台でスポットライトを浴びている選手たちを観客席の端っこから見つめる冴えない4人。「しょうがない」と最初から勝負を諦めていた演劇部の安田と田宮、ベンチウォーマーの矢野を馬鹿にする元野球部の藤野、エースの園田に密かに想いを寄せる宮下の4人だったが、それぞれの想いが交差し、先の読めない試合展開と共にいつしか熱を帯びていく……。

(映画『アルプススタンドのはしの方』公式サイトより引用)



映画情報は公式サイトをご覧ください。






※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。







元々は高校演劇が原作のこの映画。首都圏等の一部地域では1週間前の7月24日に公開。すると始まるやいなやSNSでは好評が相次ぎ、Filmarksでも初日満足度1位を獲得。元々観るつもりではあったのですが、あまりの評判の高さに期待も膨らんでいきました。


そして、観たところその高い期待を上回る映画となっていました。もう本当私は冴えない学生時代を過ごして、楽しいことと辛いことが1:9みたいな感じだったんですけど、この映画はそんな主役になることはできない者たちにスポットライトが当たっていて、そのあまりの眩しさに目がくらみ、思わず泣き出しそうになりました。私もこういった学生時代送りたかったなって。


舞台は甲子園球場。しかし、球児たちが熱戦を繰り広げるグラウンドではなく、アルプススタンドと呼ばれる観客席。それも華やかに見える吹奏楽部や悔しい気持ちを呑み込んで応援する野球部が陣取る中央ではなく、目立たない最上段の端っこです。


東入間高校の生徒全員が応援に駆り出されていて、それは今作のメインである安田藤野田宮宮下の4人も例外ではありませんでした。


安田と田宮は演劇部に所属していて、無理やり連れてこられたことに不満たらたらです。「野球部のヤツらはなんか偉そう」と敵対視までする始末。分かる…分かるぞ。その気持ち。私の学生時代も学校のグラウンドはほとんど野球部の独占状態だったからな…。野球部ってだけで何かのステータスを得たように振る舞うんだよアイツら…。


まあそれはさておき、この映画で安田を演じたのは小野莉奈さん、田宮を演じたのは西本まりんさんです。恥ずかしながら個人的に小野さんははじめまして。西本さんも『そうして私たちはプールに金魚を、』でうっすら観たことある程度でした。

でも観ていて、2人ともいい感じに諦めていて、冷めていて、でも仲が悪いわけではない微妙なムードはまさにディスイズ女子高生という感じでした。映画が進むにつれて熱くなるんですけど、そこもいきなり感はあまりなかったですしね。



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そして、その隣には元野球部の藤野がいます。彼はピッチャーでしたが、ライバルでエースである園田の壁は高く、途中で挫けて退部してしまったというキャラクターです。これも運動神経悪いのにサッカー部に入っていて、高2のときに辞めてしまった私からすれば他人事とは思えません。


彼を演じた平井亜門さんは嫉妬や羨望等々の感情がごちゃ混ぜになった藤野を、重くなりすぎないように丁寧に演じていた印象があります。イケメンなんですけど、爽やかすぎない雰囲気も好きでした。


また最上段で見守るのは帰宅部の宮下。学年でも成績がトップクラスという勉強家ですが、気弱で応援は全く得意ではない様子。燦燦と降り注ぐ太陽の下も似合わず、全員参加という名目の連れてこられた悲哀を立ち姿からしてまとっています。


個人的にはこれも分かってしまうかなぁ。私も勉強はできなくはなかったんですけど、勉強ができるよりも部活とかに熱中して友達がいっぱいいた方がいいだろみたいに腐ってましたから。宮下は辛うじて腐ってはいなかったですけど、演じた中村守里さんは周囲に溶け込めないオーラを放っていて、宮下というキャラクターにリアリティを加えていましたね。


さて、この4人は表舞台に立つこともできなければ、クラスの中心になることもできない、いわゆるその他大勢と言うことができるでしょう。グラウンドに立てる9人+αの野球部や、スタンドで注目を集める吹奏楽部とはまるで違います。選ばれなかった者たちとも言い換えてもいいかもしれません。


でも、実際学校や社会においては選ばれなかったその他大勢が大多数を占めているんですよね。そういった人たちが選ばれた、キラキラ輝いて見える人たちを前にしたときの反応は大きく分けて2つ自分とは違う世界の住人だからと諦めるか、俺や私の苦労をアイツらは分かってない、苦労している私の方が偉いんだと自分を守って慰めるかのどちらかだと思います。
 







この映画で登場した選ばれた者といえば、姿が映らない野球部の面々の他に、花形のトランペット担当で吹奏楽部長、さらに勉強も学年一位とまさに文武両道を地で行く久住でしょう。彼女はキラキラした存在で、いつもクラスの中心にいるようなキャラクター。演じた黒木ひかりさんはパッと見で分かる華と爽やかさがあり、これは人目を引くだろうなという久住の人物像に説得力を与えていました。


でも、そんな久住は久住で真ん中でいるためにそれなりの苦労と努力をしているんですよね。宮下にスポーツドリンクを渡すシーンにそのことが現れています。向こうから歩み寄ってくれているのに、宮下はそれを拒否する。それは勉強もできて、さらに吹奏楽部長も務める久住を認めてしまったら、勉強しかできない自分が惨めったらしく感じられてしまうと思ったのかもしれません。


また、藤野は下手くそでも野球を続けている矢野よりも途中で辞めた自分の方が正しいと正当化していますし、安田と田宮は部員がインフルエンザにかかってしまい、大会に出場できなかった経験から、どんなにがんばっても結果として実を結ばなければ意味がないと諦めてしまっています。4人は今の状況になったのは自分のせいじゃない、自分にはどうしようもない運命めいたもののせいだと自らに言い聞かせているように私には見えました。


しかし、それはグラウンドの上で戦っている野球部も同じ。一介の公立高校にすぎない東入間高校と違って、相手は甲子園の常連校。プロ注目の有望選手も抱えています。奇跡が起きない限り、東入間に勝ち目は薄い


でも、野球部が投げ出すかといえばそんなわけはないんですよね。相手は同じ高校生なんだからきっと勝てると信じて必死に戦う。この映画ではそんな彼らの姿はついぞ映されませんでしたけど、この映画に主役も脇役の境目なんてやいということを考えれば、意味のある演出だったと思います。




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野球部の姿を見てわずかに心を動かされていく4人。しかし、4人が決定的に変わるきっかけとなったのは、やはりこの映画の主役の1人ともいえる厚木先生の存在があったからでしょう。


この厚木先生は熱血を絵に描いたようようなキャラクター。みんなで一丸となって一つのことを成し遂げるという青春信仰に囚われ、乗り気でない4人も「精一杯声出せ」と迫ります。正直言ってうざったいことこの上ないキャラクターです。

それでも厚木先生だって選ばれなかったその他大勢に属しているので、憎むことなんてできるはずがありません。野球部の顧問をやりたかったのに、茶道部の顧問をしてますからね。彼を演じた目次立樹さんも純粋で悪気のない厚木先生を芯で捉えていて、同情も誘うキャラクターにしていましたしね。


厚木先生は必死に声を出しすぎて、喉を痛めてしまいます。それはもう血を吐くほど。でも、格上に立ち向かう野球部の姿や久住の心情の吐露、そして声を枯らす厚木先生などいくつもの熱情に当てられて少しずつ心動かされていく4人。


とどめに厚木先生の「しょうがないことなんてない」という言葉を聞いて、堰を切ったように安田が頑張れと声を上げる。この映画の最大の転換点で、もうここからは感動のラッシュでしたね。できうる限りの声を出して応援する4人には鳥肌が立ちました。








前述したように、安田と田宮は部員のインフルエンザにより大会に出ることができませんでした。演劇の大会は全国大会が翌年の夏に行われ、3年になる安田と田宮は出場できません。ラストチャンスを不可抗力によって2人は逃してしまったわけです。


しょうがないことだと自らに言い聞かせて納得していた2人。舞台に立てなければ意味がないと諦めていた2人。でも、安田は声を上げたわけですよ。舞台に上がれなくても、クラスの中心になれなくてもできることはあると。頑張れという声は誰にも止める権利はない。言うだけ自由だと。


そして、感動的なのがこの安田の声援によって野球部が息を吹き返しはじめるということです。少しできすぎ感はありますが、それでも安田の率直な気持ちが伝わったのだと感動しました。次々に声を上げる4人。この日一番の演奏をする吹奏楽部。それに呼応するように巻き返す野球部。


そこには一握りの選ばれし者とその他大勢という区別はなくなっています。モテモテの野球部のエースも、文武両道のキラキラ女子も、不可抗力に諦めかけていた4人も、うざいくらい熱血な先生も、みんな地続きで同じ空の下。画面にはうねるような一体感が生まれて、私はどんどんとスクリーンに引き寄せられていきました。


そして、「しょうがないことなんてない」という言葉を体現するかのように、ずっと補欠で藤野から下手くそと評される矢野がついに打席に立ちます。矢野に課せられたサインは送りバント。矢野は見事その指示を完遂し、間接的にですが東入間に1点をもたらしました。


この試合で東入間が挙げた得点は2点。もう一点は犠牲フライによるものです。この2点に共通するのは自らがアウトになってまで、チームに貢献したバッターの存在があったということ。胸を張れるような主役じゃなくても、その他大勢の一人に過ぎなくてもできることはあるというメッセージを伝えてくれているように私には感じました。とても優しいメッセージで励まされた思いがします。



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この映画では、ラストシーンでも4人は注目されるような人物にはなっていません。だからといってそれが何だっていうんですか。地味でも輝けなくてもいいじゃないか。あの夏の日の出来事は4人に確かな変化をもたらし、私自身のつまらない過去ですらちょっと救われました。


私は胸がすくような、世界が開けたような気持ちで映画館を後にすることができましたし、ぜひとも多くの方に観ていただきたい映画だと心から感じました。秀作であり、快作です。



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以上で感想は終了となります。映画『アルプススタンドのはしの方』、輝かしい学生時代を送れなかったその他大勢の人を元気づけるような映画でした。眩しくて清々しいです。85分と上映時間もコンパクトですし、よろしければ十分注意した上で、映画館でご覧ください。お勧めです。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい





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