こんにちは。これです。もう9月も終わってしまいますね。季節も完全に秋です。


そんな秋深まる中、私は今日も映画を観に行っていました。今回観た映画は『任侠学園』。正直に申し上げますと、他にちょうどいい時間帯で見られる新作がやっていなかったので、消去法での勧奨となってしまったのですが、これが想像以上にいい映画でした。びっくりするくらいいい話だったんですよね。


では、それも含めて感想を始めたいと思います。拙い文章ですが、よろしくお願いします。





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―目次―

・キャストについて
・キャラクターに愛着を持たせるためのギャグが満載
・最後は学生である彼らに委ねる阿岐本組のスタンスよ






―あらすじ―

困っている人は見過ごせない、義理と人情に厚すぎるヤクザ”阿岐本組”。
組長(西田敏行)は社会貢献に目がなく、次から次へと厄介な案件を引き受けてしまう。今度はなんと、経営不振の高校の建て直し。いつも親分に振り回されてばかりの阿岐本組NO.2の日村(西島秀俊)は、学校には嫌な思い出しかなく気が進まなかったが、“親分の言うことは絶対”!子分たちを連れて、仕方なく学園へ。待ち受けていたのは、無気力・無関心のイマドキ高校生と、事なかれ主義の先生たちだったー。

(映画『任侠学園』公式サイトより引用)




映画情報は公式サイトをご覧ください。











・キャストについて


この映画で主人公である日村誠司を演じたのは、西島秀俊さん。凛々しい立ち姿と低い迫力のある声には、ヤクザ感がありシンプルに怖い。でも、鋭い目つきから発せられる、気の抜けたセリフにはギャップがあり、思わず笑ってしまいました。自らを拾ってくれたおやっさんの言うことは絶対で、その振り回される困惑っぷりも面白かったです。それでも、キメるところはちゃんとキメていてカッコよくて満足です。終盤のカタギの解釈と、そこからの乱闘及び強がるシーンは痺れました。


続いて、阿岐本組の組長である阿岐本雄蔵を演じたのは、ご存じ西田敏行さんです。柔らかな外見とは裏腹に、重々しい口調がズシンと来て、これは逆らえないなという迫力がこれまた普通に怖い。特に終盤の白竜さんとの交渉のシーンなんて、間の取り方や声のトーンから全てに至るまで言い表せない緊張感がありました。でもここ『アウトレイジ』っぽくて、私は観てないですけど、ご存知の方には笑えるシーンなんでしょうね。照明がバッチリついたメチャクチャ明るい部屋で交渉するのが、今までになく新鮮でした。


他にも阿岐本組の組員は全員がいいキャラクターをしていて二ノ宮稔(伊藤淳史さん)は、小物感があってよかったですし、三橋健一(池田鉄洋さん)は、まっとうに怖くて料理をする姿との落差が凄かった。志村真吉(佐野和真さん)はチャラい見た目に反して友情に厚いところを見せてくれましたし、市村徹(前田航基さん)は、阿岐本組のマスコットのように思えて愛くるしかったです。カレーを食べるシーンや「どうぞ!」の件に代表されるようにとても仲が良く、がっちりとした信頼関係に基づいている。「カタギには手を出さない」というルールもあり、安心して観ていられることができます。




でも、この映画で私が一番いいなって感じたのって、葵わかなさんだったんですよね。学園一の問題児である沢田ちひろを演じていたんですけど、それがもうむっちゃ可愛くて。もちろん、葉山奨之さんや桜井日奈子さんと言った他の学生役の方も良かったんですけど、この映画の葵わかなさんが個人的にめちゃくちゃツボでして。


葵わかなさんと言えば、朝ドラの『わろてんか』で脚光を浴び、その後も様々な映画やドラマ等に出演しているんですが、正直私そのどれも観たことなくて。朝ドラをはじめとしたドラマはあまり見ない人間ですし、『くちびるに歌を』は観たんですけど、そこまで目立つ役柄ではなかったように記憶していますし。今回、初めてちゃんと葵わかなさんを観たという感じなんですが、今まで観てこなかった自分を恥じるくらいの存在感を放ってました。


まずですね、ちひろの少し攻撃的な雰囲気とタメ口が、髪を短く切った葵わかなさんのサバサバした雰囲気にマッチしているわけですよ。初登場シーンの威勢の良さで、これはいいんじゃないかと思ったのも束の間、ガラスを割るシーンで見せる複雑な表情に虜になってしまって。球根を植えるシーンで日村に心を許してからの、あの距離感は大好きですし、ダンスをしている写真はハッとするほどアクティブでした。いや、これ現時点での葵わかなさんの代表作になるのでは…?というほどの勢いです。こんな魅力的な女優さんだったんですね…!今まで観てこなくてすみませんでした…!いや、本当『任侠学園』の葵わかなさんはぜひ多くの人に観ていただきたいなと思う次第です。プッシュしていきたいですね。




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※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。









・キャラクターに愛着を持たせるためのギャグが満載



さて、『任侠学園』のジャンルは公式サイトでは"世直し"エンタテインメントと謳われています。その言葉通り、『任侠学園』は紛うことなき娯楽映画でした。


まず、特筆すべきはそのギャグの多さです。最初にタバコを吸うのかと思わせておいての綿棒。Vシネ通りに割れないビール瓶(水曜日のダウンタウンで検証していたヤツだ...!)等々、隙あらば!という勢いで随所にギャグを投入していきます。ドスのシーンは分かっていても笑ってしまいましたしね。いい展開になりそうなところをあえて外して、日村をへこませるなど、ただのギャグではなく、キャラクターに愛着を持たせるためのギャグになっているところがまたいいんですよね。


例えば、豚の頭の照り焼きを日村が組員に食べるように勧めますが、みんな避けるところ。稔が徹に服をプレゼントしているのに、徹は着ないところ。「どうぞ!」の件もそうですけど、こういった小さなギャグの積み重ねで阿岐本組の関係性を描いていくのは上手いなと。小さなギャグがあることでヤクザであるはずの阿岐本組がとても微笑ましく見えてくるんですよ。本当にいい人たちばっかりで、観終わった後、阿岐本組にまた会いたいなと思ってしまいましたからね。この点で『任侠学園』は大勝利でしょう。





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それに、阿岐本組が誇張なくマジで良いヤクザというのもいいですね。義理人情に厚くて、弱きを助け、強きをくじく任侠道を貫き通す様子は、現代のヒーローそのものと言っても過言ではありません。シノギは商店街の見回りで、治安を守ることで収入を得ていますからね。さらに、学園の前も浴場や美術館などを立て直しており、社会貢献もそんじょそこらの企業よりしています。本当にこの人たちヤクザか?と思わず疑わずにはいられないほどです。


でも、手元の電子辞書を引いてみると「やくざ」というのは「役に立たないこと。まともでないこと。つまらないこと。また、そのさま。そのようなものをもいう」と説明されていて、公序良俗に反する行為とは、何一つ書かれていないんですよね。つまり道徳を遵守して、誓って犯罪行為をしないヤクザがいても別にいいんじゃないかと。全くのフィクションですけどね。(ちなみに「暴力団」は、「暴力あるいは暴力的脅迫によって自己の私的な目的を達しようとする反社会的集団」と説明されており、社会貢献を目的としている阿岐本組はこれにそぐわないと言えるでしょう)


でも、ヤクザっぽい雰囲気は校長先生との初対面のシーンや、半カタギの小日向とのシーン、その小日向のバックについている隼勇会の組長・唐沢とのシーンなど随所にビンビンに出ていましたね。白竜さんが出るとVシネ感が500倍くらいに増します。でも、特徴的なのがこれらのシーンって日中の太陽が差す明るい部屋の中で行われていたんですよね。Vシネだと蝋燭の灯りが照らす暗い部屋みたいなイメージがあるので、結構新鮮でした。阿岐本組のしている行為はお天道様に顔向けできる真っ当な行為だということを強く印象付けていたと思います。この辺りもこの映画のスッとする味に繋がっていて好きですね。




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・最後は学生である彼らに委ねる阿岐本組のスタンスよ


『任侠学園』で、阿岐本組が経営再建を任された仁徳京和学園高校は、ランクで言えば中の中の中といった平均的な高校です。創立以来、大きな問題は起こっていません。しかし、思春期特有の行き場のない感情は、この高校にも渦巻いていました。


高校では、ガラスが割られる事件が頻発しています。夜な夜な窓ガラスが割られる描写は少し古臭さを感じますが、事態は深刻。そこで、阿岐本組は犯人を探し出して、日村は説教を行います。その時犯人が言ったガラスを割った理由は「なんかすっきりするから」でした。行き場のないモヤモヤした感情が、窓ガラスを割るという行為によって発散されていたのです。


『任侠学園』で、主に描かれていた行き場のない感情は言葉にすると、何かをしたいけど何をすればいいのか分からない。失敗するのが怖くて始めから諦めてしまうというものだったように私は感じます。犯人たちはもちろん、ちひろも、ちひろを撮るカメラ小僧・祐樹も、生徒会員の優等生・美咲も抱えていました。


でも、それを助けるのが”役に立たない”ヤクザである阿岐本組っていうのがいいんですよね。阿岐本組が社会貢献をする姿勢は、組長である雄蔵の「俺たちは日陰者で、花道を歩けるような人間じゃないから、その分人様の役に立たなければいけない」という考えに基づいたものでした。これめっちゃ良くないですか。”役に立たない”ことを自覚しておいて、それでもなお”役に立ちたい”って言っているんですよ。これってもう自らの存在を世の中に認めてもらおうとする切実な叫びじゃないですか。で、叫び続けた結果、”役に立たない”ヤクザが”役に立つ”という反転現象が起こっているわけで。それってとても理想的で気持ちいいことなんだなって感じました。




しかし、この映画で大切なのが、阿岐本組がすることが場を整えたり、背中を押すだけにとどまっていること。結局、最後の一歩を踏み出すのは自分自身なんですよね。「一歩踏み出せば、世界は簡単に変わる」と日村も言っていましたし、この最後は学生である彼らに委ねる姿勢は全面的に肯定したいです。行動した結果、たとえ上手く行かなくても得られる何かがあるということも描いていますし、悩んでいる人を勇気づける映画でもあるのかなと感じます。


まあこれって綺麗事なんですけど、フィクションでくらい綺麗事が見たいじゃないですか。綺麗事に勇気を貰いたいじゃないですか。最後なんてベッタベタにベタな展開なんですけど、私少し泣きそうになってしまいましたからね。こんないい映画だとは思いませんでしたよ。


本当、『任侠学園』は観る前は少し訝しんでいたんですけど、観終わった後には素直に良い映画だったと思える映画でした。行き場のない感情が微粒子レベルで渦巻いている現実にも阿岐本組がいてくれたらなと思います。エンドロール中も、エンドロール後にもお楽しみがあるので、ぜひ最後まで席を立たずに観ていただきたいですね。続編も期待しています。原作はまだ3冊あるのでネタは十分。やってくれるならまた観に行きますよ。私は。阿岐本組をまだ観ていたいので、よろしくお願いします。




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以上で感想は終了となります。映画『任侠学園』。ギャグも多いですし、多くの人が楽しめる映画だと思います。西島秀俊さんや西田敏行さん、葵わかなさんをはじめ俳優陣も魅力的ですし、観て損はないかと。興味があればぜひご覧ください。オススメです。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい


任侠学園 (中公文庫)
今野 敏
中央公論新社
2012-01-21



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