前編はこちら

中編はこちら




DSCN0596


後半アディショナルタイムに突入し、#5岩間選手が入った直後のリスタートは徳島のCKでした。ここで失点してしまうと総得点で横浜FCに抜かれ自動昇格圏外の3位に転落してしまうため、山雅としては何としても守らなければいけません。#8岩尾選手が蹴ったボールに#5石井選手が合わせますが、これは枠の外。さらにその前に徳島のファウルがあり、山雅はこの最大のピンチをしのぐことに成功しました。


DSCN0597


その後山雅は敵陣右サイドで上手く時間を使い、徳島の選手にボールが入った時には最後の力を振り絞って厳しく寄せ、徳島にシュートチャンスを作らせません。そしてちょうど4分が経過したころに試合終了を告げるホイッスル。0-0の引き分けで試合は終了しました。後半徳島の婦人変更にやや後手に回る時間帯はあったものの、全員が集中してゾーン守備を続けたことで得た勝ち点1です。


DSCN0598


試合が終了する少し前から松本の選手たちは、ピッチで戦っている11人以外の全員の選手が、ベンチに集まっていた。今か今かとうずうずしながらその瞬間を待ちわびている。試合が終わった瞬間、選手たちはクラッカーの紐を引いたみたいに、ピッチに飛び出す。J1への昇格を確信し、ピッチ上は喜色満面だ。


その一方で観客席はというと、選手が喜んでいるのが信じられないというような戸惑いを見せていた。「え、優勝したの?」他会場の結果を自らの目で確認するまでは確信を持って喜べないスタンド。この日の松本は自力で優勝を決められる立場にあったものの、引き分けになると他会場の結果を待たなければならない。山雅の試合がドローに終わると、間を置かずにスタジアムにいた人達が、他会場の結果を確認するために一斉に携帯電話を取り出した。他会場の結果を確認するためだ。しかし、多くの人が同時に情報を求めたため、スタジアム内の電波は悪くなっている。さらに、アルウィンだけではなく、全国の試合会場もしくは各家庭がJリーグ公式サイトにアクセスしたため、なかなか結果が表示されない。大分や町田が試合終了間際に勝ち越し弾を決めて山雅が昇格圏外の3位に転落している可能性だってゼロではないし、サッカーにおいてはそういったことが往々にして起こるものだ。不安と焦燥で私の心は一杯で、今か今かとスマートフォンとにらめっこをしている最中、アルウィンの大型ビジョンの画面が切り替わった。


DSCN0600


他会場の試合結果がオーロラビジョンに映されたとき、大きなどよめきが起こった。それは山雅にとって、この上なく好ましいものだった。試合終了間際の得点で大分と山形が引き分け、町田と東京ヴェルディも引き分け、横浜FCは甲府に勝ったものの勝ち点1差で山雅には届かず。山雅は勝ち点を試合前の76から77に伸ばし、初のJ2優勝そして4年ぶりのJ1復帰を決めた。

DSCN0601
All green together, We could reach the TOP!







周囲では拳を上げ、その手でハイタッチをし、握手をし、抱き合って涙を浮かべる人が多く見られる。一生のうちでそう何度も体験できるわけではないJ1昇格のその瞬間。それを現地で味わうことができたとならば喜びは一入だ。スタジアムは歓喜に包まれ、暮れゆく空も、身に染みる木枯らしさえも全てが、アルウィンに集まった彼ら彼女らを祝福しているようで、放たれた喜びは地球一周だってしてしまいそうなほどだった。


DSCN0604


ピッチ上では大輪の花が咲いている。堪えきれない様子ながらもなんとか整列を済ませ、徳島の選手と健闘を称え合う。解放された選手たちは思い思いの方法で、歓喜を表現している。拳を高く突き上げ、口を大いに開けて、全身で狂喜のシャワーを浴びる。一年間の苦労を抱き合い、がっしりと手を握ることで清算する。#3田中選手が前節のゴールに続いて興奮を炸裂させていたのが胸に迫った。テレビの画面の向こうでしか見たことがない清々しい光景が目の前に広がっていて、ハッピーエンドに終わった物語の、村人Bぐらいには貢献できたかなと感じました。本当に些細だけど間違いなく自分ごととして。
 

DSCN0607


反町監督も顔をゆがませる。「本当は勝って優勝したかったんですけども、これが我々の実力です」と言ったところは百戦錬磨の指揮官といったところか。流石に冷静だ。「今日みたいに粘り強く、ボールに対する執着心であるとか、走力であるとか、切り替えの速さであるとかそういうところは優勝に値するチームだなと思います」に誇り高さが見てとれた。


DSCN0608


続いて、キャプテンの#31橋内選手がブースに呼ばれた。開口一番「最高でーす!!」と感情を露わにし、スタンドからは歓声が溢れる。今シーズンの戦いを聞かれ、「もしかしたら序盤戦で諦めた人もいるでしょう。だけど自分たちしっかり毎週トレーニングしてここまでつないで来れました。本当にチームに関わる全ての皆さんに感謝したいと思います」と答えていた。確かに序盤戦の成績はJ2昇格という希望を断つには十分なものだったが、それでもチームは諦めることはなかった。日々自分たちを信じて愚直に積み上げていった結果、J2優勝とJ1昇格を自らの手でつかみ取ったのだ。

DSCN0611


最後にブースに呼ばれたのは#3田中選手。地元出身の旗頭の登場にスタジアムを拍手が覆った。


「皆さんが僕たちに期待してくれている。それに絶対応えなければいけない。僕自身もこの松本で生まれ育って、皆さんに応援してもらってる。そういう責任もありますし、そういう意味でも優勝できて、昇格できて嬉しいです」


2014年に加入してからここまで山雅を引っ張ってきた男の矜持、そして万感の思いが感じられた。今年はサブに回る期間もあったが、その存在感はやはり絶大で#3田中選手なしでは2度の昇格はなかっただろう。堂々とした受け答えのなかに込みあげてくるものを抑えている。そう感じたのは私だけだろうか。


DSCN0612

DSCN0614

インタビューをしている間にもピッチ中央ではセレモニーの準備が着々と進められていた。手際よくゲートパネルが建てられ、用意されたお立ち台は山雅カラーの緑に染まっている。優勝皿、シャーレは自ら光を放つ光源のようで、ゴール裏の最上段からもその明かりに目が眩んだ。選手たちもシャーレを脇見してざわついている。


DSCN0615

表彰式が始まった。優勝しなければ見ることのできない風景。今まで天皇杯で優勝したチームが賜杯を掲げることは何度か見たことがあるけれど、自分が応援しているチームがその当事者になるとは。


DSCN0616


「2018 明治安田生命 J2 LEAGUE CHAMPIONS」

正直優勝を決めたとき、私にはその実感がなかった。だってピッチの青々とした芝生も、吹きさらす風の冷たさ何も変わっていなかったから。試合は引き分けに終わったし、優勝なんて自分とは違う世界の出来事みたいだった。だから涙も出なかった。でも、大型ビジョンに映し出されたこの文字を見たとき、初めて優勝したんだという実感が湧いてきた。クラブが用意したものではなく、Jリーグから公式にチャンピオンという称号を与えられる。体の奥からせり上がってくる感動に打ち震えた。


DSCN0617


J2優勝杯を贈呈してくださるのはJリーグタイトルスポンサーである明治安田生命保険相互会社専務執行役の大西忠氏。柔らかな表情に温厚な人柄がにじみ出ていた。


DSCN0618


キャプテンである#31橋内選手と握手を交わす。


DSCN0619


そして贈呈されたJ2優勝杯。銀色の土台にコーンのような形をした金色が輝いている。歓喜も苦渋も長かった42節が全て込められていて、重厚なオーラがあった。


DSCN0620


そしてカメラを前にフォトセッション。#31橋内選手も大西氏も温和な表情をしている。後ろの選手たちは掲げる瞬間が待ちきれないという顔をしていて、アルウィンに響き渡る拍手は栄光を祝福する福音だ。


DSCN0621


そしていよいよシャーレの贈呈である。プレゼンターは公益社団法人日本プロサッカーリーグチェアマン村井満氏。Jリーグの最高責任者だ。


DSCN0622


村井チェアマンから#31橋内選手にシャーレが手渡される。このあと選手が片手で持って歩いているところを見るに、シャーレというのはものすごく軽いものらしいが、他の21クラブには手に入れることができない重みがある。もし山雅が負けて他のチームが優勝していたら、優勝杯とともにシャーレの出番もなかったであろうことを考えると、山雅が優勝してシャーレが日の目を見て本当によかったと感じられた。


DSCN0624


フォトセッション。いよいよその時は近づいてきている。シャーレを掲げ優勝を誇る瞬間が。


DSCN0625


選手たちがスタジアムを煽るのに呼応して、スタンドのボルテージも上がっていく。手を前に出してたなびかせる人。大型ビジョンに向かってスマートフォンやカメラを構える人。色々な人がいたが一様に声を上げており、地鳴りの真っ只中にいるような感覚を味わった。歓喜がアルウィンを、私の感情を大きく揺らす。ゴール裏上段にいる人はピッチの選手たちを見ず、ほとんどが後ろの大型ビジョンを見ていて、それがなんだかおかしかった。


DSCN0626


#31橋内選手
が勢いよくシャーレを空に向かって掲げると、スタジアムに溜まっていた正のエネルギーは一気に放出された。選手たちも試合の疲れなどどこかに吹き飛んでしまったかのようだ。狂喜に酔いしれるアルウィン。興奮のるつぼと化したこのスタジアムには、秋の寒さなんて関係のない世界で一番熱い場所となっていた。隣の人がした小さなガッツポーズをした。それにつられるように私も拳を握ってみる。血液が昇ってきて生きているんだと実感する。これが優勝するということなのだろう。わざわざ長野から電車に揺られてバスに揺られてアルウィンまできてよかったと心から感じた。






DSCN0628

DSCN0631


DSCN0632


続いてシャーレを掲げたのは#3田中選手。照れ隠しで中央にくるのをやんわり嫌がっていたが、いざシャーレを持つとノリノリで掲げていた。#3田中選手がシャーレを持つと誰もが笑顔になる。それは#3田中選手がこの1年どんな思いで過ごしてきたかを想像してのことだった。サブに降格しても腐らなかった#3田中選手の。




DSCN0634


チームは大型ビジョンにも映っていた山雅J2優勝のロゴが描かれたTシャツを着用している。ゴール裏も予期せぬ勝利服の登場に感嘆の声を上げていた。これもきっと優勝が決まる前から準備していたのだろう。無駄にならなくてよかったと思うとともに、優勝したんだと改めて思わせてくれる。


麻薬のようなシャーレの魅力に取り憑かれてしまった山雅の面々。次にシャーレを掲げたのは神田文之社長だった。長い間組織のトップとして山雅を支え続けた神田社長。普段は表にでることのない神田社長がチームを代表してシャーレを掲げる。それは裏方も含めた松本山雅FCというクラブの勝利を象徴していた。神田社長の晴れ晴れした笑顔が印象的だった。


DSCN0635

DSCN0636


シャーレを掲げる選手たちの姿を少し離れた場所から感慨深げに眺めていたのは反町康治監督。選手たちの健闘を腕を組んで見つめていたところを、#16村山選手に捕まえられる。#16村山選手からシャーレを手渡され、少し決まり悪そうに中央へ向かう。ただ真ん中にきてからは吹っ切れたようで、サポーターを煽ってからシャーレを掲げた。それはやや控えめな動きだったが、サポーターの「反町」コールが反町監督のこの1年間の功績を存分に物語っていた。普段はクールな反町監督もこのときばかりは顔を存分に綻ばせている。






DSCN0637


守備の中心として今シーズンもフル稼働した#4飯田選手がシャーレを掲げる。この日授与されたJ2優勝杯とシャーレはおそらくアルウィン内に飾られることだろう。いつまでもガラスケースの中に置かれて、関係者を迎え入れるに違いない。輝かしい歴史の新たなスタートの証として、松本山雅というクラブがなくなるその日までずっと。


表彰式が終わってから2018シーズン報告会が行われるまでの間、選手たちはじっくりと、大袈裟に、噛みしめるようにピッチ上で喜び続けていた。奥さんや子供たちが登場してスタジアム全体が和やかなムードに包まれる。30分ほど前まで厳しい試合が展開されていたのが遠い昔のようだった。


DSCN0640


GK陣が優勝杯とシャーレを持っている様子が大型ビジョンに映し出される。主にゴールマウスを守っていたのは#1守田選手だが、4人が切磋琢磨したことでJ2最少の34失点という結果を出せたのだ。試合に出ることはなくても等しく称賛されてしかるべきだと思う。


DSCN0643


2018シーズンの観客動員数は21試合で278,948人。松本市の人口が24万人ほどだから、それよりも多くの人がアルウィンに来場したことになる。1試合平均は13,283人。これは首位のアルビレックス新潟に次ぐ、J2で2位の数字だ。集客力は山雅の大きな武器で、J1に上がる来シーズンはさらに磨きがかかるに違いない。


DSCN0644


ボランティア団体TEAM VAMOSの今シーズンの参加者は累計で2,109人。ちょうど1試合あたり100人が参加した計算になる。チケットのもぎりや列の整理、アルウィンの案内などゲームの運営には欠かせない方々だ。その無償の愛に頭が下がる思いでいっぱいである。




転換の間、ゴール裏は1年間の成果を、美しい喜悦を味わい続けている。周囲との話も弾む。私は誰とも喋らなかったが。優勝を記念したゲートフラッグがいくつも出されていて、雷鳥が山に登って「登頂完了」としているものが特に心に残った。






アナウンスがあり、大型ビジョンではシーズンを振り返る映像が放映された。人々は一喜一憂して、それぞれの試合の思い出を語り合う。とても微笑ましい光景だった。アウェイの山口戦で2点差を追いつかれた試合。「監督の責任だろ」と声を荒げる男が映った。反町監督は試合後の会見で苦汁をなめた顔をしていた。その頃に比べると本当によくここまで立ち直れたものだ。やっぱりその次のホーム大宮戦が大きかったように思う。今シーズン初のアルウィンで勝てたことで選手たちは大きな自信を得て、順位も少しずつ上昇していた。夏場の5連勝。昇格を争う町田、横浜FC、大分相手の敗戦。前節栃木戦の#3田中選手の決勝ゴール。全てが山雅の2018シーズンを構成していた。いい思い出も悪い思い出も何一つ欠けることなく。苦境も逆境も乗り越えた。サッカーの神様なんてあやふやなものに頼るのではなく自らの手で。そして、登り詰めた頂からの景色は期待に違わぬ高爽なものだった。


この日の徳島戦の映像が流れ仕事の速さに感心した頃、ピッチ上では2018シーズン報告会の準備が整っていた。


DSCN0645


神田社長:
「2018年シーズン最後まで応援本当にありがとうございます。そして、松本山雅のファン・サポーター全ての山雅ファミリーの皆様、J2優勝誠におめでとうございます。『One Soul~全緑登頂~』をスローガンに掲げた1年でした。トップチームは始めちょっと苦戦しましたが、見事に頂を登り詰めていただきました。選手・スタッフにもう一度大きな拍手をお願いします。

ここ数年、松本山雅は踊り場を迎えてパワーを溜めてきました。来年もう一度J1にチャレンジする権利を得ることができました。もう一度パワーアップして来年1年間皆さんと一緒に戦いたいと思います。来年も熱いご声援をよろしくお願い申し上げます」




反町監督:
「感無量でございます。チームを預かる人間として、最後にこうして頂に登り詰めることができたのを本当に嬉しく思います。これも本当にここにお集まりの皆さん、我々スタッフ・選手、そしていつもいい記事を書いていただけるメディアの皆さん、本当に感謝しております。来年は日本のトップリーグでやることになります。前回トップリーグで悔しい思いしたのを皆さん覚えていると思いますけども、来年はその悔しさをもとに頑張っていきたいなと思っております。

日本サッカー界の恩師、デッドマール・クラマーさんという方を知っている方何人かいると思うんですけども、『試合終了の笛は、次の試合開始の笛だ』という言葉を遺しております。つまり、次のJ1の開幕戦は2/26ですかね(※2/22という報道あり)、チェアマンそうですか?笑っておりますけども。もうその2月26日に向けて頑張らなければいけません。皆さんもより一層のご支援、ご鞭撻、声援をよろしくお願いします!」


DSCN0646


#16村山選手
「皆さん2018年お疲れ様でした。そしてEPSONをはじめとするスポンサーの皆様、松本市をはじめとするホームタウンの皆様、今日お集まりいただいたファン・サポーターの皆様、支えてくださったTEAM VAMOSの皆様、昇格優勝おめでとうございます!

本当にこのチームはファンサ・サポーターと一体となって戦うことができているチームだと思いますし、そういった皆さんがいるからこそ僕たち選手は最後の笛が鳴るまで全力で戦うことができています。先ほど反町監督が『試合終了の笛は次の試合の始まりの笛だ』と言っていましたが、少しだけ休ませてください!!

2019年シーズン、もちろんトップリーグでやるので厳しい戦いが待っていると思いますが、松本山雅らしく泥臭く戦って皆さんに感動を届けられるように頑張っていきたいと思いますので、より一層皆さんのご声援・ご支援よろしくお願いします。ありがとうございました!」


DSCN0647


スタジアムでは全選手そしてスタッフがピッチを一周していた。ありったけの感謝と喜びが選手とスタッフに注げられる。拍手はかじかんだ手から出たものとは思えないほど暖かかった。選手たちはゴール裏へと向かっている。タオルマフラーを掲げ、誇り高き凱歌「勝利の街」を歌いながらそれを迎え入れるサポーター。一体となったスタジアムの燃え上がる情熱の炎は誰にも消せない。




DSCN0648

DSCN0651

DSCN0653

DSCN0654


ピッチの選手・スタッフが肩を組む。ゴール裏のサポーターも肩を組む。「アルプス一万尺」に合わせてもう一度鬨の声を上げるためだ。試合に勝ったわけではないが、今日は特別な日。やらないという選択肢はない。が、その前に予期せぬ出来事があった。サポーターから反町コールが自然的に発せられたのだ。思えば今シーズンのホーム山形戦だったか。反町監督は「ラインダンスを踊らないのか」と聞かれ、「いつか踊ります」と答えていた。その約束を果たす時が来たのだ。おずおずと前に出る反町監督。ただ一人では恥ずかしいのか#16村山選手#31橋内選手を道連れにする。


サポーターの歓声に応えて手を挙げた後はいよいよ反町監督を迎えての「アルプス一万尺」が始まった。心地よいリズムで選手が、サポーターが右に左に揺れる。反町監督はついていくのがやっとという様子だったが、とても楽しそうだ。ベンチで魅せる厳しい顔とはまるで別人である。怪我をしたはずの#8セルジーニョ選手が前に出てきた。反町監督も乗ってきたのか腕を上下に振り回す無邪気な動きを見せる。たぶん山雅に来て初めて見せる姿なんじゃないだろうか。反町監督が楽しそうで私も本望だ。


DSCN0658


「アルプス一万尺」が終わった後も選手たちは反町監督を逃さない。連動した動きで網にかけて取り囲む。反町監督は選手たちによって5回宙を舞った。やっぱり優勝監督には胴上げがよく似合う。胴上げはもともと人を落ち着かせるためのものだったというが、アルウィンの興奮はまだまだ落ち着きそうにない。まるで見えない天井があるかのように熱気は外へ逃げていくことはなかった。









DSCN0661


反町監督とガンズくんが一緒にシャーレを持ってカメラに撮られている。マスコットだって立派なチームの一員なのだ。この日は会えなかったけど来年の開幕戦で、おそらくアウェイになるとは思うが、ガンズくんに会いたいものである。


DSCN0662


ゴール裏をバックにメディア用のフォトセッションが行われている。そのときサポーターからまたも自然発生的にコールが起こった。サポーターが呼んでいたのは#38永井選手。なんでも#38永井選手は名古屋でJ1昇格プレーオフを制したとき、「自分は貢献していないから」と記念盾に触らなかったらしい。その年の開幕戦でゴールを決めておきながらである。2年越しで手にするそれを、しかも今度はシャーレだ、#38永井選手は大切に扱い、サポーターの掛け声とともに掲げた。2年前の悔しい思いは掲げられた勢いで飛んでいってしまったことだろう。#38永井選手の表情は晴れやかだ。


DSCN0665


次に出てきたのはこの日が誕生日の#20石原選手#34ジョ・ジヌ選手。二人にサポーターから「ハッピー・バースデー」が贈られる。誕生日が優勝記念日なんて本当に羨ましい。#34ジョ・ジヌ選手は負傷をしていて松葉杖をついていたので、シャーレを掲げたのは#20石原選手一人だったが、二人分の想いが載った掲揚だった。


DSCN0666




DSCN0668


喜び合う選手たちのなか、#16村山選手がスタッフから何かを聞いている。マイクを渡され、ゴール裏に向かって喋り出した。なんとあの名高い「ハーイ!やべっち!」をゴール裏とともにやるというのだ。Jリーグサポーター認知度(ほぼ)100%の番組「やべっちF.C.」。その名物規格「ハーイ!やべっち!」では、毎年シーズン終盤になると優勝チームが登場していた。それを私は毎年「いいなぁ」と思いながらも指を咥えてみていたわけだが、まさか本当に試合後に撮影していたとは。これも優勝しないと味わえない新鮮な驚きだ。


DSCN0669


#16村山選手の「せーの!」という掛け声で全員が手を挙げての「ハーイ!やべっち!」。一斉に発せられた音の圧は想像していた以上に圧巻で、初めて涙が出そうになった。#16村山選手は(松本に)イニエスタが来ます」とはしゃいでいたけれど、オンエアではその横で「来季は未定です」のテロップがつけられていて、思わず笑ってしまったのを覚えている。


DSCN0670

DSCN0672


最後に全員で記念撮影。スタッフも選手の家族もアルウィンにいる人たちが勢揃いしていて、これだけ多くの人が山雅に関わっているのかと感動した。誰かの子どもが飛び出してしまうかわいらしいハプニングもあったが、まさに大団円と言った様子だった。


DSCN0673

DSCN0675


DSCN0676


優勝杯を持つ#20石原選手


DSCN0677


#1守田選手#7今井選手#18當間選手#50今井選手とその家族。


DSCN0679


シャーレを持つ#5岩間選手


DSCN0680


子供と一緒に映る#3田中選手


DSCN0681


嬉しげに子供を抱く#50今井選手。お子さんに頬にキスされてデレデレだった。


DSCN0683


この日の敢闘賞に選ばれたのは#16村山選手。目立ったファインセーブはなかったが、それは守備組織が機能していたからだろう。#16村山選手だけではなくチーム全員が敢闘賞に値すると個人的には思う。そのなかで一人選べって言ったら#16村山選手になるのは仕方がないのだけれど。


陽は落ち、照明に明かりが灯る。ピッチ上の歓喜は収まる気配を見せていない。できるならずっとここにいたかったけれど、帰りのバスの時間は刻一刻と迫ってきていた。喜びを分かち合う選手を横目に見ながらアルウィンを後にする。帰り際に見た順位表で山雅が一番上に位置されていて、優勝したという事実が身に染みる。後ろ3チームが勝ち点1差で迫っていて本当にギリギリの優勝だった。


DSCN0687

IMG_8339

IMG_8340


外で配られていた信濃毎日新聞様の号外を貰ってアルウィンを後にする。長い待機列を経てバスに乗って、しばらくすると疲れと安堵で眠ってしまった。帰りのバスの中はほとんど無言で、たぶん他の人も同じように眠っていたのだろう。薄れゆく意識の中で思い出されるのは、優勝を決めた瞬間の飛び出す選手たちの姿、銀色の光を放つシャーレ、反町監督の無邪気なアルプス一万尺...。いくつもの光景が頭に浮かんでは消えてゆく。頭の奥底にしまわれていったのだろう。来年はJ1で厳しい戦いが待っている。ただ今はこの余韻に浸っていたい。大事にしていたい。二度は味わえないであろうJ2初優勝の記憶を。この日アルウィンに来れて本当によかった。


松本山雅FCに関わる全ての皆さん、J2優勝J1昇格おめでとうございます。















<ハイライト動画>








































監督コメント(Jリーグ公式)

選手コメント(Jリーグ公式)

J2順位表(Jリーグ公式)

松本山雅FCと大分トリニータのJ1昇格が決定(Jリーグ公式)

2018明治安田生命J2リーグ 松本山雅FC優勝における村井 満チェアマンコメント(
Jリーグ公式)


2018 明治安田生命 J2リーグ 第42節 VS 徳島ヴォルティス戦の結果(松本公式)

松本山雅FC「J2優勝・J1昇格」決定のご報告(松本公式)

(ホームゲームイベント)2018明治安田生命 J2リーグ 第42節 松本山雅FC vs 徳島ヴォルティス|フォトギャラリー(松本公式)

2018明治安田生命 J2リーグ 第42節 松本山雅FC 0-0 徳島ヴォルティス|フォトギャラリー(松本公式)

2018明治安田生命 J2リーグ 優勝・最終戦セレモニー|フォトギャラリー(松本公式)

2018年11月17日 明治安田生命J2リーグ 第42節(徳島公式)


松本山雅J1へ 4年ぶり復帰 J2初制覇(信濃毎日新聞)

山雅登頂 観客1万9066人「夢みたい」(信濃毎日新聞)

山雅昇格「来季が楽しみ」 ホームタウン首長ら喜び(信濃毎日新聞)

徳島ヴォルティス、最終戦もスコアレスドロー 11位でシーズン終了(徳島新聞)

田中隼磨が完遂した松本山雅の優勝。偉大な先輩たちの言葉を胸に刻んで。(Number Web)
【松本】「大舞台の決勝でずっと負けてきた」前田大然が味わったサッカー人生初の瞬間とその先へ(サッカーダイジェストWeb)

「生きがい」であり「希望」。松本山雅のサポーターが熱狂的な理由とは? J2制覇の原動力に(フットボールチャンネル)
反町監督が語る松本山雅への愛と感謝と様々な想い「一時期退くことも考えた。でも、愛着が…」(Goal.com)
松本を支えたキャプテン橋内優也。苦しんだ序盤戦と自身4度目のJ1挑戦に懸ける思い(Goal.com)





おしまい