Subhuman

ものすごく薄くて、ありえないほど浅いブログ。 Twitter → @Ritalin_203

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こんにちは。これです。


コロナ禍は今年も収まりませんでしたね。ワクチン接種が進み、やっと落ち着いてきたかと思ったら、オミクロン株が出てきて、欧米ではこのタイミングで感染者数の過去最多を更新したりして。年末年始は人の移動も多いですし、年明けが今から心配です。このコロナ禍はいったいいつ終わるんでしょうか。来年には終わって、マスクなしで外出できるようになるといいですね。


さて、映画界も今年は引き続きコロナの影響を受けまくりました。いくつかの映画は延期になり、また大作洋画などは数度の延期を経てようやく公開したり。さらには、ここ数年のトレンドである配信サービスの躍進も今年はより印象的で、多くのNetflix映画が映画館で上映されました。まだまだステイホームが推奨されるなかで、映画館にも少数の大作映画を除いて、なかなか客足が戻ってこず寂しい限りです。


ただ、そんな中でも私は下半期も相変わらず、映画館に足を運び続けました。今年観た映画は201本。キリがいい200本から少しはみ出してしまいました。去年は137本だったので、およそ1.5倍ですね。ブログをなかなか書かなくなった分、映画鑑賞に避ける時間が増えたのはなんとも皮肉なことです。


では、発表をはじめるにあたって、ここでいつもの選考基準の説明をしたいと思います。


1.2021年1月1日~2021年12月31日までに映画館で鑑賞した映画であること
2.個人的な好きという気持ちを最優先にすること



今の時代いつまで映画館にこだわってんだと言われるかもしれませんが、個人的にはパソコンやスマートフォンの画面で見る映画って気分が乗らないんですよね。他の物にも目が移ってあまり集中できないですし。その点映画館は映画にだけ集中できる環境が整っていますし、音響も自宅よりずっといい。没入感が段違いなわけですよ。だから、映画館での鑑賞とそれ以外での鑑賞を同じ土俵に乗せて考えるのは、私にはまだできません。なので、今回も「映画館で」という条件をつけさせていただきます。


それと、二つ目については個人的な感情を最優先にした方が、バラエティに富んでいて面白いなというただそれだけの理由です。興行ランキングと個人的なベスト10っていうのは違いますからね。今回もあまり興行ランキングには顔を出さなかった作品を中心に、個人的嗜好丸出しで選考させていただきました。


それでは、ランキングの発表を始めます!果たして1位に輝いたのはどの映画なのでしょうか!?


※ちなみに去年および今年の上半期と下半期のベスト10は以下の記事をご参照ください。











第10位:明け方の若者たち


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第10位にランクインしたのは、まさに今日、大みそかに公開された邦画です。はじめに言っておきますと、この映画を選んだのは大みそか公開だから年間ベスト10に選ばれるのが難しくて不利だな、という同情心からではありません。純粋に大好きな映画だからです。後述しますが、今年を締めくくるにふさわしい良作でした。


この映画は「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」という16文字から始まった<僕>と<彼女>との沼のような5年間を描いています。この映画で<僕>を演じたのは、今年も『東京リベンジャーズ』や『砕け散るところを見せてあげる』など数々の映画で活躍した北村匠海さん。大学時代は夢を語り、就職してからは理想と現実のギャップに打ちのめされる<僕>を、持ち前の乾いた雰囲気で演じています。特に失恋してからの佇まいが良かったですね。ベッドの上で独白をするシーンでは涙腺が刺激されました。


でも、それ以上にこの映画で印象的だったのは<彼女>を演じた黒島結菜さんです。<僕>の誘い方から、公園での飲み方。明るく振る舞っていながら、秘密を抱える<彼女>は、もはやいわゆる男性の理想の具現化ではないかと思うくらい、あざと可愛すぎました。特に前半は黒島さんのキュートさに網膜が焼かれまくり、全ての感情が死滅して「黒島さん可愛い」としか考えられなくなりました。滑り込みですが、今年の日本アカデミー賞などの主演女優賞争いもなかなか良いところまでいくのではないかと思います。というかいかなきゃおかしい。


またストーリーも良くて。言ってしまえば、二人の関係はインモラルなものだったんですけど、そこに遅れてきた青春の全てがあったんですよね。公園で飲んで、一緒にバッティングセンターに行って、あてもない旅行をして。それが実は薄氷の上に成り立っていたことが、映画の中盤で明かされるのですが、<僕>にとっては外からは刺激的に見える日々も、ひどく退屈なものに映っていて。青春って後から振り返ればかけがえのないものですけど、渦中にいる間は案外つまらないものでもあるんですよね。でも、それは夜を経て朝が来るように、人生には必要な時間で。そのことを体現するラストはベタではあるんですけど、エンディングの入り方も含めて、グッときました。


さらに、この映画は音楽も素晴らしい。劇伴はもちろん、挿入歌の選曲が抜群で。キリンジとかきのこ帝国とか、頭の中を覗かれたのかな?というぐらい私にハマりまくりました。それもただ曖昧に使うのではなく、ちゃんと映画に沿った選曲にしている。とくにマカロニえんぴつの挿入歌が流れるシーンは、明け方の街を駆け出す同僚も含めた三人の姿に思わず泣きそうになってしまいました。サントラが出たらぜひほしいですね。


それにこの映画は大みそか公開なんですけど、図らずとも今年の邦画を振り返るのにベストなタイミングでの公開だったんですよ。明大前で出会うのは『花束みたいな恋をした』っぽいですし、下北沢が出てくるのは『街の上で』っぽい。RADWIMPSやヴィレッジヴァンガードなどサブカルの出し方は『ボクたちはみんな大人になれなかった』と通じる部分がある。でも、これら今年を代表する邦画のどれにも負けない出来栄えで、松本花奈監督、よくぞ撮ってくれたと思います。惜しむらくはもう一日早く公開されていれば、もっと多くの人に今年中にこの映画を観てもらえたのに。それだけが少し心残りですが、終わり良ければすべて良しです。まさに今、全国の映画館で公開中ですので、年明けにもぜひご覧ください。










第9位:劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト


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上半期の10位が年間ベスト10に生き残りました。今年一番観た(3回)映画です。


Filmarksの初日満足度が1位で、ファンしか観ていないとはいえ、その評価の高さが気になって、その次の日にたまたま時間が合ったので、完全初見にも関わらず観に行きました。フライヤーに「初見でも分かります」と書いてあったので、「本当だな?その言葉信じるぞ」と思いながら観たのですが、全くもって一ミリも分かりませんでしたね。とにかくバキバキに決まった映像にぶっ飛ばされました。こんなもの初見で分かるわけがありません。でも、観終わった後の興奮が凄かったですね。とんでもないもの観たなと。


この映画の舞台は、私立聖翔音楽学園という演劇を学ぶ学校。今思い出してもわけが分からないオープニングの後には、メインキャラクターが進路相談という名目で、次々に自己紹介をしてくれます。まあ初見で9人を把握するのは難しいですけど、一見さんへの配慮ですね。それからは主人公の愛城華恋とその幼馴染の神楽ひかりの回想を挟みながら、それぞれの進路を考えていく話なのかなと思わせといての、電車のシーンですよ。


いきなり電車がステージに変形したと思うと、画面には「ワイルドスクリーンバロック」という謎の文字列が。がっちりとした歌も流れて、大場ななというキャラクターが、仲間たちに攻撃を仕掛けるという、一目見て飲み込めるはずがない映像が展開されます。この映画では生徒同士の諍いや感情を、レヴューという演劇に乗せて語ります。


デコトラ、清水の舞台、オリンピック、ハラキリ、東京タワーなど何でもありのやりたい放題です。システム自体は、観ていると何となく飲み込めてくるものの、なぜ武器を持って戦っているのかは、全く分かりません。だけれど、アクションも冴えてるし、何より面白いからヨシ!と、ねじ伏せられてしまいました。口上もかっこいいですし、何度でも観たくなる魅力がありましたね。


だけれど、ぶっ飛んでいるようで、骨格的には卒業後どうするかという進路の話なので、意外と地に足はついています。最後は清々しい気分になります。初見でも分かるとはとても言えませんが、映画館で見るべき映画だと思うので、興味があればぜひ観てほしいです。まだ東京の方の映画館ではやっているようですし。それと、ソフトが絶賛発売中で、Amazon Prime Videoなどでも配信中ですので、年末年始もしお時間があるようでしたらぜひどうぞ。










第8位:女たち


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こちらも上半期の8位だったのですが、年間ベスト10に選出させていただきました。公開規模はあまり大きくなかったのですが、素晴らしい映画だったと思います。


タイトル通り、2020年の現代に翻弄される女性たちを描いたこの映画。主演の篠原ゆき子さんをはじめ、倉科カナさんや高畑淳子さんなどの女優さんが新境地を開拓しています。なかでも倉科カナさんが良かったですね。特に終盤の長回しのシーンはイメージとは全く違う表情を見せていて、びっくりしました。もっと出演作チェックしておくべきだったなと思いました。


また、この映画の一番の特徴は、映画の中にコロナ禍を取り入れていることです。この映画では冒頭にニュースでコロナ禍であることがはっきりと示され、登場人物たちはマスクをし、手が触れるところを消毒し、二枚のアベノマスクが配られます。私は常々、映画はもっとコロナ禍を取り入れてもいいなと思っているのですが、それはあとで見返したときに「あの時はこうだったな」という記録的価値が出るためなんですね。しかし、映画は制作期間が長いため、なかなか難しい部分もあります。ただ、この映画は企画から公開までに一年ほどしかかかっていない。このスピード感は称賛されるべきだと思います。


そして、今もなおコロナ禍の真っ最中のこの時期に公開したことで、この映画は時代との計り知れない同時性を獲得しています。登場人物が私たちと同じようにコロナ禍に置かれることで、現実と少しも変わりないように思えるのです。苦しみや憤りがダイレクトに伝わってくるのです。


いつになるかは分かりませんが、この映画が配信等される時には、社会はどうなっているか分かりません。ワクチンが行きわたってコロナ禍が終息しているかもしれないし、変異株がさらに猛威を振るっている可能性もあります。だからこそ、『女たち』はまだコロナ禍真っ最中の今、映画館で観ることに大きな意味があると思いました。


映画館での上映は終わりましたが、現在ソフトが発売&レンタル中。内容的にも素晴らしいですし、興味があればぜひどうぞ。

















第7位:映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園


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ここ数年安定して良作を生み出しているしんちゃん映画が今年も7位にランクインです。


今年のしんちゃん映画は学園を舞台にした本格風ミステリー。エリート学校・天下統一カスカベ学園、通称天カス学園に体験入学したしんのすけたち5人。その学校はAIによって管理された近未来的な学園でした。良い行いをするとエリートポイントがたまっていき、そのポイントに応じてクラス分け等がされています。ミステリーで興味を引き付けておいて、管理社会やエリート層・非エリート層で二分された世界を痛烈に皮肉る様は、まさに爽快の一言。そこを打破していくのが、しんのすけと風間くんの友情であるのもまたアツい展開です。


天カス学園では、おしりを吸う吸ケツ鬼の噂がまことしやかに囁かれていました。その吸ケツ鬼の被害に遭っておバカになってしまった風間くん。しんのすけたちは吸ケツ鬼の正体を探していくというのがこの映画のストーリーなのですが、素晴らしいのが複数のゲストキャラが全員キャラが立っているということなんですよね。ポスターにも数人生徒キャラがいますけれど、観ればその全員に愛着が湧くようになっている。しかして、一人残らず怪しいという。この映画は本格「風」を謳っていますけれど、お話に出てきた手掛かりでちゃんと犯人を推理できるようになっているんですよね。伏線の張り方も巧みで、「風」を外してもいいんじゃないかと思うくらい。そして、犯人を突き止めた後はストーリーは予期せぬ展開へ。当初の中目標を達成したら、違う大目標が出てくるというストーリーのツボを押さえていて、これを104分で収めているというのは、正直訳が分からないです。今年のベスト脚本賞と言ってもいいんじゃないでしょうか。うえのきみこさんマジ凄い。


さらに、私がこの映画で一番好きなのが、「別れ」の予感を漂わせているということ。言うまでもなくしんちゃん世界はサザエさん時空ですから、しんのすけたちは永遠に年を取ることはありません。しかし、お受験家庭の風間くんと他の4人では、別の小学校に通うであろうことはなんとなく察しがつきます。そう察しがついてしまうからこそ、風間くんの「いつかはバラバラになってしまうんだ」(意訳)という言葉が胸に響く。私もそれなりの年齢ですから、いくつかの別れは経験しているので、ものすごく共感してしまいました。これは大人だからこそ響きますよ…!


というわけで、今年のしんちゃん映画も傑作でした。来年の『もののけニンジャ珍風伝』も超楽しみです。










第6位:すくってごらん


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第6位にランクインしたのは、今年一番ぶっとんでいたこの映画です。


目立ちこそしませんでしたが、実は公開前からひそかに期待していた映画でした。『魔女見習いをさがして』で百田夏菜子さんには良いイメージを持っていましたし。ただ、シネコンでやる勝算が見えないなと心配しながら、観に行ったのですが、そのぶっとんだ内容に完全ノックアウトされてしまいました。今年一番狂っていた映画だと思います。


金魚すくいを題材にしていて、左遷されてきた銀行員が地方に馴染んでいくという良くあるストーリーなのかと思いきや、その味付けの仕方が独特で。なんとミュージカル仕立てなのです。どの曲も抜群に良く、メインの俳優さんも歌が上手く、百田さんのピアノも様になっていて、飽きる隙を与えません。最初は心の声を字幕にすんなや、歌詞出すなやMVちゃうねんぞと乗り切れていなかったのですが、だんだんと基準が壊れていく様は、観ていて気持ちが良かったですね。まあ90分ほどの映画なのにもかかわらず、休憩があるのは謎ですが。


演出はかなり奇抜ですが、小赤を脱落組に見立てたり、ポイの破れと人生における失敗を上手く被せていたり、メッセージ性もちゃんとあり、考えられているのもポイントが高い。起と承はしっかり(?)してるんです。転でマサルさんになって、結でボーボボになるだけで。それでも、タイトルの出し方は格好良かったですし、今年あと何本映画を観ても、この映画のことは忘れないだろうというインパクトがありました。記録よりも記憶に残る映画です。


この映画を上位に置くことでシネフィルな人たちから、総スカンをくらっても本望だと思いました。こちらも現在ソフトが発売&レンタル中。唯一無二のイカれた世界をぜひどうぞ。










第5位:きまじめ楽隊のぼんやり戦争


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今年単位で見ても、確実にベスト争いをするのではないかと観終わった直後に思った大傑作が5位にランクインです。


舞台は9時から5時まで規則正しく戦争をしている町。ロボットみたいにガチガチに動くキャラクターに、お役所仕事で融通が利かない軍隊。どんな脅威かも忘れて戦争をしている。盗みをしたのに、市長の息子だからと警察になれる。打たれて片腕を失っても、感情に大きな変化はなし。女性は子供を産む道具としか見られていない。平坦な話し方は癖になり、そのブラックユーモアに思わず笑いが込み上げてしまいますが、冷静に考えたら笑えるところなんて、こぼれ落ちる白米ぐらいしかない。今の二本や世界を痛烈に皮肉っていて、その刃の切れ味が最高でした。


主人公は前線に出て、銃を打っていましたが、ある日楽隊への移動を命じられてしまいます。この楽隊に辿り着く過程も面白かったのですが、楽隊に辿り着いてからはきたろうさんのキャラクターもあり、面白さのギアが一段階上がっていきます。しかし、楽隊の仕事は軍隊を勇気づけること。かつて、日本でも戦時中に映画は国威発揚の道具として用いられていましたが、歴史は繰り返すのだと思わずにはいられません。


また、主人公は向こう岸の住人と音楽で心を通い合わせますが、最終的にはそれも何の役に立たず。今の文化芸術が真っ先に制限されているコロナ禍の状況さえも、意図的にではないにしても反映していて、その先見性に身震いがしました。文化芸術で世の中は変えられないというショッキングなラストは、観終わった後思わず放心状態になってしまうほどインパクトのあるもの。最悪に最悪を塗り重ねたあの終幕は、しばらくは忘れようとしても忘れることができないでしょう。


ユーモアを隠れ蓑にして、戦争の愚かさ、醜さ、滑稽さを描き切ったこの映画は、一人でも多くの方に観てもらいたいです。こちらの映画も現在ソフトが発売&レンタル中ですので、よろしければぜひ。










第4位:彼女が好きなものは


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第4位は年末になってダークホースのように現れた、ゲイと腐女子の相互理解の映画です。


高校生の安藤純。彼はゲイであることを隠しながら、日々を送っていました。ある日彼は書店でクラスメイトの三浦紗枝がBL漫画を購入しているところに出くわします。紗枝もまたBL好きを隠していて、誰にも言わない代わりに二人の距離は近づき始めます。自分も"ふつう"の人生を歩めるのではないかと期待する純。しかし、事はそううまくは運ばず…。


このストーリーを見ると、昨今雨後の筍のように制作されているLGBT映画の一つと思われるかもしれます。ただ、この映画が秀でているのはまず単純に映画としての出来が良いことが挙げられます。伏線回収も嫌味ったらしくなく、『世界でいちばん長い写真』で注目を浴びた草野翔吾監督の手腕が冴え渡っています。また、主演の二人も素晴らしい。純を演じた神尾楓珠さんは揺れ動く純の心の機微を細やかな表情や挙動の違いで表現していましたし、紗枝を演じた山田杏奈さんも、今まで暗めな役どころが多かったせいか、この映画では解放されたように明るく、でもその中に一匙の影を混ぜるバランス感覚が巧みでした。全ての出演作を見られているわけではありませんが、2人ともキャリアベスト級の演技を披露していた気がします。


でも、この映画は好きであることには間違いないんですが、正直ベストに入れるかどうかは迷ったんですよね。現代は大分LGBTの人たちの存在が知られるようになってきていて、10年ほど前よりは状況は改善してきています。ただ、異性婚をして子供を設けるという動物的な規範は未だに根強くて。LGBTの人には、そんな"ふつう"や"当たり前"から自分が疎外されているように感じている人も多いと思います。理解しているというのも、理解してやっているというマジョリティ側の思い上がりでしかなくて。劇中でも描かれたように半端な理解は、かえってLGBTの人たちを、自分とは違う存在だと外から眺めるありがた迷惑なんですよね。私だって、そう考えないようにはしていますけど、無自覚に動物的規範を押し付けていることが絶対にないとは言い切れないですし。


ぶっちゃけた話をしますと、私にはこの映画を観てLGBTの人が何を感じたなんて分からないわけですよ。この手のLGBT映画って結局は「私はマイノリティのことを理解している」ってマジョリティを気持ちよくさせる罪深い効果も多分に含んでいますし。彼ら彼女らを追い詰めているのは、まぎれもなく私たちマジョリティなのに、この映画を純粋に評価していいのかは今でも私には分かりません。でも、それすら考えていない人たちもまだまだこの世にはいることを思うと、やっぱりこういう映画が出てきたことを私は評価したいですし、一人でも多くの人に見られるべきだとも思います(単純に映画としての出来が素晴らしいですし)。そう考えて、迷った挙げ句この映画を下半期の第3位に選出させていただきました。まだまだ全国の映画館で上映中なので、興味のある方はぜひご覧ください。オススメです。















第3位:彼女は夢で踊る


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上半期のマイベスト映画が、年間ベスト10でも3位にランクインです。公開自体は去年ですが、観たのは今年なので、今年のランキングに入れました。わけ分かんないくらい泣きました。嗚咽を漏らさないようにするのに必死で、今まで映画館で観た映画の中でも、間違いなく一番泣きました。


舞台は広島第一劇場。そこでは、何十年もの間ストリップが公演されていました。しかし、今はスマホで簡単にアダルト動画を見ることができる時代です。当然ストリップに人は来なくなり、広島第一劇場は閉館することになります。もう時代に取り残されて消えゆくものという設定だけで、私の大好物なのですが、支配人であるこの映画の主人公は、口では何事もないように言っていても、本心では閉館を受け入れられていません。閉館に抗おうとあがく姿が、どうしようもなく涙を誘います。


主人公がそこまでストリップ劇場に固執していたのは、かつて広島第一劇場で見たストリッパーに恋をしてしまったからなんですね。しかし、劇場のスタッフとして働き始めた主人公はそのストリッパーと付き合うことができません。それでも、惹かれていく主人公。しかし、そのストリッパーは公園が終わると、広島を離れていってしまいます。いつか好きだったストリッパーが戻ってくるために、劇場を守り続けようと決めた主人公。この映画では現代と回想がシームレスにつながるという特殊な構造をしていて、その構造が主人公の健気さを強調していて、私はボロボロ泣きました。


また、かかる音楽もよかった。特にレディオヘッドの「Creep」が何度もかかっていて、曲のパワーだけでも泣きそうになりますし、私は二回目あたりで、既にヤバかったのですが、最後に歌詞の訳が空かされたらもう大号泣ですよね。彼女は特別だけれど、僕は気持ち悪い奴なんだ。彼女がどんどん離れていく。映画の内容と見事にマッチしていて、加藤雅也さんの謎の踊りも気にならないくらい泣きました。


それに、ストリップ自体もよくて。劇中の言葉を借りれば「人間の美しさ」を見せつけられたんですよ。現役トップストリッパーである矢沢ようこさんが出演していて、踊りにも説得力がありますし、心の底から美しいなと思って涙が止まりませんでした。私は人間が嫌いで、醜悪な存在だと思っているのですが、ここまで人間を美しく感じたのは、生まれて初めてのことでした。


それに、一番の勝因は観たシチュエーションですね。私はこの映画をミニシアターで観たのですが、これが大正解。映画と一緒に、映画館の持つ歴史を感じて、ミニシアターが好きでよかったなと思ったことも、涙を流させた一つの要因です。私も四半世紀は生きているので、好きだった場所がなくなった経験も何回かしています。この映画が出した結論は、そんな今はない場所への最大級の賛辞で、もうたまりませんでした。最高の映画です。


現在ソフトが発売&レンタル中なので、ぜひぜひぜひご覧ください。










第2位:あらののはて


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第2位にランクインしたこの映画は、もしかしたらご存知ない方も多いかもしれません。8月に池袋シネマ・ロサにて3週間限定公開されたのち、各地のミニシアターでぽつぽつと上映されただけの映画ですから。だけれど、断言します。この映画は大傑作です。


そう思う理由の一つがこの映画独特の演出方法です。この映画は長回しが多く、照明の加減でキャラクターの顔が見えないシーンも少なくありません。また、喋っている人間が画面外にいるという手法も多用されています。ともすれば、奇をてらった映画とも取られるかもしれませんが、この映画はその全てがちょうどいい塩梅なんですよね。長回しも長くなりすぎない絶妙な長さですし、あえて大事なところを見せない演出方法に想像力が掻き立てられます。大作映画では決してできないような方法論を採用した演出の数々は「こういうのが見たかった!」と、私にとっては垂涎ものでした。今年観たどの映画にも負けない豊かさがあります。朝焼けの道を歩くシーンなど画が素晴らしい、「これだけでこの映画を観てよかった」と思えるシーンがいくつもありました。メインどころの俳優さんの表情も全て痺れますしね。


さらに、演出だけでなく大本となったストーリーも一級品。25歳の野々宮風子はつつがない日々を送るフリーター。だけれど、彼女には忘れられない出来事がありました。それは8年前の高校生の時、絵画モデルをしているときに感じた得も知れぬ絶頂感です。しかし、モデルを頼んだ美術部の大谷荒野とは、彼が退学したこともあって、それ以来会っていません。友人にそそのかされ、8年ぶりに風子は荒野にまた自分をモデルにして絵を描いてくれと頼む。風子は学生時代の出来事を引きずっていて、未だ青春を終わらせることができていません。それは絵を完成させることができなかった荒野も同じ。この映画はその絵を完成させることによって、青春の終わりを印象的に描いているのです。言うまでもなく、人生は青春時代だけではありません。この映画は青春が終わっても、まだ人生は続く。いや、青春が終わってこそ本当の人生が始まるのだと、さりげなく主張しています。ラストシーンがもう大好きで。しかも、たった73分しかないんですよ、この映画。その短い時間で青春の終わりと人生の始まりを感じさせるストーリーは見事という他ありません。


というようにこの映画は、演出と物語ががっちり噛み合った大傑作なのです。正直どうしてこの映画が話題になっていないのかが私には分かりません。『カメラを止めるな!』のしゅはまはるみさんも出てるのにな…。配信もされていないし、ソフトが出るかどうかも分からない。まさに映画館でしか観れない作品であり、コロナ禍で家で映画を楽しむ人も増えた中で、映画館で映画を観ることのかけがえのなさを改めて感じましたね。本当にもっと観られるべき映画だと思います。マジで。










第1位:東京クルド


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今年のベストは入管問題を扱ったドキュメンタリー映画です。観た直後からこの映画を今年のベストにすることは決まっていました。はっきり言って、全ての日本人が見るべき映画だと思います。


思えば今年は入管問題が大きな話題となりました。3月にはスリランカ人女性にはウィシュマ・サンダマリさんが入管に収容中に亡くなり、5月には入管法改正案への反対論がネットを中心に巻き起こりました。この映画が描いているのは、そんな入管問題の只中にいる二人のクルド人男性、オザンとラマザンの虐げられながらも、懸命に生きる姿です。


一応説明しておきますと、クルド人というのは主に中東で暮らす民族を指しています。彼らの多くはトルコで暮らしているのですが、この映画がまず映しだすのはクルド人とトルコ人の対立です。2015年のトルコ大統領選挙で大使館前に集まった両者が衝突するのですが、これが想像を絶するほど苛烈なもので。ギプスをつけるほどのけが人まで出ているんですよ。これが現代日本で行われていた光景なのかと、言葉を失ってしまいました。


日本ででさえこうなのですから、トルコでの状況の芳しくなさは言うまでもありません。オザンとラマザンは危険な故郷から、辛くも日本に逃げてきましたが、その日本でも非正規滞在者の烙印を押されてしまっています。難民申請を続けているものの、一向に受理される気配はなく、住民票もなければ働くこともできない。「ただ、いること」しか許されていないんです。グローバルを謳う英語の専門学校にも入れてもらえないし、せっかく入学した自動車学校でも本名で呼んでもらえない。よく「日本には差別がない」ってしたり顔で言う人がいますけど、こんなの立派な差別じゃないですか。基本的人権の侵害ですよ。


彼らは何も悪いことをしていないのに、ただ法律だからってだけで差別的な扱いを受けて、入国管理局に入れられているのだとこの映画は描きます。この映画を観て、悪い意味で一番印象に残ったのが中盤で起こった事件ですね。入管に収容されている人が体調不良になったんですけど、救急車を呼んだのに搬送されず、30時間経ってからようやく医療を受けられる。これが日本で起こった出来事なのかと愕然としましたよ。ひどい仕打ちを受けているせいで、主人公2人のうち1人が「人生楽しくない」「自分には価値がない」って言っていてすごく悲しくなりましたよ。そう言わせているのは無関心のままでいる私たちなんだと身につまされました。


本当にこの映画は全ての日本人が観て、入管問題を少しでも知ることが必要だと思います。映画の中で入管の職員が「別の国行ってよ」と言っていました。それを言われた彼の心情はいかほどだったのでしょうか。私たちがこんなことを言わないようになるためにも、この映画はもっと観られるべきだし、観られなくちゃいけない。これが私がこの映画を今年のベストに選んだ理由です。










2021年年間ベスト10結果一覧

第10位:明け方の若者たち
第9位:劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト
第8位:女たち
第7位:映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園
第6位:すくってごらん
第5位:きまじめ楽隊のぼんやり戦争
第4位:彼女が好きなものは
第3位:彼女は夢で踊る
第2位:あらののはて
第1位:東京クルド















以上で2021年映画ベスト10の発表は終了となります。いかがでしたでしょうか。あなたの好きな映画や気になる映画はありましたでしょうか。


今回、ランキングを作成していて気づいたことがあります。それは「女」という漢字がタイトルに入る映画が多かったこと。10本中4本に「女」が入っていますからね。でも、それは何も私だけではなく、今年公開された映画に「女」がタイトルに入る作品が多い傾向があったように思えます。今回取り上げた4本以外にも


・逃げた女
・水を抱く女
・野球少女
・彼女(Netflix)
・海辺の彼女たち
・1秒先の彼女
・モロッコ、彼女たちの朝
・うみべの女の子
・アーヤと魔女
・科捜研の女 劇場版
・僕と彼女とラリーと
・彼女はひとり
・美少女戦士セーラームーン Eternal 前編/後編


と優に10本以上はあります。今年ここまでタイトルに使われた漢字もないのではと思うくらいです。さらに、洋画では『プロミシング・ヤング・ウーマン』『17歳の瞳に映る世界』『最後の決闘裁判』『ラストナイト・イン・ソーホー』など、男性に虐げられた女性のやるせなさや逆襲を描いた映画が数多く見られました。このことからもやはり、今年の映画は「女」ないし女性がキーワードになっていたと思います。


今まで男性優位の社会で見過ごされてきた、彼女たちの苦しみや悲しみ。それがようやくクローズアップされてきたと言っていいでしょう。私も一応は男性なので、嫌な気持ちを与えないためにもなるべく女性とはかかわりを持たないようにしているんですが、それでも無意識のうちに女性を虐げてはいないか、傷つけてはいないかと内省する機会も多くありました。確かに、日本にはまだまだ大きなジェンダーギャップがありますし、男女平等は推し進めなければならない施策の一つであることには間違いないでしょう。


ただ、あまりにも男女平等だったり、フェミニズムに終始している人を見ると、私は少し違和感も感じてしまうんですね。まるで男女平等が唯一の信条になっているようで。でも、もっと他に解決しなければならない問題も日本には数多くあるでしょう。たとえばホームレスの人たちにどうやって住処を用意するだとか、在留資格を持ちたくても持てない人をどうするかとか。何も女性問題や男女平等だけを特別視する必要はないんですよね。


そのことを教えてくれたのが、2021年マイベストに選ばせていただいた『東京クルド』です。もがき苦しむオザンとラマザンの姿は、今年最も切実で、一番私の心に響きました。私は「知らなかったことを教えてくれること」や「見たこともない世界を見せてくれること」を映画に求めているので、そういう意味では私が見えていなかった世界を、身を切るような痛みとともに見せてくれた『東京クルド』は1位以外ありえません。何とかしたいと思って、実際に難民支援協会に寄付もしましたしね。観た後に行動を起こさせてくる映画は間違いなく傑作と呼べるものだと思います。来年も観た後に思わず行動を起こしたくなる映画にたくさん出会いたいです。


それではそろそろこの記事を結ばせていただきたいと思います。来年も相変わらずコロナ禍は続きそうですが、皆さんがどうかたくさんのいい映画に出会えますように。色々大変だとは思いますが、何とか生き抜いて、また年末に年間ベスト10を発表しあいましょう。そのときはこのブログのことも少しでも気にかけてくれると幸いです。


それでは一年間の感謝を込めて…


本当にありがとうございました!!!

来年もお元気で!!!


おしまい




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こんにちは。これです。


コロナ禍は今年も収まりませんでしたね。ワクチン接種が進み、やっと落ち着いてきたかと思ったら、オミクロン株が出てきて、欧米ではこのタイミングで感染者数の過去最多を更新したりして。年末年始は人の移動も多いですし、年明けが今から心配です。このコロナ禍はいったいいつ終わるんでしょうか。来年には終わって、マスクなしで外出できるようになるといいですね。


さて、映画界も今年は引き続きコロナの影響を受けまくりました。いくつかの映画は延期になり、また大作洋画などは数度の延期を経てようやく公開したり。さらには、ここ数年のトレンドである配信サービスの躍進も今年はより印象的で、多くのNetflix映画が映画館で上映されました。まだまだステイホームが推奨されるなかで、映画館にも少数の大作映画を除いて、なかなか客足が戻ってこず寂しい限りです。


ただ、そんな中でも私は下半期も相変わらず、映画館に足を運び続けました。下半期で観た映画は12/29時点で93本。上半期の107本と合わせると、なんとちょうど200本です。ブログをなかなか書かなくなった分、映画鑑賞に避ける時間が増えたのはなんとも皮肉なことです。


では、発表をはじめるにあたって、ここでいつもの選考基準の説明をしたいと思います。


1.2021年7月1日~2021年12月29日までに映画館で鑑賞した映画であること
2.個人的な好きという気持ちを最優先にすること


今の時代いつまで映画館にこだわってんだと言われるかもしれませんが、個人的にはパソコンやスマートフォンの画面で見る映画って気分が乗らないんですよね。他の物にも目が移ってあまり集中できないですし。その点映画館は映画にだけ集中できる環境が整っていますし、音響も自宅よりずっといい。没入感が段違いなわけですよ。だから、映画館での鑑賞とそれ以外での鑑賞を同じ土俵に乗せて考えるのは、私にはまだできません。なので、今回も「映画館で」という条件をつけさせていただきます。


それと、二つ目については個人的な感情を最優先にした方が、バラエティに富んでいて面白いなというただそれだけの理由です。興行ランキングと個人的なベスト10っていうのは違いますからね。今回もあまり興行ランキングには顔を出さなかった作品を中心に、個人的嗜好丸出しで選考させていただきました。


それでは、ランキングの発表を始めます!果たして1位に輝いたのはどの映画なのでしょうか!?













第10位:1秒先の彼女


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台湾から届いたロマンティックでチャーミングなラブストーリーが第10位にランクインです。


主人公のシャオチーは、何をするにも人よりワンテンポ早い系女性。ある日、ダンス講師とデートの約束をするも、気がついたらいつの間にか翌日になっていました。この映画は消えた一日を巡るサスペンス、かと思いきや全然そんなことはなく、あくまでもポップに何てことない日常が進んでいきます。シャオチーを演じたリー・ペイユも本当にその辺にいるような可愛らしさがありました。でも、その微笑ましい日常の中にさりげなく伏線を忍ばせていて、ストーリーテリングの能力が高いと感じます。


消えた一日のカギを握るのは、グアタイというバス運転手。彼はシャオチーとは対照的に何をするにもワンテンポ遅い男性です。そのおかげで、今までの人生は損ばかり。シャオチーに密かに思いを寄せていますが、そのことも伝えられていません。彼を演じたリウ・グアンティンも情けなさを感じる中に、一抹の格好よさを感じて好きでした。


そして、この映画は終盤に驚きの展開を迎えます。それまでの映画のムードからは逸脱したように思える展開なのですが、その理由がとっても素敵で、この映画で一番好きなところですね。人生は損ばっかりじゃない。きっといつかいいことがあるって。チェン・ユーシェン監督の世間にちょっと馴染むことのできないはみ出し者への暖かな視線を感じて、好感が持てます(『熱帯魚』や『ラブ ゴーゴー』も映画館でやってたから観ればよかったなぁ)。


着地点もハートフルでしたし、観終わった後には思わず心が温かくなる、映画って自由なんだなと思えた一作でした。ソフトは来年の2/9発売で、同日に配信でのレンタルも開始されるそうなので、よかったらどうぞ。オススメです。










第9位:子供はわかってあげない


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第9位にランクインしたのは名匠・沖田修一監督の最新作です(コロナで一年延期になったけど)。


この映画は何と言っても主演の二人がいいんですよね。主人公の朔田美波を演じた上白石萌歌さんは全身から瑞々しいオーラを放っていて、ふとした瞬間に笑いが込み上げてくるさりげないおかしさみたいなものがありました。また、もう一人の主人公のもじくんを演じた細田佳央太さんも『町田くんの世界』とはまた別の爽やかな魅力が爆発。二人が揃っているシーンは目が焼かれると思うほどの青春~!という趣を感じて大満足でした。脇を固める古舘寛治さんや斉藤由貴さんもよかったですし(OK牧場で泣く日が来るとは思わなかった)、なにより怪しげな新興宗教の元教祖役の豊川悦司さんの不器用なやさしさが身に染みます。


ストーリーとしては、美波が実の父親を捜すというものなのですが、これがもう超絶微笑ましいんですよね。平和な家庭を離れて、実の父親のところに女子高生が上がりこむというのは字面だけ見れば、なんだか危険な香りもするわけですが、基本的に登場人物全員が善人なので、そんな危うさは全く感じず、終始ニコニコしながら観ることができました。オープニングのアニメを見るシーンから、その微笑ましさがずっと漂っていて、ユーモアもふんだんにちりばめられていて、とにかく観ていて気持ちがよかったですね。偏見が一個もない理想の世界に癒されました。


で、そのほんわかしたなかにも継承のドラマが込められていて、特に終盤の展開にはかなりグッときました。離れていても心は繋がってるんだなぁと。エンドロール後のオチまで含めて大好きな映画です。現在、U-NEXTで独占配信中。ソフトの発売とレンタルは来年の3月2日とまだ先ですが、出た際にはもう一回観て楽しみたいと思います。












第8位:シュシュシュの娘


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第8位は苦境に陥ったミニシアターに力を貸すために制作された、入江悠監督10年ぶりの自主制作映画です。


この映画が描いているのは、ずばり現代日本の暗部。舞台となる街は移民排斥条例を可決した閉鎖的な地方都市。主人公の鴉丸未宇は市役所でひっそりと仕事をこなしています。ある日、頼りにしていた先輩が自ら命を絶つ事件が発生。その先輩は公文書の改ざんを命じられ、それを実行してしまったことを苦にして屋上から飛び降りてしまいました。しかし、先輩の死は何の変化ももたらさず、やがて未宇も公文書の改ざんを命じられてしまいます。こう書いているだけでも、イライラしてフラストレーションが溜まるような状況です。


しかし、この映画はそんな閉塞感溢れる状況に、とある現実離れした対抗策で逆襲していくんですね。一見シュールとも見えるその手段は、映画でしかできないもので、どうしようもない現実にフィクションの力で対抗していく私の大好きな部類のお話でした。映画のムードもそこまで暗く放っていないですしね(相応の重みはあるけれど)。最後の方はもう必殺仕事人かと思いましたよ。


さらに、この映画が特徴的なのが画面サイズ。この映画は通常の16:9ではなく、1:1のスタンダードサイズを採用しています。正方形の画面は、今までいくつもの映画を見てきた私だからこそ新鮮でした。これはたぶん、どの大きさのスクリーンでも同じ鑑賞体験を味わえるようにと考えられてのものだと思いますが、それがかえって想像の余地を残していました。


また、私はこの映画を全国のミニシアターによる同時試写会で見たんですけど、映画が終わった後に全国のミニシアターとZoomで繋がれたんですね。満員の映画館もあれば、そんなに入っていないところもあって。でも、そのバラエティの豊富さこそが、日本の映画文化を見えないところから支えてるんだなと感慨深くなりました。その経験も含めての下半期ベスト10入りです。
















第7位:草の響き


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第7位にランクインしたのはいろいろあった東出昌大さん二年ぶりの主演作です。


この映画の最大の武器は、言うまでもなく主人公である工藤和雄を演じた東出昌大さんでしょう。精神病を患いながらも、表面上は何事もなく日々を送っているように見える和雄。しかし、その裏にはいつ命を絶つかもしれない表裏一体の危うさがあります。東出昌大さんはそんな和雄を、オーラから、表情から、一挙手一投足まで何一つ欠けることなくスクリーンに具現化。力強いようでどこか虚ろな瞳や、淡々とした声が「狂わないように走ってんだよ」というセリフに説得力を持たせています。『BLUE/ブルー』でも好演を見せていましたし、個人的に今年のベスト男優賞ですね。プライベートのことを抜きにしても(そもそも差し引きに入れるもんでもないけど)、今日本で有数の実力を持つ俳優さんだと思います。


また、この映画の原作は『そこのみにて光輝く』や『きみの鳥はうたえる』などの佐藤泰志さんです。私は『きみの鳥はうたえる』は見たことあるんですけど、正直演出が独特過ぎてよく分からなかったんですよね。でも、この映画はそんな頭の悪い私でも分かるような次元まで降りてきてくれて、突っかかることなく観ることができました。個人的に共感する場面もありましたしね。和雄が死のうとして大量に飲んだ薬、あれと同じものを私も飲んでますから。


そして、一番私がこの映画で好きなのは「表裏一体の生と死」を描いているところです。この映画に登場する人物は、誰もが死にたい!とはいかずとも生き辛さを抱えています。それを認めながらも、何とか何事もないように日々を送ろうとしている。だけれど、希死念慮はふとした瞬間に顔を出して、あるときには取り返しのつかない事態を招いてしまう。それでも、生き辛さと付き合って生きていくしかない。そのための手段が和雄にとっては走ることであり、それが集約されたラストシーンは、事態は何も解決していないものの、どこか清々しささえ私は感じました。派手さはないですが、良い映画です。











第6位:猿楽町で会いましょう


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第6位にランクインしたのは新鋭・児山隆監督の露悪的青春映画です。


映画のタイトルにもなった猿楽町とは渋谷区の地名。センター街や原宿などがフィーチャーされがちな中、影の薄いと言ったら失礼ですが、なかなか顧みられない猿楽町という地名が、都会の片隅でもがく若者たちとリンクしています。


この映画で素晴らしいのが主人公とヒロインを演じた金子大地さんと石川瑠華さんです。金子さんは得意な仕事が見つけられずにくすぶる小山田という役を、やさぐれた目で表現していましたし、石川さんは純粋なようでどこか影のあるユカというヒロインを、持ち前のキュートさと触ったら壊れてしまうような脆さで好演していました。また、劇中にはユカの写真が何度か登場するわけですが、これが実に可愛く撮れていて、それだけで映画の大きな長所になっています。写真撮影を担当した草野庸子さんの功績は大きいですね。


この映画は都会でもがく男女の刹那的な恋をモチーフにしています。とあれば、特に小規模映画ではよくあるモチーフだと思われがちですが、この映画が凄いのは「撮る」という行為の意味が、映画が進むにつれて変質していくこと。前半はそれこそ二人の仲は上手くいっていて、青春を感じる場面も多数ありますが、それは嘘で塗り固められたグラグラの土台の上に成り立つ、一時的な幸せにすぎませんでした。物語の中盤でその嘘が明かされると、映画はアクセルを踏んだように暗黒面へと突っ走っていきます。「撮る」という行為が純粋なものから、歪んだ功名心を含むグロテスクなものへと変質していく様には思わず圧倒されて、心の中で言葉をなくしていました。着地も一筋縄ではいかず、終わった後少し放心してしまったほどです。その辺の青春映画とは違った強烈な印象が残ったので、下半期ベスト10に入れさせてもらいました。


現在、Amazon Prime Video等で配信中ですので、興味のある方はぜひ観てみてください。明るい気持ちにはあまりなれませんが、オススメです。









第5位:空白


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第5位にランクインしたのは、上半期『BLUE/ブルー』で確かな実力を示した吉田恵輔監督の最新作です。


事の始まりはとある女子高生の万引き未遂。その女子高生はスーパーの店長に追いかけられて、車に轢かれてしまい命を落としてしまいます。女子高生の父親は怒り狂いあの手この手で、真相を明らかにしようとします。一方、スーパーの店長も罪の意識に苛まれ、人生を狂わされていくという重く苦しいストーリーのこの映画。


まず何と言っても俳優さんが素晴らしかった。父親を演じた古田新太さんは容赦のない追い込み方で迸る憤怒と喪失を表現し、スーパーの店長を演じた松坂桃李さんも等身大の人間像を上手に形作っており、二人が共演した、とくに終盤の海辺でのシーンは今年の映画でも屈指の名シーンだと思います。また、脇を固める藤原季節さんや趣里さん、片岡礼子さんや田畑智子さんも素晴らしかったですね。その中でも個人的に印象に残っているのがスーパーの店員を演じた寺島しのぶさんです。寺島さんの役柄はボランティア活動にも精を出し、自分の正しさを疑わず、それを人にまで押しつけてしまうというものだったのですが、それがこの映画のテーマの一つである「正しさとは何か」を逆説的に突き付けてきて好きでした。良い感じにイライラするキャラクターで最高でしたね。


また、この映画は世武裕子さんが手掛けた音楽も素晴らしいのですが(世武さんが参加している作品は安心して観れます)、特筆すべきは吉田恵輔監督の演出でしょう。人は一人では生きられない。誰かと関わることで、いい方向にも悪い方向にも変化していくという当たり前のことを、押しつけがましくなく描くさりげない手腕は見事の一言。誰も悪者にせず、かといって聖者にもせず、全ての登場人物に内省を促し、その結果ほんの少しの変化と救いを与える。


人と人とが関わる物語をヒューマンドラマと呼ぶならば、この映画は間違いなく一線級のヒューマンドラマと言えると思います。吉田監督は『ヒメノア~ル』や『愛しのアイリーン』では少々露悪的な面が目立っていましたが、今年に入ってからは『BLUE/ブルー』もこの映画も、シニカルな面を持ちつつ、人の善性を肯定する暖かさを手に入れています。個人的にドンパチやる映画はどちらかというと洋画の領分だなと思っていて、邦画はこういったヒューマンドラマを突き詰めていくべきだなと感じているので、その意味では吉田監督は今年の最優秀監督だなぁと。『BLUE/ブルー』と『空白』との合わせ技でですね。これからも期待せずにはいられません。


そんな『空白』ですが、現在DVD&Blu-rayが好評レンタル中です。ぜひ観てみてはいかがでしょうか。











第4位:映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園


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ここ数年安定して良作を生み出しているしんちゃん映画が今年も4位にランクインです。


今年のしんちゃん映画は学園を舞台にした本格風ミステリー。エリート学校・天下統一カスカベ学園、通称天カス学園に体験入学したしんのすけたち5人。その学校はAIによって管理された近未来的な学園でした。良い行いをするとエリートポイントがたまっていき、そのポイントに応じてクラス分け等がされています。ミステリーで興味を引き付けておいて、管理社会やエリート層・非エリート層で二分された世界を痛烈に皮肉る様は、まさに爽快の一言。そこを打破していくのが、しんのすけと風間くんの友情であるのもまたアツい展開です。


天カス学園では、おしりを吸う吸ケツ鬼の噂がまことしやかに囁かれていました。その吸ケツ鬼の被害に遭っておバカになってしまった風間くん。しんのすけたちは吸ケツ鬼の正体を探していくというのがこの映画のストーリーなのですが、素晴らしいのが複数のゲストキャラが全員キャラが立っているということなんですよね。ポスターにも数人生徒キャラがいますけれど、観ればその全員に愛着が湧くようになっている。しかして、一人残らず怪しいという。この映画は本格「風」を謳っていますけれど、お話に出てきた手掛かりでちゃんと犯人を推理できるようになっているんですよね。伏線の張り方も巧みで、「風」を外してもいいんじゃないかと思うくらい。そして、犯人を突き止めた後はストーリーは予期せぬ展開へ。当初の中目標を達成したら、違う大目標が出てくるというストーリーのツボを押さえていて、これを104分で収めているというのは、正直訳が分からないです。今年のベスト脚本賞と言ってもいいんじゃないでしょうか。うえのきみこさんマジ凄い。


さらに、私がこの映画で一番好きなのが、「別れ」の予感を漂わせているということ。言うまでもなくしんちゃん世界はサザエさん時空ですから、しんのすけたちは永遠に年を取ることはありません。しかし、お受験家庭の風間くんと他の4人では、別の小学校に通うであろうことはなんとなく察しがつきます。そう察しがついてしまうからこそ、風間くんの「いつかはバラバラになってしまうんだ」(意訳)という言葉が胸に響く。私もそれなりの年齢ですから、いくつかの別れは経験しているので、ものすごく共感してしまいました。これは大人だからこそ響きますよ…!


というわけで、今年のしんちゃん映画も傑作でした。来年の『もののけニンジャ珍風伝』も超楽しみです。
















第3位:彼女が好きなものは


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第3位は年末になってダークホースのように現れた、ゲイと腐女子の相互理解の映画です。


高校生の安藤純。彼はゲイであることを隠しながら、日々を送っていました。ある日彼は書店でクラスメイトの三浦紗枝がBL漫画を購入しているところに出くわします。紗枝もまたBL好きを隠していて、誰にも言わない代わりに二人の距離は近づき始めます。自分も"ふつう"の人生を歩めるのではないかと期待する純。しかし、事はそううまくは運ばず…。


このストーリーを見ると、昨今雨後の筍のように制作されているLGBT映画の一つと思われるかもしれます。ただ、この映画が秀でているのはまず単純に映画としての出来が良いことが挙げられます。伏線回収も嫌味ったらしくなく、『世界でいちばん長い写真』で注目を浴びた草野翔吾監督の手腕が冴え渡っています。また、主演の二人も素晴らしい。純を演じた神尾楓珠さんは揺れ動く純の心の機微を細やかな表情や挙動の違いで表現していましたし、紗枝を演じた山田杏奈さんも、今まで暗めな役どころが多かったせいか、この映画では解放されたように明るく、でもその中に一匙の影を混ぜるバランス感覚が巧みでした。全ての出演作を見られているわけではありませんが、2人ともキャリアベスト級の演技を披露していた気がします。


でも、この映画は好きであることには間違いないんですが、正直ベストに入れるかどうかは迷ったんですよね。現代は大分LGBTの人たちの存在が知られるようになってきていて、10年ほど前よりは状況は改善してきています。ただ、異性婚をして子供を設けるという動物的な規範は未だに根強くて。LGBTの人には、そんな"ふつう"や"当たり前"から自分が疎外されているように感じている人も多いと思います。理解しているというのも、理解してやっているというマジョリティ側の思い上がりでしかなくて。劇中でも描かれたように半端な理解は、かえってLGBTの人たちを、自分とは違う存在だと外から眺めるありがた迷惑なんですよね。私だって、そう考えないようにはしていますけど、無自覚に動物的規範を押し付けていることが絶対にないとは言い切れないですし。


ぶっちゃけた話をしますと、私にはこの映画を観てLGBTの人が何を感じたなんて分からないわけですよ。この手のLGBT映画って結局は「私はマイノリティのことを理解している」ってマジョリティを気持ちよくさせる罪深い効果も多分に含んでいますし。彼ら彼女らを追い詰めているのは、まぎれもなく私たちマジョリティなのに、この映画を純粋に評価していいのかは今でも私には分かりません。でも、それすら考えていない人たちもまだまだこの世にはいることを思うと、やっぱりこういう映画が出てきたことを私は評価したいですし、一人でも多くの人に見られるべきだとも思います(単純に映画としての出来が素晴らしいですし)。そう考えて、迷った挙げ句この映画を下半期の第3位に選出させていただきました。まだまだ全国の映画館で上映中なので、興味のある方はぜひご覧ください。オススメです。












第2位:あらののはて


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第2位にランクインしたこの映画は、もしかしたらご存知ない人も多いかもしれません。8月に池袋シネマ・ロサにて3週間限定公開されたのち、各地のミニシアターでぽつぽつと上映されただけの映画ですから。だけれど、断言します。この映画は大傑作です。


そう思う理由の一つがこの映画独特の演出方法です。この映画は長回しが多く、照明の加減でキャラクターの顔が見えないシーンも少なくありません。また、喋っている人間が画面外にいるという手法も多用されています。ともすれば、奇をてらった映画とも取られるかもしれませんが、この映画はその全てがちょうどいい塩梅なんですよね。長回しも長くなりすぎない絶妙な長さですし、あえて大事なところを見せない演出方法に想像力が掻き立てられます。大作映画では決してできないような方法論を採用した演出の数々は「こういうのが見たかった!」と、私にとっては垂涎ものでした。今年観たどの映画にも負けない豊かさがあります。朝焼けの道を歩くシーンなど画が素晴らしい、「これだけでこの映画を観てよかった」と思えるシーンがいくつもありました。メインどころの俳優さんの表情も全て痺れますしね。


さらに、演出だけでなく大本となったストーリーも一級品。25歳の野々宮風子はつつがない日々を送るフリーター。だけれど、彼女には忘れられない出来事がありました。それは8年前の高校生の時、絵画モデルをしているときに感じた得も知れぬ絶頂感です。しかし、モデルを頼んだ美術部の大谷荒野とは、彼が退学したこともあって、それ以来会っていません。友人にそそのかされ、8年ぶりに風子は荒野にまた自分をモデルにして絵を描いてくれと頼む。風子は学生時代の出来事を引きずっていて、未だ青春を終わらせることができていません。それは絵を完成させることができなかった荒野も同じ。この映画はその絵を完成させることによって、青春の終わりを印象的に描いているのです。言うまでもなく、人生は青春時代だけではありません。この映画は青春が終わっても、まだ人生は続く。いや、青春が終わってこそ本当の人生が始まるのだと、さりげなく主張しています。ラストシーンがもう大好きで。しかも、たった73分しかないんですよ、この映画。その短い時間で青春の終わりと人生の始まりを感じさせるストーリーは見事という他ありません。


というようにこの映画は、演出と物語ががっちり噛み合った大傑作なのです。正直どうしてこの映画が話題になっていないのかが私には分かりません。『カメラを止めるな!』のしゅはまはるみさんも出てるのにな…。配信もされていないし、ソフトが出るかどうかも分からない。まさに映画館でしか観れない作品であり、コロナ禍で家で映画を楽しむ人も増えた中で、映画館で映画を観ることのかけがえのなさを改めて感じましたね。本当にもっと観られるべき映画だと思います。マジで。














第1位:東京クルド


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下半期のベスト1は入管問題を扱ったドキュメンタリー映画です。観た直後からこの映画を下半期のベストにすることは決まっていました。はっきり言って、全ての日本人が見るべき映画だと思います。


思えば今年は入管問題が大きな話題となりました。3月にはスリランカ人女性にはウィシュマ・サンダマリさんが入管に収容中に亡くなり、5月には入管法改正案への反対論がネットを中心に巻き起こりました。この映画が描いているのは、そんな入管問題の只中にいる二人のクルド人男性、オザンとラマザンの虐げられながらも、懸命に生きる姿です。


一応説明しておきますと、クルド人というのは主に中東で暮らす民族を指しています。彼らの多くはトルコで暮らしているのですが、この映画がまず映しだすのはクルド人とトルコ人の対立です。2015年のトルコ大統領選挙で大使館前に集まった両者が衝突するのですが、これが想像を絶するほど苛烈なもので。ギプスをつけるほどのけが人まで出ているんですよ。これが現代日本で行われていた光景なのかと、言葉を失ってしまいました。


日本ででさえこうなのですから、トルコでの状況の芳しくなさは言うまでもありません。オザンとラマザンは危険な故郷から、辛くも日本に逃げてきましたが、その日本でも非正規滞在者の烙印を押されてしまっています。難民申請を続けているものの、一向に受理される気配はなく、住民票もなければ働くこともできない。「ただ、いること」しか許されていないんです。グローバルを謳う英語の専門学校にも入れてもらえないし、せっかく入学した自動車学校でも本名で呼んでもらえない。よく「日本には差別がない」ってしたり顔で言う人がいますけど、こんなの立派な差別じゃないですか。基本的人権の侵害ですよ。


彼らは何も悪いことをしていないのに、ただ法律だからってだけで差別的な扱いを受けて、入国管理局に入れられているのだとこの映画は描きます。この映画を観て、悪い意味で一番印象に残ったのが中盤で起こった事件ですね。入管に収容されている人が体調不良になったんですけど、救急車を呼んだのに搬送されず、30時間経ってからようやく医療を受けられる。これが日本で起こった出来事なのかと愕然としましたよ。ひどい仕打ちを受けているせいで、主人公2人のうち1人が「人生楽しくない」「自分には価値がない」って言っていてすごく悲しくなりましたよ。そう言わせているのは無関心のままでいる私たちなんだと身につまされました。


本当にこの映画は全ての日本人が観て、入管問題を少しでも知ることが必要だと思います。映画の中で入管の職員が「別の国行ってよ」と言っていました。それを言われた彼の心情はいかほどだったのでしょうか。私たちがこんなことを言わないようになるためにも、この映画はもっと観られるべきだし、観られなくちゃいけない。これが私がこの映画を下半期のベストに選んだ理由です。











2021年下半期映画ベスト10結果一覧

第10位:1秒先の彼女
第9位:子供は分かってあげない
第8位:シュシュシュの娘
第7位:草の響き
第6位:猿楽町で会いましょう
第5位:空白
第4位:映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園
第3位:彼女が好きなものは
第2位:あらののはて
第1位:東京クルド















以上、ランキングの発表でした。皆さんの好きだったり気になる映画は入っていましたでしょうか。


今回、このランキングを選出して思ったのが、ミニシアター系の映画が多いなということです。『空白』『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』『彼女が好きなものは』以外の7作品は、全て地元のミニシアターで観た映画ですからね。配信がどんどん優位性を増していく中で、逆説的に映画館で映画を観ることの価値が上がっているように私は思います。映画館でしかできない鑑賞体験を数多く体験することができた下半期でした。特に2位の『あらののはて』はそれが顕著でしたね。


それと、やはりコロナ禍で数多くのミニシアターが苦境に陥ったと思うんですよ。客足もまだ回復してないですし。でも、ミニシアターを求める観客っていうのは潜在的にいると私は信じたいです。そうでなければ、ミニシアターエイド基金に3億円も集まらないでしょう。8位の『シュシュシュの娘』はミニシアターで観ること自体に価値がある映画でしたし、来年もあまり注目されていないような良作・傑作を発掘するためにもミニシアターに足繁く足を運びたいと思います。(もちろんシネコンにも行きます)


あと邦画ばかりなのはいつもの傾向なのでお気になさらず。年間ランキングも全て邦画ですし、どうしても邦画の空気感が私には合うみたいです。来年もすでに楽しみな邦画がいくつかありますしね。洋画ももっと観ていかなきゃなと思うんですけど、来年も充実した映画ライフになりそうです。生きて、収入さえあれば。


では、そろそろこの記事を終わりにしたいと思います。2021年の年間ランキングは、明後日の大晦日発表予定ですので、またすぐお会いしましょう。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい 


1秒先の彼女 [Blu-ray]
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TCエンタテインメント
2022-02-09




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こんばんは。これです。


2021年上半期もコロナ禍は続きましたね。三度の緊急事態宣言が出て、映画館も休刊になるなど、主に都市部に大きなダメージが行ってしまいました。公開延期となった映画も数多く、相変わらず映画業界は苦境に立たされていますが、ワクチン接種も始まったりと少しずつ光も見え始めています。これから公開延期になった映画も続々と公開されるので、応援するためにも多く映画館に通いたいですね。


さて、今回のブログは恒例の振り返り企画。これ的!2021年上半期映画ベスト10です。私の住んでいる地域では、映画館が休館になることはなく、今年の上半期は107本の映画を鑑賞することができました。去年の上半期と比べても3割増しくらいで、多く観てますね。逐一ブログに感想を書かなくなったせいです。


※ちなみに鑑賞映画のリストは以下の月間ランキングをご覧ください。
 
     
 

順位の発表をはじめるにあたって、ここで二つの個人的な選考基準を説明します。


1.2021年1月1日~2021年6月30日までに映画館で鑑賞した映画であること
2.個人的な好きという気持ちを最優先にすること



私は地方に住んでいるので、ミニシアター系の映画は公開されるまでにタイムラグがある場合が多い印ですよね。また、近年では映画の配信がますます盛んになっていますが、そもそも私はそこまで家で映画を観ないのと、家出のテレビやスマートフォンでの鑑賞は、映画館と同じ体験足りえないと考えていますので、今回も選考からは外させていただきました。


それと、個人の感情を第一にした方が、ベスト10の顔ぶれにもバラエティが出て面白いですしね。今回も世間的な評価を無視して、主観まるだしで10作品を選出させていただきました。


果たして、どんな映画がランクインしたのか。1位に輝いたのはどの映画なのか。


それでは、何卒よろしくお願いします。












第10位:劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト


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Filmarksの初日満足度が1位で、ファンしか観ていないとはいえ、その評価の高さが気になって、その次の日にたまたま時間が合ったので、完全初見にも関わらず観に行きました。フライヤーに「初見でも分かります」と書いてあったので、「本当だな?その言葉信じるぞ」と思いながら観たのですが、全くもって一ミリも分かりませんでしたね。とにかくバキバキに決まった映像にぶっ飛ばされました。こんなもの初見で分かるわけがありません。でも、観終わった後の興奮が凄かったですね。とんでもないもの観たなと。


この映画の舞台は、私立聖翔音楽学園という演劇を学ぶ学校。今思い出してもわけが分からないオープニングの後には、メインキャラクターが進路相談という名目で、次々に自己紹介をしてくれます。まあ初見で9人を把握するのは難しいですけど、一見さんへの配慮ですね。それからは主人公の愛城華恋とその幼馴染の神楽ひかりの回想を挟みながら、それぞれの進路を考えていく話なのかなと思わせといての、電車のシーンですよ。


いきなり電車がステージに変形したと思うと、画面には「ワイルドスクリーンバロック」という謎の文字列が。がっちりとした歌も流れて、大場ななというキャラクターが、仲間たちに攻撃を仕掛けるという、一目見て飲み込めるはずがない映像が展開されます。この映画では生徒同士の諍いや感情を、レヴューという演劇に乗せて語ります。


デコトラ、清水の舞台、オリンピック、ハラキリ、東京タワーなど何でもありのやりたい放題です。システム自体は、観ていると何となく飲み込めてくるものの、なぜ武器を持って戦っているのかは、全く分かりません。だけれど、アクションも冴えてるし、何より面白いからヨシ!と、ねじ伏せられてしまいました。口上もかっこいいですし、何度でも観たくなる魅力がありましたね。


だけれど、ぶっ飛んでいるようで、骨格的には卒業後どうするかという進路の話なので、意外と地に足はついています。最後は清々しい気分になります。初見でも分かるとはとても言えませんが、映画館で見るべき映画だと思うので、興味があればぜひ観てほしいですね。








第9位:まともじゃないのは君も一緒


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公開規模は大きくないものの、朝ドラにも主演中で、飛ぶ鳥を落とす勢いの清原果耶さんが出演しているということで期待していたこの映画。観ている間、いい意味でずっとニヤニヤが止まりませんでした。


数学好きで普通の恋愛が分からない予備校教師と、知ったかぶる癖に恋愛経験に乏しい教え子が織りなす会話劇がメインのこの映画。成田凌さんの不器用な演技が愛らしく、清原果耶さんのあーだこーだ作戦を考える姿が微笑ましい。序盤のシーンに代表されるように、会話自体のテンポも良く、上質なコントのような笑いを提供してくれます。軽やかな劇伴も最大限マッチしていましたし、ストレスフリーで何時間でも観ていたくなりました。


それでも短くまとめて、この二人の先をもう少し観てみたいと思わせるところで終わっていて、気持ち良く映画館を後にすることができました。日本語ならではのリズムを大切に練られた脚本は、邦画の一つの方向性を示したと私は思います。こういう邦画ばっかり観ていたいですね。本音を言うと。


また、少しずれた二人の視点から、社会にはびこる「普通」という呪縛を皮肉っているのもポイント高いです。結婚ができなくても、普通じゃなくても、世界は素晴らしいんですよね。私もまともな人間ではないので励まされました。ちょっと埋もれているのがもったいない傑作だと思います。







第8位:女たち


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タイトル通り、2020年の現代に翻弄される女性たちを描いたこの映画。主演の篠原ゆき子さんをはじめ、倉科カナさんや高畑淳子さんなどの女優さんが新境地を開拓しています。なかでも倉科カナさんが良かったですね。特に終盤の長回しのシーンはイメージとは全く違う表情を見せていて、びっくりしました。もっと出演作チェックしておくべきだったなと思いました。


また、この映画の一番の特徴は、映画の中にコロナ禍を取り入れていることです。この映画では冒頭にニュースでコロナ禍であることがはっきりと示され、登場人物たちはマスクをし、手が触れるところを消毒し、二枚のアベノマスクが配られます。私は常々、映画はもっとコロナ禍を取り入れてもいいなと思っているのですが、それはあとで見返したときに「あの時はこうだったな」という記録的価値が出るためなんですね。しかし、映画は制作期間が長いため、なかなか難しい部分もあります。ただ、この映画は企画から公開までに一年ほどしかかかっていない。このスピード感は称賛されるべきだと思います。


そして、今もなおコロナ禍の真っ最中のこの時期に公開したことで、この映画は時代との計り知れない同時性を獲得しています。登場人物が私たちと同じようにコロナ禍に置かれることで、現実と少しも変わりないように思えるのです。苦しみや憤りがダイレクトに伝わってくるのです。


いつになるかは分かりませんが、この映画が配信等される時には、社会はどうなっているか分かりません。ワクチンが行きわたってコロナ禍が終息しているかもしれないし、変異株がさらに猛威を振るっている可能性もあります。だからこそ、『女たち』はまだコロナ禍真っ最中の今、映画館で観ることに大きな意味があると思います。内容的にも素晴らしいですし、ぜひ観ることをおすすめします。今一番、観るべき映画ですよ。








第7位:ダニエル


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トラウマから生み出した空想上の友達に、主人公が苦しめられていく。いわゆるイマジナリーフレンドの映画なのですが、今まで観た映画の中でもトップクラスに怖い映画でした。


映画冒頭、ダニエルは主人公をそそのかして、主人公の母親を殺そうとします。ですが、そのたくらみは失敗に終わり、ダニエルはおもちゃの家に封印されてしまいます。雷雨の中でドンドンとドアを叩くダニエル。このドアを叩く音が主人公が成長してからも、うっすらと聞こえてくるほど強烈なものでして。本格的に登場する前から、私の心臓はキュッと縮まっていました。


そして、ダニエルの封印が解かれてからは、いよいよ本番。最初は内気な主人公にアドバイスをすることで、女性と仲良くさせたりと良いこともしているのですが、ダニエルを演じたパトリック・シュワルツェネッガーの妖気のある雰囲気が、全く安心させません。何かやばいことをしでかしそうな予感に、心臓は早鐘を打ちます。


また、映画の中盤で少しだれてきそうなところで、主人公の人格を乗っ取ることができるという新要素を出して、興味を引き付ける脚本も見事。『寄生獣』かと思うほどのグロテスクなCGは見ごたえがあり、物語に緊張感を与えます。終盤では思わぬ伏線回収もあったりと、最後まで興味を引き付けてくれる仕掛けも十分。人を選びそうな狂った映画ですが、私はハマりました。思わぬ掘り出し物でしたね。








第6位:ディエゴ・マラドーナ 二つの顔


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一位は言わずと知れた名サッカー選手、ディエゴ・マラドーナのドキュメンタリーです。私がサッカー好きで、隔週で地元のスタジアムに行っていることを抜きにしても、この映画は本当に凄まじく、観ながら何度も心の中で「もうやめてくれ」と叫び、観終わった後にはロビーで思わず頭を抱えてしまいました。去年の『Documentary of 欅坂46~僕たちの嘘と真実~』に匹敵する地獄ドキュメンタリーでした。


この手の映画になると、マラドーナについて知っておかなければならないのかと構える方もいるかもしれませんが、それは大丈夫。公式サイトに年表がありますし、極端な話「なんか凄い選手」ぐらいの認識で問題ないです。


この映画はマラドーナの中でも主にナポリ時代の7年間を追ったもの。バルセロナで思うような実績を残せなかったマラドーナはナポリに移籍します。最初は上手くいきませんが、見事ナポリをセリエA優勝に導き、ファンからは神として崇められる。その崇拝はあまりにも強烈なもので、熱狂的を通り越して、狂気的でした。この映画の前半はそんなマラドーナの活躍がたっぷり見られるので、特に海外サッカーが好きな人は観て損はしないと思います。かの有名な神の手ゴールと5人抜きもちゃんとやってくれますし。


ですが、活躍の裏ではマフィアとのかかわりやコカインの服用など徐々に怪しい影が。この映画のタイトルにもなっている二つの顔とは青年ディエゴとサッカー選手マラドーナのことを指していて、マラドーナがディエゴを侵食していく様が観ていて辛い。そして、それは1990年イタリアワールドカップで決定的になります。


マラドーナが所属するアルゼンチン代表は準々決勝でイタリアと対戦。そして、その舞台はホームとして慣れ親しんだナポリのスタジアム。結果はマラドーナがPK戦でPKを決めたこともあり、アルゼンチンの勝利。こっからの手のひら返しがもう5ちゃんねるなんて目じゃない苛烈なもので。イタリアで一番嫌われた人物となったマラドーナはどんどん精神を追い詰められていきます。ですが、ナポリはボロボロになったマラドーナとの契約を延長し……。


最近、『花束みたいな恋をした』や『あの頃。』、小説では『推し、燃ゆ』など好きな者との距離感を問いかける作品が増えていますが、この映画はその最北にあるような映画です。ぜひとも多くの方に観ていただいて、できればサッカーファン以外からの感想を聞きたいなと感じました。


















第5位:14歳の栞


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とある中学校の2年6組35人に密着した、ドキュメンタリーを謳うこの映画。クラスの中心にいる者、はしっこにいる者。部活に燃える者から、目標を見いだせない者。車いすの子や教室に入れない子まで35人全員に等しくカメラが向けられており、表面上は学校生活をありのまま見せてきようとします。


私自身、暗い学生時代を過ごしたので、もっと憎悪渦巻く地獄みたいな環境を想像していましたが、映画の中では、意外と学生たちが明るく振る舞っていて、まずそこに驚きました。だって、誰も「死にたいです」とか言わないんですよ。「自分が嫌い」レベルに留まっている。言ってもカットされたのかもしれないですけど、話したこともない(ほとんどの)人たちが、何を考えて生活を送っているのか、知ることができたのは良かったですね。


また、この映画の特徴は音楽がガンガン鳴っているということ。さらに「子供は子供で悩んでいるけど、それでも前に進もうとしているんだよ」と、観客を誘導する編集もひどい。凄く恣意的で、作った大人の視線を感じて、胸糞悪くなりましたが、その胸糞悪さがかえって私は好きでした。


本当にリアルを知りたいなら、無断で定点カメラを仕掛けて、撮影と同時にライブ配信すればいい話なんですよ。でも、ドキュメンタリー映画として出すには、編集が必ず必要になる。そこには作り手の意図が必ず入り込む。この映画はマイクが写っているポスターからして、その介入に自覚的で、有名な「ドキュメンタリーは嘘をつく」という言葉通りの映画だと感じました。リアリティーショーを好んで見る人の気持ちが少し分かった気がしますね。


主題歌であるクリープハイプの「栞」も映画に合ってましたし、冒頭の謎の馬の件を差し引いても、観終わった瞬間に、上半期ベスト10に入るなと確信した映画でした。









第4位:花束みたいな恋をした


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『カルテット』や『大豆田とわ子と三人の元夫たち』など、テレビドラマで活躍する名脚本家・坂本裕二さんの初映画脚本。監督も去年『罪の声』で着実な評価を得た土井裕泰さんですし、主演も菅田将暉さんと有村架純さんという名実ともに日本トップクラスのお二人。ここまでの布陣を組まれたら、私にとってはもう観る以外の選択肢はありません。さっそく初日に観ましたしね。


まず特筆すべきは、主人公の二人がオタクであるということでしょう。天竺鼠のチケットを持ち、押井守さんを目撃して大興奮し、きのこ帝国の「クロノスタシス」で盛り上がれる。顔面偏差値以上のサブカル偏差値の高さに、観ていて心が躍ります。サブカルワードが優に百個以上盛り込まれていて、ツボは人によって多種多様。観た後の会話が盛り上がりそうだなと感じました。特にTOHOシネマズやピカデリーじゃなくて、テアトル新宿でこの映画を観ることを選ぶ人たちには直撃でしょう。荻原みのりさんやオダギリジョーさんなど邦画好きにはピンとくる俳優さんも多く出演していますしね。


ストーリーは難病や親の反対エトセトラなど特別な障害があるわけではなく、ただ二人の生活を描いているだけなのですが、練り込まれたキャラクター描写のおかげで破壊力が高い。順調な時もキーッとならず、反対に別れに至る流れは恋愛をしたことがないのに共感を覚えてしまいます。仕事で忙しくなってサブカルに触れることができなくて、徐々に距離が離れていく描写には観ていて心を痛めました。


そして、真骨頂は終盤のファミレスのシーンですよね。お互い別れようとは思っているんだけれども、なかなか離れられない。だけれど、ある光景を目の当たりにしてしまって、自分たちの関係が終わってしまったことに気づく。なんでもないようなファミレスの内装と合わさって、グサグサ胸を刺してきます。


だけれど、二人の別れはあくまでも爽やかなもので、ラストも清々しかったですし、邦画の恋愛映画の新たな地平を切り開いた感がありました。もう何回でも観たいです。観て感情を揺さぶられたいです。一月に観た映画ですが、今年の年間ランキングにも食い込むのではないかなと思います。今村夏子さんの『ピクニック』を読まなければ。








第3位:すくってごらん


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目立ちこそしませんでしたが、実は公開前からひそかに期待していた映画でした。『魔女見習いをさがして』で百田夏菜子さんには良いイメージを持っていましたし。ただ、シネコンでやる勝算が見えないなと心配しながら、観に行ったのですが、そのぶっとんだ内容に完全ノックアウトされてしまいました。今年一番狂った映画だと思います。


金魚すくいを題材にしていて、左遷されてきた銀行員が地方に馴染んでいくという良くあるストーリーなのかと思いきや、その味付けの仕方が独特で。なんとミュージカル仕立てなのです。どの曲も抜群に良く、メインの俳優さんも歌が上手く、百田さんのピアノも様になっていて、飽きる隙を与えません。最初は心の声を字幕にすんなや、歌詞出すなやMVちゃうねんぞと乗り切れていなかったのですが、だんだんと基準が壊れていく様は、観ていて気持ちが良かったですね。まあ90分ほどの映画なのにもかかわらず、休憩があるのは謎ですが。


演出はかなり奇抜ですが、小赤を脱落組に見立てたり、ポイの破れと人生における失敗を上手く被せていたり、メッセージ性もちゃんとあり、考えられているのもポイントが高い。起と承はしっかり(?)してるんです。転でマサルさんになって、結でボーボボになるだけで。それでも、タイトルの出し方は格好良かったですし、今年あと何本映画を観ても、この映画のことは忘れないだろうというインパクトがありました。記録よりも記憶に残る映画です。


この映画を上位に置くことでシネフィルな人たちから、総スカンをくらっても本望だと思いました。まだ公開中ですので、イカれた世界をぜひどうぞ。








第2位:きまじめ楽隊のぼんやり戦争


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今年単位で見ても、確実にベスト争いをするのではないかという超絶大傑作です。


舞台は9時から5時まで規則正しく戦争をしている町。ロボットみたいにガチガチに動くキャラクターに、お役所仕事で融通が利かない軍隊。どんな脅威かも忘れて戦争をしている。盗みをしたのに、市長の息子だからと警察になれる。打たれて片腕を失っても、感情に大きな変化はなし。女性は子供を産む道具としか見られていない。平坦な話し方は癖になり、そのブラックユーモアに思わず笑いが込み上げてしまいますが、冷静に考えたら笑えるところなんて、こぼれ落ちる白米ぐらいしかない。今の二本や世界を痛烈に皮肉っていて、その刃の切れ味が最高でした。


主人公は前線に出て、銃を打っていましたが、ある日楽隊への移動を命じられてしまいます。この楽隊に辿り着く過程も面白かったのですが、楽隊に辿り着いてからはきたろうさんのキャラクターもあり、面白さのギアが一段階上がっていきます。しかし、楽隊の仕事は軍隊を勇気づけること。かつて、日本でも戦時中に映画は国威発揚の道具として用いられていましたが、歴史は繰り返すのだと思わずにはいられません。


また、主人公は向こう岸の住人と音楽で心を通い合わせますが、最終的にはそれも何の役に立たず。今の文化芸術が真っ先に制限されているコロナ禍の状況さえも、意図的にではないにしても反映していて、その先見性に身震いがしました。文化芸術で世の中は変えられないというショッキングなラストは、観終わった後思わず放心状態になってしまうほどインパクトのあるもの。最悪に最悪を塗り重ねたあの終幕は、しばらくは忘れようとしても忘れることができないでしょう。


ユーモアを隠れ蓑にして、戦争の愚かさ、醜さ、滑稽さを描き切ったこの映画は、一人でも多くの方に観てもらいたいです。








第1位:彼女は夢で踊る


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公開自体は去年ですが、観たのは今年なので、今年のランキングに入れました。わけ分かんないくらい泣きました。嗚咽を漏らさないようにするのに必死で、今まで映画館で観た映画の中でも、間違いなく一番泣きました。


舞台は広島第一劇場。そこでは、何十年もの間ストリップが公演されていました。しかし、今はスマホで簡単にアダルト動画を見ることができる時代です。当然ストリップに人は来なくなり、広島第一劇場は閉館することになります。もう時代に取り残されて消えゆくものという設定だけで、私の大好物なのですが、支配人であるこの映画の主人公は、口では何事もないように言っていても、本心では閉館を受け入れられていません。閉館に抗おうとあがく姿が、どうしようもなく涙を誘います。


主人公がそこまでストリップ劇場に固執していたのは、かつて広島第一劇場で見たストリッパーに恋をしてしまったからなんですね。しかし、劇場のスタッフとして働き始めた主人公はそのストリッパーと付き合うことができません。それでも、惹かれていく主人公。しかし、そのストリッパーは公園が終わると、広島を離れていってしまいます。いつか好きだったストリッパーが戻ってくるために、劇場を守り続けようと決めた主人公。この映画では現代と回想がシームレスにつながるという特殊な構造をしていて、その構造が主人公の健気さを強調していて、私はボロボロ泣きました。


また、かかる音楽もよかった。特にレディオヘッドの「Creep」が何度もかかっていて、曲のパワーだけでも泣きそうになりますし、私は二回目あたりで、既にヤバかったのですが、最後に歌詞の訳が空かされたらもう大号泣ですよね。彼女は特別だけれど、僕は気持ち悪い奴なんだ。彼女がどんどん離れていく。映画の内容と見事にマッチしていて、加藤雅也さんの謎の踊りも気にならないくらい泣きました。


それに、ストリップ自体もよくて。劇中の言葉を借りれば「人間の美しさ」を見せつけられたんですよ。現役トップストリッパーである矢沢ようこさんが出演していて、踊りにも説得力がありますし、心の底から美しいなと思って涙が止まりませんでした。私は人間が嫌いで、醜悪な存在だと思っているのですが、ここまで人間を美しく感じたのは、生まれて初めてのことでした。


それに、一番の勝因は観たシチュエーションですね。私はこの映画をミニシアターで観たのですが、これが大正解。映画と一緒に、映画館の持つ歴史を感じて、ミニシアターが好きでよかったなと思ったことも、涙を流させた一つの要因です。私も四半世紀は生きているので、好きだった場所がなくなった経験も何回かしています。この映画が出した結論は、そんな今はない場所への最大級の賛辞で、もうたまりませんでした。最高の映画です。




2021年上半期映画ベスト10結果一覧

第10位:劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト
第9位:まともじゃないのは君も一緒
第8位:女たち
第7位:ダニエル
第6位:ディエゴ・マラドーナ 二つの顔
第5位:14歳の栞
第4位:花束みたいな恋をした
第3位:すくってごらん
第2位:きまじめ楽隊のぼんやり戦争
第1位:彼女は夢で踊る















以上でランキングの発表は終了となります。いかがでしょうか。個人的には上半期も良い映画にたくさん出会うことができて、満足していますね。特に1位と2位の2本は突出して素晴らしかったです。3~10位はほとんど横一線なので、日によって順位は変わるかもしれませんが、今の気分ではこれで。


まとめると、今年の上半期は個人的にはイカれた映画が強かった印象です。10位の『劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト』と7位の『ダニエル』、さらに3位の『すくってごらん』とぶっとんだ映画が3本もランクインしていますからね。今までにはなかった傾向です。


私もたまに創作みたいなことをしたりしますが、どうあがいても普通のことしか出てこないんですよね。だから、自分にはないぶっとんだものを求めているのかなと思いました。下半期も負けず劣らず、ぶっとんだ映画が出てくることを期待したいですね。まあ、着実な映画もそれはそれで好きなんですけど。


あと、邦画ばっかりなのはいつもの傾向です。私、洋画より邦画の方が断然好きなタイプですので。去年の年間ベスト10も9本が邦画で、残りの1本が韓国映画でしたし。洋画も観たいなとは思っているんですが、ビビッとくるものが少なく……。でも、下半期は邦画と洋画を、せめて6:4くらいのバランスで観ていきたいですね。できる限りがんばります。


では、そろそろこの記事を終わりにしたいと思います。また半年後、2021年下半期映画ベスト10および、2021年映画ベスト10でお会いしましょう。それまでお元気で。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい 


彼女は夢で踊る
横山雄二
2021-03-26



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こんにちは。これです。


ワクチン接種、いよいよ一般向けにも始まってきましたね。まだまだ私の住んでいるところでは、案内が来ませんが、コロナ禍の終局が徐々に見えてきた感じはあります。映画館もレイトショーを再開しましたしね。ただ、変異株もあるのでまだまだ気の抜けない日々は続きそうです。


さて、今回のブログですがいつもの通り、6月に観た映画の月間ランキングです。6月には20本の映画を映画館で鑑賞しました。その中で1位に輝いたのはどの映画なのでしょうか?


今回も何卒よろしくお願いします。








第20位:るろうに剣心最終章 The Beginning


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The Finalで綺麗に終わっていたので、The Beginningで何をするんだろうとは思っていましたが、ポスター通り過去編オンリーでした。とにかくテンポが悪く、さらにThe Finalで結末も知っているだけに、時間が長く感じてしまいます。敵が剣心を倒すのに、やたらともったいぶる理由も分からなかったですし、村上虹郎さんの沖田総司以外は全くテンションが上がりませんでした。シリーズ最高傑作どころか、個人的にはシリーズワーストに近い出来です。








第19位:僕が跳びはねる理由


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自閉症スペクトラム障害(ASD)の世界をドキュメンタリーで描いたこの映画。私も手帳を持っているくらいにはASDなので、観に行きましたが、あまり気に入りませんでした。ASDの人の感じ方、認知の仕方を言語化していて、interesting的な面白さはありましたが、fun的な面白さは皆無でした。それに、随所で悲劇的な音楽を流して「どう?可哀想でしょ?」と誘導していたのもマイナスポイント。私はそんなに可哀想とは思われたくないです。結局は定型の人が作った映画なんだと感じました。








第18位:であること being


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ドラァグクイーンなどLGBTQの方々の語りを収めたドキュメンタリー映画です。映画等の性的なシーンを監修するインティマシーコーディネーターや、LGBTQのカミングアウトが必ずしも良い方向に働かないなど、学びも多かったのですが、こちらもfun的な面白さはあまり見られませんでした。でも、配慮してやっているという自分の傲慢さに気づくことができたのは、大きかったですね。日本でもLGBT法が議論になっていますが、将来的にはそんなものがなくても、当たり前に理解が浸透している社会になればいいなと感じました。








第17位:漁港の肉子ちゃん


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明石家さんまさんプロデュースで西加奈子さん原作という、どう考えても危険な香りしかしない映画でしたが、観てみたら意外にもまともでマイルドな作品になっていました。ただ、突出しているところは娘のキクリンの可愛らしさぐらいしかなく、内容的には凡庸。ポップなアニメ的表現もあまりハマっているとは言い難く、終盤では気を遣わずにどんどん頼っていいと言っておきながら、キクリンに気を遣わせるなどお話もあまりハマりませんでした。女子の陰湿な争いは良かったんですけど。あとエンドロール後がマイナス50億点です。








第16位:モータルコンバット


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ゲームが原作で、特殊能力を持ったキャラクターがバトルを繰り広げるという作品でしたが、私の中二心はそれほどくすぐられず。目が光る浅野忠信さんや、火を吐く真田広之さんなど面白いシーンも多かったのですが、縦に真っ二つや腹にどでかい穴を開ける、頭を握りつぶし、腕を粉砕させるといったグロいシーンが多く、若干引いてしまいました。また、主人公の活躍がいまいちで、特にサブ・ゼロはsっ主人公が倒すべきだったっと思います。続編作る気満々の終わり方をしたので、その辺は次回に持ち越しということなんですかね。








第15位:キャラクター


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漫画家が殺人鬼に会ってしまい、事件に巻き込まれていくこの映画。演技初挑戦のFukaseさんのサイコパス演技も悪くはなかったのですが、作品を引っ張るほどの強いエネルギーにはなり得ず。ハマらなかったわけではないのですが、特に語ることもない映画でした。もう少し攻めた描写をしてくれれば、評価はまた変わったんですけどね。でも、二人掛けのベビーカーを連れた高畑充希さんは怖かったので、そこはよかったと思います。









第14位:くれなずめ


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結婚式の二次会で赤ふんダンスを披露するために、集まった学生時代の親友6人。主に二次会までのダラダラした時間を描いていますが、成田凌さん演じる主人公が死んでいたという設定で物語にひとひねりを加えています。悲劇的な話をコメディで笑い飛ばそうという狙い自体は良かったのですが、男たちが集まって話す内輪のノリがどうしても合いませんでした。若葉竜也さんや藤原季節さんなど好きな俳優さんも多く出演していたんですけどね......。でも、ウルフルズに合わせた赤ふんダンスは好きです。








第13位:アオラレ


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たった一度の煽り運転を1000倍にして返すような、そんな執念深い映画でした。少なくない数の人間が死んでいき、最後は自分の命を持って、正しい交通マナーを伝える暗黒交通安全教室映画でした。主演のラッセル・クロウのガタイのよさは敵に回したくないなと直感的に感じます。標的にされた息子を助けることができるかというハラハラがあり、面白かったのですが、難点を挙げるとすれば、そのエンドロールの長さ。三曲分ほどの長さがあり、もう少しまとめて表示するなど、見自覚してほしかったなと思います。








第12位:夏への扉 キミのいる未来へ


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有名SF小説をはじめて映画化したこの作品。手堅くまとまっていて、良い映画だったと思います。目的もはっきりとしていますし、何より藤木直人ヒューマノイドが面白すぎる。一挙手一投足がいちいちおかしく、ずっと笑っていました。ストーリーの方はタイムスリップしてからの答え合わせに、少々退屈なところがありましたが、そんなものは何回も流れるミスチルの前では些末な問題です。途中、ミスチルのMVかな?と思うシーンもあり、曲の強さに感動させられました。いっそのこと主題歌もミスチルで良かったのではないかと思います。








第11位:SNS 少女たちの10日間


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大人の女性が12歳の少女になりきって、SNSを運用するというドキュメンタリー映画です。アカウントには性行為を求める多数の男性が群がり、丸出しの下心にはおぞましいと言うほかありません。ここまで男性器が出る映画は他にないですね。実験が始まる前の被害を告白するシーンから衝撃的です。子供のSNSの利用に警鐘を鳴らす内容でしたが、個人的には男性→女子のみを映していたことに違和感を感じました。だって、女性→女子というコンタクトもあったでしょうから。途中のまともそうな人の登場もあまり好きではないです。話しかけてくる時点でまともではないので。













第10位:BLUE/ブルー


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吉田恵輔監督が、自らも打ち込むボクシングを題材にしたこの映画。青コーナーに立つ挑戦者たちを描いていますが、その特徴は劇伴の少なさ。ボクシング映画は、試合のシーンに大げさなテーマ曲を流して盛り上げるというのが、『ロッキー』からの定石だと思いますが、この映画は大して劇伴を流しませんし、主題歌も弾き語りで始まります。この引き算の手法によってもたらされた、静かな熱に私は次第に取り込まれていきました。音楽が鳴っているシーンよりも、鳴っていないシーンの方が好きですね。なので、もっと引くことができたのになとさえ、思ってしまいました。


ストーリーも主人公を徹底的に敗者にしているのが印象的です。また、メインの三人が全て負けて映画が終わるというのも斬新。だけれど、それまでに費やした時間や経験は無駄ではなかったという展開は熱いですし、ラストシーンのまだ火は消えていないという演出は感動を覚えました。私も人生負け続きなので、試合には負けたけれど、決して首を垂れるだけの負け犬ではないという描き方には励まされました。








第9位:Arc/アーク


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生物をプラスティック化するプラスティネーションを応用して、不老不死になった女性のSF映画です。人間はいずれ死ぬからこそ生に意味があるという定型句に、真っ向から対立していて、前半では芳根京子さん演じるリナが不老不死に近づいていく様子をビビッドな映像で描き、後半のモノクロになる演出を際立たせます。後半は60年くらい時間が飛んでいる設定で、不老不死になって人生に目的を失ってしまったリナの心情を現しているように私には感じて好きでした。まあ、それが物語のゴールがいまいち分からないという難点にもなっていたわけですが。


映画が進んだ最終局面も、単なる円環構造に収まっていなくて良いなと思いましたし、冒頭に芳根京子さんが初めて見せるダンスも印象的。最後の演出にはたとえありきたりな結論だとしても、有無を言わさず感動させる力があります。石川慶監督は、個人的に前作の『蜜蜂と遠雷』があまりハマらなかったのですが、『Arc/アーク』は満足してスクリーンから出ることができました。








第8位:ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち


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エキストラにも何回か参加させていただいたので、内容如何に関わらず公開されたら、必ず観るつもりではいました。だけれど、予告からは危険なテストジャンプを、金メダルのためと正当化している印象を受けて、正直なところはあまり期待していませんでした。だけれど、観てみたら思いのほか良作でしたね。


主人公はケガでオリンピックに出られなくなった選手。前回のオリンピックで銀メダルに終わった原因である仲間が代表に選ばれていて、悔しさと嫉妬を感じています。失敗しろと思わず願ってしまう。そんな主人公をはじめとして、オリンピックに参加できない女子選手や、怪我がトラウマになっている選手など、主要なキャラクターの葛藤とその解決をしっかりと描いていて、共感することができました。ラストも知っていたとはいえ、素直に感動しましたしね。


だけれど、劇中でもその危険性が語られていた吹雪の中のテストジャンプを、ただ「やりたい」という気持ちだけで、大したロジックもないのに決行してしまうのは、さすがにどうかとも感じます。あと、「ヒノマルソウル」というワードは聞くたびに寒気がして、最後まで受け付けませんでした。








第7位:いとみち


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三味線×メイドという取り合わせだけでも異色ですが、さらにそこに何を喋っているのか聞き取れない津軽弁が加わったこの映画。とも思えば、奇抜な映画とも思うかもしれませんが、この映画はその三者が絶妙なバランスで成り立った良作でした。


主人公のいとは訛りが強いことにコンプレックスを抱いているキャラクター。そのおかげであまり話せていませんが、ある日偶然見かけたメイド喫茶のアルバイトに応募します。そこにいたのはシングルマザーや夢追い人、Uターンしてきた店長など個性的な人々。小さくても心安らげる場所を手に入れたいと。同じ職場とのメイドたちや同級生と話すシーンは、シスターフッドの要素を兼ね備えていました。


さらに、この映画はいとの成長物語でもあり、メイド喫茶がピンチに陥ったとき、いとは遠ざかっていた三味線を再び弾く決意をします。父親との関係も改善され、迎えたラストシーンのチョイスは大正解。ままならないいくつもの小さな人生を肯定するラストに、横浜監督の優しい目線を感じます。音楽映画としての見せ場もあり、色々な要素が上手くミックスされている作品だと思いました。







第6位:クワイエット・プレイス 破られた沈黙


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前作から二年半ほどの年月が経ち、もう内容をほとんど忘れてしまっていました。しかし、それでも序盤にしっかりと状況説明から入ってくれるので、前作を観てなくても問題なしの優れたホラー映画だったと思います。


音を立てたら怪物に襲われる世界のなかでの親子の奮闘が描かれるのですが、判定基準は相変わらず緩め。ですが、カットバックにより、いくつかのシーンを交互に見せることで、上手く緊張感を盛り立てていました。また、怪物の手が及んでいない島を登場させることで、展開にも緩急を作り、終盤の恐怖を盛り上げていた点も出色です。さらに、前回では庇護されるばかりだった子供たちを活躍させていたのも、心憎いですね。前作の内容をあまり覚えていなくても、成長を感じられて少しだけ感慨深くなりました。


終わり方も余計なエピローグを入れずに、スパッと切ったのも高評価。心臓がバクバクしたまま映画館を後にすることができました。家族は誰も死ななかったので(ネタバレ)、まだまだ続編は作れそうですね。楽しみにしています。














第5位:男の優しさは全部下心なんですって


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MOOSIC LAB2019で主演の辻千恵さんが女優賞を獲得したこの映画。地元のイオンシネマで1週間のみの上映だったので、逃すまいと観に行きましたが、想像を超える良作でした。


主人公の宇田みこは、とにかく男運の悪いキャラクター。好きになった相手には、別の彼女がいたなんてしょっちゅうです。辻千恵さんから発せられる幸が薄い雰囲気が、こういう人いるなと思わせて、抜群に良かったですね。屋上で自殺を止めた相手とはうまくいきそうでいかず、好きになった脚本家には幽霊の彼女がいたりと、劇中でほとんど良い目に遭いません。


この幽霊の彼女の件はまさに出色の出来で。幽霊が脚本家に憑りついて脚本を書かせているという設定なのですが、よだれがだらだらでホラー風味を感じます。さらには、宇田みこにも幽霊が憑依して、その憑依した状態で、脚本家と行為に及ぶわけですが、ここのシーンが流れる音楽も合わさって、屈指の空しさ。こんな意味のない行為のシーン見たことないと思い、胸が締め付けられます。


さらに、どの男性とも上手くいかず、それどころか却って利用されるばかりの宇田みこ。着ぐるみを着て、表情が分からない状態で喋るのが痛々しく感じられます。そして、映画が進むにつれて宇田みこはどんどんと感情を失くしていく。明るい夫婦に招かれて食事をするシーンなんて、目を覆いたくなるほどの悲惨さです。


ラストも一見綺麗に見えますが、とてつもなくグロテスクな終わり方をするので、思わず「救いはないのですか?」と心の中で言ってしまいました。映画が終わった後は「宇田みこ、マジで幸せになってほしいな」という思いで頭がいっぱいになります。というか、今でもそう思っています。後を引いています。








第4位:映画賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット


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人気シリーズの映画第二弾です。前作を家のテレビで見て、その面白さにどうして映画館で観なかったんだと後悔したので、続編が発表されたときから、この映画は映画館で観ようと決めていました。何回か公開延期になったんですけど。そして、公開日に映画館に行ったところ、前作を超える正当進化的な面白さがあったので、ずっとニヤニヤしながら観ていました。マスクをしていて良かった。


今作ではこの映画の美点であるオーバーアクションが、前作よりもパワーアップ。個人的には大げさな演技はあまり好きではないのですが、これくらい振り切っていると、かえって楽しく観られます。前作からのレギュラー陣はもちろんのこと、今回の敵である視鬼神を演じた藤井流星さんが、違和感なく世界観に馴染んでいて良かったですね。卑怯な手やあからさまなイカサマを使い、追い詰められれば自分から負けてしまう小物感が良い味を出していました。


また、ストーリーの面でもハッタリを効かせたギャンブル対決や、気持ちのいい伏線回収など前作で良かったところをしっかりと踏襲。夢子と綺羅莉の共闘など、ファンにはたまらない展開もてんこ盛り。個人的には森川葵さんの活躍シーンが多かったのが嬉しかったです。前作を好きだった人は、必ずと言っていいほどハマる成功した続編になったのではないでしょうか。ラストを見る限り、まだまだ続編を作る気満々みたいなので、これからも楽しめそうですね。俳優さんの年齢の問題は気になりますけど。









第3位:劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト


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Filmarksの初日満足度が1位で、ファンしか観ていないとはいえ、その評価の高さが気になって、その次の日にたまたま時間が合ったので、完全初見にも関わらず観に行きました。フライヤーに「初見でも分かります」と書いてあったので、「本当だな?その言葉信じるぞ」と思いながら観たのですが、全くもって一ミリも分かりませんでしたね。とにかくバキバキに決まった映像にぶっ飛ばされました。こんなもの初見で分かるわけがありません。でも、観終わった後の興奮が凄かったですね。とんでもないもの観たなと。


この映画の舞台は、私立聖翔音楽学園という演劇を学ぶ学校。今思い出してもわけが分からないオープニングの後には、メインキャラクターが進路相談という名目で、次々に自己紹介をしてくれます。まあ初見で9人を把握するのは難しいですけど、一見さんへの配慮ですね。それからは主人公の愛城華恋とその幼馴染の神楽ひかりの回想を挟みながら、それぞれの進路を考えていく話なのかなと思わせといての、電車のシーンですよ。


いきなり電車がステージに変形したと思うと、画面には「ワイルドスクリーンバロック」という謎の文字列が。がっちりとした歌も流れて、大場ななというキャラクターが、仲間たちに攻撃を仕掛けるという、一目見て飲み込めるはずがない映像が展開されます。この映画では生徒同士の諍いや感情を、レヴューという演劇に乗せて語ります。


デコトラ、清水の舞台、オリンピック、ハラキリ、東京タワーなど何でもありのやりたい放題です。システム自体は、観ていると何となく飲み込めてくるものの、なぜ武器を持って戦っているのかは、全く分かりません。だけれど、アクションも冴えてるし、何より面白いからヨシ!と、ねじ伏せられてしまいました。口上もかっこいいですし、何度でも観たくなる魅力がありましたね。


だけれど、ぶっ飛んでいるようで、骨格的には卒業後どうするかという進路の話なので、意外と地に足はついています。最後は清々しい気分になります。初見でも分かるとはとても言えませんが、映画館で見るべき映画だと思うので、興味があればぜひ観てほしいですね。








第2位:女たち


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タイトル通り、2020年の現代に翻弄される女性たちを描いたこの映画。主演の篠原ゆき子さんをはじめ、倉科カナさんや高畑淳子さんなどの女優さんが新境地を開拓しています。なかでも倉科カナさんが良かったですね。特に終盤の長回しのシーンはイメージとは全く違う表情を見せていて、びっくりしました。もっと出演作チェックしておくべきだったなと思いました。


また、この映画の一番の特徴は、映画の中にコロナ禍を取り入れていることです。この映画では冒頭にニュースでコロナ禍であることがはっきりと示され、登場人物たちはマスクをし、手が触れるところを消毒し、二枚のアベノマスクが配られます。私は常々、映画はもっとコロナ禍を取り入れてもいいなと思っているのですが、それはあとで見返したときに「あの時はこうだったな」という記録的価値が出るためなんですね。しかし、映画は制作期間が長いため、なかなか難しい部分もあります。ただ、この映画は企画から公開までに一年ほどしかかかっていない。このスピード感は称賛されるべきだと思います。


そして、今もなおコロナ禍の真っ最中のこの時期に公開したことで、この映画は時代との計り知れない同時性を獲得しています。登場人物が私たちと同じようにコロナ禍に置かれることで、現実と少しも変わりないように思えるのです。苦しみや憤りがダイレクトに伝わってくるのです。


いつになるかは分かりませんが、この映画が配信等される時には、社会はどうなっているか分かりません。ワクチンが行きわたってコロナ禍が終息しているかもしれないし、変異株がさらに猛威を振るっている可能性もあります。だからこそ、『女たち』はまだコロナ禍真っ最中の今、映画館で観ることに大きな意味があると思います。内容的にも素晴らしいですし、ぜひ観ることをおすすめします。今一番、観るべき映画ですよ。








第1位:彼女は夢で踊る


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公開自体は去年ですが、観たのは今月ですので、今月のランキングに入れました。ぶっちぎりの一位ですね。わけ分かんないくらい泣きました。嗚咽を漏らさないようにするのに必死で、今まで映画館で観た映画の中でも、間違いなく一番泣きました。


舞台は広島第一劇場。そこでは、何十年もの間ストリップが公演されていました。しかし、今はスマホで簡単にアダルト動画を見ることができる時代です。当然ストリップに人は来なくなり、広島第一劇場は閉館することになります。もう時代に取り残されて消えゆくものという設定だけで、私の大好物なのですが、支配人であるこの映画の主人公は、口では何事もないように言っていても、本心では閉館を受け入れられていません。閉館に抗おうとあがく姿が、どうしようもなく涙を誘います。


主人公がそこまでストリップ劇場に固執していたのは、かつて広島第一劇場で見たストリッパーに恋をしてしまったからなんですね。しかし、劇場のスタッフとして働き始めた主人公はそのストリッパーと付き合うことができません。それでも、惹かれていく主人公。しかし、そのストリッパーは公園が終わると、広島を離れていってしまいます。いつか好きだったストリッパーが戻ってくるために、劇場を守り続けようと決めた主人公。この映画では現代と回想がシームレスにつながるという特殊な構造をしていて、その構造が主人公の健気さを強調していて、私はボロボロ泣きました。


また、かかる音楽もよかった。特にレディオヘッドの「Creep」が何度もかかっていて、曲のパワーだけでも泣きそうになりますし、私は二回目あたりで、既にヤバかったのですが、最後に歌詞の訳が空かされたらもう大号泣ですよね。彼女は特別だけれど、僕は気持ち悪い奴なんだ。彼女がどんどん離れていく。映画の内容と見事にマッチしていて、加藤雅也さんの謎の踊りも気にならないくらい泣きました。


それに、ストリップ自体もよくて。劇中の言葉を借りれば「人間の美しさ」を見せつけられたんですよ。現役トップストリッパーである矢沢ようこさんが出演していて、踊りにも説得力がありますし、心の底から美しいなと思って涙が止まりませんでした。私は人間が嫌いで、醜悪な存在だと思っているのですが、ここまで人間を美しく感じたのは、生まれて初めてのことでした。


それに、一番の勝因は観たシチュエーションですね。私はこの映画をミニシアターで観たのですが、これが大正解。映画と一緒に、映画館の持つ歴史を感じて、ミニシアターが好きでよかったなと思ったことも、涙を流させた一つの要因です。私も四半世紀は生きているので、好きだった場所がなくなった経験も何回かしています。この映画が出した結論は、そんな今はない場所への最大級の賛辞で、もうたまりませんでした。最高の映画です。












以上で6月の映画ランキングは終了になります。いかがでしたでしょうか。


6月は映画館で、このタイミングで観ることに意義を感じた映画がベスト3を占めました。『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は映画館で観るべき映像に圧倒されましたし、『女たち』はこのタイミングで観たことで登場人物たちがより現実的に見えました。そして『彼女は夢で踊る』はミニシアターという場で観たことで思いきり泣いてしまいました。映画館で映画を観るありがたみを感じた1ヶ月でしたね。下半期も映画鑑賞は続けていきたいと思います。


さて、下半期最初の7月ですが、相変わらず観たい映画はたくさんあります。新作だと


・東京リベンジャーズ
・ハニーレモンソーダ
・竜とそばかすの姫
・プロミシング・ヤング・ウーマン
・犬部!
・サイダーのように言葉が湧き上がる
・べいびーわるきゅーれ
・映画クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園



はおそらく観ますし、遅れて公開する映画でも、


・なんのちゃんの第二次世界大戦
・映画 さよなら私のクラマー first touch
・胸が鳴るのは君のせい
・明日の食卓
・2gether the movie
・1秒先の彼女
・猿楽町で会いましょう



あたりはチェックしたいと考えています。暑くなってきているので、夏バテしないように気をつけながら、映画館に通いたいと思います。


では、また来月お会いしましょう。それまでお元気で。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい 





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こんにちは。これです。


東京や大阪などで、また緊急事態宣言が延長されましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。シネコンをはじめとして、休館する映画館も多く、いくつかの映画が公開延期になり、辛い時期が続いていますね。個人的には、映画館は換気もしていますし、映画を観ている間は基本喋りませんし、クラスターも発生していないので、営業していいと思うんですけどね。観終わって感想を言いあう人たちは、別に映画を観なくても喋るでしょうし、そこで感染したからといって、それは映画館の責任じゃないですよ。スタジアムは人を入れることができているんですから、映画館も開けていていいと思うんですけどね。


さて、幸運にも私の暮らす地域は、まだそこまでコロナが広まっておらず、映画館も営業できているので、5月も何本かの映画を観ることができました。数えたら18本観ていましたね。今回のブログは、そんな5月に観た映画のランキングとなります。果たして、どの映画が一位に輝いたのでしょうか!?









第18位:椿の庭


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写真家である上田義彦さんがメガホンを取ったので、ショット単位での画の綺麗さは特徴的です。ですが、自らの力量を披露したいのか、風景を収めたショットがやたらと多く、しかもストーリーを前進させるためのエンジンにはなり得ていないので、個人的には退屈だという印象が勝ってしまいました。ストーリーも悪い意味で何も起こらず、眠気を抑えることに苦労した記憶があります。今年観た方がの中では、現時点ではワーストに近いです。








第17位:裏アカ


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2015年のツタヤクリエイターズプログラムを受賞した企画が、6年の時を経てようやく映画化。しかし、時間をかけたにもかかわらず、裏アカウントの描写は、2016年公開の『何者』に劣る印象を受けました。満たされない心の渇きと「本当の自分」というテーマの掘り下げがなかなかに甘く、また4つぐらい明らかに尺が長すぎるシーンがあり、没入を削がれます。良かったのは、神尾楓珠さんのサイコな雰囲気ぐらいですかね。「住所を突き止めるのなんて簡単だよ」の人をどこかで登場させるくらいの、おぞましさがほしかったです。








第16位:彼女来来


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ゴールデンウィークに松本で観たMOOSIC LAB特集の、4作のうちの1作であるこの映画。ポスターにもある「ある日、彼女が別人になった」という趣旨そのままの映画で、入れ替わった彼女を演じた天野はなさんの不気味さが、映画の魅力の大きな部分を支えていました。前原滉さんの最初は拒絶しながらも、徐々に非日常に侵されていく演技も良かったのですが、いかんせんフックになる要素が少なすぎて……。唐突な終わり方自体は好きなんですが、全体として見ればこのくらいの順位になるのかなと。なお、6月にはいくつかの劇場で公開される予定です。








第15位:the believers


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MOOSIC LAB特集で観た映画その2。2016年ごろの新宿を舞台にした群像劇で、時間軸も行ったり来たりとかなり複雑な作りをしています。ビデオデッキで再生したような、画素数の少ない荒い画面は80年代の邦画を観ているよう。それぞれの話のキャラクターの交わりも最小限にとどめて、最後でエモーショナルなシーンを用意するなど、好きなところはいくつかありましたが、私はバカなので、その展開に少しついていけない感じもしました。完全に私のせいですね。コロナ禍前の街並みが懐かしかったです。








第14位:バクラウ 地図から消された村


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カンヌでも絶賛され、公開されるやいなや映画ファンの間でも話題を呼んだ映画も個人的にはあまりハマらず。『ミッドサマー』のホルガ村に並ぶ「行きたくない村ランキング第1位」映画で、村人が殺し屋たちを返り討ちにしていく後半は痛快なのですが、正直あまり事が起こらない前半が退屈で何度か落ちかけてしまいました。不穏な空気を漂わせていたのですが、とっかかりに欠けていて……。でも、殺し屋たちの末路にはゾクッとしましたし、スプラッター映画が好きな人たちにはハマるのかなと感じます。私が苦手なだけで。








第13位:いのちの停車場


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吉永小百合さん、広瀬すずさん、松坂桃李さん、西田敏行さんをはじめとした豪華俳優陣の映画も個人的にはあまりハマらず。命というテーマに向き合うには、これくらい力量のある俳優さんを揃えなければならないというのは分かるのですが、演技が上手すぎてかえってリアリティがないという事態が発生していました。個人的に気になったのは、松坂桃李さんが急に息子のふりをするシーンですね。あそこで涙を流すんですけど、俳優でもない一般人が急に泣けるか?と感じました。仲が険悪な父親を重ね合わせたのは分かるんですけど、それにしたってスピーディーすぎではと思います。








第12位:地獄の花園


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往年のヤンキー漫画を、OLを舞台にして、さらにバラエティ番組のノリを悪魔合体させたような映画です。モノローグでも30回ぐらい「ヤンキー漫画」と言うくらいには、ヤンキー漫画の定番をなぞっていて、良いところももちろんあるんですけど、それ以上に悪いところやツッコミどころもヤンキー漫画と一緒だなと。広瀬アリスさんの修行編の退屈さが尋常じゃなく、そりゃ皆修行編避けるわなという感じです。理由もなく強い永野芽郁さんは良かったのですが、アクション自体はまあそこまで…...。ラストは好きですけどね。








第11位:アポトーシス


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MOOSIC LAB特集で観た映画その3です。とにかく重くて、暗くて、その暗さは今年観た映画の中でも随一です。もうすぐ世界が終わるという設定を、これ以上なくシリアスにやりきっていて、カルト教団や自死もあるなかで、「生きるってなんだ」「どうして生きるんだ」という問いが発露する瞬間は観ていて、魂を揺さぶられました。この鉛色した雲みたいな重苦しさ、私は好きなんですけど、他の人が観たらどんな反応をするのか気になります。でも、こちらはラストカットがあまり好きじゃないです。「終わりです~」じゃないです。














第10位:ファーザー


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認知症の人から見える世界を描いたこの映画。その触れ込みから、もっと視覚効果でグラングラン揺さぶって来るのかと思いましたが、存在しない人物や会話を見せることに注力していました。認知症で、周囲に苦労をかけているという苦しみ、癒えない過去の傷、自分に対する自責の念。それらが一体となって、見せる世界は目を背けたくなるほど、辛辣なものでした。何が現実なのかが分からなくなっていき、頭は混乱していく。最初の会話さえ、主人公であるアンソニーが見た虚妄なのか。自分の認知機能も歪んでいくようで、恐ろしさを感じましたね。


さらに、アカデミー賞主演男優賞を受賞したアンソニー・ホプキンスの演技も出色。自分が正しいと信じようと、言葉を重ねる姿は見ていて居たたまれなくなりますし、ショックを受けたときの表情がまた真に迫ってくる。史上最高の演技という謳い文句に偽りなしです。


ただ、いかんせん地味な印象もぬぐい切れず、この順位となりました。








第9位:JUNK HEAD


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公開当初から、密かに話題になっていたストップモーションアニメーション映画をようやく、ゴールデンウイークに鑑賞することができました。人類が生殖機能を失った後の世界観を描いていて、モンスターの造形や背景の作り込みなど細部にまでこだわっていて、これをかなりの部分一人で、しかも本職が内装屋さんの方が作ったというのは、それだけで驚嘆に値すると思います。


人間がほとんどいない、ある種アポカリプス的な世界観の中でも、オリジナルの言語を使ったり、音楽を使って逃走シーンを盛り上げたりと、映画的な楽しさも十分ありました。職長をやたらおだてるキャラクターや、いかにもモブっぽい戦闘員にやたらおしゃれな名前がついていたりなど、コメディ要素もあって退屈しませんでしたし、ヒーロー映画的な味付けがなされているのも嬉しいポイントです。


構想的には三部作らしく、また明らかに続編がある終わり方をしたので、二作目が公開されたら、また観たいなと思います。バズったことで、色々な人の協力を得られそうですし。それが良いか悪いかは分かりませんが。








第8位:ベイビーティース


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観る前はあまり好きそうな映画じゃないかなと思いつつ、どうかは観てみないと分からないと思って、観に行ったこの映画。結論から言うと、少女の成長を描いたわりと好きな映画でしたね。コンディションが整わず寝てしまったのが、悔しく思えるほどには。


この映画は、歯医者の娘さんが恋を通じて自分を成長させていく映画なのですが、細かく章が分けられていて、それぞれの章のタイトルにはシンプルながら好感触でした。また、少女の両親が突然現れた彼氏を、全く拒んでいないのも新鮮でした。結構早い段階で紹介が終わって、一緒に住んでますからね。親と彼氏の対立という安直なトラブルを用意して話を進める、といった映画になっていなかったことが一番好きなポイントですね。主人公の髪色がちょくちょく変わるのもちゃんと理由がありましたし。


でも、終盤の展開はそれほど…...。これはネタバレなのですが、主人公の少女は病気に侵されていて、ラスト付近で死んでしまうんですね。キャラクターの対立ではなく、病を話のエンジンにしているんです。なので、最後はかなり湿っぽくなってしまい、それまでの明るい空気との温度差が少なくない。難病モノにしなくてもよかったのにな、とはどうしても思ってしまいました。








第7位:夏時間


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ポスターでも触れられている通り、『はちどり』を思わせる、良い意味で特別なことが起こらない韓国映画が7位にランクインです。『はちどり』は個人的には、あまりハマらなかったのですが、この映画は個人的には好きです。ちょうど後述する一位の映画を観終わった直後で、強い衝撃を受けて頭が混乱していたのですが、そんな慌てた状況でも、すっと入ってくる優れた映画でした。『はちどり』よりも力みが少ないように感じたんですよね。あと、単純に上映時間も『夏時間』の方が30分ほど短いですし。


この映画の好きなポイントは、一つには夏休み特有の空気感があります。過度に楽しかったり、寂しかったりと演出するのではなく、どちらも含まれているちょうどいいバランスを感じられて、心地よかった。また、これもネタバレになるのですが、映画の中でおじいちゃんが死んでしまうんですよね。でも、この映画は過度にお涙頂戴をするのではなく、死さえも日常のありふれたものとして描いている。そのスタンスに好感が持てました。何か強いショックを受けた後の、清涼剤として観るのが一番良いと思います。もちろん単体でも面白いですが。







第6位:HOKUSAI


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去年公開のはずで、一年延期したにもかかわらず、状況は悪化しているという気の毒な映画。良いところと悪いところがはっきりしていますが、トータルで見れば私は好きでした。


この映画は4章構成になっていて、1章と4章はかなり出来が良いのです。1章で青年期の北斎を型破りな天才ではなく、ちゃんと師匠もいてどちらかというと計算で絵を描いている人物と再定義したのは新鮮でしたし、4章では親友を亡くしておきながら、それでも創作に打ち込む北斎の狂気が描かれていました。さらに、1章では玉木宏さんや阿部寛さんが、4章では永山瑛太さんが、男の色気を感じさせる素晴らしい演技を見せています。ここまで男が格好いい邦画は、現代ではなかなか貴重ではないかと思うほどです。


なので、2章3章で強度がガクンと落ちてしまったのはもったいなかった。大きなトピックもなく、俳優さんで引っ張るほどの強さもなく、中だるみしてしまっていた印象です。個人的には、富嶽三十六景のエピソードが弱いのが意外でしたね。結構ダイジェストみたいに流されてしまうので、あの波が出てきたときのカタルシスが薄いんですよ。1章の強度で最後まで突っ走っていれば、傑作になれたのではないかという、惜しい映画だと感じました。














第5位:ジェントルメン


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イギリス版の全員悪人映画が第5位にランクインです。映画の脚本案を友人に話すという体で語られる物語は、悪人たちの策略の巡らせ合い、騙し合い。地価の大麻農場で巨万の富を築いた主人公が、引退して後を継がせようというのが基本的なストーリーなのですが、セリフ回しに洋画ならではのウィットが効いていて、何人か人は死にますけれど、あくまでも娯楽映画として観ることができます。観終わった後、深いことを考えずに「あぁ面白かった」と感じられる。いい意味で後に引かないさっぱりとした面白さがありました。和牛は海外でも和牛なんだとか、アーセナルのスタジアムが登場したりとか、個人的にツボる要素もいくつかありましたしね。


その中でもこの映画の一番の魅力は、二転三転するストーリーでしょう。どこまでが脚本で、どこまでが現実なのか分からなくなるストーリーテリングが見事で、パワーバランスが次々と入れ替わっていく展開には痺れました。肉を剥ぎ取れとか、冷凍庫に死体を保管していたりなど、ゾッとする要素もスパイスとして効いています。また、セリフによってキャラを立てるという映画的な脚本も個人的には好きでしたね。会話劇としての面白さは、今年観た映画の中でも一二を争うと思います。特に何も考えず、素直に観ることができるので、まだ観ていない方がいたらぜひともお勧めしたい映画ですね。










第4位:ザ・プロム


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第4位にランクインしたのは、Netflix発のミュージカル映画です。配信自体は去年で、好評を得ていたのですが、いつでも観られると、いつまでも観ないという私の怠惰な性格もあり、地元の映画館で公開されたこのタイミングでの鑑賞となりました。


そして、感想としては映画館で観ることができて良かったという思いが、まず来ましたね。ミュージカル映画なので、大勢が一糸乱れぬダンスを披露するシーンがいくつかあるのですが、スマートフォンの小さい画面よりも、映画館の大スクリーンで観た方が、当たり前ですけど映えるんですよね。音響も良いですし。今、政府や自治体の謎の措置で、東京や大阪の多くの映画館が休業を余儀なくされている状況もあり、映画館で映画を観る醍醐味をより一層味わえた作品でした。今日日、こんな終わり方する?という大団円でしたし、エンディングにも工夫が凝らされていて、観終わった後、思わずハッピーな気分になれたことも嬉しかったです。


お話の方も、男女カップルでしか行けないプロムに、女性同士で行こうとする、慣習を突き破ろうとする現代的なテーマを帯びていて、ポイントが高いです。そこにメリル・ストリープやニコール・キッドマンといった名優が手助けをしようとするのですから、単純に観ていて楽しかったです。個人的に好きだったのが、主人公を演じた女の子の俳優さんで、名優に取り囲まれていても負けない華を持っていて、彼女によってもたらされた強度みたいなものは、この映画において大きかったと思います。ポスターに彼女が映っていないのは、個人的には唯一の不満点ですね。








第3位:POP!


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2020-21のMOOSIC LABのグランプリを受賞したのが、この映画。『アルプススタンドのはしの方』で一躍有名になった小野莉菜さんが、奇抜な髪形で、チャリティー番組のサポーターを務めているという設定のおかしな映画です。


この映画の強みと言えば、予測のつかない奇想天外な展開の連続。前のシーンからは想像もつかないシーンが次々と繰り出され、ジェットコースターに振り回されているよう。だって、こういう話で普通は爆弾魔とか出てきませんからね。観ている間ずっと飽きずに楽しむことができました。ハートマークを「これケツですよね?」と問うシーンが個人的にお気に入りです。


また、私がこの映画で一番好きなのが、主人公の孤独の描き方です。主人公はそのイメージから、わりと行動を制限される窮屈な生活を送っていました。また、ろくに整備もされていない山間の駐車場で、一人意味のないバイトをしていることも、心に来ました。クソ真面目に指さし確認をする姿が、哀愁を誘うんですよね。


それに、主人公は一人暮らしをしていますが、人工知能のアレクサ(みたいなもの)と一緒に暮らしてるんですよ。電気をつけたり、夜にしりとりをしたり。ただ一人で暮らすよりも、孤独をより如実に浮かび上がらせていて、この描写は斬新だなと感じました。こういった孤独が積もり積もって「私を消してよ」というシーンは『POP!』というタイトルにそぐわないほど重大なものでした。そりゃそうなるわなというロジックがあり、私は深く共感しましたね。


MOOSIC LABMらしく、Aru-2さんによる音楽も良く、最後のタイトル回収ではハッとさせられました。ぜひ多くの方に観て、楽しんでほしい映画ですね。








第2位:NO CALL NO LIFE


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公開自体は今年3月の、芸能事務所ホリプロの60周年記念映画です。その触れ込みだけで地雷臭がし、実際に評判もあまりよろしくはなかったのですが、個人的にはポスターの雰囲気からかなり好きな気がしていたので、観なければ分からないというマインドを発動し、観に行きました。そして、実際に見てみた結果、年に数本ある「評判はそこそこだけど、個人的には大好きな映画」いわゆる偏愛映画となりました。


何がいいって、その空気感ですよね。基本的なストーリーは普通の少女が、怪しい少年に惹かれていって、一緒に沼に引きずり込まれていくというお話なのですが、そのアンモラルな空気感が何ともたまりませんでした。少年は酒も飲むし、タバコも吸う。だけれど、心に傷を抱えていて、それは少女も一緒だった。二人が互いの足りないところを補うのではなく、一緒にいても傷は開いていくだけ。なのに、この人しかいないという思春期特有の未熟さが、ドツボにハマりました。


『ちはやふる 結び』などで知られる優希美青さんは、徐々に狂っていく少女を情感を持って演じていて良かったのですが、個人的にはこの映画で初めてお会いした、井上祐貴さんが想像以上に輝いて見えて。危ない雰囲気の中にある、痛さ、脆さ、か弱さをその立ち振る舞いで表現していて素晴らしく、今月最大の発見でした。現時点では、今年のベストボーイですね。今後の出演作にも注目していきたいです。


また、この映画はお互いがお互いのヒーローになる。二人で犯罪行為に手を染めるという意味で言ったら、4月に公開された『砕け散るところを見せてあげる』と少し似通っているんですよね。『砕け散る~』みたいな血の匂いがする青春映画が好きな私が、この映画を気に入るのは必然だったような気もします。過去からの電話というSF要素も、怖さというスパイスを加えていてよかった。井樫彩監督は『21世紀の女の子』で知ったのですが、個人的にこれから期待の監督さんのリストでも、かなり上位に位置しています。








第1位:きまじめ楽隊のぼんやり戦争


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ダントツです。今年単位で見ても、確実にベスト争いをするのではないかという超絶大傑作です。


舞台は9時から5時まで規則正しく戦争をしている町。ロボットみたいにガチガチに動くキャラクターに、お役所仕事で融通が利かない軍隊。どんな脅威かも忘れて戦争をしている。盗みをしたのに、市長の息子だからと警察になれる。打たれて片腕を失っても、感情に大きな変化はなし。女性は子供を産む道具としか見られていない。平坦な話し方は癖になり、そのブラックユーモアに思わず笑いが込み上げてしまいますが、冷静に考えたら笑えるところなんて、こぼれ落ちる白米ぐらいしかない。今の二本や世界を痛烈に皮肉っていて、その刃の切れ味が最高でした。


主人公は前線に出て、銃を打っていましたが、ある日楽隊への移動を命じられてしまいます。この楽隊に辿り着く過程も面白かったのですが、楽隊に辿り着いてからはきたろうさんのキャラクターもあり、面白さのギアが一段階上がっていきます。しかし、楽隊の仕事は軍隊を勇気づけること。かつて、日本でも戦時中に映画は国威発揚の道具として用いられていましたが、歴史は繰り返すのだと思わずにはいられません。


また、主人公は向こう岸の住人と音楽で心を通い合わせますが、最終的にはそれも何の役に立たず。今の文化芸術が真っ先に制限されているコロナ禍の状況さえも、意図的にではないにしても反映していて、その先見性に身震いがしました。文化芸術で世の中は変えられないというショッキングなラストは、観終わった後思わず放心状態になってしまうほどインパクトのあるもの。最悪に最悪を塗り重ねたあの終幕は、しばらくは忘れようとしても忘れることができないでしょう。


ユーモアを隠れ蓑にして、戦争の愚かさ、醜さ、滑稽さを描き切ったこの映画は、一人でも多くの方に観てもらいたい。5月だけでなく、現時点での2021年ベスト映画です。













以上で5月の映画ランキングは終了となります。いかがでしたでしょうか。5月は延期になった作品も多いので、新作映画があまり上位に食い込んでこないという結果になってしまいました。でも、個人的には割と満足しているランキングで。とくにベスト5はどれも面白い映画ですし、機会があればぜひ観てほしいと思います。


さて、6月に観る予定の映画ですが、新作としては


・賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット
・女たち
・るろうに剣心 The Beginning
・猿楽町で会いましょう
・キャラクター
・ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち
・夏への扉 キミのいる未来へ
・いとみち



あたりはマストで鑑賞予定ですし、新作以外でも、


・SNS 少女たちの10日間
・BLUE/ブルー
・僕が飛びはねる理由
・彼女は夢で踊る
・くれなずめ
・ザ・バッド・ガイズ



はぜひ観たいなと思っています。あとは、『胸が鳴るのは君のせい』と『映画大好きポンポさん』は、地元ではやっていないのですが、何とかして観たいなと。これ以上映画が公開延期にならないことを祈りつつ、上半期最後の6月も映画館ライフを楽しみたいと思います。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい 











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