こんにちは。これです。ラグビー日本代表残念でしたね。でも、初のベスト8ですし、なかなかの盛り上がりを見せたことで、大きなインパクトを残してくれました。次のW杯にも出られるそうですし、また期待したいですね。


それとは関係なく、今回のブログも映画の感想になります。今回観た映画は『スペシャルアクターズ』。去年『カメラを止めるな!』(以下『カメ止め』)で社会現象を巻き起こした上田慎一郎監督の最新作です。同じ役者を描いていて、なにやら『カメ止め』と同じ匂いを感じますが、観たところこれが、『カメ止め』にも負けないくらい面白い映画でした。個人的には好きですね。


それでは、感想を始めたいと思います。拙い文章ですがよろしくお願いします。




eea




―目次―

・「フィクションの力」を信じきった映画
・最後の展開について





―あらすじ―

超能力ヒーローが活躍する大好きな映画を観てため息をつく売れない役者の和人。ある日、和人は数年ぶりに再会した弟から俳優事務所「スペシャルアクターズ」に誘われる。そこでは映画やドラマの仕事の他に、依頼者から受けた相談や悩み事などを役者によって解決する、つまり演じることを使った何でも屋も引き受けていた。そんなスペアクに、”カルト集団から旅館を守って欲しい”という依頼が入る。ヤバ目な連中相手に計画を練り、演技練習を重ねるスペアクの役者たち。しかし、和人にはみんなに内緒にしている秘密があった。極限まで緊張すると気絶してしまうのだ。あろうことか、このミッションの中心メンバーにされた和人。果たして、和人の運命やいかに!?

(映画『スペシャルアクターズ』公式サイトより引用)




映画情報は公式サイトをご覧ください。








※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。












・「フィクションの力」を信じきった映画


この映画の主人公・大野和人はオーディションに落ち続ける売れない役者。子供のころから好きな『レスキューマン』のビデオばかり見ています。さらに、緊張すると気絶するという性質のせいで、バイトもクビになる始末。人生全く上手く行っていません。この大野和人を演じた大澤数人さんの、冴えない雰囲気とどこか人懐っこい感じが好印象でしたね。あと、『レスキューマン』のB級感がたまらなく好きです。あのクオリティのビデオ一日中見ていたい。


同じく役者の弟に誘われ、俳優事務所「スペシャルアクターズ」(以下「スペアク」)に入所する和人。スペアクは演じることを活用した何でも屋という顔を持っており、家賃が払えない和人は仕方なくスペアクで働き始めます。コメディ映画で大笑いしたり、クレーム対応テストでぶちぎれたり、需要は結構あるようなスペアク。メンバー一人一人も個性的で、特に社長の富士たくやさんと、その娘の北浦愛さんの親子がツボでした。


そんなある日、スペアクに女子高生から依頼が入ります。依頼内容は「実家の旅館がカルト集団に乗っ取られそうだから阻止してほしい」というもの。ポンと300万円出せる女子高生から依頼を受けて、手始めにカルト集団「ムスビル」に潜入します。才能を解放させて幸せになるという教えの元、手で作ったお結びを飲み込むと宇宙になるという謎の教戒を展開するムスビル。ハニートラップやアホほど高いグッズなど詐欺の手口もきっちり確保。喋らない教祖やプライスオフなど新興宗教を作る上で参考になる点がたくさんありました。教祖役の淡梨さんのミステリアスな感じ好きだったなぁ。


ただ、もちろんムスビルは詐欺集団で嘘なので、彼らも新興宗教の教祖及び幹部を演じているんですよね。この映画って「演じる」こと及びフィクションが大きなテーマとなっていて、いわば演技合戦の様相を呈しているわけですよ。でも、ムスビルは演じることを悪用していて、信者から金を巻き上げています。もしそれで幸せになったとしても、そんなものは「嘘」に基づいたまやかしの幸せでしかないわけです。まぁ宗教なんて元々そんなものですけど。だって世界の始まり方は一通りしかないのに、いくつもの解釈が存在しているってことは、正しい一つ以外は嘘ってことになってしまうじゃないですか。


それはさておき、このムスビルに対抗するスペアクも演技という「嘘」を用いているんですよね。ムスビルもスペアクも根っこは一緒で、もしかしたらスペアクも詐欺集団なのかもしれない。でも、スペアクがムスビルと違うのは、演じることを「善」として用いていることです。スペアクは依頼者の目的のために演技を用いており、私欲のためには用いていません。そして、この映画はスペアクがムスビルを懲らしめるというストーリーになっているので、分かりやすい勧善懲悪の物語になっていると言えると思います。思い返せば、ここも後の展開のヒントでした。




eec





そして、ここから演技でムスビルをやっつける展開がとにかく痛快なんですよね。いろいろ趣向を凝らしつつもスピーディーで。緊迫感もありましたし、和人の緊張すると気絶する設定も上手く盛り込んでいたのは見事でした。この辺り、仕掛ける準備もあり、タネも明かされていたので、笑いつつも安心しながら見ることができました。だからこそ、描かれていない展開になったときが映えるんですよね。和人がムスビルの実態を見てしまうシーンなど、ご都合感が強い展開がいくつかあったのは引っかかりましたけど、基本的には好きです。


なんで好きかっていうと「フィクションの力」を感じられたからなんですよね。ムスビルはガゼウス神というフィクションの力を持って、信者たちを信じ込ませていましたし、実際それが心の拠り所になっていた人もいたことでしょう。ここ私たちが映画や小説といったフィクションを拠り所にするのと何ら変わりないように感じてしまいます。だからこそ嫌悪感を覚えたんですけど。特に裏教典の「20代の友達がいなさそうな人」って、まんま私ですからね。気をつけなければ。


で、このムスビルを懲らしめるスペアクも「フィクションの力」を用いていたのが良くて。それまでの芝居も良かったんですけど、特に最後の『レスキューマン』を再利用するシーンは痺れました。和人がレスキューマンに扮して信者たちを薙ぎ払い、教祖の嘘を暴くという展開だったんですけど、これって数多のフィクションに救われた私たち自身だなと感じます。子供のころに憧れた「フィクションの力」が具現化されたシーンに、他のお客さん(一人)は泣いている様子でした。実際、私もジーンときましたし、ここは掛け値なしにいいシーンだったと思います。


『カメ止め』もそうだったんですけど、上田監督って「フィクションの力」を信じきっているんですよね。フィクションには人の背中を押す力があることを知っていて。私たちを励ましてくれるフィクションに惜しげもない愛を注いでいるのが、全編を通して伝わってきました。このスタンスはとても好きですね。





eee

















・最後の展開について


ムスビルを懲らしめ、めでたしめでたしとなったこの映画ですが、ラストにさらなる展開を迎えます。和人が目撃したのは、ムスビルの教祖と車に乗り込む弟の姿。不審に思った和人がスペアクの事務所を訪れてみると、そこにあったのはクリアファイルに閉じ込められた依頼書。実は、この映画で描かれたのは『レスキューマン』という台本上の物語でした。弟が、和人の治療を目的とした依頼だったのです。俗に言うどんでん返しがこの映画でも用意されていました。


えーと、ここの展開には少し言いたいことがあります。まず、この映画って和人が最後気絶して終わりますよね。状況は何も変わっていないじゃないですか。これまでの物語は何だったんでしょうか。それと、実は全て台本通りでしたという展開にすることで、先にも上げたご都合感をごまかしているような気がしたんですけど。鍵がカーペットの下にあったのも依頼書がすぐに見つけられたのも、和人のためのご都合ですよね。フィクションをご都合の言い訳みたいに使ってほしくないんですけど。


それに、実は全て仕組まれてましたーというのは『カメ止め』や『イソップの思うつぼ』に続いて三連続目じゃないですか。上田監督には『お米とおっぱい』などといったまた違った作品があるのは知ってますけど、さすがに三回連続で同じ展開はちょっと…。『カメ止め』の大ヒットに縛られ過ぎているのかなとすら感じてしまいます。




eed





でも、なんだかんだ言って私はこの展開も好きだったんですよね。それは、フィクションの力ではどうにもならない領域を描いていたからです。フィクションなんてしょせん、最初の監督らしき人が言っていたように「嘘だよ!大嘘だよ!」なんですよね。背中を押すことはできるけど、一歩を踏み出すのは紛れもない自分自身なわけですよ。精神科医の先生も「スイッチを押すのは自分自身しか出来ませんよ」と言っていますし、それはフィクションの力が及ばない領域でもあります。


それに、いくらフィクションがハッピーエンドで終わったとしても、行動を起こさない限り現実は何も変わらないじゃないですか。最後も和人の状況は別に好転していませんよね。もし綺麗に終わらせるんだったら、ムスビルを懲らしめてはい終わりーで良かったと思うんです。でも、あえてそうしなかったところに、私はフィクションの限界を心得ている上田監督の作家性みたいなものを見た気がしました。自分で動かない限り、フィクションが現実には及ばないという「本当」を描いていて、凄い誠実な方だなと思います。


でも、前述した通り上田監督はフィクションの力を信じ切っているとも思うんですよね。そこにあるのは底なしの「愛」や「優しさ」というもので。だって、兄の治療のために架空のカルト集団を作る大仕掛けまでしているんですよ。これが優しさじゃなくて何なんでしょうか。私が思うに『スペシャルアクターズ』って物凄く「優しい映画」なんですよね。


それはフィクションそのものでなく、例えばそれぞれに合わせて当て書きをした俳優さんたちへの優しさもそうですし、もっと言えば映画を観ている私たちへの優しさでもあるんですよね。和人みたいに人生なかなか上手くいかない私たちへ「フィクションの力」を最大限に信奉したこの映画をもって、背中を押すと言いますか。そういった大いなる優しさが画面からひしひしと伝わってきました。


確かに気になるところはありますけど、それでもこんな優しさを受け取ってしまったら、この映画を嫌いにはなれません。個人的には、レスキューマンのシーンの盛り上がりもあり、『カメ止め』よりも好きかもしれないです。上田監督、優しさにあふれた面白い映画をありがとうございました。ただ、次の映画は直近の三作とはまた違った展開で、何卒よろしくお願いします。



eeb
















以上で感想は終了となります。映画『スペシャルアクターズ』。「フィクションの力」をまじまじと感じられる優しさにあふれた映画なので、よろしければぜひご覧ください。オススメです。


お読みいただきありがとうございました。


おしまい



スペシャルアクターズ
鈴木伸宏/伊藤翔磨
Rambling RECORDS
2019-10-11



☆よろしければフォロー&読者登録をお願いします☆