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タグ:ロアッソ熊本




J1J2から遅れること2週間。3月9日にようやくJ3リーグが開幕しました。AC長野パルセイロにとっては昨シーズンの10位から巻き返しを狙うシーズンです。そんなパルセイロの初戦の相手はロアッソ熊本。去年までJ2に所属していた強敵です。開幕戦といえどJ2昇格のためには勝たなければならないこの試合。パルセイロはどのように戦ったのでしょうか。







長野グランドシネマズでのライブビューイングの模様はこちら↓
サッカーと映画館の幸せな出会い。長野グランドシネマズでAC長野パルセイロの試合を見た日










では、両チームのスタメン紹介です。


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パルセイロは#5池田選手#11木村選手#29山田選手#30浦上選手と新加入選手4人がスタメン。昨シーズン出場機会のなかった#18内田選手もスタメンに名を連ねており、かなりフレッシュな面々です。フォーメーションは昨シーズンの4-4-2から3-4-2-1に変更となりました。




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一方の熊本。こちらは#9原選手#14中原選手#22山本選手の3人の新加入選手がスタメンです。フォーメーションはパルセイロとは逆に、昨シーズンの3-4-2-1から4-4-2となりました。




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前半キックオフ!





この日のコンディションは強い雨。ピッチはスリッピーで、グラウンダーのボールだと伸びてしまいパスが合いにくいという状況だったため、両チームとも立ち上がりはロングボールを主体とした攻撃を展開します。


熊本が狙うのはパルセイロのWBとCBの間のスペース。ここで特徴的だったのが、FWの選手があまり流れず、SHの選手がボールを受けようとするということです。熊本のFW、特に#9原選手は中央でフィニッシャーの役割に専念しており、SHが斜めの動きでボールを受けようとしますが精度を欠き、パルセイロのディフェンスに跳ね返されてしまいます。この日の3CB、#26遠藤選手#30浦上選手#5池田選手は、前半は安定した空中戦の強さを見せていたので、パルセイロは前線から激しく寄せて熊本にロングボールを蹴らせるという戦術を取れていました。


熊本の攻撃でもう一つ特徴的だったのが、横幅を圧縮すること。ピッチの半分ほどに全員が入り、細かくボールを繋ぐことを目指していましたが、雨でボールが滑るこの日のコンディションではその戦術が裏目に出ているように感じられました。パルセイロの選手たちも密集していて、よくボールが引っかかっていましたしね。


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パルセイロは去年の4-4-2のシステムから今年はシステムを3-4-2-1に変更してきました。新生パルセイロの特徴として、まず変化が見られたのはWBです。3バックのWBというと攻撃時に大きく開いて、相手チームを横に間延びさせることを狙うチームもありますが、パルセイロのWBにはその幅を取る動きが要求されていません。攻撃時にパルセイロのWBに求められているのはフィニッシュに絡む働きです。


逆サイドのWBはサイドに開くのではなく、中央より少し外側にポジションを取ります。よりゴールに近い位置から逆サイドのクロスに合わせて、ペナルティエリア内に入っていく。昨シーズンのチームよりも横に圧縮されていて、密集を高めてボールを動かそうという狙いが見られます。


これにより、パルセイロの去年の課題だったペナルティエリア内の人数不足は改善の兆しを見せています。前線に加え逆サイドのWB、さらには一方のボランチが入っていくシーンも見られ、得点の匂いを感じさせます。リスク管理もボランチの片方は確実に後ろに残るようにしており、カウンターの芽を摘もうと睨みを利かせています。#6岩沼選手はもちろん、新加入の#29山田選手も危機察知能力に優れ、パルセイロにとって使われたくないWBが上がった後のスペースを確実に消していましたね。


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また、昨シーズンと比べて増えたのが前線からの守備。熊本のCBにボールが入ったところからパルセイロは守備のスイッチを入れます。#11木村選手が隣のCBのボランチへのパスコースを切るようにきつくアプローチ。ボールをSBに誘導します。SBにボールが入ったら、#14東選手もしくは#19三上選手のシャドーがボランチへのコースを切り、#11木村選手がCBに戻させないように立ち、SHにボールを入れるように誘導します。熊本のSHをこの日のパルセイロはボールの取りどころに設定していて、WBがインターセプトするというシーンがこの日は多く見られました。


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また、パルセイロは守備時にWBとシャドーを下げて、5-4-1の陣形に変更します。熊本の前線4枚に対し、パルセイロは最終ラインを5枚にして数的優位を作って対応。そして、中盤ではボランチはそのまま熊本のボランチ、シャドーはそれぞれ熊本のSBと見る相手を明確に決めて、プレッシャーを敢行。迷いを失くすことで、素早くタイトな寄せを実現。ボールホルダーとの距離は明らかに昨シーズンよりも縮まっています。これにより熊本の選手に自由を与えず、攻撃を食い止めることができていました。前線では#9原選手がボールを貰おうと動き出していますが、効力を有しません。


これを解決するために、熊本は#10伊東選手を下がり目の位置でプレーさせることで、中盤で数的優位を作ってボールを回そうとしています。しかし、これにもパルセイロはシャドーの選手を中に絞らせることで対応。ボランチの選手が釣りだされた時も、シャドーの選手がカバーに入れるようにすることで、穴を作っていませんでした。さらに、前線には#9原選手一人。パルセイロは#10伊東選手が下がったことで#9原選手に二人を当てられるようになり、前半は#9原選手にボールを触らせない守備を実践することができていました。


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パルセイロも攻撃はロングボールが主体です。サイド深くでボールを奪うやいなや、前線の選手が裏に走り出し、ボールを引き出そうとします。狙うは熊本のSBが戻り切れていない裏のスペース。#11木村選手が下がって、CBが食いついて空けたスペースをシャドーの選手がつくなどの工夫を施しますが、当然そこにはCBの選手が並走してきます。しかし、#19三上選手#14東選手#11木村選手は想定外にキープ力があり、マイボールにすることも少なくありませんでした。


ボールをキープできたら、パルセイロはサイドに密集を作り、突破しようとします。ここで効果的だったのが#14東選手の斜めの動き。熊本の4バックに対して、パルセイロは1トップ+2シャドーの3枚。このときシャドーの選手がCBとSBの間にポジションを取れれば、相手を迷わすことができ、#14東選手はこのポジショニングが非常に巧みでした。相手が捕まえ切れていない瞬間を使って、ハーフスペースからサイドに出ていくことでフリーになってクロスを上げるというシーンが前半は何度か見られます。


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また、パルセイロは前線から守備にいっています。コースを限定しながらプレスをかけに行った結果、熊本の選手が焦って、パルセイロの選手がふさいでいるパスコースにボールを出して、奪えてしまうという成功例も前半はいくつかありました。37分の#11木村選手のシーンがその代表例ですね。前線からの守備が機能して、パルセイロは前半多くの時間帯で主導権を握ることができました。




しかし、両チームともに得点は生まれず前半は0-0で終了。パルセイロが積極的に前から守備に行くことでペースを握りましたが、1試合を通してこれを続けるのは少し難しい。なので後半は早い時間帯に得点を奪って、多少なりともペースを落とせるような展開に持っていくのがパルセイロにとっては理想的です。対する熊本はパルセイロのプレスが緩む時間帯が必ず訪れるので、いかにその時間帯を逃さず仕留められるかがカギとなりますね。



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両チームとも選手交代のないまま後半キックオフ!


後半、熊本はプレスをかけ始める位置を敵陣ミドルサードに設定しなおして、前線から守備をするようになります。#9原選手#10伊東選手が縦のコースを切りながらプレッシャーをかけてきますが、パルセイロは#29山田選手も下げての4バック気味でビルドアップをします。4対2の数的優位にすることでプレスをかわして、前線に縦パスを多く供給します。


また、熊本はゴールを奪うために、後半からSHをかなり中に絞って、中央を厚くしてきました。#14中原選手#15坂本選手がクロスに飛び込む場面が増えますが、3バックが集中力を保って跳ね返していて、決定的な働きはさせません。


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後半6分。パルセイロが先制に成功します。#25有永選手から前線に縦パスが入りますが、これは合わずにカットされてしまいます。しかし、ここでのパルセイロの攻→守への切り替えが素晴らしかった。すぐにボールホルダーに#14東選手が後ろから寄せて遅らせる。そこに#19三上選手が挟みに行き、#11木村選手にボールを奪わせる。前線からの守備が結実したシーンでした。


そして、#11木村選手#18内田選手にパス。熊本は守備時にも横幅を狭めて中央を固めてくるだけに、外で待っていた#18内田選手はフリーになっていましたね。#18内田選手はそのまま相手が寄せてくる前にクロスを上げます。中では#5植田選手から離れる動きでフリーになっていた#14東選手が右足で合わせ、今シーズン初ゴールを奪取。後半やや熊本がペースを握っていた中で、パルセイロが先制点を挙げました。







後半10分、熊本が動きます。#15坂本選手に替えて、#11三島選手を投入。前線に高さのある#11三島選手を置くことで、ロングボールを収めて攻撃しようという狙いでしょうか。#11三島選手#9原選手と2トップを組み、#10伊東選手が左SHに入りました。


前線にターゲットができたことで、熊本は#11三島選手めがけてボールを蹴るようになります。#11三島選手は前線で張っているというよりも、ディフェンスラインと中盤の間でボールを受けようとしていて、パルセイロは空中戦に強いCBが前に出て対応します。競り勝たれてしまいますが、他のCBが斜め後ろでカバーの位置を取っているので、かろうじて大事には至っていません。


また、#10伊東選手は左SHに入りましたが、かなり中に入っていき、まるでトップ下のように振舞っています。中盤とサイドの間、前線と中盤の間を自由に動く#10伊東選手でしたが、パルセイロは選手間同士の距離を縮め、スペースを小さくすることで#10伊東選手をフリーにしません。そして、#10伊東選手がいたスペースには#7片山選手が上がっていることが多く、パルセイロはボールを奪ったらまず右サイドを狙ってロングボールを入れ、カウンターを仕掛けていました。カウンター時に味方の上りを待つのではなく、前線の3枚だけで崩そうとする意志がみられたのは好印象でした。


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後半26分。熊本が二人目の交代を行います。#7片山選手に替えて、より攻撃的な#24高瀬選手を投入。クロスが得意な#24高瀬選手を入れることで、#11三島選手の高さをより生かそうという狙いでしょうか。#10伊東選手を中に入れて左SBを挙げる攻撃は継続し、リスクを取ってでも同点に追いつこうという狙いが見えます。


後半29分。パルセイロが最初の選手交代を行います。#19三上選手に替えて、#3大島選手を投入。FWに替えてDFの選手を入れたということで、パルセイロはフォーメーションを変更。#26遠藤選手を右SB、#5池田選手を左SBに置いた4-4-2の陣形にしてきます。守備に重点を置いて守り切ろうという選択でしたが、結果的にこの采配が裏目に出てしまいました。


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まず、ディフェンスラインが単純に低い位置を取ってしまっています。中盤やFWとの距離が開き生まれたスペースを熊本に使われ、パルセイロは押し込まれていきます。前半は機能していた前線からの守備も、疲労もありますが4対2ではコースの限定をしきれず、中盤との距離が開いているため連携も不十分。熊本のディフェンスラインに余裕を持たせてビルドアップをさせてしまっていました。これを防ぐためには前線の選手同士を交代させて、プレスの強度を保った方がよかったのではないかと。


また両SH、特に#18内田選手は3バックのときと同じようなイメージでプレーしていて、ディフェンスラインに入ってしまうのが早すぎたように見受けられました。ここでボランチの脇のスペースをカバーする選手がいなくなり、そこを熊本に利用されてしまいます。#25有永選手もディフェンスラインに入って6バックになる時間帯もあり、熊本の中盤へのプレスが緩くなり、簡単に縦パスを出されていたので、この意味でもあまりよろしくなかったですね。


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#7片山選手#24高瀬選手に交代しています。




熊本が#8上村選手に替えて#25田辺選手を投入した直後の後半34分。パルセイロのゴールキックを#5植田選手が跳ね返し、#11三島選手が縦につなぎます。ここで#11三島選手は前線と中盤の間でフリーになっていたので、その対応のために#30浦上選手が引っ張り出されてしまいました。#3大島選手#26遠藤選手が挟みこんで奪おうとしますが、#9原選手#3大島選手の背中に回り、視界の外から飛び出します。これを#3大島選手がファウルで止めてしまい、熊本にPKが与えられてしまいました。そして、#3大島選手はボールに行っていなかったので、決定的な得点機会の阻止を取られてレッドカードで退場です。


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#7片山選手#24高瀬選手に交代しています。




ただ、このシーンはもっとはっきりとしたプレーを見せることで防ぐことができた可能性があったかなとも思います。#26遠藤選手#3大島選手の間で少し迷いが生まれてしまったところを、#9原選手に突かれたところもあるので、急造4バックの連携不足という弱点が出てしまいましたね。そして、このPKを#9原選手#16阿部選手の逆を突いて決め、熊本が同点に追いつきました。







その直後にパルセイロは選手交代。#14東選手に替えて#10宇野沢選手を投入します。そして、フォーメーションも再び変更。#26遠藤選手#30浦上選手#5池田選手の3バックに戻し、3-4-1-1のような陣形にします。守備時には両WBと#11木村選手が1列ずつ下がって5-3-1になるような陣形です。


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後半40分。パルセイロが敵陣中央でFKを獲得します。#6岩沼選手が蹴り、#5池田選手が折り返したボールを熊本DFがクリア。しかし、このクリアボールを#29山田選手がペナルティエリア前から直接ボレーシュート。これがゴールに突き刺さりパルセイロが勝ち越します。数的不利の中、決めるならここしかないという場面で奪ったゴールに選手たちも感情を爆発させます。







しかし、その直後の後半43分。自陣左から#25田辺選手がクロスを上げます。これを#11三島選手に折り返され、パルセイロのディフェンスがクリアできずにファーに流れていったボールを#9原選手に押し込まれ、熊本が再び同点に追いつきます。


この失点は#25田辺選手へのプレスが緩かったことや、#9原選手のポジションが巧みだったこともありますが、一番の要因は#11三島選手に折り返しを許したことです。このシーンの前からパルセイロのディフェンスは11人のときでも、前線と中盤の間にポジションを取る#11三島選手を捕まえきれておらず、度々プレッシャーのない状態でのヘディングを許してしまっていました。#11三島選手のポジショニングが巧みだったのもありますが、この試合を見た他チームはパルセイロ攻略にと同じような攻撃をしてくる可能性があるため、ここは早急に改善しておきたいポイントですね。







後半アディショナルタイムは4分。熊本はロングボール攻勢を続け、逆転ゴールを奪おうとしますが、パルセイロも#11木村選手に替えて#27竹下選手を投入するなど手を打ちます。#10伊東選手に決定的なシュートを打たれる場面もありましたが、すんでのところでパルセイロが守り切り、2-2で試合終了。両チームとも開幕戦はドロー発進となりました。


パルセイロは結果こそ追いつかれてのドローに終わりましたが、前線からのプレスで熊本の攻撃を抑えるなど変化が見られた場面もあったので、概ねこの方向性を続けていけばよいかと思われます。あとは前線と中盤の間を空けないためにも、押されても引かないという心構えが必要ですね。


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<ハイライト動画>







選手コメント(Jリーグ公式)

J3順位表(Jリーグ公式)

2019明治安田生命J3リーグ第1節 vsロアッソ熊本(長野公式)

フォトギャラリー(長野公式)

2019明治安田生命J3リーグ 1(熊本公式)

AC長野、開幕戦ドロー 「格上」熊本相手に(信濃毎日新聞)

ロアッソ、長野と引き分け J3開幕戦(熊本日日新聞)























初戦をドローで終えたパルセイロ。次節の相手は今年JFLから参入してきたヴァンラーレ八戸です。八戸はパルセイロと同じくガンバ大阪U-23との開幕戦を2-2で終えています。J3ではJFLからの参入組が軒並み好成績を残しており、しかも監督はパルセイロが苦手としている大石篤人監督。情報も少ないですし、難しい試合になりそう。


ただ、八戸戦はホーム開幕戦。3月17日(日)の13:00~長野Uスタジアムでの開催となります。ここはスタジアムを一人でも多くのパルセイロファン・サポーターで埋めホームの雰囲気を作り出し、八戸を怯ませたいところ。ぜひとも家族友人をお誘いあわせのうえ、長野Uスタジアムにお越しください。みんなで選手の背中を押しましょう!


頑張れ!AC長野パルセイロ!!


お読みいただきありがとうございました。


おしまい





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試合の記事はこちら↓
【雨中で見せた新生パルセイロの片鱗】2019明治安田生命J3リーグ第1節 ロアッソ熊本 vs AC長野パルセイロ【雑感】





2019年、AC長野パルセイロはJ3で6年目のシーズンを迎えた。開幕戦の相手はロアッソ熊本。J2昇格への挑戦が始まる。


ただ、全員が全員開催地の熊本に行けるわけではない。そんなサポーターのために用意された救済措置がパブリックビューイング。去年までは長野Uスタジアムでの開催だったが、ビジョンは遠く、なにしろ風が吹くと身震いがするほど寒い。これを解決するために長野は、映画館でのパブリックビューイングならぬライブビューイングに踏み切った。映画館のスクリーンでサッカーの試合を見ようという、J3では画期的な取り組みである。




J1、J2の試合を指をくわえて眺めるしかなかった2週間が過ぎ、3月10日。長野のシーズン開幕の日がやってきた。開場の10分ほど前に、グランドシネマズに到着する。二層になっている自動ドアをくぐった瞬間、奥の方にかすかにオレンジ色が揺らめくのを見た。ロビーはほどほどに空いている中で作られた密集。普段真っ先に向かうチケットカウンターを通過すると、そこには長野のコーナーができていた。いつもは公開中、もしくは公開予定の映画のリーフレットが置かれている場所に、長野の幟が立ち、グッズが売られ、シーズンチケットが引き換えられていた。


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グッズ売場の横で、うさ耳をつけたドラえもんが三日月に座っている。シーズンチケット引換所の後ろには、紫とオレンジのグラデーションに染められた幕。「ボヘミアン・ラプソディ」だ。映画とサッカーがめったに見ることのできないコラボレーションをしていて、思わず拍手を送りたくなる。


いつもは空いているロビーのベンチもこの日は座る場所を見つけるのに一苦労。人と人との距離が近く目眩がしそうで、でも、多くの人がサッカーの話題で盛り上がっているのはなんだか楽しそうだ。誰もが口の端を上げ、柔らかな目をしていた。母親に抱きつく子供も、着ている服はオレンジ。スタジアムの風景を一足先に味わっているかのようだ。


開場時間が近づく。入場口から伸びる列は50人ほど。しかし、オペレーションがいいのかスムーズに人々がゲートの中へと吸い込まれていく。入場口で貰ったチラシはDAZNのQRコードとホーム開幕戦の告知のリバーシブルになっていた。


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エスカレーターを上り、シアター4の入り口は手前側にある。入ろうとすると、なんとサニクリーンさん提供のカーペットが敷かれているではないか。普段選手入場時に花道を作るように敷かれているカーペットが、こんなところでお目にかかれるとは。否応にもテンションが上がってしまう。普段映画のポスターが貼ってある小窓にも、トップチームのポスターが貼られていて、完全な長野仕様だ。


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きっと、このカーペットは純粋に映画を見に来た人の目にも止まることだろう。視認して頭の中に「AC長野パルセイロ」がインプットされる。大事なのはこの刷り込みだ。頭に刷り込んでおくことで、また何かの機会で長野を目にしたとき、「あのときの」と思い出すトリガーになってくれる。長野という存在が身近に感じられ、チケットを買ってくれる可能性だってあるのだ。スタジアムにお客さんを呼ぶには、露出の機会を様々な場所に設けることが必要だ。これだけでもグランドシネマズでライブビューイングを開催した価値があるとさえ思う。提案した人に賛辞を送りたい。ありがとうございます。




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開かれたままのドアをくぐり、劇場内に入場する。全体を覆う黒い壁。リノリウムの床に赤い座席が規則正しく並ぶ。灰色のスクリーン。暖房のまったりとした温かさ。観客の期待を集めて高揚する空気。自分がいつも入るシアターそのままで、その変わらなさに安心する。


スクリーンの下にはお立ち台。そして、その下にはパイプ椅子が四脚。シートの色はオレンジだ。その隣にDAZNと長野の幟が2枚ずつ。三角形のスピーカーが両隣に立てられ、ミキサー台が隅っこにぽつんと置かれている。お客さんが半分から三分の二ほど入った十二時十分。この日のプログラムが開始された。


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まず、登場したのは大橋営業担当と、FMぜんこうじのパーソナリティ宮島さん。軽快なトークが繰り広げられる。段取りはプロ並みとはいかないが、実際の舞台挨拶もこんな感じなのかなと思いを巡らせる。


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二人が少し話した後に、ゲストの選手が呼び込まれた。この日登場したのは#15西口選手#21立川選手。ユニフォーム姿での登壇に、サポーターも浮足立つ。拍手で迎え入れられ、椅子に座った二人の顔は少し浅黒く、太い筋肉質な足がサッカー選手であることを物語っている。足を広げてリラックスした様子だが、顔はガチガチに強張っていて、出てくる言葉もどこかたどたどしい。#21立川選手は「試合よりも緊張します」と語っていたが、そう話す顔の筋肉は硬直していた。


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話題はキャンプについて。和歌山キャンプ(#21立川選手の地元は和歌山だそう)は、多くの日程が二部練習だったようで、「今までで一二を争う厳しさ」だったらしい。トークが進んでいても硬さは取れないまま。その空気はサポーターにも伝播する。大橋営業担当が質問コーナーを設けようとするが、誰も手を挙げなかった。いつもとは違う神妙な空気に抗うのはとても勇気がいることだった。


サポーターを交えてフォトセッションを行われた後も、トークショーは続けられる。いつの間にかパイプ椅子がもう一脚増えている。呼び込まれたのはKIRINの長野支社支店長の椎谷氏。髪型は中央で分けられており、背がスラっと高い。スーツの前ボタンは外されていて、少しラフな印象を受ける。


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椎谷氏が登場した瞬間、#15西口選手の背筋がピンと伸びた。実は、椎谷氏は京都産業大学卒業で#15西口選手の先輩にあたる。#15西口選手とは大学の繋がりで、度々食事に行く間柄だそうだ。椎谷氏が登場してからというもの#15西口選手は明らかに委縮していて、視線も定まらない。そんな#15西口選手に椎谷氏は関西弁でつっこんでいく。新婚生活や去年の成績をいじられて#15西口選手はタジタジ。まさに蛇に睨まれた蛙。でも、椎谷氏が入ったことで硬直した空気も少しは緩まり、トークも滑らかに回り始めたので、結果としてはよかったのかもしれない。#15西口選手には少し気の毒だけれど。




トークショーも終わり、いよいよDAZNの中継が画面に映される。いつもならまず善光寺の表参道が映され、これでもかと結婚式場の広告が続き、「エイブルで契約した人数はスロバキアの人口よりも多い」というよく分からない情報が流れるが、この日はいきなりDAZNの中継画面が映し出された。いつもウォーミングアップの役割を果たしてくれる映画泥棒も、この日はご無沙汰で寂しい。心のどこかで映画泥棒が流れたら面白いなと思っていたが、まあ当然だ。


DAZNの中では雨が降りしきっていて、多くのサポーターが合羽を着て、雨に打たれながら声を出していた。あの場所に行きたかったという後悔と、ぬくぬくしながら見られるという優越感が心の中でせめぎあう。入場時のチャント「sky」に合わせて、劇場内のサポーターもタオルマフラーを掲げる。高揚感が高まっていく。


東日本大震災の犠牲者に黙とうが捧げられ、劇場内が暗転した。いよいよ始まるという空気が劇場を包んだ。手拍子とAC長野コールが巻き起こる。スタジアムのそれよりは控えめだったが、応援しようという確かな意思が感じられた。気が付けばほとんどすべての席にサポーターが座っている。満員の劇場にキックオフの笛が鳴った。









試合開始直後から、長野は選手が足を滑らせてしまう。いきなりのピンチに悲鳴が上がり、劇場全体がほっと息をつく。その後の長野のシュートシーンには、「よし」という声援が上がる。いけいけと声がもれる。少しのプレーで拍手が起こり、ため息が出る。思い思いに喋っている人の存在に、ここは自宅なのかと錯覚する。シートはスタジアムの椅子と違い、体の重みを吸収してくれることも、リラックスして見られる要因だった。劇場のよそいきな空気が、少しずつアットホームなものへと変わっていく。


ただ、そこは映画館の大スクリーンで見るサッカー。当然自宅とは違う。スクリーンのあまりの大きさに、固まった視界では全てを捉えきれない。目をあちらこちらに配らせる必要がある。5列目という前列よりの席ならなおさらだ。その迫力に圧倒されて、口の中が乾いてくる。事前に買ったコーヒーが著しいペースで減っていく。


しかし、画面はどうだろう。大画面に映されたDAZNの中継は明らかに画質が悪い。テレビやPC、スマートフォンで観られることを想定した映像は、映画館の大スクリーンに耐えうるものではなかった。選手の動きも旧世代のゲームのようにどこかぎこちない。引き延ばされて粗くなった映像と、滑らかでない選手の動きは臨場感があまり感じられなかったのが正直なところである。


それは例えるならば30年代の映画。白黒で画素数は低く、人物の輪郭はぼやけている。フィルムの繋ぎ目で、ときおり画面に黒い線が現れるあの感じ。5秒前からのカウントダウンによく似ていた。この日の熊本は雨が強く打ちつけていて、画面が少し暗い。それでも大体の映画よりは明るいのだが。ふとした瞬間に白い雨が画面を流れる。それがいい塩梅で映画的な雰囲気を醸し出していて、スマートフォンで撮影したかのようなハンドメイド感があった。


それに、いつも見ている映画とは何かが決定的に違う。臨場感が感じられない。なぜだと少し考え込む。そして分かった。音だ。音がいつもと違うのだ。普段の映画だったら、壁に取り付けられたいくつものスピーカーから音が流れてくるはずだ。多層的な音の波で観客を飲み込み、映画に臨場感を与え、没入させる。それが映画館の音なのだ。


しかし、このライブビューイングは違う。音が出てくるのはスクリーンの両脇にある2つのスピーカーからだけ。壁に取り付けられたスピーカーはただの飾りだ。音は単層的で、観客を飲み込むだけのパワーが感じられず、どこか冷めてしまう。私が想像していた映画館でサッカーを見るというイメージからは程遠かった。もっと迫力のある音で見られると思っていたのに。ここはもし次回があれば一番に改善してほしいポイントである。


それでも救いだったのは画面で展開されていたサッカーが面白かったことだ。枷が外れたかのように勢いよく走る。前線から守備をし、球際も激しい。攻撃の際もペナルティエリアに入る人数が明らかに増えている。人の心を動かせるようなサッカーがスクリーンでは展開されていた。生まれ変わろうとする意志がうかがえる。


前半は0-0で終わった。劇場内が明転する。15分のハーフタイムという名の休憩だ。スタッフからは「再入場の際はチケットの半券をお持ちください」と映画館には似つかわしくないアナウンスも聞こえる。トイレに、売店に外に出る人の多さは驚くほどで、今回のライブビューイングの特殊性が感じられた。









15分の休憩が終わり、再び劇場が暗転する。後半がキックオフ。


後半立ち上がり、長野にゴールが生まれる。#18内田選手のクロスに#14東選手が合わせて先制。ボールがゴールに吸い込まれた瞬間、目の前が上げられた腕で埋め尽くされた。今シーズン初ゴールを優勝候補の熊本から上げたのだ。これが嬉しくないはずがない。劇場内は叫声に包まれた。ハイタッチをしている人もいる。普段映画を見ているときには決して味わえない体験。周囲と一体となって感情を表現できるのはライブビューイングの大きな魅力だ。


熊本は空中戦に強い#11三島選手を投入する。さらにクロスが得意な#24高瀬選手も投入し、#11三島選手の高さを徹底して使う攻撃にシフト。長野は押し込まれていく。#3大島選手を投入し守備固めを狙うが、状況は変わらない。劇場の雰囲気も祈念が増える。迎えた後半三十四分。#3大島選手が裏に抜け出した#9原選手を倒してしまった。このプレーで熊本にはPK。そして#3大島選手にはレッドカードの提示。


ボールの近くに立つのは#9原選手だ。絞り出されるような祈りが支配する劇場内。胃が縮むようだ。しかし、その祈りも届かず、#9原選手は落ち着いてPKを決めて、熊本が同点に追いついた。


そこからは一人多い熊本が押し込む。ロングボールを入れて一気にフィニッシュに結びつけようとする。じわじわと追い詰められていく長野。それはまるでホラー映画で、怪物に襲われる主人公たちのようだ。暗闇の中から飛び出してきて、主人公と観客に恐怖を与える。どこから襲ってくるか分からない緊迫感。


さらに、大スクリーンが感情を増幅する。間近に大画面があることによる心理的な圧迫感。暗い空間ということも相まって、テレビやスマートフォンとは段違いの説得力を生んでいる。目を反らしたくなるけど、画面での攻防に釘付けになってしまう。手に汗を握り、コーヒーはいつの間にかなくなっていた。この説得力は映画館でなければ決して味わえない。


後半41分。劣勢だった長野がセットプレーを獲得する。もし決めるならここしかないという場面。#29山田選手がミドルシュートを突き刺した。怪物に追い詰められていた主人公の反撃に、劇場内は大きく沸く。今までの鬱積されたフラストレーションが一気に解放されたかのようで、一点目よりもその反応は大きい。興奮が劇場内を駆け巡る。この日一番の盛り上がりだった。


ただ、怪物も諦めてはいない。獲物を捕食しようと鋭い牙を剥き出しにする。熊本は長野が勝ち越した直後に#9原選手の2点目ですぐさま同点に追いついた。劇場内から嘆息が漏れるが、ムードが盛り下がることはない。サポーターが固唾を飲んで試合の行方を見つめている。


試合は最終盤に突入する。怪物と主人公のギリギリのせめぎあい。怪物の赤い舌が主人公の眼前まで迫る。映画だったらクライマックスで、最も盛り上がるシーンである。足が小刻みに震える。心臓がきゅっと締め付けられる。喉元からコーヒーがせり上がってくるかのようだ。今、後ろから肩に手を置かれれば、きっと腰を抜かしてしまうことだろう。ロングボールを入れる熊本と跳ね返し続ける長野。4分のアディショナルタイムがその何倍にも感じられた。


試合終了の笛が鳴る。試合は2-2でドローに終わった。主人公は捕食されることなく、逃げることに成功したのだ。劇場内にはなんとか負けなかったという安堵と、勝てた試合だったのにという悔しさの2つの感情が吐き出される。後者の方が支配的に感じられたのは、これからに対する期待の表れだろうか。健闘を称えるようにAC長野コールが送られた。明転した劇場内には清々しい空気が立ち上っていた。試合が終わってもサポーターの数はなかなか減らない。まるで激闘の余韻を噛みしめるかのように。









今回、初めて長野グランドシネマズ様で行われたライブビューイング。想定していたより臨場感はなかったが、大スクリーンでの強い説得力に圧倒され、終わった後には素直に来てよかったと思うことができた。ぜひ第2回を開催してほしい所存だ。そのときはさらに大きいスクリーン1で、ライブビューイングを行ってほしい。多くの人数が集まるとより一体感が高まるから。


最後に今回のライブビューイングを開催してくれたクラブ、そして長野グランドシネマズ様に改めて感謝の意を述べて、結びの言葉としたい。


本当にありがとうございました。


おしまい





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